朝鮮人民軍

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朝鮮人民軍
조선인민군
創設 1948年2月8日1932年4月25日
派生組織 朝鮮人民軍陸軍
朝鮮人民軍海軍
朝鮮人民軍空軍
ミサイル指導局
朝鮮人民軍内務軍
本部 平壌
指揮官
最高司令官 金正恩大将
人民武力部 金永春次帥
総参謀長 李英浩次帥
総人員
兵役適齢 17
適用年齢 17-49
-適齢総数
(2005年)
男性 5,851,801、年齢 17-49
女性 5,850,733、年齢 17-49
-実務総数
(2005年)
男性 4,810,831、年齢 17-49
女性 4,853,270、年齢 17-49
-年間適齢
到達人数
(2005年)
男性 194,605
女性 187,846
現総人員 1,900,000(2010), 予備役: 9,700,000(2010)
関連項目
歴史 朝鮮戦争
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朝鮮人民軍
寧辺核施設
各種表記
ハングル 조선인민군
漢字 朝鮮人民軍
発音 チョソンインミングン
チョソニンミングン
日本語読み: ちょうせんじんみんぐん
マッキューン=ライシャワー式
英語
Chosŏn inmin'gun
Korean People's Army
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軍事境界線で警備に当たる朝鮮人民軍兵士

朝鮮人民軍(ちょうせんじんみんぐん)は、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の軍隊。制度上は朝鮮労働党の指導を受けるとされるが、党の指導が形骸化しているという指摘がある(先軍政治を参照)。陸軍海軍空軍などから編成される。北朝鮮の事実上の国軍であるため、メディアを始めとして北朝鮮軍とも呼ぶ[1]

概要

有事の際には韓国領内に電撃的侵攻を行い、主な攻略目標として韓国の首都であるソウルを早期に制圧することで韓国側の戦争遂行能力に打撃を与えることを基本戦略とする。朝鮮人民軍の兵力は世界有数の規模だが、装備に着目すると軍事専門家から『動く軍事博物館』と揶揄されるほどの旧式装備が大半を占め、燃料不足のため訓練も十分ではなく、複数の軍事専門家から制空権制海権の獲得は絶望的と指摘されている。北朝鮮はこのような装備面での劣勢を膨大な動員力でカバーし飽和攻撃で前進する戦術をとらざるを得ないため、兵力の多くは前方配置されているが、武器弾薬の補充(兵站)が困難な状況から継戦能力は限定的なものであるとみなされている。もっとも、北朝鮮国内では外国人に対する監視が極めて厳しく、情報収集が困難なため、食糧難や燃料難の情報は漏れでてくるが、朝鮮人民軍の規模や深刻度についての憶測はソースにより様々であり、情報が錯綜しているのが現状である。

朝鮮人民軍は、通常兵器の質では周辺諸国にかなわないため、大量破壊兵器弾道ミサイルの開発に傾注しており、北朝鮮の6000億円の年間軍事予算(公表された数字では年間3000億前後)のうち4000億円近くをミサイル開発に費やしている[2]。韓国・日本の親米保守派の中には、北朝鮮要人の「民族統一のためには核戦争すら辞さず」との発言から、「北朝鮮は端から韓国機甲戦力を核で破砕する気であり、核を撃ち合うなら集中した機甲より散開した大兵力の歩兵が適正な選択。韓国の第三世代戦車も核で溶けないわけではない」「北朝鮮の核実験により半島の軍事バランスは一気に北に傾いた」という見解もある。現段階では弾道ミサイルへの核弾頭搭載については見解が分かれており、最大評価は米研究機関ISISの「東京に届くノドンに搭載可能な粗悪核弾頭3発と核爆弾7発保有。つまり現時点で東京に粗悪核弾頭を撃ちこむ能力がある」との評価であり、最小評価は「ファットマン規模の大きさで爆発力が僅か0.8ktの大重量・低威力の核爆弾を2発前後保有」との評価である。

また、朝鮮人民軍が大量破壊兵器と弾道ミサイルのほかに傾注しているのが特殊部隊の育成であり、その兵力は世界最大規模である。2010年5月5日、5万人余りの朝鮮人民軍の特殊部隊が、38度線の休戦ライン近くの最前線に配置されたという報道が出た。韓国政府筋は、北朝鮮が有事の際に特殊部隊を活用した奇襲作戦を敢行し、韓国軍を霍乱させる狙いがあるとしている[3]

右下の写真は板門店の軍事境界線を警備する朝鮮人民軍兵士であり、北朝鮮側から撮影されたものである。奥の二人の兵士の足元にあるコンクリートの帯が軍事境界線を表している。「二人の兵士はお互いが、手前の兵士は北朝鮮国民が、それぞれ境界線を越えて脱走しないように監視している」と言うのが韓国・米連合軍の解釈である。

歴史

創設

朝鮮人民軍の創設は、当初1948年2月8日とされていたが、1978年以降は1932年4月25日金日成満州抗日遊撃隊を組織したとされている日)に変更され、以後北朝鮮では毎年4月25日を軍の創設記念日(北朝鮮では「建軍節」と呼ばれる)として祝日の一つに指定している。

第二次世界大戦後、日本による植民地統治が終わって朝鮮半島北半部にソ連軍が進駐するとともに、1945年10月保安隊1946年1月鉄道保安隊などの保安組織が発足し、同時に中央保安幹部学校平壌学院といった幹部教育機関も設けられ、建軍の準備が整えられた。

そして、1948年9月9日の朝鮮民主主義人民共和国建国に先立つ2月8日、朝鮮人民軍が創建されたのである。初代総司令官は崔庸健であり、北朝鮮人民委員会委員長(共和国建国後は首相)の地位にあった金日成とともに、人民軍の増強に邁進した。建軍間もない人民軍が急成長を果たしたことには、次のような背景があった。

当時の北朝鮮の体制内では、ソ連から帰国したソ連派中華民国(同国内の中国共産党指揮下の中国人民解放軍)から帰国した延安派と呼ばれる幹部が大きな役割を担っていた。創建直後の人民軍でもそれは変わらず、軍事的な経験や知識を持った彼ら帰国者たちは軍団長や師団長などの高級幹部の地位を占めて、人民軍を質的に補完した。これは、幹部に日本軍出身者が多かった創建直後の韓国軍とは対照的といえる。

また、朝鮮系の将兵によって構成されていた中国人民解放軍第164師団と中国人民解放軍第166師団が、国共内戦が終結した1949年に帰国してそれぞれ人民軍第5師団と第6師団に、さらに中国人民解放軍第165師団が1950年に帰国して人民軍第7師団に改編された[4]ことなどにより、量的にも韓国軍に対して大きなアドバンテージを得ることができたのである。

朝鮮戦争

祖国解放戦争勝利記念館の記念碑

朝鮮人民軍の奇襲により1950年6月25日に勃発した朝鮮戦争(北朝鮮では「祖国解放戦争」と位置づけている)では、当初の朝鮮人民軍はソ連や中華人民共和国からの豊富な支援を受けて前述のように韓国軍を質量ともに圧倒しており、緒戦で韓国の首都ソウルを陥落させ、アメリカ軍やイギリス軍を始めとした国連軍の参戦後も大田の戦いなどで勝利を得て、国連軍を釜山円陣に追い詰めた。1950年7月4日に金日成(当時、首相)が朝鮮人民軍の最高司令官となった。 

しかし、国連軍の仁川上陸作戦が成功したことにより戦局が一転すると、人民軍は敗走を重ねて多くの戦力を失い、一時は臨時首都の平壌を喪失するまでに追い詰められた。その後、中国人民志願軍の参戦により再び戦局は膠着するものの、1953年7月27日の休戦まで、人民軍は戦争の中での主導的な役割を失った。

しかし、金日成はむしろこれによって北朝鮮内部における権力確立に専念することができた。当時の党内の有力派閥であり、パルチザン養成機関を掌握していた南労党派は、金日成によって朝鮮戦争の失敗の責任を転嫁されて粛清され、前述のソ連派・延安派なども最終的には1956年の8月宗派事件により壊滅し、人民軍からその影響は排除された。

兵力

日本の『平成23年版防衛白書』では、総兵力は120万人とされている。これは、対峙している韓国軍の兵力(66万人)と在韓米軍(2万5千人)の合計よりも多い。北朝鮮の人口は約2400万人なので、国民の5%程度が軍役に就いていることになるが、そのために兵役期間が10年(2005年までは、13年だった)と極めて長く、元々GDPが1.2-2.4兆円で著しく低迷する北朝鮮経済に与える影響は極めて甚大である。 ただし、年間軍事予算6500億円のうち一部は在日朝鮮人からの送金や、韓国との開城工業団地朝銀信用組合事件など外国から吸い上げた資金が充当されているとする推測もある。

約100万人は陸軍の地上兵力となっており、残る20万人が海軍と空軍の兵力である。他に予備役が470万人、労農赤衛隊350万人、保安部隊が19万人もおり、事実上男性皆兵といっても差し支えない。しかし、正規軍も多くは日常的に農漁業などに従事しているため、訓練は行き届いているとは言えない。

約100万人という世界2位の地上軍歩兵兵力に関しては、国是として政治指導者が民族武力統一を決断した場合、一応南侵作戦を実施可能たらしめるのに必要な兵力を陸軍整備目標にしていると観測されている(イラクなどを見ても占領地域人口100人に対して1人の兵力が占領維持に必要な兵力所要であり、韓国軍と戦って半数損耗したとして残りの45万人で4500万韓国国民を支配するには初期兵力としては90-100万は必要である)。尚、国是として統一作戦が一応「実施」可能な能力を軍隊の整備目標に掲げる事と、武力統一作戦を実際に「成功」させうる能力を保有する事とは別問題である。

国際機関推計によれば、核兵器6~7基を製造するのに十分なプルトニウムを保有。ミサイル搭載用の核弾頭を製造する技術を持っているかは不明である。各種ミサイルを少なくとも1000発保有。韓国国防省によれば、射程が3000キロを超えるものもある。また、大陸間弾道弾(テポドン)3種の発射実験をすでに行った。北朝鮮は2500~5000トンの化学兵器を保有していると思われる。生物兵器の開発計画もあるが、北朝鮮が研究開発段階を終えたかは不明。

米政府の分析によると、主力戦闘戦車3500両、軽戦車560両、装甲兵員輸送車2500両、けん引砲3500門、自走砲4400門、多連装ロケット砲2500門、迫撃砲7500門、対戦車ミサイル(数不明)、無反動砲1700門、高射砲1万1000門。海軍は潜水艦92隻、フリゲート艦3隻、コルベット艦6隻、ミサイル艇43隻、大型巡視艇158隻、高速魚雷艇103隻、哨戒艦艇334隻以上、輸送艦艇10隻、沿岸防衛ミサイル発射台2台、ホバークラフト130隻、掃海挺23隻、小型艇8隻、測量船4隻を保有。空軍は爆撃機推計80機、戦闘機と対地攻撃機541機、輸送機316機、輸送ヘリコプター588機、攻撃ヘリ24機、無人機少なくとも1機を保有。

組織

指揮系統は複雑である。公式には国家の最高軍事指導機関として国防委員会が明定されており、2012年4月から金正恩 国防委員会第一委員長が司っている。そして国防委員会の下に国家安全保衛部人民武力部護衛司令部があり、この人民武力部が朝鮮人民軍を統轄する。これとは全く独立して朝鮮人民軍最高司令部が設けられており、朝鮮人民軍最高司令官にも金正恩が就いている。しかしこの最高司令部は、法律にも党規約にも規定がなく、実際にどのような役割を果たすかは不明である。

なお、国防委員会第一委員長以前の国防委員会の最高位は国防委員長で、金正日が就いていたが、金正日は死後に「永遠の国防委員長」に奉じられ「国防委員長」は永久欠番化した。

軍事称号

朝鮮人民軍では諸外国軍の階級にあたるものを、階級のない国家であると言う建前から、「軍事称号」と呼んでいる。その体系はソ連中国のそれに似ており、士兵下士官に相当)の軍事称号が簡素である一方、軍官士官に相当)の軍事称号は細分化が進んでいる。これを共産主義諸国の軍隊に特徴的であるとする見方もある。

元帥

大元帥共和国元帥人民軍元帥次帥

  • 大元帥は国家主席金日成と、総書記金正日(死後追贈)のみで、共和国元帥は生前の金正日のみである。また、次帥は朝鮮人民軍独自の階級である。

将官

大将上将中将少将

佐官

大佐上佐中佐少佐

尉官

大尉上尉中尉少尉

士兵

特務上士・上士・中士・下士・上級兵士・中級兵士・初級兵士・戦士

編制

陸軍

板門店警備中の陸軍軍人(2005年8月)

2008年版韓国国防白書等の情報によれば、朝鮮人民軍の軍団は、15個で構成されている。軍団の内訳は、前方・後方軍団9個、機械化軍団2個、国境警備司令部、ミサイル指導局、軽歩兵教導指導局平壌防御司令部等である。軍団数が減少した理由としては、2006年末に2個機械化軍団、戦車軍団、砲兵軍団が師団級部隊に改編されたことが挙げられる。

軍団の下の梯隊としては、2000年の時点で、現役歩兵師団/旅団が33個(この内師団が約26個)、教導師団が37個、機械化歩兵師団/旅団が25個、戦車師団/旅団が15個が存在した。下記の軍団の一覧表は、2000年度の情報に基づいており、現在存在しないものも含む。

兵員数が非常に多く数の上では大規模な陸軍である。ただし近代化が進んでおらず50-60年代の技術で製作された兵器が主力を占めている。装備上の特徴として山岳戦となった朝鮮戦争の戦訓から火砲の自走砲化に注力し、多数を保有する。ただし、対砲レーダーの保有が確認されておらず通信設備も貧弱であることから現代の砲兵戦でどれほど戦えるかは未知数である。さらに、経済制裁による石油の枯渇や物資不足で、車両を中心に急速な無力化が進んでいる。その代わり、イラク戦争の頃からは自爆テロやIED(即席爆発装置)の研究をしているという。米国防総省の専門家が下院軍事委員会小委員会で証言したところによれば、北朝鮮はアルカイダ等のイスラム原理主義過激派が使用するIEDについて興味を示しており、戦術を学ぶためパキスタンのイスラム過激派支配地域に人民軍から視察団を派遣したとされている。

2011年の時点で保有する装備は、戦車3,500両、軽戦車560輌、装甲兵員輸送車2,500両、牽引砲3,500門、自走砲4,400門、多連装ロケット砲2,500基、迫撃砲7,500門、無反動砲1,700門、高射砲11,000門と推測されている。

海軍

朝鮮人民軍海軍は沿岸海軍であり、特殊部隊浸透支援と沿岸防衛に特化している。それぞれナジン級フリゲートを旗艦としてその他中小型舟艇によって構成される東海艦隊と、西海艦隊が編成されている。東海艦隊は、羅先元山に主要基地を有し、退潮洞に本部を置く。西海艦隊は、琵琶串と沙串里に主要基地を有し、南浦に本部を置く。両艦隊は、地理的制限により相互支援が殆ど不可能なため、艦艇を交替することはない。その他にも、数多くの小規模な海軍基地と海岸砲兵部隊、地対艦ミサイル部隊が、両岸に沿って位置する。また、海軍航空隊を有していない。海兵隊として、2個海上狙撃旅団を保有している。作戦は海軍要員に加え、海軍所属の特殊作戦部隊により実施され、数多くの小型艦艇や特に小型潜水艇・半潜水艇・130隻近い軍用ホバークラフト・90隻近いLCVPは、韓国に特殊作戦部隊を隠密裡に浸透させ、テロ・ゲリラによる後方かく乱で兵站を破壊することを意図していると言われている。

  • 海軍総司令部-平壌特別市内。
  • 東海艦隊 - 咸鏡南道楽園郡。10個戦隊。
  • 西海艦隊 - 南浦直轄市。6個戦隊。

「韓国国防白書2008年版」によれば、保有艦艇数は、水上戦闘艦艇420隻、潜水艦艇70隻、上陸艦艇260隻、哨戒艇30隻等である。

潜水艦は著しく旧式だが隻数は多い(海上自衛隊は16隻)。停止して浅海に沈座すれば接近する敵艦艇に対して一定の脅威たりうるが、主力のロメオ級でもWW2クラスの「可潜艦」で沈座可能な時間は半日程度しかないため、実際にはそのような運用は困難である。

水上艦艇は、魚雷艇、哨戒艇、高速攻撃艇、小型潜水艇及び、小型上陸用舟艇を含む小型艦艇から成り、いずれも旧式なものである。小型艦艇は海岸から50海里以上では運用しにくいが、領海は警備できる。各艦艇には、固定装備としての対空ミサイルは装備されていないが、代わりに携帯式の対空ミサイル(SA-7等)を携行する対空要員を乗り組ませている[5]

  • ロメオ級潜水艦 約22隻
  • 沿岸潜水艦(サンオ型
  • 沿岸工作潜水艇 (P-4)
  • ミゼット潜水艇(ユーゴ型)、約23隻
  • 誘導ミサイル哨戒艇(SS-N-2Aスティックス対艦ミサイル又はその中国版であるCSS-N-1スクラブブラッシュを装備)、約43隻。
  • オサ-1誘導ミサイル哨戒艇、約20隻。
  • ソジュ誘導ミサイル哨戒艇(オサ-1の北朝鮮製)、約30~40隻。
    オサとソジュは、全て4機のCSS-N-1ミサイル発射機を装備し、ミサイルは46 kmの最大射程を有し、レーダー又は赤外線誘導装置を搭載しているが、旧式のため電波妨害やチャフ・フレアに対して脆弱とみられる。
  • チャホ級火力支援哨戒艇(このユニークな艦艇は、上部隊への射撃支援又は水上艦艇の攻撃のために、その甲板中央に多連装ロケット発射機を有する)、62隻以上。
  • その他、高速攻撃ミサイル艇、約19隻。
  • 魚雷艇、約250隻。
  • ホバークラフト(上陸作戦用で、兵士50名を乗せる。速力50ノット)、約130隻。
  • LCVP(車両を揚陸できる80tクラスの小型揚陸艇)約90隻

その他、海岸砲兵とミサイル基地を維持している。海岸防衛砲兵は、122-mm、130-mm、及び152-mmシステムを保有。地上設置海岸防衛ミサイルは、SSC-2Bサムレット、CSSC-2シルクワーム、及びCSSC-3シーアザッカーを保有している。

韓国国家情報院(旧・国家安全企画部)が、北朝鮮研究の成果をとりまとめて刊行した書籍である「北韓常識」によれば、北朝鮮海軍の訓練内容は、有事の際に持てる艦船の全てのミサイルを同時に発射して、敵の防空システムを麻痺させて敵を撃破する「飽和攻撃」を行う訓練や、潜水艇や魚雷艇に爆弾を搭載して敵艦船に体当たりする自爆攻撃の訓練、機雷戦訓練、潜水艦による特殊作戦部隊の敵国侵入訓練を行っている。

空軍

朝鮮人民軍空軍は、戦闘機爆撃機を保有する4個飛行師団と、輸送機ヘリコプターを保有する2個戦術輸送旅団から成る。師団隷下の編制は、連隊編制を取っている。また、特殊部隊として、2個空軍狙撃旅団を保有する。

「韓国国防白書2008年版」によれば、保有航空機数は、戦闘任務機840機、監視統制機30機、輸送機330機、ヘリ310機、訓練機180機である。この内、実働戦力として勘定されるのは、米韓軍に対抗可能なSu-25(20機)、MiG-23(48~50機)、MiG-29(30機)、Mi-24(20機)などの新型機のみであると考えられる。この他、中国製のY-5も保有しており、低速の複葉機でレーダーに映りにくいという特徴を利用して空挺降下や対艦攻撃に用いるとも考えられている。さらに有事の際にはフラッグ・キャリア高麗航空機も編入するとされる。

韓国からの報道によると、多数保有する旧式機を人間が操縦するのではない無人機に改造して使用しているという情報もあり、この場合、多数の無人機を飛行させることにより侵攻してくる敵軍のミサイルを「吸収」させ、航空隊本隊を防御するという戦術が考えられているといわれる。表面上、人民軍空軍の構成装備は大半が旧型であり、そのため朝鮮人民軍空軍は旧式で貧弱であると一般に評されているが、そうした旧型機は攻撃用兵器というよりはデコイ(囮)の一種として保有されているのであり、外国軍が侵攻した際に実際に主戦力となるのはより新しい機材であると推測される。

金正恩が朝鮮中央テレビに登場するようになってからは、北朝鮮にとっての虎の子であるMiG-29によるアクロバット飛行の映像がしばしば放映されている。MiG-29の機体には、上面を緑色、下面を青色にするツートンカラー塗装が施されている。

国境警備

国境警備は人民武力部傘下の朝鮮人民警備隊によって行われている。

  • 第11警備旅団 - 平安北道新義州市
  • 第13警備旅団 - 平安南道平城市
  • 第15警備旅団 - 黄海南道海州市
  • 第17警備旅団 - 清津直轄市
  • 第19警備旅団 - 咸鏡南道咸興市
  • 第21警備旅団 - 江原道元山市
  • 第22警備旅団 - 慈江道江界市

通常戦装備

朝鮮人民軍の通常戦装備は、全軍事予算の1/4しか投入されていない。朝鮮人民軍の装備は自国製、ソ連製、中国製が多く、全軍とも1950~60年代に開発された旧式な装備が大半を占めている。MiG-29等、比較的新しい兵器も一部配備されているものの、ごく少数に留まっている。装備の中には独自の改良改造を行ったものが見受けられるため、詳細については不明なものもある。半世紀も前に開発された旧式な装備は部品調達が困難なものも多く、カニバリゼーション(共食い)によって維持されていると考えざるを得ないが、高価な最新兵器の部品を必要量購入することも経済的に難しい。よって実際の稼動戦力はそれほど多くないと言われる。特に空軍は錬度維持もままならないほど部品や燃料が枯渇しているという。3隻しかない海軍のフリゲートに至っては殆ど繋留されたままである。

一般兵士の使う自動小銃AK-47AKM)は老朽化が進んでおり、また、軍服や軍帽の品質も悪い。これらが近い将来新しいものに置き換えられるかどうかは不明である。特に、歩兵にとって重要な武器である自動小銃の新調は近い将来行わざるを得ないであろうが、北朝鮮に自動小銃を輸出する国があるかどうかは不明である。ただ、軍事独裁国家であるミャンマーとの間で野砲などの兵器の取引が行われている。

通信装備に関して、2011年12月17日の金正日の死去の前後に無線交信量の変化がさほどなかったと韓国国情院が報告しており、これと関連して朝日新聞は軍司令部など各所を結ぶ光ファイバー網が整備されているためであり、天安沈没事件の際にも人民軍にとって有効であったと報道している[6]

弾道ミサイル

朝鮮人民軍はスカッド・ミサイルおよび、それを独自に改造したノドン、さらに多段式ミサイルのテポドンを配備している。ノドンは日本の大半、テポドンは日本の全域を射程に含めるため、極東アジアにおける軍事的緊張の一因となっている。 これらは液体燃料ミサイルであるが、液体酸素液体水素では無く常温保存が可能なものなので即応性が低いとは言えない。実際ソ連のSLBM/ICBMも常温保存液体燃料であったし、燃料注入状態で1ヶ月以上保存可能であった。また湾岸戦争においてイラクが発射したスカッドが米軍のスカッド狩りをすり抜けて多数、イスラエルサウジアラビアに着弾した史実もある。

  • 2009年まで技術的に核弾頭が搭載不可能かどうかは不明であったが、2009年3月31日にノドンに搭載可能なまでに核爆弾の小型化に成功したとの情報を米韓情報当局が得ていることが明らかになった。
    • 最大は東京打撃可能な核弾頭20個前後保有との予測。最低は核弾頭は存在せず4t級核爆弾1-2個との予測
    • いずれにしても北が4kt核実験に部分的成功を収めた以上、現在は北が小型核弾頭を保有する可能性は灰色、10-15年以内にはほぼ100%核弾頭を保有すると見るのが自然で、今後10年経っても何の進歩もないと見立てるのは不合理
    • 2009年3月10日、米国防情報局が上院軍事委員会に提出した書面によると、弾道ミサイルに搭載可能な核弾頭の小型化技術獲得に成功した可能性があるとの見方を示した[7]
    • 2009年3月31日、核爆弾の小型化に成功し、ノドンに搭載できるまでになり、弾頭を現在北朝鮮北部の地下施設で保存しているとの情報を米韓情報当局が得ていることが明らかになった[8]
  • 通常弾頭で目標を破壊するに足る命中精度があるかどうかは疑問
    • ノドンのCEPは180m-3kmまで諸説ある。 FASによれば180m
    • 北朝鮮は化学兵器禁止条約に加盟しておらず、化学弾頭、たとえばサリンを東京に数十発撃ち込む能力や、マスタードガスを岩国や小松に打ち込んで、航空基地を一時的に使用不能にする能力はあると見られる。
  • 燃料は腐食性が極めて高く、取り扱いの困難なヒドラジンで、注入状態での運搬・待機が難しい。
  • MIRV搭載技術がないため、単弾頭で比較的容易に迎撃可能なのは事実だが、ノドン保有数150-200基のうち日本のミサイル防空能力で撃ち落せるのは1/3-1/2とみられ50-100発は核/化学弾の着弾がさけられない。
  • 北朝鮮は現在の5MW炉の無力化には同意したが、建設中の50MW炉と200MW炉の解体も無力化も拒否。これが完成すると年間核兵器55発分のプルトニウムの量産が可能になり、数年で日本を狙うノドン200基全弾が核装備になりかねない。
  • 朝鮮人民軍ミサイル戦力を最小に評価した最も楽観的見解
    • 米ソですら核実験のあと、ミサイルに積めるまでの小型化には数年を要しているので、朝鮮人民軍がミサイル装填可能な核弾頭を保有していない。
    • 次に、朝鮮人民軍の保有する生物化学 (BC) 兵器をミサイルに搭載すること自体は可能だが、大気圏再突入時の高温に耐え、なおかつ目標に対して効果的に散布する技術を未だに開発しきれていないため、実際にはBC弾頭を使用できない。
    • もしCEP2kmで通常弾頭ならば基地などを狙っても、命中率が低すぎて相手の反撃能力をほとんど減殺できない。
    • 通常弾頭弾道弾による都市空襲は、純軍事的に見れば到底引合わない程度のコストパフォーマンスしか得られない。
    • 以上のことから、現段階では軍事的にはあまり有効な戦力とは言えない。
  • 朝鮮人民軍ミサイル戦力を最大に評価した最も悲観的見解
    • 米国のトーマス・コクラン博士等によれば、現代では途上国でもプルトニウム1.5-2kgで核兵器製造可能であり、その場合4-7ktの核兵器になる。北朝鮮が政治的示威行為のために長崎なみに6.2kgのプルトニウムを使って22ktの核実験をしたのなら核爆発の規模0.8ktの実験結果は失敗だが、中国への事前通告は設計威力4ktだったという。つまり、米国の手前何度も核実験できないのと、ファソン (火星) 500基やノドン 200基など運搬手段は多量にあるのでプルトニウムを小分けしたほうが破壊面積を広げられるという事情から、一足飛びに小型核の核実験に挑んで「部分的に成功」した可能性が高いという指摘が核物理学者等から出されている。
    • 黄長ヨプは、北が1994年に核爆弾の製造に成功したと証言した。ただし、核爆弾の数量、作動確証及びミサイルへの搭載の可否は「知らない」とのことである。
    • 江畑謙介は、北が1994年時点で作動確証のない大型核爆弾1-2個を持っていて、パキスタン核実験の折、パキスタンに委託してすでに大型核兵器の実験を済ませた可能性を指摘しており、2006年の核実験をもって「北は核弾頭をもっているかどうか不明確だが、もう持っていると看做すべき」と指摘しているほか、米国の研究機関ISISは北はノドンに装填可能な核弾頭を3発保有している可能性があると報告している。1994年にCIAが行った「北朝鮮は核兵器を1-2発持っているとCIAは51%信じている。しかしそれはミサイルで運搬可能な小型のものではない」との報告から15年以上たっても同じ技術水準と考えるのは不自然である。現時点で北朝鮮は東京・大阪・名古屋に0.8kt以上の粗悪核弾頭3つを投射する能力はある。
    • ブッシュ政権は支持率浮揚のため北との手打ちを急ぎ、大幅に妥協してしまった。北朝鮮は5MW原子炉の無力化には応じたが、建設中の50MW/200MWの解体は拒否したのでこのまま行けば、米民主党のバラク・オバマ大統領の当選に伴い、北は二つの大型黒鉛炉の建設を再開し、日本を狙うノドン200基が2015-18年頃には全部核付きになりかねない情勢。3発の核を被弾しても日本は戦闘不能にはならないが、核200発被弾したら日本も戦闘不能に陥り、北朝鮮相手に不覚の敗北を喫してしまう。
    • 現在、米国が「南侵を止めないと平壌を核攻撃する」と恫喝した場合、北朝鮮の取りうる選択肢は「平壌を核攻撃したら報復に東京をノドンで核攻撃する」と恫喝しかえすことである。北は現在米国に届く移動式ICBMを持っておらず、日本は格好の代替目標である。朝鮮半島で民族統一戦争が起これば日本も巻き込まれて核弾道弾が降って来る可能性は非常に高い。
    • 米国が大型黒鉛炉を空爆破壊し、核量産が阻止されても、化学弾の脅威は依然として残る。なぜなら射程700kmのファソンはスカッド改であり、射程1300kmのノドンも戦域ミサイルにすぎず、射程12000kmのICBMの大気圏再突入とは比較にならないほど低速小規模であり、かつ戦域ミサイルでの化学弾投入はソ連が技術的に確立しているので、北朝鮮が化学剤の短距離弾道弾投射ができないと言うのは相当に楽観に過ぎる見解であろう。CEPも150mなら空軍基地をマスタードガスや通常弾頭で使用不能にするのは、複数発叩き込めば困難とは思えない。

核開発

朝鮮民主主義人民共和国は1992年、『朝鮮半島の非核化に関する共同宣言』に調印し、軍事目的での核開発放棄を表明したが、2002年に公式に核開発を再開した。

現時点で核兵器を保有しているかについては不明であるものの、過去に核保有国であるパキスタンからウラン型核兵器に関する技術供与を受けている点、さらにプルトニウム型核兵器に関しても独自の核開発を行っているとされることから、核兵器を将来的に保有するのではないかとの国際的認識が広まっていた。

2005年2月10日、北朝鮮は六ヶ国協議を中断し、核拡散防止条約(NPT)からの脱退と核兵器保有宣言を行った。既に戦術核数個分に相当するプルトニウムを保有していることは確実視されていた。

また、北朝鮮に建設されている(1994年寧辺と泰川(テチョン)の2基が一旦建設中止)黒鉛減速炉3基が通常稼動した場合に核弾頭年間生産量は40~55発に上るといわれる。

詳細は北朝鮮核問題、外部リンク:原水禁サイト を参照。

脚注

  1. ^ “北朝鮮軍“特別行動まもなく開始””. NHK. (2012年4月23日). http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120423/k10014645491000.html 
  2. ^ http://www.jimmin.com/doc/1160.htm 人民新聞の配信記事(2009/06/24配信)
  3. ^ “北朝鮮が特殊戦兵力約5万人を最前線に配置、政府筋”. 聯合ニュース. (2010年5月5日). http://japanese.yonhapnews.co.kr/northkorea/2010/05/05/0300000000AJP20100505001000882.HTML 2010年5月5日閲覧。 
  4. ^ 朱建栄著『毛沢東の朝鮮戦争』岩波現代文庫、2004年、29-33頁
  5. ^ 詳細は朝鮮人民軍海軍艦艇一覧を参照。
  6. ^ “金総書記死去「兆候なさすぎた」 各国情報機関つかめず”. 朝日新聞. (2011年11月21日). http://www.asahi.com/special/08001/TKY201112210170.html 2011年12月21日閲覧。 
  7. ^ 産経新聞「北朝鮮が核兵器小型化に成功か 米情報機関が指摘」(2009年3月11日)
  8. ^ 産経新聞「北が核爆弾の小型化に成功か ノドン搭載用に」(2009年3月31日)

関連項目