関税
課税 |
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財政政策のありさまのひとつ |
関税(かんぜい)とは、広義には国境または国内の特定の地域を通過する物品に対して課される税[1]。狭義には国境関税(外部関税)のみを指す[1]。国内関税が多くの国で廃止されている現代社会では、国内産業の保護を目的として又は財政上の理由から輸入貨物に対して課される国境関税をいうことが多く、間接消費税に分類される。
目次
関税の機能[編集]
関税の機能は大別すると以下の通りになる。
国家収入の確保[編集]
経済の発展段階が低い開発途上国(UC)・後発開発途上国(LDC)においては、国家財政を確保する手段として重要な収入源になっている場合がある。
また通常、関税は輸入品のみに対して課せられるが、一層の収入増大を図る目的で、輸出品に対しても関税を課する所もある。特に希土類などの鉱産物で、埋蔵量が特定の国に偏在し、産業に不可欠なものへの輸出関税賦課は、国内経済への悪影響をあまり伴わずに国庫収入を増やす手段となる。
先進国においては通常、関税収入の国家収入に占める比率は低く、5%ないし10%以下程度である。日本に限って言えば、ここ数年は2%を割り込んでいる。発展途上国では、関税の収入が国家全体の収入の50%を超えている国が多い[2]。しかし、国家間の自由貿易協定や経済連携協定や環太平洋経済連携協定の締結により、関税が廃止される品目が増えている。
国内産業および市場の保護および振興・育成[編集]
国内企業の保護・振興や、海外から国内投資誘致のために特定の品目に関する関税率を(高く)設定する場合がある。
- 国内企業および市場の保護および振興策としての側面
- 国内において、国策上保護や振興を要する、国際競争力の低い産業、または衰退しつつある産業等が存在する場合、海外からの輸入品に対し、高関税を課することにより、その海外製品の国内市場での売れ行きを低下させ、ひいては上記の国内産業の存続を図る。また、徴収した関税額を以って、当該産業を振興させるための資金として配分することもある。このような目的のために高関税を振りかざす場合がある(例えば、日本のこんにゃくの1706%、米の778%など)。
- 国外からの国内投資誘致の促進策としての側面
- 国外から特定の産業の誘致を狙う方法として、当該特定産業に係る輸入品に高関税を課税する、という政策を取る場合がある。当該特定産業に係る物品の、国内市場への浸透を困難にする事で、国内において工場を建設させ、更には必要な部品・工具・設備等を一定の割合でその国内で調達(ローカルコンテント)・製造・市場流通させるように仕向ける、というのがその狙いである。国内市場の振興策にもなる上、雇用促進の効果もまた大きい。
- ローカルコンテントを課す場合においては先述の国内産業および市場振興策としての側面を持ち合わせているとも言える。この場合は、国内において国外から多額の投資を行なうに値するだけの魅力的な市場が存在し、低廉もしくはある程度質の高い労働力が確保出来ることが条件となる。
関税に関する政策[編集]
- 特恵関税
- 保税地域
経済的分析[編集]
新古典派経済学の理論家たちは自由貿易にたいする歪みとして関税をみなす傾向がある。関税は消費者の支出において国内生産ならびに政府の利益になる傾向があり、そして輸入国においては関税の正味の厚生効果には否定的であることを、典型的な分析は見出す。規範的な判断はしばしばこれらの知見に従う。すなわちそれは世界市場から人為的に遮断された産業にたいする国にとっての不利益になるかもしれず、また経済的崩壊が生ずるのを許すにはもしかすると良いかもしれない。すべての関税にたいする抵抗は、関税の減税と、そして関税適用時に異なった国々の間を差別することから国を守ることを、目的とする。右図は国内商品において関税を課することの費用と利益を示す。[3]
次の図で示された、テレビについての仮想的な国内市場における、輸入関税の課税は次の効果を有する:
- 世界での価格Pw から課税価格Pt へと価格は上昇する。
- 高い価格に従う、需要曲線における移動での、国内消費者による需要数量はC1 からC2 へと下落する。
- 高い価格につれての需要曲線での移動の、Q1 からQ2 へと国内供給者は供給しようとする。従って、輸入数量はC1 - Q1 からC2 - Q2 へと下落する。
- 国内消費者が高い価格と少ない数量のもとになるにつれ、(需要曲線の下であるが、価格曲線の上の範囲の)消費者余剰はA + B + C + D の分だけ減少する。
- 国際競争から切り離された国内生産者がより高価格で生産物を売ることができるようになるにつれ、(供給曲線の上であるが、価格曲線の下の範囲の)生産者余剰はA の分だけ増加する。
- 政府税収はC の範囲で示される、輸入数量( C2 - Q2 )倍の税価格( Pw - Pt ) である。
- もはやすべての部分にたいして損失となるところの消費者によってまさに捉えられる余剰の、B とD の範囲は死重損失である。
厚生における全体にわたる変化 = 消費者余剰での変化 + 生産者余剰での変化 + 政府税収での変化 = ( - A - B - C - D ) + A + C = - B - D 。
最初の図でのB とD に対応する、社会的損失(英:societal loss)と名付けられた範囲によって全体の厚生が減少する、関税を課した後の最後の状態は二番目の図で示される。国内消費者にたいする損失は国内生産者ならびに政府にたいする利益よりも大きくなる。[4]
なお、以上の分析は部分均衡分析であるが、一般均衡分析により、関税を課した財の生産に関わる厚生はそれ以外のものからの所得の再分配が生ずることが示される。[5]
関税が全体の厚生を減少させることは経済学者らの間で論争を引き起こす論点ではない。たとえば、シカゴ大学はImposing new U. S. tariff on steel and aluminum will improve Americans' welfare(和訳:鉄鋼とアルミニウムにおけるアメリカ合衆国の関税を課することはアメリカの厚生を改善する)かどうか尋ねる調査を2018年3月に40人の主導的な経済学者に対して行った。三分の一が合意しなかったのにたいし、三分の二がこの文言に強く合意しなかった、合意または強く合意した者はいなかった。この関税は多数の歳出において少数のアメリカ人の助けになるだろうと多数の者がコメントした。[6]死重損失の結果による、国内生産者ならびに政府よりも重く国内消費者を損失させることである、上記の説明とこれは合致する。[4]
最適関税[編集]
経済的効率性において、自由貿易を追求することは最善の策 であるが関税を課すことは次善の策である。
関税賦課国の厚生が最大になる関税は最適関税(英:optimum tariff)と呼ばれる。[7]一般には、それは自国の貿易無差別曲線と、貿易相手国のオッファー曲線との接点で示される税(率)である。この場合、貿易相手国の厚生が同時に悪化する。したがってこの場合の政策は近隣窮乏化型の政策である。もし、相手国のオッファー曲線が原点を通る直線の場合、すなわち自国が小国の仮定を満たしている場合はいかなる関税も自国の厚生を悪化させる。[8][9]
極めて限られた状況の中で、政治的な政策選択において関税を課すことがありうるし、理論的に最適な関税水準を考えることは無意味ではない。[10]複数の国々が互いに関税報復を行った結果、最終的に、二者の間で自己の財を交換するときに、相互の満足を極大にするような交換量の組み合わせを示すものである、契約曲線上にあることを示す状態に至る可能性が最も高くなる。[11]
日本の関税[編集]
一般に日本は関税が高いと考えられているが、日本は最も関税が安い国であり、一部の農産品(米などの19品目)に高い関税が課せられている[12]。
関税に関する法律[編集]
日本の関税について規定した主な法律は次の通り。
- 関税法(昭和29年4月2日法律第61号)
- 関税定率法(明治43年4月15日法律第54号)
- 関税暫定措置法(昭和35年3月31日法律第36号)
関税表の分類[編集]
下記リストの後者ほど優先される
- 基本税率 - 関税定率法で定められた基本税率
- 暫定税率 - 関税暫定措置法を根拠とする暫定税率
- WTO協定税率 - WTO協定による上限税率(bound tariff)
- 一般特恵税率(GSP) - 開発途上国に経済援助目的で設定された税率[13]
- 特別特恵税率(LDC) - 開発途上国のうち、後発開発途上国(LDC)に対しての特別税率
- EPA税率 - 経済連携協定(EPA)、経済連携協定(FTA)を締結した国家間に適用される特別税率。
二重課税[編集]
消費者が最終的に負担する関税であるが、納税義務者は輸入業者となるため、法人税や固定資産税、関税と同様に「商品価格を構成するコスト」であるとの認識から、この関税にも消費税が課せられる。二重課税であるとの議論が古くからあるが、公に問題となることはなく現在に至っている。
出典[編集]
- ^ a b 東京銀行『貿易為替辞典』至誠堂、1960年、87頁
- ^ 佐藤雅彦・竹中平蔵 『経済ってそういうことだったのか会議』 日本経済新聞社学〈日経ビジネス人文庫〉、2002年、112頁。
- ^ a b Krugman, Paul; Wells, Robin (2005). Microeconomics. Worth. ISBN 0-7167-5229-8.
- ^ a b Krugman & Wells (2005).
- ^ Stolper & Samuelson (1941).
- ^ University of Chicago IGM Panel - Steel And Aluminum Tariffs, (March 12, 2018)
- ^ El-Agraa (1984), p. 26.
- ^ ほとんどすべての現実の場合にはこの場合にあてはまるかもしれない。
- ^ 岡山, 岩田 & 宮川 (1992), pp. 8-35(in 8-45), 第2章 保護:全般的な背景.
- ^ 岡山, 岩田 & 宮川 (1992), p. 76, 第5章「雇用-関税」命題の政治経済学的評価.
- ^ 岡山, 岩田 & 宮川 (1992), p. 93(in 83-94), 第6章最適関税、報復および国際協力.
- ^ 佐藤雅彦・竹中平蔵 『経済ってそういうことだったのか会議』 日本経済新聞社学〈日経ビジネス人文庫〉、2002年、113頁。
- ^ 外務省 特恵関税制度
参考文献[編集]
雑誌[編集]
- Stolper, W. F.; Samuelson, P. A. (1941). “Protection and Real Wages”. Review of Economic Studies 9.
単行本[編集]
- El-Agraa, Ali M. (1984). TRADE THEORY AND POLICY. The Macmillan Press Ltd..からの翻訳の
岡山, 隆; 岩田, 仲人; 宮川, 典之 (1992-05-30). ECの貿易政策―国際貿易の理論と政策―. 東京都新宿区早稲田鶴巻町533: 株式会社文眞堂. ISBN 4-8309-4082-4. - Krugman, Paul; Wells, Robin (2005). Microeconomics. Worth. ISBN 0-7167-5229-8.