夜行列車

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JR西日本・東海285系電車「サンライズエクスプレス」による寝台列車「サンライズ瀬戸・出雲」
EF81形電気機関車牽引、E26系客車による寝台列車「カシオペア
JR東日本183・189系電車による座席夜行列車「ムーンライトながら

夜行列車(やこうれっしゃ)とは、夜間から翌日の朝以降にまたがって運転される旅客列車のことである。その性格上、長距離列車となる場合が多い。日本では、夜汽車と呼ばれることもある。

特徴

夜行列車の最大のメリットは、深夜という非有効時間帯を利用して目的地に移動できることにある。そのため、他の競合交通機関の(昼行)最終便より遅く出発し、始発便より早く目的地に到着する設定の場合、最もその効果を発揮する。

なお、時刻表上は深夜帯は主要駅を除いて通過しているように見えるが、運転停車などで複数の駅に停車している列車もある。これは深夜発早朝着で、運行距離が短い列車に多くみられる。また深夜を利用して幹線などを利用する貨物列車の運行上の兼ね合いもある。

日本の夜行列車

日本では、全国の鉄道網が一通り完成した明治時代中期以降に、夜行列車が運行されるようになった。単線非電化の路線が多く、列車の速度も低かった1960年代前半(昭和30年代)頃までは夜間に出発して翌々日(すなわち車中2泊3日、運転時間30時間以上)に終点に到着する列車もあったが、電化や線路・車両改良などによるスピードアップが図られた昭和40年代以降は、運転時間は長くとも28時間程度に抑えられ、車中1泊の行程で運行する列車のみになった。現在では運行距離の短縮により、運転時間は長くとも20時間程度である。

1970年代前半(昭和40年代)頃までの、新幹線国内航空路線高速道路網などが未発達な時代には、おおよそ250km以上の都市間を結ぶ主要な交通手段として活用されていたが、昭和50年代(1970年代後半)以降にそれらの整備が進み、現在では、所要時間において新幹線・飛行機と、運賃において高速バスと競合する状態にある。

これは荷物輸送・郵便輸送にも当てはまり、1970年代までは主な幹線の夜行急行列車・普通列車に荷物車郵便車を連結し、旅客とともに新聞の朝刊などの小荷物や郵便物を輸送していたが、現在この任務は高速道路を走るトラックや、航空貨物に取って代わられた。なお、1970年代~80年代には郵便荷物専用の夜行列車が多く運行されていた。

現状

※別項のブルートレインも参照されたい。

現在運行している大半の夜行列車は、寝台車が連結されている寝台列車である。現在、寝台列車は料金設定や利便性の面から集客に伸び悩み、列車の廃止が相次いでいる。

料金設定の面から見ると、高速夜行バスやツアーバスの台頭、航空運賃に割引価格が適用可能となったこと、低料金ホテルチェーンや低料金での宿泊予約ができる旅行サイトが出現したことにより、夜行列車は競争力を失っている。利便性の面から見ても、夜行列車は深夜時間帯を有効に使えるメリットはあるものの、速度や所要時間で利便性の増す飛行機や高速化の進む新幹線に対して競争力を失ってきている。

また、以前は中学校高校修学旅行においても夜行列車が利用されるケースが多々あったが、新幹線の延伸・高速化に伴う昼間移動への移行、1990年代以降に公立学校において航空機の利用が解禁されたことによる空路利用への転移、海外への修学旅行の増加などの理由により、近年では修学旅行に夜行列車が利用されることは、日本海縦貫線など一部の地域・路線を除いては行われなくなっている。

これら夜行列車を取り巻く厳しい状況の中、近年JR各社は、寝台の個室化や女性専用車の連結によるプライバシーへの配慮を図るなど質的改善を進めて集客に努めている。一部の列車では、グリーン車に匹敵する設備を普通車扱いで安価に提供するサービスが行われ、利用者の選択肢を広げている。この例としては、「はまなす」の普通車座席指定席として設定されている「ドリームカー」がある。廃止されたものの例では2008年3月14日まで運行された「あかつき」の普通座席指定席として運用された「レガートシート」や定期運行開始時の「ムーンライト」(のちの「ムーンライトえちご」)の座席がある。また、寝台ではないが横臥できる設備を普通車扱いで提供する例も現れている(寝台車参照)。また、関東 - 北海道を結ぶ「北斗星」・「カシオペア」や近畿 - 北海道を結ぶ「トワイライトエクスプレス」のように、個室寝台を基本とし食堂車でディナーを提供する等の豪華な設備やサービスによって、乗車すること自体を鉄道旅行の目的とし、集客に努めている列車もある。

「トワイライトエクスプレス」

普通・快速の夜行列車は安価な移動手段であることから、ゴールデンウィークや、普通(快速)列車乗り放題の「青春18きっぷ」が発売される夏休みや冬休みの時期等の多客期に運行される東京圏発着の「ムーンライトえちご」・「ムーンライトながら」などの臨時列車は人気を博している。かつては寝台車が連結される普通(快速)列車もあったが、1985年(昭和60年)までに全廃されており、現在運転されている夜行快速列車は、座席車のみである。

「ムーンライトえちご」

長期的な夜行列車の減勢状況から、国鉄分割民営化後は専用の新車を投入した列車は客車は14・24系の後継となるE26系を用いた「カシオペア」、電車は285系の「サンライズ出雲」・「サンライズ瀬戸」以外にはない。また、夜行列車に使用される車両の多くは国鉄時代の1970年 - 80年代に製造されたものであり、老朽化が進んでいる。夜行列車は現在でも機関車牽引の客車列車が主力であり、機関車の新型車両への置き換えは、カシオペア・北斗星を牽引していたJR東日本のEF81形電気機関車が、2010年夏以降EF510形電気機関車へ置き換えられたが、他旅客鉄道会社所属の機関車は新型車両へ置き換えられていない。

新幹線整備新幹線)の開業によって、並行在来線がJRから第三セクター鉄道会社へ移管されることにより、第三セクター鉄道会社との直通運転が発生し、第三セクター鉄道会社との調整が必要となることや、運賃・特急料金が追加されることも夜行列車の運行を難しくしている。例えば、西鹿児島駅(現鹿児島中央駅)まで運行されていた「なは」は、九州新幹線開業に際して転換された肥薩おれんじ鉄道に乗り入れを行わず、熊本駅までに運行短縮し、さらにその4年後には廃止された。上野駅から青森駅を東北本線経由で運行されていた「はくつる」は、東北新幹線の盛岡~八戸間開業時の2002年11月に廃止されている。また、「能登」は長野新幹線開業時に並行在来線が横川駅-軽井沢駅間で第三セクターに移管することなく廃線されたために上越線経由に変更されている。現在第三セクター鉄道会社に乗り入れている夜行(準)定期列車は「北斗星」・「カシオペア」のみである。

新幹線上を走行する夜行列車(夜行新幹線)は過去を含めて存在しない。波床ら[1]は新幹線の夜行運行の適用可能性を、環境負荷と発着時間帯の観点から検討し、発着時間帯の設定自由度が従来の夜行列車より高く、有望であるとしている。

夜行列車の削減

以上のような状況から、在来線の夜行列車は利用率が減少し、列車の廃止が相次いでいる。

2008年3月15日のダイヤ改正により、関西方面と九州方面を結ぶ寝台特急「なは」・「あかつき」および、寝台急行「銀河」が廃止され、2往復設定されていた「日本海」や「北斗星」が1往復に減少。また、JR北海道は2008年夏をもって北海道内発着の夜行列車を全廃した。

2009年3月14日のダイヤ改正により、東京駅発着の九州方面を結ぶ寝台特急「富士」・「はやぶさ」が廃止され、夜行快速「ムーンライトながら」「ムーンライトえちご」が臨時列車へ格下げされた。

2010年3月13日のダイヤ改正で、上野駅と金沢駅を結ぶ寝台特急「北陸」が廃止され、急行「能登」が多客期に運行する臨時急行列車に変更された。

2011年3月12日のダイヤ改正で、博多駅と南宮崎駅・宮崎空港駅を結ぶドリームにちりんが廃止され、JR九州管内での夜行列車がすべて廃止になった。

2012年3月17日のダイヤ改正で、大阪駅と青森駅を結ぶ寝台特急日本海と、大阪と新潟を結ぶ寝台急行きたぐにが多客期に運行される臨時列車に変更された。

また、臨時列車においても臨時「北斗星」や「エルム」、「サンライズゆめ」、「あおもり」、「まりも」、「能登」といった列車が近年では設定されなくなり、2012年現在では「カシオペア」、「トワイライトエクスプレス」、「日本海」、「きたぐに」を除いて臨時寝台列車は設定されていない。

日本の夜行列車の一覧

本稿での記号は以下の通り。

JR旅客各社による運行

青森 - 北海道方面
東京 - 東北・北海道方面
東京 - 信越方面
日本海縦貫線
東京 - 名古屋・大垣方面
東京 - 山陽・山陰・四国方面
東京駅 - 岡山駅間は「サンライズ瀬戸」と「サンライズ出雲」が併結して運転されている。

私鉄(民鉄)による運行

廃止された列車

五十音順。列車愛称のないもの・イベント列車に類するものは除く。

廃止発表は行わないが運行終了した臨時夜行列車[2]

海外の夜行列車

北米

アメリカ合衆国

アメリカ合衆国は、その国土の広さから、長距離列車のほとんどは夜行列車である。かつては大量の夜行列車が運行されていたが、現在では国内の移動の主流が飛行機となってしまったためにその本数を大きく減らしている。アメリカには複数の鉄道会社が存在するが、夜行列車はアムトラック(全米旅客鉄道公社)が運行する。しかし、その本数はそれほど多くない。夜行列車は毎日、もしくは週3日運行され、全行程は2日(1泊2日)から長いものでは4日(3泊4日)を要するものまでさまざまである。座席車のみの列車も存在するが、多くは寝台車と座席車を併結し、主に観光客を対象としている。欧米の他の長距離路線同様、ダイヤは乱れやすく、単線区間でのすれ違いや車両到着の遅れからくる時間の運行の乱れが大きいため、ビジネス目的の移動には適さない。寝台車の場合、食事料金は料金に含まれており、乗車区間によって数回の食事が供される。

カナダ

カナダではアメリカのアムトラックに相当するVIA鉄道が夜行列車を運行している。その形態はアメリカと似ているが、二大都市圏であるトロントモントリオールを結ぶ夜行列車ではビジネス客を意識したサービスを提供している。

ヨーロッパ諸国

ヨーロッパでは、高速夜行バスが日本ほど発達していないために、現在も夜行列車が多く運行されている。多くの国が陸続きにあり、かつそれぞれの国があまり大きくないという地理的事情から、国際夜行列車も多い。ほとんどの夜行列車には寝台車と座席車の双方が連結されている。利用者は観光旅行者およびビジネス客の双方にわたる。国際夜行列車の場合には、乗車時に車掌がパスポートを回収し、夜中の出入国手続きを旅客に代わって行い、翌朝の国境通過後に返却する。EUに加盟している国の間ではパスポートの回収はない。区間設定は大都市を結び、実際の走行距離があまり長くない場合もある。その場合国境付近の町で時間調整のため長時間停車することが多い。ちなみに、国際夜行バスとしてユーロラインズ社のネットワークはあるが、国内完結の夜行バスは少ない。

ヨーロッパの夜行列車は、それぞれの国の国内列車と国際夜行列車の二つに大別される。鉄道が民営化し、夜行列車運行の独立会社が設立された関係もあり、サービスの質はさまざまである。たとえば、ドイツ鉄道オーストリア鉄道ではウェルカムドリンクおよび朝食は料金に含まれるが、イタリア国鉄では朝食は別料金となる。

飛行機の普及以降、1980年代までは夜行列車の食堂車のサービスは削減される一方であったが、1990年代以降はユーロナイトなど復活の傾向も見られ、ドイツ国内やドイツと周辺各国を結ぶシティナイトラインオリエント急行などの夜行列車や、フランスイタリア(アルテシアナイト)・スペイン(タルゴ・トレンホテル)を結ぶ夜行列車では、食堂車やビュッフェ車の連結が見られる。

ヨーロッパの多くの国の国内夜行列車は、廉価な長距離列車として運転されている列車が少なくない。こうした夜行列車はクシェット(Couchette)と呼ばれる簡易寝台車を連結している。クシェットの寝台料金は20ユーロ弱と極めて安価であり、庶民の気軽な長距離旅行手段として親しまれている。

クシェットは、日本で言えば開放式の3段式のB寝台車であり、1区画6名となっているが、一部には2段式4名のものもある。多くの場合は男女同室となるが、スペインでは男女別に部屋が分かれている。

フランスの国内夜行列車は「コライユ・ルネア」の名称で統一されており、Web限定の安価なクシェットの切符などを発売している。国土が広く、高速化が遅れているスペインでは、クシェットをつないだ夜行急行が数多い。バカンスのシーズンとなると、国内・国際列車問わずクシェット寝台は盛んに利用されている。

ロシアは圧倒的に広大な国土であるために、夜行列車が頻繁に運行され、9297kmのシベリア鉄道モスクワウラジオストクまで超長距離列車の『ロシア号』がある。またロシアの夜行列車はヨーロッパ、CISモンゴル中華人民共和国朝鮮民主主義人民共和国とも直通運転している。

アジア

中国インドでは現在でも鉄道輸送の占めるシェアは大きく、多くの夜行列車が運行されている。アメリカ・カナダ同様、国土が非常に広大であるため、3 - 4日間をかけて運行するものも目立つ。しかし近年は、経済成長に伴う航空路線高速道路の急速な発達により、高速バス格安航空会社などとの競争にさらされている。

韓国では主要幹線に夜行列車(ムグンファ号車両使用)が運行されている。国土面積の関係で国内移動の際の移動距離が概ね500km以内であり、運転時間が短いため、座席車が主体である。なお、近年まで寝台車を連結した列車が存在したが、昼行列車の高速化に伴って需要が減少したため、一部の特設列車を除いて全廃されている。

また、東南アジア各国でも夜行列車が運転されているが、タイマレーシアでは高速道路網を利用する高速バスが便数、所要時間において有利に立っている。さらに近年ではエアアジアタイガー・エアウェイズなどの格安航空会社との競争にもさらされている。

アフリカ

アフリカは、先進国のように鉄道が発達している国は少ないが、長距離路線を中心に夜行列車の運行がかなり見られる。 南アフリカ共和国では、世界で一番豪華といわれるブルートレイン (南アフリカ)等多くの夜行列車が運行しているほか、モザンビークへの国際ローカル列車などもある。 その他、ザンビアカピリムポシタンザニアダルエスサラームを結ぶタンザン鉄道(TAZARA、タンザニア・ザンビア鉄道)等で夜行列車が運行している。

「夜行列車」「夜汽車」を冠した楽曲

脚注

関連項目