FIM-92 スティンガー

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スティンガーを構えるアメリカ海兵隊員(1984年
発射されたスティンガーミサイル
発射器とミサイルの間にある筒状の物体はブースター(本文参照)

FIM-92 スティンガー(FIM-92 Stinger)は、アメリカジェネラル・ダイナミクス社が1972年から開発に着手し1981年に採用された携帯式防空ミサイルシステム。「スティンガー」は、英語で「毒針」の意。

概要

FIM-92 スティンガーは、FIM-43 レッドアイ携行地対空ミサイルの後継として1967年に開発が始まったもので、開発においては、どのような状況下でも使用できる全面性と、整備性の向上、敵味方識別装置(IFF)の搭載に主眼が置かれた。

主目標は、低空を比較的低速で飛行するヘリコプター、対地攻撃機COIN機などであるが、低空飛行中の戦闘機輸送機巡航ミサイルなどにも対応できるよう設計されている。このため、誘導方式には高性能な赤外線紫外線シーカーが採用され、これによって撃ちっ放し能力(発射後の操作が不要な能力)を得ている。

開発

1968年アメリカ陸軍は世界初の携帯式防空ミサイルシステム(MANPADS)であるFIM-43C レッドアイを配備した。FIM-43Cは熱電効果による冷却措置を備えたPbS焦電式赤外線センサを搭載しており、先行試作型よりも優れた追尾能力を発揮していたものの、全方位交戦能力に欠けており、また、赤外線妨害技術への抗堪性(IRCCM能力)にも問題があった。また、ミサイル本体も3G以上の機動が不可能であるため、機動性も限定的なものであった。

これらの課題を解決するため1967年より、全面的な改良型としてレッドアイ-IIの開発が開始された。1972年3月、レッドアイ-IIはスティンガーと改名され、FIM-92という新しい制式番号を付与された。同年、ジェネラル・ダイナミクス(GD)社が主契約者として生産契約を獲得、1981年には初期作戦能力(IOC)を獲得した。

原型

原型(Stinger Basic)は、1978年-1987年まで生産されていた。

システム構成

ファイル:StingerMissile.jpg
スティンガーを構える州兵

システムは、発射機本体と箱型のIFF、BCU(シーカー冷却用のガスとバッテリーを内蔵したユニット)、ミサイル本体から構成されている。ミサイル本体は円形の使い捨ての樹脂コンテナに収められており、BCUは掌サイズの円筒形で、発射機本体下部の取り付け穴にねじ込んで取り付ける(BCUはシステム全ての電源である)。このため、発射準備は迅速かつ容易に行うことができる。発射時には目視で目標を確認し、その後本体のスイッチを入れ、目標を捕捉する。引き金を引くと、シーカーが冷却され、ミサイル後部のブースター(Launch Motor と呼ぶ)によりコンテナから打ち出され、本体から9-10m離れたところでロケットモーターが点火、超音速まで加速する。

また、発射後の操作は不要で、再発射はミサイルのコンテナとBCUを発射機本体に交換するだけで完了する。なお、使用後のBCUは発電の化学反応でかなり高温になっているので、交換の際は耐熱手袋をはめて行う。

誘導部

アンチモンインジウム(InSb)フォトダイオードを受光素子とした量子型(冷却型)赤外線センサによる赤外線ホーミング(IRH)誘導方式を採用しており、中波長赤外(MWIR)帯域の検知に対応していることから、全方位交戦能力を備えている。冷却措置はアルゴンガスを冷媒としたジュール=トムソン効果によるものである。

操舵は、前部の4枚のフィンのうち2枚が作動することによって行われ、これらのフィンは後方の4枚とあわせて発射後展張する。

POST型

1977年GD社は、次世代型スティンガーの開発に着手した。この次世代型スティンガーはスティンガー-POST(Passive Optical Seeker Technique)と呼称され、XFIM-92Bの仮制式番号が付与された。

POST型の最大の改善点は、誘導方式を二波長光波ホーミング(IR/UVH)としたことである。原型では、長波長赤外(LWIR)帯域に対応したInSb型赤外線センサが使用されていたが、POST型では、さらに硫化カドミウム(CdS)素子を導入することで、紫外線領域にも対応した。スキャンはロゼット・パターン方式を使用している。これによって赤外線妨害技術への抗堪性(IRCCM能力)が向上している。

FIM-92Bは、1983年より低率生産に入ったが、原型であるFIM-92Aも並行して生産を継続することとされた。FIM-92A/Bは1987年まで生産を継続し、合計で16,000発以上が生産された。

RMP型

1984年より、最新の脅威に対応できるよう、再プログラミング可能な新しいマイクロプロセッサを導入した改良型の開発が開始された。この改良型はスティンガー-RMP(Reprogrammable Microprocessor)と呼称され、FIM-92Cの正式番号を付与された。

スティンガーの生産は、1987年9月よりFIM-92Cに切り替えられ、アメリカ陸軍1989年7月より受領を開始した。FIM-92Cはその後、IRCCM能力を強化したFIM-92Dに発展したのち、2002年9月よりFIM-92Gに切り替えられた。

ブロックI

1992年4月GD社はスティンガー-RMP ブロックIと称される改良型の生産契約を獲得した。同年、GD社のミサイル事業部はヒューズ社に売却され、これに伴って本ミサイルの主契約者もヒューズ社に変更された。ブロックI型はFIM-92Eの制式番号を付与され、1996年より生産を開始した。2001年には、生産は改良型のFIM-92Hに切り替えられた。また、既存のFIM-92DもブロックI仕様に順次アップグレードされ、これはFIM-92Fと呼称された。

ブロックII

1996年より、さらに発展させたスティンガー-RMP ブロックII(通称、アドバンスト・スティンガー)の開発が開始された。ブロックIIでは、AIM-9Xで採用されたのと同様のFPA式赤外線画像誘導(IIR)が導入され、IRCCM能力がさらに増強された。また、射程も8,000m(26,000ft)まで延伸されている。

ブロックIIの開発は技術製造実証開発(EMD)フェーズまで進行したものの、2002年アメリカ陸軍は、ブロックIIの開発計画に対する財政支援の打ち切りを決定した。

派生型

M6 ラインバッカー
スティンガーミサイルを発射するアベンジャー

スティンガーは、基本となるMANPADS型のほか、下記のような派生型がある。これらは、スティンガーの弱点であるバッテリーの持続時間、目標捕捉などを克服したため、非常に有能な兵器である。

車載型

空対空型

ATAS(Air to Air Stinger)は、近距離空対空ミサイル版である。ヘリコプター軽飛行機無人航空機の自衛用武装として使用される。

初期型であるATAS Block Iは1978年より、原型機をベースとして開発され、1988年より配備に入った。現在では、RMP型をベースに開発されたATAS Block IIに配備は移行している。新型のATAL発射機を使用した場合、ホバリングから136ノットの前進飛行、30ノットでの側面機動、バンク角22度での旋回までの飛行状態で発射することができる。

艦対空型

アメリカ海軍サイクロン級哨戒艇ドイツ海軍ベルリン級補給艦エルベ級支援母艦デンマーク海軍アブサロン級多目的支援艦など、哨戒艦艇支援艦艇においては、近接防空ミサイルとして、スティンガーの艦載発射機を搭載する例が少なくない。

また、スティンガーそのものではないが、スティンガーのシーカー部とAIM-9 サイドワインダーの胴体部を基にした近接防空ミサイルとして、RIM-116 RAMが開発・配備されている。

運用

現在、実用化されている携帯型地対空ミサイルの中では最も命中率が良いミサイルとされ、ギネスブックにも掲載されている(2011年79%)。欠点としては、目標を目視で発見しなければいけない点やバッテリーの持続時間(最大45秒)などが挙げられる。目標の捜索のため、上級司令部レーダーからの情報を受け取るほか、アメリカ陸軍歩兵旅団戦闘団アメリカ海兵隊海兵空地任務部隊のスティンガー部隊においては、可搬式のAN/UPS-3 レーダーが配備されている。

採用国

スティンガーを担ぐデンマーク陸軍兵士
設置型スティンガーのデモを行うリトアニア陸軍兵士
航空自衛隊で使用されていたスティンガー
現在は91式携帯地対空誘導弾に更新。
海軍陸戦隊で使用。
現在はKP-SAM 神弓およびミストラルに更新。

ソビエト連邦のアフガニスタン侵攻では、ソ連と敵対するムジャーヒディーンに対して非公式であるが供与され、Mi-24などの重武装ヘリ撃墜できたことから、一躍その性能を世間に顕した。アメリカ軍によるアフガニスタンアルカーイダ掃討作戦の際にはこれの存在が脅威となるという説があったが、バッテリーや冷却ガスの供給やメンテナンスの行き届かぬ環境下で約10年が経過しており、稼働状態にあるものはほとんど残っていなかったと考えられる。また、ホワイトハウスにも設置されているとの説もある。

諸元

諸元表
FIM-92A
原型
FIM-92B
POST型
FIM-92C
RMP型
直径 7.0cm(2.75in)
全長 1.5m(5ft)
全幅 9.14cm(3.6in)
弾体重量 5.68kg(12.5lbs)
システム重量 15.66kg(34.5lbs)(ミサイル含む)
推進方式 Mk.27固体燃料ロケット
誘導方式 赤外線ホーミング(IRH) 二波長光波ホーミング(IR/UVH)
有効射程 4,000m 4,800m
有効射高 3,500m 3,800m
飛翔速度 M2.2+
  • 信管:貫通衝撃信管
  • 最大捕捉可能距離:15km(10miles)
  • 必要人員:2名
  • 価格:38,000USドル/1ユニット

登場作品

スティンガーミサイルの登場作品を表示するには右の [表示] をクリックしてください。

映画

アパッチ
終盤、AH-64 アパッチに搭載されているものが取り外され個人で使用される。
ダウン
沈黙の戦艦
アイオワ級戦艦ミズーリ」を占拠したテロリストたちが、Navy SEALsを乗せて接近してくるV-107と護衛機のAH-64に対して発射する。
トゥルーライズ
核弾頭を運ぶ「真紅のジハード」が、飛来するアメリカ海兵隊AV-8B ハリアーIIに向けて発射するが、バックブラストを考えず発射したため、後ろに居た仲間を吹き飛ばしてしまう。
ネイビー・シールズ
レバノン武装勢力が使用する。中盤、主人公らが手榴弾で破壊しようと試みるも失敗に終わる。
しかし、終盤、ほとんどのスティンガーミサイルを破壊されM1919を搭載したトラックで追ってきた武装勢力を、逆にこちらのスティンガーミサイルで破壊する。
バトルフィールド・アース

テレビドラマ

ウルトラマンパワード
第1話にて、W.I.N.R.のリック・サンダース隊員が、バルタン星人に対して使用する。

アニメ

Fate/Zero
アニメ版第19話で衛宮切嗣が使用。
攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG
アニメ版第24話でクゼと難民達が使用。
絶園のテンペスト

漫画

Cat Shit One'80
ゴルゴ13
ビッグコミック連載版の第339話「スティンガー」と第418話「装甲兵SDR2」に登場。いずれも主人公ゴルゴ13と敵対する側が使い、後者ではゴルゴが逃走に使った軽飛行機を損傷させ、不時着へと追い込む。また、アニメ第21話「ガリンペイロ」ではゴルゴ13が使用し、ヘリコプター数機を撃墜する。
続・戦国自衛隊
アメリカ海兵隊が使うAH-64D アパッチ・ロングボウに搭載されているほか、大阪城での戦いにおいて、自衛隊員が米海兵隊からの鹵獲品を使い、AV-8B ハリアーIIを撃墜する。
マンモス
主人公と敵対する傭兵が使用するが、全て人に向けて使用する。
ヨルムンガンド
CCAT社のカリー社長が東ヨーロッパ中から中古の発射器、新品の弾体をかき集めてロシア某国の山岳兵へ納入する。

ゲーム

ARMA 2
Armed Assault
Just Cause
Operation Flashpoint: Cold War Crisis
WarRock
エースコンバット アサルト・ホライゾン
SRNやNRFが使用。ロシア軍兵器を横流ししているため、反政府ゲリラに過ぎないSRNが地対空ミサイル戦闘機などの似つかわしくない装備を使用している。
コール オブ デューティシリーズ
CoD4
CoD:MW2
CoD:MW3
CoD:BO2
キャンペーンで使用可能。作中では対地攻撃にも使用でき、敵のBTR-60Mi-24 ハインドなどを破壊するために使用する。
バトルフィールドシリーズ
BF2
BF2MC
BF3
赤外線を発するものになら何でも当てられる実物と違い、敵の航空機ヘリ・MAVにしかロックオンできない対空専門装備。
BF4
工兵の装備として登場。
BFH
マーセナリーズ
マーセナリーズ2 ワールド イン フレームス
メタルギアシリーズ
MG2
MGS
MGS2
プラント編にのみ登場するが、ここで登場するスティンガーは旧型であるため、敵のAV-8B ハリアーIIと交戦時に、AV-8Bが射出する囮のフレアまでロックオンしてしまう。
MGS4
『MGSPW』や『MGSV』と違い、目標に着弾するまで照準を合わせておかないと誘導しなくなる。
MGSPW
スティンガーがまだ開発中で実戦配備されていない1974年を舞台とするが、登場する(実戦配備前であるため、名称は「XFIM-92」となっている)。
MGSV
「Honey Bee」という名称で登場。ソ連のアフガニスタン侵攻の際にアメリカムジャーヒディーンに極秘裏に供与したが、突如供与した部隊が全滅、部隊の本拠地だった砦はソ連軍に占拠されてしまい、ソ連軍に機密を奪われるのを避けるためにCIAがスネークらに回収を依頼する。

参考文献

関連項目

外部リンク