クスノキ

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クスノキ
クスノキ
クスノキ
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : モクレン類 Magnoliids
: クスノキ目 Laurales
: クスノキ科 Lauraceae
: ニッケイ属 Cinnamomum
: クスノキ C. camphora
学名
Cinnamomum camphora
(L.) J.Presl[1]
和名
樟、楠
英名
Camphor Laurel

クスノキ(樟、楠、Cinnamomum camphora)とは、クスノキ科ニッケイ属常緑高木である。一般的にクスノキに使われる「楠」という字は本来は中国タブノキを指す字である。別名クスナンジャモンジャ[1][注釈 1]。暖地に生えて、巨木になる個体が多い。樟脳になる香木として知られ、飛鳥時代には仏像の材に使われた。

暖地で栽培される変種としてホウショウがある。食用となるアボカドや、線香の原料となるタブノキ樹皮香辛料などに利用されるセイロンニッケイ(シナモン)は近縁の種である。

名称[編集]

和名クスノキの由来は諸説あり、はっきりしないが、香り高く、寿命が長い「奇(くす)しい木」という意味で名付けられたという説や、南方語由来とする説などがある[2]

クスノキの枝葉を蒸留して得られる無色透明の固体で、防虫剤医薬品等に使用されるカンフルから、クスノキが英語でカンファー・ツリー(camphor tree) やカンファーウッド(camphorwood)、カンファー・ローレル(camphor laurel)と呼ばれる。木の香りが強く、学名では、属名がシナモン(肉桂)を意味する Cinnamomum 、種名は樟脳を意味する camphora になっている[3]。中国名は、樟(しょう)[4]または樟樹という[1]

春の若葉のころに、全体的に赤っぽく見えるクスのことを特にアカグスと呼び、青っぽく見える方をアオグスと呼ぶ場合がある[3]

クスノキの花言葉には、「芳香」[5]がある。

生育地[編集]

世界的には、台湾中国、朝鮮の済州島ベトナムといった暖地に分布し[6][5]、それらの地域から日本に進出した。(史前帰化植物

日本では、主に関東地方南部以西から本州の太平洋側、四国九州沖縄に広く見られるが[2][3]、特に九州に多く、生息域は内陸部にまで広がっている。生息割合は、東海・東南海地方、四国、九州の順に8%、12%、80%である。暖地の常緑樹林に生えるが自生かどうかは不明で[7]、人の手の入らない森林では見かけることが少なく、人里近くに多い。かつては天然樟脳を採取するため、日本各地にクスノキが植林されてきたが、合成樟脳ができるようになってからは、植林樹が放置されて野生化している[8]

古くから寺や神社の境内にもよく植えられており[9]、特に神社林ではしばしば大木が見られ、ご神木として人々の信仰の対象とされるものもある。日本最大のクスノキは、鹿児島県蒲生八幡神社の「蒲生の大楠」(幹周24.2 m)で、確認されている中で、幹周の上では全樹種を通じて日本最大の巨木である[10][8]。また、徳島県三好郡東みよし町には、1956年7月19日、文化財保護法により特別天然記念物に指定された大クスがあり、これは樹齢数千余年と推定され、根回り19メートル (m) 、目通りの周囲約13 m、枝張りは東西経45 m、南北経40 m、高さ約25 mである[11]

他に、特にクスノキが多い神社として、福岡県宇美八幡宮(国指定2本/県指定25本、幹周5 - 9.9 m 9本、10 - 14.9 m 1本、15 m以上 2本)、愛媛県大山祇神社(国指定38本/県指定1本、幹周5 - 9.9 m 10本超、10 - 14.9 m 2本、15 m以上 1本)が挙げられる。

台湾には和社神木という世界最大級のクスノキがあり、幹周16.2 m、樹高44 mを測る。この樹は太い主幹が20 m以上も立ち上がる他にあまりない樹形をしている。

形態・生態[編集]

常緑高木で、暖地で特によく生育し[3]、高さは8 - 25メートル (m) ほどになり[12]、大きなものは高さ30 m以上、目通りの周囲22 m以上、樹齢約800年という巨樹になる個体もある[2]。樹冠もゆったりと広がって大きくなり[3]、単木ではこんもりとした樹形をなす。クスノキは、幹回りが3 m以上になる巨木が多い[5]樹皮は茶褐色から暗褐色で、縦に細く短冊状に裂ける[9][7]。若枝は無毛で、黄緑色をしている[7]

互生し、表面は緑色でつやがあり、裏面は灰緑色[13]。葉身は革質で、先の尖った卵形から楕円形で、長さ5 - 11センチメートル (cm) [9][13]葉縁は全縁で波打つ[14]。主脈の根本近くから左右に一対のやや太い側脈が出る三行脈である[7]。その三行脈の分岐点には1ミリメートル (mm) ほどの一対の小さな膨らみがあり、この内部に空洞があって葉の裏側で開口している[7][14]。これをダニ室という(後述[12]。春の芽吹きの若葉は赤っぽく[7]葉柄が赤色のものと緑色のものがあり、赤いものが多いと全体として視覚的に赤っぽく感じられ目につく[3]。葉の寿命はほぼ1年で、春(4月末 - 5月上旬)に新しい葉が出るときに、古い葉が一斉に落葉する[13]

花期は初夏(5 - 6月)で、葉の付け根から円錐花序を出して、直径5 mmほどの白く淡い黄緑色の小さなが多数咲く[6][9][13]花被片は6個ある[9]。果期は秋(10 - 11月)で、果実は直径8 - 9ミリメートル (mm) 程度の球形で、黒色に熟す[6][9]が食べて種子散布に与るが、人間の食用には適さない。中には直径5 - 6 mm程度の種子が一つ入っている。

冬芽は赤褐色をした長卵形で、先端は尖り、多数の芽鱗に包まれている[7]

葉や木の各部にほのかに甘い芳香があり、樟脳の材料になる[13]

利用[編集]

かつては、木部を採集して樟木(しょうぼく)と呼び、樟脳を採取していた[2][4]。現代では、自然保護の観点から枝葉を採集して、水蒸気蒸留して粗製の精油を採取している[2]。この精油のことを「取り下ろし油」といい、さらに精製してできる精製樟脳がカンフル(カンファー)である[2]。カンフルを採取した残りの油を樟脳油と呼び、これから防虫剤である片脳油(へんのうゆ)が分離された[2]。またプラスチックの前身であるセルロイドの原料としても用いられた[2]

古くからクスノキ葉や煙は防虫剤、鎮痛剤として用いられ、作業の際にクスノキを携帯していたという記録もある。樟脳には防虫効果があり、衣類の防虫剤として箪笥に入れられた[4]。また、材は耐朽性が高く[9]、その防虫効果や巨材が得られるという長所から、家具飛鳥時代仏像にも使われていた[15]。仏像の材具として、日本では最初にクスノキが使われている[13]江戸時代には、夏に夕暮れ時にクスノキの葉を焚いて、蚊遣りとしたほか、その煙に包まれて「自然養生にも良きよしと言えり」といった記録が残されている[2]

街路樹など[編集]

街路樹は季節感のある落葉樹が好まれる傾向があるが、常緑のクスノキは明るい雰囲気があり、街路樹や公園樹としての植栽に盛んに使われる[6][16]神功皇后が豊浦宮へ行幸した際に、クスノキを植えて日本最古の街路樹とした記録が残るが、正確な時期や場所は特定されていない[17]。クスノキの葉は厚みがあり、葉をつける密度が非常に高いため、近年交通騒音低減のために街路樹として活用されることも多い。

煙害対策[編集]

明治時代鉱山などの煙害地の調査から、クスノキは比較的煙害に強いことが確認されてきた。大正年間明治神宮が造成された際には各地から献木のほか、景観上必要な場所にはクロマツなどが植えられたが、その他の場所の主木については、将来東京でも煙害(公害)が深刻化することを見通し、クスノキなどが植林されている[18]

木材[編集]

材は、古木になるほど年輪が入り組んで、材のひき方によって様々な模様のが現れる[13]。枝分かれが多く直線の材料が得難いという欠点はあるが、虫害や腐敗に強いため、古来から船の材料として重宝されていた。古代の西日本では丸木舟の材料として、また、大阪湾沿岸からは、クスノキの大木を数本分連結し、舷側板を取り付けた古墳時代の舟が何艘も出土している。その様は、『古事記』の「仁徳記」に登場するクスノキ製の快速船「枯野」(からぬ)の逸話からも窺うことができる[15]。室町から江戸時代にかけて、軍船の材料にもなった。1940年、戦時色の強まった日本では、用材生産統制規則により特定の樹種の材について用途指定を実施。クスノキの使用用途については樟脳製造に限ることとなった[19]

薬用[編集]

木部に精油が約1%含まれており、有効成分は主にカンフル50 - 60%であるほか、シネオール約6%、ピネンカンフェンフェランドレンディペンテンなどである[2]。葉にも精油約1%を含み、精油成分はカンフル約50%、サフロール約30%、α-ピネンなどである[2]

粗製樟脳から精製して得られるカンフルは、強心剤として注射薬に使われるほか、神経痛打撲に用いる軟膏チンキ、歯科用フェノールカンフルなど製薬原料として重要である[2][4]

民間療法では、疲労回復、肩こり腰痛、神経痛、リウマチなどの痛みを和らげるために、陰干しにした葉を布袋に入れて、浴湯料として風呂に入れる使い方が知られている[2]。また、1日量1 - 3グラムの木部(樟木)を400 ccの水に入れて30分ほど煎じ、3回に分けて服用する用法が知られる[4]。ただし、妊婦への服用は禁忌とされる[4]

ダニ室について[編集]

クスノキの葉に2つずつ存在するダニ室には2形があり、入り口の大きいものと小さいものがある。入り口の大きい方にはケボソナガヒシダニという捕食性のダニが住み込んでおり、これがクスノキの葉を害する植食性のダニを捕食することでクスノキを守っていると考えられる。他方で入り口の小さい方には植食性のフシダニの一種が生息している。これはもちろんクスノキから栄養を吸収するものの、それ以上の害を与えることはない。ダニ室で増殖したフシダニは少しずつダニ室の外に溢れ、これをダニ室には侵入できないサイズの捕食性のダニが捕食することでクスノキの樹上には常にフシダニ捕食性のダニが一定密度で維持されている。特にコウズケカブリダニがこれに働いているらしい。このダニ室を人為的に塞いでダニ室のフシダニやコウズケカブリダニを排除すると、クスノキにとって有害な虫えいを形成するフシダニが増殖し、多くの葉がこぶだらけになることが知られている。従って、クスノキの葉のダニ室はクスノキに病変を引き起こすフシダニの天敵の維持に役立っていると考えられている。それも片方では捕食性ダニのシェルターを提供することで、もう片方では捕食性ダニの餌になる植食性ダニを育て捕食性ダニを常駐させることでこれを行っているとみられる。この後者の方法はクスノキの研究で初めて発見されたものである[20]

自治体・大学の木[編集]

日本国内[編集]

県の木[編集]

市・特別区の木[編集]

行政区の木[編集]

町の木[編集]

村の木[編集]

大学の木[編集]

国外[編集]

県の木[編集]

脚注[編集]

[脚注の使い方]

注釈[編集]

  1. ^ ただし、「ナンジャモンジャ」はヒトツバタゴなど他の植物を指して用いられている場合もある。

出典[編集]

  1. ^ a b c 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Cinnamomum camphora (L.) J.Presl”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2020年5月31日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m 田中孝治 1995, p. 137.
  3. ^ a b c d e f 辻井達一 1995, p. 162.
  4. ^ a b c d e f 貝津好孝 1995, p. 157.
  5. ^ a b c 田中潔 2011, p. 67.
  6. ^ a b c d 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 65.
  7. ^ a b c d e f g 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 234.
  8. ^ a b 林将之 2008, p. 77.
  9. ^ a b c d e f g 西田尚道監修 学習研究社編 2000, p. 44.
  10. ^ 辻井達一 1995, pp. 163–164.
  11. ^ 執筆委員会・監修 金沢治『三加茂町史 復刻版』三加茂町、1973年、1277頁
  12. ^ a b 林将之 2008, p. 76.
  13. ^ a b c d e f g 田中潔 2011, p. 66.
  14. ^ a b 林将之 2011, p. 30.
  15. ^ a b 辻井達一 1995, p. 164.
  16. ^ 林将之 2011, p. 31.
  17. ^ 森脇竜雄、今泉英一「がいろじゅ」『新版 林業百科事典』第2版第5刷 p76 日本林業技術協会 1984年(昭和59年)発行
  18. ^ 「針葉樹 都会では枯死 明治神宮、クスの森に」『朝日新聞』昭和48年(1973年)1月4日朝刊
  19. ^ 香田徹也「昭和15年(1940年)林政・民有林」『日本近代林政年表 1867-2009』p420 日本林業調査会 2011年 全国書誌番号:22018608
  20. ^ 笠井 (2006) なお、この時点ではフシダニの種名は確定していないらしく、ダニ室内外の種をそれぞれフシダニsp.1、フシダニsp.2と記するのみである。

参考文献[編集]

  • 矢野憲一・矢野高陽『楠(くすのき)』法政大学出版局(ものと人間の文化史)、2010年
  • 笠井敦、「クスノキとそのダニ室内外で観察されるダニ類の相互作用に関する研究」、2006、京都大学農学部学位論文

関連項目[編集]

外部リンク[編集]