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ツーリングカー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ツーリングカー(touring car)は、自動車のカテゴリの一つ。一般的には乗用車のうち、スポーツカーに対して、その他の通常車種を指す言葉として用いられる。

自動車黎明期のツーリングカー

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1903年、2座席ウィントン社製ツーリングカー『バーモント号』に乗って史上初のアメリカ横断に挑むホレィシォ・ネルソン・ジャクソン
1920 Studebaker Big Six ツーリング・カー(touring car) 屋根を閉じた状態。折りたたんだ屋根は「ファン(fan)」と呼ばれていた。

ツーリングカー(touring car とは20世紀初頭に広く使用された乗用車のボディスタイル。ツアラー(tourer)ともよばれ、ラナバウトロードスターに比べ大型のもの。屋根のないスタイルであり、通常は折りたたみ式のを備えていたため、のちにコンバーチブルトップと呼ばれるようになる。当時ツーリングカーとよばれた乗用車は、ほとんどが後部にトノーと呼ばれるシート部を装備し、これにより4人以上の乗員を確保していた。初期のツーリングカーではエンジンは、車両前方だけでなく車両中央座席下部に配置されたものもあった。このツーリングカーは、その後、現代的なセダン/サルーンのボディ・スタイルにつながる。

ツーリングカーという乗用車ボディスタイルは、米国では、1910年代半ばまでには4ドアであったり、折りたたみ式幌が付属したりと、様々なバリエーションが作られるようになり、当時提供されていたボディスタイルの中で最も広く一般に普及していたタイプであった。

1908年から1927年にかけてフォード社が生産したフォード・モデルTではその多くは5人乗りツーリングカーであった。これは当初4ドア車だったが、のちに運転席外側に予備ホイールが常設されるようになり運転手が助手席から乗り込む3ドア(1+2ドア)のツーリングカーとなっている。18年以上もの間大量生産され、乗用車、トラック、ボディーを架装しないシャシモデルを合わせて1,500万台ほど製造されたT型のうち、およそ44 %にあたる6,519,643台(約652万台)がこのツーリングカーであった。次いで多く生産されたタイプはトラックである。

特定モデルにはサイド・カーテンも付属していた。これは乗員を悪天候時に保護するためのものである。これが装備されていない車の場合、ドライバーと同乗者は自然に立ち向かわなければならなかった。折りたたまれた屋根(トップ)は、後席の後ろ側に「大きくかさばったでっぱり」となって畳まれ、これは「ファン(fan)」と呼ばれていた。屋根(幌)とその木製の支柱(幌骨)を保護するために「ファンカバー(fan covers)」が使用された。

ツーリングカーは米国では1920年代初頭には衰退しはじめる。それは居住空間が覆われたクローズドタイプの乗用車がより手に入りやすい値段となってきたからだった。こうしてオープンタイプが主流だった時代が米国では終わることになった。クロースドタイプが当たり前になって以降は、逆にクローズドタイプをツーリングカーと呼ぶようになった。

JISによる規定

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日本工業規格(JIS、現・日本産業規格)において、乗用車の区別の一形態として、スポーツカーとツーリングカーを規定している。

スポーツカー(sports car
運転を楽しむために作られた軽快な乗用車または乗用自動車。
ツーリングカー(touring car
普通に実用されている乗用車または乗用自動車(“スポーツカー”に対する用語)。

自動車関連の規格として、社団法人自動車技術会が原案を作成しJISが取りまとめたものの一部であり、上記規定は乗用車のカテゴリ分類における切り口の一つである。

JISの規定としては記載されていないが、「車両の仕様の違い」および「運転の目的の違い」からこの区別がなされると考えられる。ミニバンSUV流行する以前、一般的な乗用車はほとんどがスポーツカーもしくはツーリングカーに分類され、その多くは実用車であり、それはツーリングカーに分類されることとなる。

モータースポーツ

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WTCCジャパン(2012年)

市販車・市販車を改造したマシン・市販車のような外見をしたマシンで行うサーキットレースを「ツーリングカーレース」、そのレースに使用される車を「ツーリングカー」と呼ぶ。上記JIS定義と異なりスポーツカーでも広義のツーリングカーに含まれるが、プロレベルで通用するスーパーカーや、それに匹敵するレベルで改造したスポーツクーペのレースは「GT(グランドツーリングカー)」と呼んで区別するのが一般的である。

日本では車検証の車型欄で、セダン、クーペ、ハードトップが「箱型」に分類されていることから、箱レーサー箱車(はこしゃ)とも呼ばれ、自動車雑誌などでは専らハコ車と表記される。

改造できる部分の少ないグループNショールーム・ストックから、「アンリミテッド」と呼ばれる改造無制限ものまで、それぞれの主催者やレースにおいて車両への改造範囲が規定されている。なお、市販車からほぼ無改造のツーリングカーは「プロダクションカー」(量産車)や「ショールーム・ストック」(主に北米で、展示車のままの意)とも呼ばれる。

NASCARストックカードイツツーリングカー選手権(DTM)/GT500の「クラス1」規定のように、市販車に一切由来しない共通ボディとレース専用エンジンを用い、外観だけツーリングカーに似せる「シルエットタイプカー」のカテゴリも存在するが、これらをツーリングカーに含める場合もある。ツーリングカー・GT・ストックカーのカテゴライズの名称の区別の基準は明確に定まっているわけではなく、歴史的な連続性や慣習で決まってしまう場合が多い。例えば前出のクラス1規定は実質的にはストックカーに限りなく近い規則であるが、DTMは「ツーリングカーレース」、GT500も「GTレース」として展開されている。

ツーリングカーレースの車両はアマチュア色の強いレースほど市販状態に近く、逆にプロフェッショナルレースに近づくほど改造度合いが大きくなる傾向がある。これは観衆もプロドライバーもよりラップタイムの速いマシンにより興味を示すというのが表向きの理由であるが、市販状態に近いままだとホモロゲーション条件である「最低生産台数」を高いレベルでクリアする(=戦闘力の高いベース車両を大量に製造・販売する)必要があり、メーカーの負担が増すというのも大きな理由である。

ラリーラリークロストライアルジムカーナといったサーキットレース以外の競技もツーリングカーで行われることが多い。

2021年現在のFIAのツーリングカー向け規定としては、グループAグループNグループRallyTCRが存在する。古くはスーパーツーリングスーパー2000スーパー1600なども知られた。

空力技術の発展

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ツーリングカー競技における空力技術は、量産車ベース車両の形状制約の中で、いかに抗力と揚力を低減し、操縦安定性を高めるかという課題のもとで発展してきた。特に1990年代以降、GTカテゴリやフォーミュラカーで培われた空力理論がフィードバックされ、フロントバンパー・アンダーフロア・フェンダー処理・リアウィングを中心に高度化が進んだ。[1]

初期のグループA車両(1980~90年代初頭)では、外装変更が限定されていたため、フロントスポイラーの延長やリップ装着、リアスポイラーの大型化といった比較的単純な手法が中心であった。[2] しかし1990年代後半、スーパーツーリング(Super Touring)規定の普及により拡張フェンダーや大型ウィング、フロア形状の自由度が増し、空力性能が車両競争力の主要要素となった。[3]

2000年代以降、CFD(数値流体力学)と風洞試験の導入が進むと、乱流管理とダウンフォース効率の改善が図られ、ツーリングカーの空力はフォーミュラカーやプロトタイプに近い精度で設計されるようになった。[4] この時期にはディフューザー開口制御・ホイールウェイク対策・サイドシル形状最適化などの研究が進み、空力付加物ではなく空気流路そのものを設計するアプローチが普及した。

現代のGT/ツーリングカー(例:GT3、DTM、TCR)では、

  • フロントバンパー内の導風ダクトおよびカナード
  • フェンダーベントとホイールウェイク処理
  • 床下面の拡大・整流・ディフューザー統合
  • 大型リアウィングの効率最適化
  • CFDによる流れの可視化・渦構造制御

が標準化しており、量産車の形状的制約の中で高度な空気力学手法が投入されている。[5] こうした技術は量産車の高速安定性向上やEV車のドラッグ低減設計にも波及している。

ホイールウェイク制御

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ツーリングカーにおける空力技術の発展の中でも、特に 「ホイールウェイク(wheel wake)」の制御 は近年重要性を増してきた。ホイールウェイクとは、回転するタイヤ・ホイールとそのハウス(フェンダー内部)から発生する乱流・低圧域の流れが車体後方に引きずられて形成される「後流の渦・空気欠乏域」のことである。[6]

この後流が十分に制御されていないと、車体の下回り・側面・リアセクションにおいて以下の不利が生じる:

  • ホイールハウス内圧力の増大による揚力上昇
  • リアアクスル付近および車体後部での渦発生、抗力増加
  • ディフューザーやリヤウィングなど後方空力デバイスの効率低下

そのため、ツーリングカーのセットアップおよび車体設計では「ホイールハウスからの空気の排出路(ベント/アウトレット)」「オーバーフェンダー後端の切り欠き」「ホイールアーチ/フェンダー内部形状の最適化」が採用されてきた。

開発経緯

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1990年代〜2000年代初頭には、ツーリングカーレース(例:DTM、BTCC、Super Touring)において車体幅・フェンダー形状の自由度が拡大し、サイドフェンダーおよびホイールアーチの開口部設計が競技車体の差別化要因のひとつとなった。 特に2000年代中盤以降、CFD(数値流体力学)や風洞試験によってホイールウェイクの構造が可視化され、「フェンダーやサイドシルからの後流抜け口を設ける」ことで直線速度とコーナリング安定性が向上するという知見が出てきた。[7]

これを受けて、ツーリングカーの設計段階では「オーバーフェンダー後端をカットしてフェンダー内の気圧を解放する」「フェンダーアーチにスリットやベンチを設置する」などの処理が一般化した。例えば、ある車両では後輪フェンダー下部の縦スリットを「ホイールハウス・ベント(wheel-house vent)」として明記しており、レースチームの技術資料にも「Rear-fender exit for wheel-wake mitigation」と記されている。

名称・機能

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この種の空力デバイスは一般に「フェンダーアウトレット(fender outlet)」「ホイールアーチベント(wheel-arch vent)」「ウェイクベント / ホイールウェイクエグゾースト(wheel wake exhaust)」「エアロフェンダー」などと呼ばれる。 その主な機能は以下の通りである:

  • ホイールハウス内部圧力の低減 → 揚力低下・整流向上
  • タイヤウェイク流(後流)を整流化・短縮 → 抗力減少・直進安定性改善
  • 車体側面・下回りの気流を乱さず、リア空力デバイス(ディフューザー・ウィング)への流入を安定化

特に高速ストレートのあるサーキットでは、ホイールウェイク制御によって0.1〜0.3秒/ラップの改善に繋がるという風洞・CFD研究も報告されている。[8]

適用例・モータースポーツ規定

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GTカーやツーリングカーの多くが、ボディワーク自由度の範囲内でフェンダー開口を採用してきた。例として、2006年のDeutsche Touring Car Masters(DTM)車両では、オーバーフェンダー後端を「斜めカット」し、ホイールハウス内の気流を横抜けさせる設計が採られている。また、GT選手権(GT3/GT500)でも「リアフェンダー底部のベント/スリット」がリストリクション対象となっており、その存在が性能差として注目されている。 ただし、レギュレーションによっては「フェンダーからタイヤ外側へ板金が突出してはならない」「スリット幅がボディ厚の何割以下であること」などの制限が規定されており、設計には競技規定の順守が不可欠である。

主なツーリングカーの選手権

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ここではセダンなど4座席のツーリングカーが用いられているカテゴリを記載する。GTストックカーについては当該記事を参照のこと。

現行の選手権

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過去の選手権

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脚注

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  1. ^ S. M. Liu, “Aerodynamic Development in Touring Car Racing”, SAE Technical Paper 2002-01-3316.
  2. ^ Racecar Engineering, “Group A Touring Car Aero Evolution”, Racecar Engineering Archive, 2019.
  3. ^ ITR e.V., “Super Touring Regulations Review 1998”, DTM/ITC Archive.
  4. ^ J. Katz, Race Car Aerodynamics: Designing for Speed, Bentley Publishers, 2016.
  5. ^ FIA, “GT3 Technical Regulations 2022–2024”.
  6. ^ Krüger L., “Influence of Wheel Wake on Vehicle Aerodynamics”, SAE International, 2023-01-0842.  sae.org
  7. ^ Diosy M., Bell D., “Aerodynamic optimisation of a front wheel wake related bodywork”, Oxford Brookes University, 2016.  radar.brookes.ac.uk
  8. ^ Racecar Engineering, “Wheel Aerodynamics: The Flow Deflector Explained”, 2020.  Racecar Engineering
  9. ^ 2012年以降はシルエットカーへ移行している。

関連項目

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