光波ホーミング誘導

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ミサイルの誘導方式 > 光波ホーミング誘導

光波ホーミング誘導(こうはホーミングゆうどう)は、光波を媒体としたホーミング誘導

目標から返ってくる光波をシーカーで検知し、その方向に操舵することで、目標を捉える方式である。操舵においては、ほとんどが比例航法(PN)あるいは増強比例航法(APN)を採用している。

電磁波のなかでも、光波は電波(特にマイクロ波)と比して、より小さな装置で運用できる一方、周波数としての特性上から大気圏内の透過性が低く、従って目標を探知できる距離がより短いという欠点がある。このことから、光波ホーミング誘導方式の兵器は、電波ホーミング誘導よりも短い射程で、より軽便なものとして運用される傾向にある。

パッシブ方式[編集]

赤外線ホーミング[編集]

K-13空対空ミサイルのシーカー部。第1世代のIRH誘導システムである。
IRIS-T空対空ミサイルのシーカー部。第4世代のIRH誘導システムである。

赤外線ホーミング英語: Infrared homing, IRH)誘導とは、目標が発する赤外線(InfraRed, IR)を赤外線センサによって捉え、その方向へミサイルを誘導する誘導方式である。

発射後の誘導プロセスがミサイル内で完結するためにファイア・アンド・フォーゲット能力を備えており、誘導装置が比較的小型・軽量であることからミサイルの小型化も可能で、誘導プロセスが簡略であるため母機のレーダーが貧弱でも問題なかった。目標が大きな熱源となるエンジンを持つ対空ミサイルで主用されている。また、検知波長の変化や誘導システムの進歩に伴い、対艦ミサイル対戦車ミサイルへの採用例も出始めている。

赤外線は、周波数の特性上、電波よりも大気圏内での透過性が低い。このことから、旧西側諸国においては、視程外射程のAAMにはレーダー誘導を、視程内射程のミサイルにはIRH誘導を採用していることが多い。一方、旧東側諸国においては、標的の回避を困難にして命中確率を向上させるために、レーダー誘導と赤外線誘導の2種2発のミサイルを同時に発射する戦法をとることから、視程外射程のAAMにもIRH誘導を採用している場合がある。

目標の特性[編集]

黒体からの輻射のピークの波長が温度に反比例するという法則(ウィーンの変位則)があることから、目標の温度により、放射される赤外線の周波数は規定される。

車両艦艇
数度程度高い車体/船体と、やや高温の機関部から構成されており、約10µmをピークとする放射がある。アスペクト角によって放射強度が大きく変化するほか、特に長距離での捕捉においては地球の曲率の影響を強く受ける。
背景は地表、海面等から構成されており、コントラストが比較的小さく、クラッターの影響が大きい。
航空機巡航ミサイル
航空機においては、多くの場合、機体の後部において高温のジェットエンジンからの排気による放射が、また前縁を中心に機体全体において空力加熱(空気に機体がぶつかることで断熱圧縮される)による放射がある。
  • 排気によるもの: 機体後部の排気口の3マイクロメートル(µm)程度をピークとして、後方に排出されるジェット排気(プルーム)においては、加熱された二酸化炭素ガスを中心として、5µm程度までの赤外線が放射される。
  • 空力加熱によるもの: ほぼ10µm帯(波長8〜12µm)に相当する。
背景は空や雲、地平線/水平線などにより構成されており、比較的大きなコントラストがある。
弾道ミサイル
大気圏再突入時、再突入体は極超音速(IRBMでも秒速2km程度、ICBMであれば秒速約7km程度)となることから、空力加熱により数千度以上に加熱され、短い波長の放射を多く出す。

世代ごとの特性[編集]

IRH誘導システムは、技術進歩に伴い、下記のように発展してきた。

第1世代
もっとも初期のIRH誘導システムは、硫化鉛(PbS)焦電素子による、非冷却型の赤外線センサを採用していた。検知波長はおおむね1〜3マイクロメートル(µm)の近・短波長赤外(N/SWIR)帯域であり、これは、ジェット排気口の赤外線放射帯域におおむね相当する。このため、第1世代IRH誘導システムは空対空射撃時、それもジェット排気口そのものを視界に捉えることができる後方象限からしか目標を捕捉することができなかった。また、その捕捉は非常に不安定なものであり、目標が機動していた場合、比較的容易に捕捉が解除されてしまった。
このため、1960年代ごろからは、熱雑音を低減して感度を向上させるため、センサーを冷却する措置が導入されるようになった。冷却システムは、ジュール=トムソン効果を利用したものと熱電効果を利用したものがあるが、前者のほうがややメジャーである。
第2世代
従来、ミサイルの誘導装置(シーカー)の赤外線センサでは、受光素子として硫化鉛(PbS)焦電素子を採用していたが、1970年代には、アンチモンインジウム(InSb)フォトダイオードなどを受光素子とした量子型(冷却型)赤外線センサが実用段階に達した。この赤外線センサは、PbSによるものより波長が長い中波長赤外(MWIR)帯域を検知することができた。
これによって、排気口そのものではなく、ここから排出されたプルームの探知が可能となった。プルームへの探知はアスペクト依存性が大きいとはいえ、機体のほぼ全周に渡って捕捉でき、全方位交戦能力(All-Aspect Capability, ALASCA)を実現できると期待された。また、赤外線妨害技術への抗堪性向上(IRCCM能力の増強)効果もあったほか、フォトダイオードの採用をはじめとした半導体化により回路の信頼性も向上した。
また1980年代末には、ヒ化ガリウム(GaAs)、窒化ガリウム(GaN)や硫化カドミウム(CdS)による紫外線センサーを併用するシステムも登場した。これらは、航空機の外板から発せられる紫外線の検知を併用することにより、IRCCM能力をさらに増強することを狙ったものであり、二波長光波ホーミング(IR/UVH)誘導システム2色シーカー)と称される。
第3世代
1990年代より、集積回路マイクロプロセッサの技術進歩による赤外線センサの多素子化によって、赤外線画像(Imaging InfraRed, IIR)誘導システムが出現しはじめた。画像認識技術の導入により、IRCCM能力は飛躍的に向上し、また、誘導精度も向上した。
この時期には、オフボアサイト射撃能力も重視されるようになった。従来、IRH誘導のミサイルでは、目標捕捉を発射前に行なう方式(LOBL)が主流であったが、この場合、IRH誘導システムの視野(前方中心線左右15度以内)でしか目標を捕捉できなかった。これに対し、IRH誘導システムに中間指令誘導を組み合わせることで、発射後に目標を捕捉する(LOAL)ことを可能とし、これによって、IRH誘導システムの視野外の目標でも捕捉できるようになった。ただし、オフボアサイト射撃能力を十分に発揮するためには、機体側に赤外線捜索追跡システム(IRST)やヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装備するなど、アビオニクス全般の変更が必要となる。このことから、多くの西側諸国で赤外線シーカーをジンバルに載せて首を振り、発射前ロックできる角度を広げた準オフボアサイト能力を有するIRH誘導システムが開発された。
また、常温作働の非冷却型(熱型)画像センサーの実用化と、テルル化カドミウム水銀(HgCdTe)など常温の目標に対応できる(10µm帯の赤外線を検知できる)素子素材の実用化を受けて野戦分野への応用も進展し、第3世代の対戦車ミサイルにも採用されている。従来の対戦車ミサイルで主流だった指令誘導では発射後も誘導作業が必要だったのに対し、IIRを含むIRH誘導方式では(上述の通り)ファイア・アンド・フォーゲット能力を備えているため、発射直後でも応射を回避する機動が可能となり、ミサイル射手の生存性が大きく向上している。ただし、非冷却型と冷却型を比較すると、画質は一般的には後者の方が優れている[1]

画像誘導[編集]

画像英語: electro-optical, TV)誘導とは、ミサイル先端に搭載されたビデオカメラで終末誘導を行う誘導方式である。

画像誘導は、

  • 命中精度がCEP3~6mと高い
  • GPSと違って移動目標にも使える
  • レーザー誘導と違って母機は発射後に現場を離脱できる
  • 対艦・対地の2つの場面で使用できる
  • 命中の瞬間を画像で確認できるので戦果確認の手間を省ける
  • レーダー誘導よりも電波妨害に強い

などの長所を持つ。一方で、

  • GPSと違いロックに手数がかかり多数の同時発射に向かない
  • GPS・レーザー誘導より高価である
  • 視野が狭くレーダー式より中間誘導に精度が求められる
  • 超音速ミサイルには使いにくい

などの短所を持つ。

また可視光・赤外線のいずれであれ、画像認識誘導では、単に目標に命中させるというだけでなく、着弾位置の指定が可能となりうるというメリットがある。これは、例えば対艦攻撃に使用した場合は敵艦の舵機室などを攻撃したり、航空阻止攻撃においては橋の任意の場所を爆破することにより、効果的に無力化しうるということを意味する。

AGM-62 ウォールアイのような初期の機種は、センサーこそ可視光画像方式であったとはいえ、誘導には手動指令が必要であった。その後、一旦画像内の目標像を人間が指示すればコンピューターが画像認識してロックし、以後、目標と背景をコンピューターが自動的に識別して目標を自律追尾する画像認識誘導へと改良された。これによって母機は発射後にすぐ離脱可能になった。また当初は、母機が発射前に目標に接近してロックオン作業をする必要があったが、その後、母機が目標に接近せずにロックできるようになった。この場合、ロックせずに発射したミサイルが、GPSやINSによる中間誘導で目標に近づき、目標付近で光学センサーを起動、画像を無線で後方の母機へ伝送し、遠隔操作でロックオン作業を行うことになる。この種の方式を採用した機種としては、西側ではSLAMがもっとも初期のものであるが、その後実用化されたタクティカル・トマホークでは、画像情報の伝送経路として衛星データリンクを使用することにより、発射母体とミサイルとの距離が1,000km以上離れていても、遠隔操作による目標捕捉が可能となっている。

セミアクティブ方式[編集]

セミアクティブ・レーザー・ホーミング[編集]

セミアクティブ・レーザー・ホーミング英語: Semi-Active Laser Homing, SALH)は、発射母体(あるいは他の照射機)が目標に対してレーザー光を照射し、目標からの反射光をミサイルのシーカーで捉えることで、その方向へミサイルを誘導する方式である。

レーザー誘導方式は、ミサイルの誘導方式としては比較的古典的なものであるが、初期においては、指令誘導の一種である半自動指令照準線一致誘導方式(SACLOS)などのビームライディング方式(LOSBR)が採用されているものが多かった。しかしこの場合、指令誘導という原理上、射程が長くなるのに伴って誘導誤差が増加し、特に移動目標に対する射撃精度において問題があった。これに対し、SALH方式は、比例航法(PN)ないし増強比例航法(APN)によるホーミング誘導であるため、ミサイルが目標に近接すればするほど誘導精度が向上するという長所があるが、一方で、操舵のための演算はミサイル側で行なうことから、技術的にはより高度で、高価となる欠点もある。

なお、LOSBR方式と同様に、SALH方式においても、照射機はレーザー誘導兵器が命中するまでレーザーの照射を続ける必要がある。これは電波ホーミング誘導におけるセミアクティブ・レーダー・ホーミング(SARH)方式とも通底する問題である。このことから、発射母体の生残性を向上させるため、発射母体とは別に、レーザー照射機を無人航空機に搭載したり、あるいは地上の特殊部隊に配備する場合もある。

参考文献[編集]

  1. ^ MEMSマテリアルの最新技術”. 江刺正喜、CMC Publishing Co.,Ltd, 2007. 2010年8月30日閲覧。
  • 防衛技術ジャーナル編集部 「第6章 搭載電子機器技術」『兵器と防衛技術シリーズ1 航空機技術のすべて』 防衛技術協会、2005年ISBN 978-4990029821
  • 防衛技術ジャーナル編集部 「第2章 光波ホーミング誘導」『兵器と防衛技術シリーズ3 ミサイル技術のすべて』 防衛技術協会2006年、23-55頁。ISBN 978-4990029821