バジル
バジル | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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![]() バジル
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分類(APG IV) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Ocimum basilicum L. | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
メボウキ | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Basil |
バジル(英語: Basil、蘿艻、学名: Ocimum basilicum)は、シソ科メボウキ属の多年草(日本では越冬できないので一年草として扱われる)。インド、熱帯アジア原産のハーブである[1]。和名はメボウキ、目箒。イタリア語由来のバジリコ (Basilico) の名でも知られる。リンネの『植物の種』(1753年) で記載された植物種の1つでもある[2]。
特徴[編集]
「バジル」と呼ばれるハーブには、O. basilicum以外の種に由来するものもふくめ、およそ150 種類の栽培品種がある。香りの主成分はメチルカビコール(エストラゴール)、リナロール、シネオール、オイゲノールで、刺激性は低く生でも食べられる。
ドライにしても食べられるハーブで、カロテンやビタミンEのほか、ミネラル分も豊富。熱帯アジア、インド原産のため寒さに弱い。植えつけは、気温が十分に上がる5月が適期[3]。品種によって30 cmから150cmまで生長する。葉は濃い緑色、卵形であるが、栽培品種によって様々な大きさと形をしている。太い直根性の根を延ばし、花は小さく、白色である。
歴史[編集]
バジルは、アレキサンダー大王によって、インドからヨーロッパに伝えられたとする説がある。イギリスには16世紀に、アメリカには17世紀に渡来している。インドではホーリーバジルが、クリシュナ神とヴィシュヌ神に捧げる神聖なハーブとされる。またバジルは、ペルシャ、エジプトでは墓に植える草とされていた。
BasilならびにBasilicoの名称は「王」を意味するギリシャ語の βασιλεύς (バシレウス)に由来するという説のほか、伝説上の怪物バジリスク(英: basilisk, 羅: basiliscus, 古希: βασιλίσκος [basiliskos])に由来するという説もある[4]。ただし怪物バジリスクの名称も元はギリシャ語の βασιλεύς に由来している。
歴史的にみて、とてもよく知られているハーブであり、様々な儀礼や迷信と結びついている。昔のインドでは葬儀の際に死者の横にバジルを供えることで、故人が黄泉の国へ無事にたどり着けると考えられた。中世ヨーロッパでは、サソリがバジルを好むと考えられており、粉末にしたバジルを吸い込むと頭のなかにサソリが沸くと信じられていた[5]。
食用[編集]
イタリア料理においては、甘くフレッシュな芳香でパスタやピッツァ、サラダに、ソースに活用されている。「バジル」「バジリコ」あるいは「スイートバジル (Sweet basil)」と呼ばれている。バジルの栽培品種、近縁種、雑種にはレモンバジル(Ocimum basilicum var. citriodorum)、ホーリーバジル(Ocimum tenuiflorum)、タイバジル(O. basilicum var. thyrsiflora、台湾バジルとも)などがある。
日本においては、有名メーカー製の家庭用乾燥ハーブが「バジル」と称される一方で、産地および料理からイタリア語の呼称、バジリコが使われることもある。
分類[編集]
バジルの正確な分類は膨大な数の栽培品種、その多形性、メボウキ属の他種や種内での頻繁な他家受粉(これによって新たな雑種が生じる)のため不確かである。Ocimum basilicumには少なくとも60の品種があり、これがさらに分類を複雑にしている[1]。
ほとんどのバジルはスイートバジル(Ocimum basilicum)の栽培品種である。
- アニスバジル、リコリスバジル、またはペルシャバジル(O. basilicum 'Licorice)
- シナモンバジル (Ocimum basilicum 'Cinnamon')
- ダークオパールバジル (Ocimum basilicum 'Dark Opal')
- レタスリーフバジル (Ocimum basilicum 'Crispum')
- パープルバジル (Ocimum basilicum 'Purpurescens')
- ルビンバジル (Ocimum basilicum 'Rubin')
- グローブバジル、ドワーフバジル、フレンチバジル (Ocimum basilicum 'Minimum')[6]
- タイバジル (Ocimum basilicum thyrsifolium) - 「九層塔」とも呼ばれる。
交雑種[編集]
- アフリカンブルーバジル (Ocimum basilicum X O. kilimandscharicum)
- スパイシーバジル (Ocimum basilicum X O. americanum)、ホーリーバジルとして販売されていることもある。
- レモンバジル (Ocimum basilicum X O. americanum[7][8])
近縁種[編集]
- カンファーバジル、アフリカンバジル(O. kilimandscharicum)
- インドメボウキ、クローブバジル、アフリカンバジルとも(Ocimum gratissimum)[9][10]
- カミメボウキ、ホーリーバジル(Ocimum tenuiflorum)
その他の栽培品種[編集]
メボウキ属のいくつかの多種を含むその他複数のバジルがアジアの多くの地域で栽培されている。アジアのバジルのほとんどは、一般的に地中海のバジルよりも強いクローブ様の香りを持つ。最も特筆すべきはホーリーバジル(トゥルシー )で、ネパールでは民族の植物として敬われている。
レモンバジルはその他の品種とは大きく異なる強いレモン様の匂いと風味を持つ。これはシトラールと呼ばれる物質を含むためである。インドネシアで広く使われる。現地ではケマンギ kemangi と呼ばれ、魚やアヒルの揚げ物の添え物として生のキャベツやサヤインゲン、キュウリと共に生で食べられる。花はピリっとした風味のあるサラダの薬味である。
利用[編集]
葉[編集]
バジルの利用法としてはジェノヴァ付近で作られるペスト・ジェノヴェーゼ(ジェノヴァのソース)が有名である。
日本では、ペスト・ジェノヴェーゼあるいは類似のソースを混ぜ込んだスパゲッティをバジリコ・スパゲッティ(スパゲッティ・バジリコ)とも呼ぶ。現在では日本でもバジルの生の葉や乾燥、粉砕した葉が容易に入手できるため、代用品を使う必要はなくなっている。
その他、トマトと相性がよいことでも知られる。新鮮なスイートバジルの葉とモッツァレッラチーズとトマトをあわせたサラダは、インサラータ・カプレーゼ(Insalata Caprese、「カプリ風サラダ」の意)といい、イタリアの国旗と同じ配色で、イタリアを象徴するサラダとなっている。ナポリピッツァの一つマルゲリータも、ピザの生地にモッツァレッラ、トマト、バジルの葉をトッピングしたものである。
種子[編集]
バジルの種子を水に浸けると、グルコマンナンを多く含むためゲル化する[11]。食物繊維を豊富に含むことからダイエット補助食品としても利用されている。東南アジアとアフガニスタンでは、水に浸した種子をデザートや飲み物にする。
和名のメボウキ(目箒)は、このゲル化した種子を目のごみを取るために使ったことに由来する[12]。
栄養[編集]
100 gあたりの栄養価 | |
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エネルギー | 94 kJ (22 kcal) |
2.65 g | |
糖類 | 0.3 g |
食物繊維 | 1.6 g |
0.64 g | |
飽和脂肪酸 | 0.041 g |
一価不飽和 | 0.088 g |
多価不飽和 | 0.389 g |
3.15 g | |
トリプトファン | 0.039 g |
トレオニン | 0.104 g |
イソロイシン | 0.104 g |
ロイシン | 0.191 g |
リシン | 0.11 g |
メチオニン | 0.036 g |
シスチン | 0.028 g |
フェニルアラニン | 0.13 g |
チロシン | 0.077 g |
バリン | 0.127 g |
アルギニン | 0.117 g |
ヒスチジン | 0.051 g |
アラニン | 0.132 g |
アスパラギン酸 | 0.301 g |
グルタミン酸 | 0.277 g |
グリシン | 0.122 g |
プロリン | 0.104 g |
セリン | 0.099 g |
ビタミン | |
ビタミンA相当量 |
(33%) 264 µg(29%) 3142 µg5650 µg |
チアミン (B1) |
(3%) 0.034 mg |
リボフラビン (B2) |
(6%) 0.076 mg |
ナイアシン (B3) |
(6%) 0.902 mg |
パントテン酸 (B5) |
(4%) 0.209 mg |
ビタミンB6 |
(12%) 0.155 mg |
葉酸 (B9) |
(17%) 68 µg |
ビタミンB12 |
(0%) 0 µg |
コリン |
(2%) 11.4 mg |
ビタミンC |
(22%) 18 mg |
ビタミンD |
(0%) 0 IU |
ビタミンE |
(5%) 0.8 mg |
ビタミンK |
(395%) 414.8 µg |
ミネラル | |
ナトリウム |
(0%) 4 mg |
カリウム |
(6%) 295 mg |
カルシウム |
(18%) 177 mg |
マグネシウム |
(18%) 64 mg |
リン |
(8%) 56 mg |
鉄分 |
(24%) 3.17 mg |
亜鉛 |
(9%) 0.81 mg |
マンガン |
(55%) 1.148 mg |
セレン |
(0%) 0.3 µg |
他の成分 | |
水分 | 92.06 g |
| |
%はアメリカ合衆国における 成人栄養摂取目標 (RDI) の割合。 出典: USDA栄養データベース(英語) |
抗癌作用を主張する研究[編集]
かつて、バジルはデザイナーフーズ計画のピラミッドで3群に属しており、3群の中でも、マスクメロン、タラゴン、カラスムギ、アサツキと共に3群の上位に属する、癌予防効果のある食材であると位置づけられていた[13]。
植物化学[編集]
栽培品種によって精油成分の比率は異なるため、バジルの香りは様々である[1]。ヨーロッパの品種の精油は高濃度のリナロールとエストラゴールをおよそ3:1の比で含む[1]
[14]。その他の成分は1,8-シネオール、オイゲノール、ミルセンなどである[1][15]。スイートバジルのクローブ香はオイゲノールに由来する[16]。
画像[編集]
カミメボウキ(ホーリーバジル)
脚注[編集]
- ^ a b c d e “Basil”. Center for New Crops & Plant Products, Department of Horticulture, Purdue University, West Lafayette, IN (1998年2月23日). 2017年5月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年1月22日閲覧。
- ^ Linnaeus, Carolus (1753) (ラテン語). Species Plantarum. Holmia[Stockholm]: Laurentius Salvius. p. 597
- ^ “バジルの種類(原種、品種)|植物図鑑”. みんなの趣味の園芸. NHK出版. 2020年7月11日閲覧。
- ^ 北野佐久子『基本ハーブの事典』東京堂出版2005年p113-116
- ^ マーガレット・B・フリーマン著 遠山茂樹訳 『西洋中世ハーブ事典』八坂書房、2009年、p.53頁。ISBN 978-4896949254。
- ^ “バジル・スパイシーグローブ”. Fukuurara. 2020年7月11日閲覧。
- ^ “Ocimum africanum Lour. taxonomy detail from NPGS/GRIN”. ars-grin.gov. 2016年9月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年7月11日閲覧。
- ^ Ocimum × africanum Lour. in 'The Plant List: A Working List of All Plant Species' 2016年12月3日閲覧。
- ^ Fandohan, P.; Gnonlonfin, B.; Laleye, A.; Gbenou, J.D.; Darboux, R.; Moudachirou, M. (2008). “Toxicity and gastric tolerance of essential oils from Cymbopogon citratus, Ocimum gratissimum and Ocimum basilicum in Wistar rats”. Food and Chemical Toxicology 46 (7): 2493–2497. doi:10.1016/j.fct.2008.04.006. PMID 18511170.
- ^ Pessoa, L.M; Morais, S.M; Bevilaqua, C.M.L; Luciano, J.H.S (2002). “Anthelmintic activity of essential oil of Ocimum gratissimum Linn. and eugenol against Haemonchus contortus”. Veterinary Parasitology 109 (1-2): 59–63. doi:10.1016/S0304-4017(02)00253-4. PMID 12383625.
- ^ Naji-Tabasi, Sara; Razavi, Seyed Mohammad Ali (2017). “Functional properties and applications of basil seed gum: An overview”. Food Hydrocolloids 73: 313–325. doi:10.1016/j.foodhyd.2017.07.007.
- ^ 板橋作美「迷信と笑いと狂気」『東京医科歯科大学教養部研究紀要』第38巻、2008年、 55-78頁、 doi:10.11480/kyoyobukiyo.38.0_55。
- ^ 大澤俊彦、「がん予防と食品」『日本食生活学会誌』 2009年 20巻 1号 p.11-16, doi:10.2740/jisdh.20.11
- ^ “Basil: A Source of Aroma Compounds and a Popular Culinary and Ornamental Herb. In: Perspectives on new crops and new uses”. ASHS Press, Alexandria,VA (1999年). 2020年7月11日閲覧。
- ^ Eberhard Breitmaier (22 September 2006). Terpenes: Flavors, Fragrances, Pharmaca, Pheromones. John Wiley & Sons. pp. 11–. ISBN 978-3-527-31786-8. オリジナルの12 October 2013時点におけるアーカイブ。 2013年8月2日閲覧. "Acyclic monoterpenoid trienes such as p-myrcene and configurational isomers of p- ocimene are found in the oils of basil (leaves of Ocimum basilicum, Labiatae), bay (leaves of Fimenta acris, Myrtaceae), hops (strobiles of Humulus lupulus, ..."
- ^ Md Shahidul Islam (4 February 2011). Transient Receptor Potential Channels. Springer. pp. 50–. ISBN 978-94-007-0265-3. オリジナルの12 October 2013時点におけるアーカイブ。 2013年8月2日閲覧. "Eugenol is a vanilloid contained in relatively high amounts in clove oil from Eugenia caryophyllata, as well as cinnamon leaf oil (Cinnamomum zeylanicum) and oil from the clove basil Ocimum gratissimum. While eugenol is often referred to as ..."
参考文献[編集]
- 北野佐久子 『基本ハーブの事典』東京堂出版、2005年。ISBN 4-490-10684-X。