パーソナルモビリティ
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パーソナルモビリティ(英: personal transporter, personal mobility device, etc.)とは、1~2人乗りのコンパクトな車両である。歩行者と既存の乗り物(自転車・原付・自動二輪車・乗用車など)の間を補完しうる個人向けの移動ツールであり、人が移動する際の1人当たりのエネルギー消費を抑制するという意図のもと、従来の自動車とは一線を画した移動体として提案されている[1][2]。
概要
[編集]パーソナルモビリティの形態は様々で、代表的な製品としてはセグウェイ(倒立振子ロボット[注 1])やWHILL(電動車椅子)、トヨタ・C+walk(電気自動車、移動用小型車)が、一般名称としてはシニアカーや電動キックボード[3]などがある。さらに既存の乗り物の形態にとらわれない、多脚歩行型の次世代モビリティも自動車メーカーから提案されている[4][5][6][7]。
搭乗型移動支援ロボット[8](介護機器としては移動支援介護ロボット[9])、マイクロモビリティ[10]、Personal transporterなどの呼称も存在する。
特殊なものとしてはジャイロボード(棒のないセグウェイ)やホバーボード(車輪のないスケートボード)という形態もある。現時点では実質的にエンタメ目的、広告目的に限られており、公道での使用も禁止されている[11][12][13]。
当時セグウェイの価格が96万円以上で、普及は10年以上にわたり難航してきた[要出典]。しかし、2015年4月19日に米国セグウェイ社が中国のNinebot社に買収され、10万円以下のNinebot One(立ち乗り電動一輪車)やNinebot Mini(立ち乗り電動並輪車)といった中国製の低価格商品が市場に登場した。ホバーボード(ミニ・セグウェイ)と呼ばれる4万円台の廉価版も登場したが、2015年末頃には中国製の安価な製品のリチウムイオンバッテリーが火災を引き起こす事故が頻発。この結果、Amazonパーソナルモビリティのオンライン販売を一時中止する状況となった[14]。
従来、パーソナルモビリティの製品群は主に二輪タイプが中心であったが、運転操作の安定性に課題が存在し、死亡事故も発生していた[15][16]。それらの問題を解決するため、近年では三輪タイプに注目が集まっており、新たにこの市場に参入するメーカーも増えている[17]。
普及に向けた課題
[編集]2016年現在の日本では、道路交通法の改正を踏まえた搭乗型移動支援ロボットとしての公道を用いた実証実験の許可を得た場合を除き、公道上を自由に走行することはできないが、筑波研究学園都市内のつくばモビリティロボット実験特区を手始めに、関東地方の各地で認可を得て実証実験が行われるようになってきている[18][19]。
普及すれば省エネルギーで移動の選択肢が増えるパーソナルモビリティでの技術的な課題は解決されつつあるが、公道での走行には規制があり、依然として普及への壁が立ちはだかる[20]。そのため、今後世界規模での市場の成長が見込める分野であるにもかかわらず、日本国内のメーカーは公道での試作車の試験ができず、事業としての成長の見込みが薄いため、次第に競争力を失いつつある、との見解もある[20]。
2022年、最高速度6kmなどの一定の規制を満たしたものを「移動用小型車」、身体障害者用補助用のパーソナルモビリティを車椅子の枠に含めるために「身体障害者用の車椅子」から「身体障害者用の車」とする道路交通法の改正が行われた[21]。
車両関係法規と開発の推移
[編集]メーカーによるコンセプトモデルや乗用ではない宅配ロボットなども含めた開発の推移をまとめる。
- 2011年6月2日: つくば市のつくばモビリティロボット実験特区でセグウェイの公道走行実験が開始。個人モビリティの可能性を模索[22]。
- 2012年: 村田製作所など、電動歩行アシストカー「KeePace (キーパス)」を発表[23][24]。
- 2015年: トヨタ自動車、レクサスのブランド広告キャンペーンの一環として、ホバーボードを発表[25][26]。
- 2015年7月10日: セグウェイなどの搭乗型移動支援ロボットの公道上での実証実験が全国で可能となる[27]。
- 2018年: ヤマハ発動機が低速電動モビリティのコンセプトモデル「YNF-01」を発表[28]。
- 2023年4月1日: 自動走行ロボットの公道走行を可能にする改正道路交通法が施行。自動走行ロボットは「遠隔操作型小型車」(最大速度6km/h以下、120cm以下の小型車)として届出制となる[29][30]。
- 2023年7月1日: 電動キックボードの公道走行を許可。「特定小型原動機付自転車」区分を新設(16歳以上で運転免許不要、ヘルメット着用は努力義務、速度制限あり)[31]。
- 2023年10月: JMS23(ジャパンモビリティショー)で、スズキが次世代四脚モビリティ「MOQBA(モクバ)」を公開[4][5]。
- 2025年4月: 大阪・関西万博(EXPO2025)で、カワサキが“4足歩行”型の新感覚オフロードパーソナルモビリティ「CORLEO(コルレオ)」を発表[6][7]。
所轄官庁との関係
[編集]警察庁が道路交通法の執行を、厚生労働省が福祉機器の管理を、国土交通省がスマートモビリティやMaaSを、経済産業省が産業振興を担当する。
市販車
[編集]- セグウェイ
- Ninebot Mini
- Ninebot One
- T3 Motion, Inc.・T3
- steeeva(エスティーバ) - マイクロカーとして日本で公道走行可(車両登録や自動車検査証が必要)[32]
- WalkCar(ウォーカー)
- Solowheel
- ONEWHEEL i-1
- RYNO
- SBU V3
- WHILL - 福祉用具のため、公道走行可
- Airwheel
- トヨタ・C+walk
試作車
[編集]- トヨタ
- ホンダ
- アイシン精機・ILY-A(アイリーエー)
- スズキ・ピクシー
- ヤマハ・トリタウン
コンセプト
[編集]- SUBA-RO(スバ・ルー)
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ パーソナルモビリティー
- ^ “3.パーソナルモビリティへの展開”. 経済産業省九州経済産業局. 2015年10月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年4月29日閲覧。
- ^ “特定小型原動機付自転車(いわゆる電動キックボード等)に関する交通ルール等について”. 警視庁. 2023年7月1日閲覧。
- ^ a b “階段や段差を上る4脚モビリティー、スズキが「JMS 2023」で公開 2023.10.03”. 日経クロステック. 2025年4月25日閲覧。
- ^ a b “スズキ「MOQBA」とは?|バイク感覚でどこへでも? 新感覚移動体、登場! 2024-01-13”. webオートバイ. 2025年4月25日閲覧。
- ^ a b “大阪・関西万博で未来の新感覚オフロードパーソナルモビリティ「CORLEO」を披露 2025年04月03日”. 川崎重工業. 2025年4月25日閲覧。
- ^ a b “【速報】カワサキが“4足歩行”型のモビリティを発表! まるで動物のような「CORLEO」が大阪・関西万博に登場 2025年4月4日”. Webike+. 2025年4月25日閲覧。
- ^ (PDF) 搭乗型移動支援ロボット認定申請の手引き
- ^ “移動支援介護ロボットとは?|代表機器一覧 2025.04.28”. 2ndLabo. 2025年4月30日閲覧。
- ^ “マイクロモビリティ”. 日本経済新聞. 2025年4月30日閲覧。
- ^ “未来きたの? レクサスが「本物」のホバーボードを作ったと発表 2015.06.24”. ギズモード. 2025年4月30日閲覧。
- ^ “レクサスがついにホバーボードを完成させデモ走行&開発ムービーを公開 2015年08月05日”. GIGAZINE. 2025年4月30日閲覧。
- ^ “新感覚の乗り物「ジャイロボード」渋谷では試乗の実施も 2020.06.12”. DAYSE. 2025年4月30日閲覧。
- ^ 棒なしセグウェイの「ホバーボード」、発火の恐れのため約50万1千台がリコールに, オリジナルの2019-05-15時点におけるアーカイブ。
- ^ “電動キックボード、全国初の死亡事故 転倒の男性、ヘルメットせず:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2022年9月26日). 2023年5月12日閲覧。
- ^ INC, SANKEI DIGITAL (2023年5月11日). “<独自>電動キックボード初の死亡事故 酒気帯び疑いで書類送検 警視庁”. 産経ニュース. 2023年5月12日閲覧。
- ^ 神山 純一「電動三輪 ちょい乗りお供」『朝日新聞』2023年4月4日、朝刊。
- ^ 搭乗型移動支援ロボットの公道走行に関する規制の特例制度が創設されます~産業競争力強化法の「企業実証特例制度」の活用!~
- ^ 搭乗型移動支援ロボット、セグウェイなど全国で実験可能に
- ^ a b “世界に取り残される日本、雪解けは2020年以降に”. 日経エレクトロニクス: 57-60. (2017年3月号) .
- ^ 自動運転レベル4、来年4月から可能に 配送ロボットの新ルールも 朝日新聞
- ^ “セグウェイが歩道を走る つくばでロボットの公道走行実験スタート 2011年06月02日”. ねとらぼ. 2025年4月30日閲覧。
- ^ “「倒立振子制御」技術を応用した電動歩行アシストカーの開発”. 村田製作所. 2025年4月30日閲覧。
- ^ “株式会社村田製作所と『電動歩行アシストカー』の共同開発を発表!! 2012.09.21”. 幸和製作所. 2025年4月30日閲覧。
- ^ “未来きたの? レクサスが「本物」のホバーボードを作ったと発表 2015.06.24”. ギズモード. 2025年4月30日閲覧。
- ^ “レクサスがついにホバーボードを完成させデモ走行&開発ムービーを公開 2015年08月05日”. GIGAZINE. 2025年4月30日閲覧。
- ^ “搭乗型移動支援ロボット、セグウェイなど全国で実験可能に 2015年7月10日”. レスポンス. 2025年4月30日閲覧。
- ^ “「道はすべてオフロード」走破性を重視したヤマハの低速モビリティ、格好よさにもこだわり 2018年10月16日”. レスポンス. 2025年4月30日閲覧。
- ^ “ロボットが公道を走行できるように 4月1日から 交通ルールは歩行者同様 2023年03月31日”. ITmediaNEWS(ITmedia). 2025年4月30日閲覧。
- ^ “法改正で誕生「遠隔操作型小型車」って何だ? 警備や宅配への実証試験も進む新モビリティ”. 東洋経済ONLINE (2023年8月9日). 2025年5月13日閲覧。
- ^ “電動キックボード|法律・必要免許・税金”. goobike. 2025年4月30日閲覧。
- ^ 「電動立ち乗りスクーター」