トウシキミ

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トウシキミ
Illicium verum00.jpg
トウシキミの植物画
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
: アウストロバイレヤ目 Austrobaileyales
: マツブサ科 Schisandraceae
: シキミ属 Illicium
: トウシキミ I. verum
学名
Illicium verum Hook.f.1888[1]
シノニム

英名
star anise[1][2], staranise tree[2], Chinese star anise[2]

トウシキミ (唐樒、学名: Illicium verum) はマツブサ科シキミ属に属する常緑性高木の1種であり、芳香をもつ。別名として、また特にその果実は、大茴香 (だいういきょう)、八角八角茴香スターアニスともよばれる[3][4]。多数の花被片をもつ赤い花をつけ、その果実を乾燥したものは香辛料生薬として広く利用されている。中国南東部からベトナム北東部原産であり、また中国南部やインド南部、インドシナ半島などで広く栽培されている。

茴香 (小茴香) やアニスは本種と同様に芳香をもつが、セリ科の草本であり、本種とは全く縁遠い[3]

特徴[編集]

常緑性小高木から高木であり、高さは最大 15 m に達する[5][6]は枝先にややまとまってつき、葉柄は 0.8-2 cm葉身は卵形から楕円形で長さ 5-15 × 2-5 cm、革質、葉先は突形から鋭先形、葉脚は漸尖形からくさび形[6]葉脈の中央脈は向軸側 (表側) でやや凹んでおり、側脈は5–8対だがときに不明瞭[6]

1a. トウシキミ
1b. 葉は枝先にややまとまってつく
1c. 葉は枝先にややまとまってつく

花期は3–5月および8–10月、は葉腋から生じ、花柄は長さ 1.5-4 cm[6]花被片は7–12枚、ピンク色から暗赤色、広楕円形から広卵形、0.9-1.2 × 0.8-1.2 cm[5][6]雄しべは11〜20個 (ふつう13または14個)、1.8-3.5 mm[6]雌しべ離生心皮、7–11個、2.5-4.5 mm、花柱子房より長い[6]。果期は9–10月および3–4月、果実は集合性の袋果で 14-20 × 7-12 × 3-6 mm[5][6]染色体数は 2n = 28[6]

2a. 種子を含む果実
2b. 果実と種子 (左下)

成分[編集]

トウシキミの果実には5パーセントから10パーセントの精油が含まれ、その主成分はアネトール (右図3a) であり、精油成分の80パーセントから90パーセントを占める[7]。その他に、エストラゴールメチルカビコールシネオールリモネンフェランドレンピネンなどが含まれる[7]

またシキミに由来する名をもつシキミ酸 (右図3b) は植物に広く存在する物質であるが、特にトウシキミなどシキミ属の果実に多い。このシキミ酸は、インフルエンザ治療薬オセルタミビル (商品名はタミフル) の合成原料の1つとして使用されている (2006年現在)[8]。ただし、シキミ酸はあくまでも合成原料となる物質であり、シキミ酸自体には (つまりトウシキミの果実を食べても) インフルエンザに効果は無い[9]。なお、2005年には細菌によってシキミ酸を生産する方法が発見され[10][11][12]、2006年にはタミフル製造に用いるシキミ酸の3分の1が、この醗酵法で生産されるようになった[5]

分布・生態[編集]

中国南東部からベトナムに自生するとされ、またフィリピンインドシナ半島インド南部などでも栽培されている[1][7]。古くから栽培されており、自然分布が必ずしも明らかではない[1]。平均気温 20–22℃、年間降水量が 1,200–1,500 mm の地域に生育する[5]

人間との関わり[編集]

トウシキミの果実を乾燥させたものは、八角 (はっかく)、八角茴香 (はっかくういきょう) などとよばれ、香辛料や薬用に利用される[5] (上図2, 下図4a, b)。実の形は8つの角を持つ星形をしており、セリ科アニスに似た芳香をもつため、スターアニス(star anise)ともよばれる[5]。中国南部やインド南部、インドシナ半島で広く栽培されており、2009年現在では、中国が全世界の生産量の80パーセント (65,000トン) を占めている[1][7][5]。樹皮を香料として利用することもある[1]。トウシキミは古くから利用され、紀元前2,000年頃から栽培が行われてきたと考えられている[1][5]。また熱帯地方では、香りを楽しむ観賞植物として栽培されることもある[1]

4a. 果実の処理 (中国)
4b. 市場の八角
4c. 東坡肉
4d. 八角を入れたマッサマン (タイのカレー)

香辛料[編集]

トウシキミの果実 (八角、スターアニス) は香辛料として広く用いられており、八角を用いたよく知られた料理として、東坡肉北京ダック杏仁豆腐などがある[13][14][15] (上図4c)。中華料理の代表的な香辛料である五香粉は、八角を含む[7][16]。また中華料理以外にも、インド料理マレーシア料理インドネシア料理ベトナム料理タイ料理などでも用いられる[5] (上図4d)。チャーイェン (タイティー) やチャイなど飲用にも使われる[5]。また、ガリアーノサンブーカパスティスなどのリキュール製造にも使われる[1]

トウシキミの香料は、香水石鹸歯磨き粉タバコに使用されることもある[1]

医薬品[編集]

トウシキミの果実は、生薬や医薬品原料としても利用されている。生薬名は大茴香 (だいういきょう) であり、芳香性健胃薬、駆風薬、鎮痛薬として用いられる[7][16][17]。大茴香と杜仲木香を配合した思仙散は、腰痛に用いる漢方薬である[7][16]。またトウシキミの果実から抽出されるシキミ酸は、インフルエンザ治療薬オセルタミビル (商品名はタミフル) の合成原料ともなる (上記参照)。

日本薬局方では、トウシキミまたはセリ科ウイキョウ (茴香:Foeniculum vulgare) の果実から得られる精油を区別なくウイキョウ油としている[16]

工芸材料[編集]

果実は、その形状を活かして、クリスマスリースなどにも利用されることがある[5]。また果実は芳香をもつため、ポプリの材料とされることもある[1]

近縁種[編集]

近縁種であるシキミの葉 (左上)、花 (右上)、果実 (左下)、全形 (右下)

シキミ属には、北米南東部や西インド諸島になど新世界に約6種、東アジアから東南アジア旧世界にトウシキミを含む約31種が知られている[18] 。日本にはトウシキミは自生していないが、シキミ (本州から沖縄諸島) とヤエヤマシキミ (先島諸島) の2種が分布している[19]

シキミ花被片は細長く黄白色[19] (右図)。果実はトウシキミのものに酷似するが (右図)、猛毒のアニサチンを含むため食すと死に至る可能性がある[19][20]。そのため「毒八角」ともよばれ[21]、また。シキミの果実はトウシキミのものにくらべてやや小型で、先端が鋭く尖る[20]。また毒物及び劇物取締法において劇物に指定されている[22]。トウシキミの果実が甘い香りがするのに対して、シキミの果実は抹香に匂いがする[20]。日本において、シキミは仏事に広く使われている[23]

シキミはジャパニーズ・スターアニス(Japanese star anise)とよばれるのに対して、これと区別するためにトウシキミをチャイニーズ・スターアニス(Chinese star anise)とよぶこともある[24][25]

シキミ属には有毒種が多く、シキミ以外にも アメリカシキミI. parviflorum ("イエローアニス") も有毒であることが知られている[26]

脚注[編集]

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出典[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i j k l Illicium verum”. Plants of the World online. Kew Botanical Garden. 2021年7月31日閲覧。
  2. ^ a b c GBIF Secretariat (2021年). “Illicium verum”. GBIF Backbone Taxonomy. 2021年7月31日閲覧。
  3. ^ a b 日本大百科全書(ニッポニカ). “ダイウイキョウ” (日本語). コトバンク. 2021年8月7日閲覧。
  4. ^ デジタル大辞泉. “八角” (日本語). コトバンク. 2021年8月7日閲覧。
  5. ^ a b c d e f g h i j k l 3.5 トウシキミ(ミャンマー)”. 農林水産省. 2020年1月26日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g h i Flora of China Editorial Committee (2010年). “Illicium verum”. Flora of China. Missouri Botanical Garden and Harvard University Herbaria. 2021年7月31日閲覧。
  7. ^ a b c d e f g 後藤實「生活の中の生薬166:大茴香」『活』第41巻第6号、財団法人日本漢方医学研究所、東京、1999年、 p85。
  8. ^ “抗インフルエンザ薬『タミフル』の純化学的製造法” (プレスリリース), 『東京大学広報・情報公開記者発表一覧』東京大学の公式webページ, (2006年3月1日), http://www.u-tokyo.ac.jp/public/public01_180301_j.html 2009年1月13日閲覧。 
  9. ^ 【大森病院東洋医学科・三浦於菟教授】八角 新型インフル予防に効くって本当?(5/12 日刊ゲンダイ)”. メディア掲載情報. 東邦大学キャンパスポータルサイト. 2010年9月14日閲覧。 “三浦教授によると、八角の効能は血の巡りや消化を良くすることであり、新型インフルエンザには効かないとのこと。”
  10. ^ Bradley, D. (Dec 2005). “Star role for bacteria in controlling flu pandemic?”. Nature Reviews Drug Discovery 4 (12): 945–946. doi:10.1038/nrd1917. ISSN 1474-1776. PMID 16370070. 
  11. ^ Krämer, M.; Bongaerts, J.; Bovenberg, R.; Kremer, S.; Müller, U.; Orf, S.; Wubbolts, M.; Raeven, L. (2003). “Metabolic engineering for microbial production of shikimic acid”. Metabolic Engineering 5 (4): 277–283. doi:10.1016/j.ymben.2003.09.001. PMID 14642355. 
  12. ^ Johansson, L.; Lindskog, A.; Silfversparre, G.; Cimander, C.; Nielsen, K. F.; Lidén, G. (Dec 2005). “Shikimic acid production by a modified strain of E. coli (W3110.shik1) under phosphate-limited and carbon-limited conditions”. Biotechnology and Bioengineering 92 (5): 541–552. doi:10.1002/bit.20546. ISSN 0006-3592. PMID 16240440. 
  13. ^ 日本大百科全書(ニッポニカ). “スターアニス” (日本語). コトバンク. 2021年7月31日閲覧。
  14. ^ 中国料理に欠かせない香り際立つスパイス「八角」”. 養命酒製造株式会社 (2014年2月). 2021年7月31日閲覧。
  15. ^ 遠藤由美. “スターアニス/八角を使いこなそう!”. エスビー食品. 2021年7月31日閲覧。
  16. ^ a b c d 古尾屋不二、ほか「漢方から見るハーブ・スパイスの生理活性」『月刊フードケミカル』第12号、食品化学新聞社、1994年、 p69、 ISSN 09112286
  17. ^ 大茴香”. 民族薬物データベース. 富山大学和漢医薬学総合研究所. 2021年8月3日閲覧。
  18. ^ Illicium”. Plants of the World online. Kew Botanical Garden. 2021年7月24日閲覧。
  19. ^ a b c 大橋広好 (2015). “シキミ属”. In 大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩 (編). 改訂新版 日本の野生植物 1. 平凡社. pp. 49–50. ISBN 978-4582535310 
  20. ^ a b c 東京都薬用植物園. “トウシキミ(八角)とシキミ(有毒)”. 東京都健康安全研究センター. 2021年7月23日閲覧。
  21. ^ 中日辞典 第3版. “毒八角” (日本語). コトバンク. 2021年7月30日閲覧。
  22. ^ 毒物及び劇物指定令(昭和四十年政令第二号)第2条: 劇物 第1項第39項”. e-Gov (2019年6月19日). 2019年12月21日閲覧。 “2019年7月1日施行分”
  23. ^ 日本大百科全書 (ニッポニカ). “シキミ” (日本語). コトバンク. 2021年7月24日閲覧。
  24. ^ Howes, Melanie-Jayne R.; Geoffrey C. Kite and Monique S. J. Simmonds (6 2009). “Distinguishing Chinese Star Anise from Japanese Star Anise Using Thermal Desorption−Gas Chromatography−Mass Spectrometry”. J. Agric. Food Chem. (American Chemical Society) 57 (13): 5783–5789. doi:10.1021/jf9009153. http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/jf9009153 2010年7月16日閲覧。. 
  25. ^ “Press Releases: Herbal Science Group Clarifies Safety Issue on Star Anise Tea” (英語) (プレスリリース), American Botanical Council, (2003年9月12日), http://cms.herbalgram.org/press/staranisetea.html 2010年7月16日閲覧。 
  26. ^ Illicium”. The North Carolina Extension Gardener Plant Toolbox. 2021年7月31日閲覧。

関連項目[編集]

  • ウイキョウ (セリ科) - トウシキミの別名の大茴香に対して、小茴香とも呼ばれる。
  • シキミ - 果実はトウシキミとは異なり有毒である。

外部リンク[編集]