新交通システム

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新交通システム(しんこうつうシステム)とは、日本の交通システムのうちで、

  • 広義には、新規の技術開発によって従来の交通機関とは異なる機能や特性をもつ交通手段(AGTモノレールリニアモーターカー等)及び既存の交通手段に改革を行うことで発展させた新しい交通システム(ライトレール、デマンドバス、ライド・アンドライド・システム等)の総称[1]
  • 狭義には Automated Guideway Transit (AGT, 自動案内軌条式旅客輸送システム)のみを指す[1]

概念[編集]

広義の「新交通システム」は新規の技術開発によって従来の交通機関とは異なる機能や特性をもつ交通手段や既存の交通手段に改革を行うことで発展させた新しい交通システムのことであり、これらは主に中量輸送を対象とする公共交通システムである[1]中量軌道輸送システムも参照)。

国土交通省では、「動輪にゴムタイヤを使用した案内軌条式鉄軌道 (AGT) や、ガイドウェイバスなど、従来の鉄道とは異なる新しい技術を用いた中量軌道輸送システム」とされている[2]が、あくまでさまざまな形態のものを包含する概念とされており、決まった定義はない。日本産業規格(JIS)では、懸垂式鉄道及び跨座式鉄道案内軌条式鉄道無軌条電車鋼索鉄道並びに浮上式鉄道を「特殊鉄道」として扱っている[3]

路線の一般道などとの立体交差・自動運転・無人運転のシステムが多く、このうち AGT とモノレールが現在最も普及している。多くの新交通システムは日本万国博覧会沖縄国際海洋博覧会神戸ポートアイランド博覧会国際科学技術博覧会バンクーバー国際交通博覧会'88さいたま博覧会横浜博覧会国際花と緑の博覧会2005年日本国際博覧会等の博覧会で試験的に運行されたり、博覧会に合わせて開業される路線もあり博覧会と新交通システムの関係は密接につながっている。博覧会での運行は実用化に向けた試金石でもありその後の実用化に少なからず影響を与える。現在、運行されている新交通システムの原型はその大半が以前に開催された博覧会で運行されたもので、博覧会での運行結果が芳しくなかったものは実用化に至らないことが多い。営業路線として実用化していないものに電波磁気誘導式のバスシステムIMTSがある。

分類[編集]

1971年運輸省運輸技術審議会では、新交通システムは「連続輸送システム」「軌道輸送システム」「無軌道輸送システム」「複合輸送システム」の4つに分類された[4]。ここでは日本交通計画協会の新交通システムの分類を元に、「新交通システム」と呼称される場合があるものを一覧する。

連続輸送システム[編集]

軌道輸送システム[編集]

車上動力[編集]

自動案内軌条式旅客輸送システム (AGT:Automated Guideway Transit)
ゴムタイヤ車輪の小型軽量車両が自動運転により走行する案内軌条式鉄道で国内外でも普及している。先述のように狭義の「新交通システム」はAutomated Guideway Transit(AGT)のみを指す[1]
ゴムタイヤ式地下鉄
案内軌条に従って走行するゴムタイヤ車輪の地下鉄。案内軌条式鉄道の一種。
ゴムタイヤトラム
路面電車とトロリーバスの長所を併せ持つゴムタイヤ車輪の交通輸送機関。
磁気浮上式鉄道
磁力により車体を軌道から浮上させて推進する、いわゆる一般的な意味での「リニアモーターカー」のこと。
モノレール
1本の軌条により進路を誘導されて走る軌道系交通機関。
鉄車輪式
  • ライトレール (LRT:Light Rail Transit)
    輸送力が軽量級な都市旅客鉄道のこと。日本国内では低床車両の路面電車を指すことが多いが、国外では他の中量軌道輸送システムを含む場合もある。
  • Innovia Metro
    UTDC社が開発・実用化した世界初の旅客鉄輪式リニアモーターカー。その後、技術はボンバルディア・トランスポーテーションに売却されている。
    開発:UTDC)、ボンバルディア・トランスポーテーション
  • リムトレン (LIMTRAIN)
    UTDC社から上記鉄輪式リニアモーターカー技術のライセンスを受け、さらに日本向けに手直ししたもの。主に日本モノレール協会が普及活動を行った。
    開発:三菱重工業、日本モノレール協会
  • ミニ地下鉄
    従来の地下鉄よりも小型車両を用いた日本独自の交通輸送機関。鉄輪式リニアモーターカーのため「リニアメトロ」「リニア地下鉄」とも呼称される。
    開発:日本地下鉄協会
索道都市索道
  • Zippar
    電動自走式の搬器を使用した索道。従来式の索道と違い、曲線や分岐を自由に設けられる特徴がある。
    開発:Zip Infrastructure

地上動力[編集]

タイヤ走行式
空気浮上式鉄道
空気を利用して車体を軌道から浮上させて推進する交通輸送機関。
磁気浮上式鉄道
  • M-Bahn
    開発:AEG(独)、神戸製鋼所
モノレール懸垂型
  • スカイケーブル
    動力にロープ駆動(駅構内は地上リニアモーター)を利用し、車両自体には駆動装置が無い。レールで分類される場合は前述のIビーム式となる。
    開発:神戸製鋼所、三菱重工業、新潟鐵工所、清水建設、日本ケーブル
鋼索式鉄道(ケーブルカー
索道都市索道
ローラーコースター

無軌道輸送システム[編集]

複合輸送システム[編集]

  • デュアル・モード・ビークル (DMV:Dual Mode Vehicle)
    列車が走るための軌道と自動車が走るための道路の双方を走ることができる交通輸送機関。
  • ガイドウェイバス
    専用バス車両を使用し、専用軌道と自動車が走るための道路の双方を走ることができる交通輸送機関。日本国内のシステムでは将来需要により AGT へ転換できる[7]
    開発:建設省、神戸製鋼所、三菱重工業、日本車輌製造、新潟鐵工所、西武建設、東急建設、熊谷組
  • IMTS
    一般道では通常のバスとして、専用道では自動運転で走行可能である、電波磁気誘導式のバスシステム。高度道路交通システムの一種でもある。
    開発:トヨタグループ

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 元々はウェスティングハウス・エレクトリック社が開発したAGTの一種のシステムを指す名称であったが、海外ではこのシステムが当初は多く採用されたため、他のシステムを含めた AGT 全体のことを APM と呼称する。三菱重工業で製造された海外・空港向けの車両も APM として輸出している。
  2. ^ フランス語発音: [val] ヴァル
  3. ^ フランス語発音: [veikyl otɔmatik leʒe] ヴェイキュロトマティクレジェ。元々はこのシステムで最初に開業した路線 (: Villeneuve d'Ascq à Lille) の頭字語とされていたが、同システムが他都市でも導入されたことから軽量自動車両を意味する頭字語へと改められた。

出典[編集]

  1. ^ a b c d 塚口ほか 2016, p. 104.
  2. ^ 『鉄道ファン』通巻637号、 95頁
  3. ^ 日本工業規格 特殊鉄道車両用語”. 日本工業規格. 2016年2月19日閲覧。
  4. ^ 井口雅一「実現した新交通システム-中量軌道システム-」『電氣學會雜誌』第102巻第1号、電気学会、1981年10月5日、6-9頁、doi:10.11526/ieejjournal1888.102.6 
  5. ^ 1972年_014号「新しい交通機関としてのパラトランシステムについて (PDF) 」(インターネットアーカイブ)
  6. ^ 日立製作所『日立評論』1972年4月号日立ニュース「全く新しい交通方式"パラトランシステム"を共同開発 (PDF)
  7. ^ 水間毅、松本陽「いろいろな都市交通システムの比較」『電気学会誌』第119巻第3号、電気学会、1997年11月5日、152-155頁、doi:10.1541/ieejjournal.119.152 

参考文献[編集]

  • 塚口博司; 塚本直幸; 日野泰雄; 内田敬; 小川圭一; 波床正敏『交通システム』(2版)、2016年。ISBN 978-4274218668 
  • 渡辺史絵「ようこそAGTへ 新交通システムのすべて ~ 新交通の定義」『鉄道ファン』第54巻第5号(通巻637号)、交友社、2014年5月。 

外部リンク[編集]