インフルエンザ

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インフルエンザ
EM of influenza virus.jpg
電子顕微鏡により約10万倍に拡大された陰性インフルエンザウイルス
分類および外部参照情報
診療科・
学術分野
家庭医療, 呼吸器学, 感染症
ICD-10 J10, J11
ICD-9-CM 487
DiseasesDB 6791
MedlinePlus 000080
eMedicine med/1170 ped/3006
Patient UK インフルエンザ
MeSH D007251
KEGG 疾患 H00398

インフルエンザラテン語: influenza)はインフルエンザウイルスによって引き起こされる急性感染症略称としてインフル(英語: flu)がある。多くは上気道炎症状・呼吸器疾患を伴うことで流行性感冒(りゅうこうせいかんぼう)、詰めて流感(りゅうかん)と言われる。

季節性インフルエンザには、A型、B型、C型の3種類があり、全ての年齢層に対して感染し、世界中で繰り返し流行している[1]。日本などの温帯では、季節性インフルエンザは冬季に毎年のように流行する。通常、11月下旬から12月上旬頃に最初の発生、12月下旬に小ピーク。学校が冬休みの間は小康状態で、翌年の1-3月頃にその数が増加しピークを迎えて4-5月には流行は収まるパターンであるが、冬季だけに流行する感染症では無く夏期にも流行する事がある[2]。A型は平均相対湿度50%以下になると流行しやすくなると報告されている[3]

全世界では毎年300-500万人がインフルエンザに感染し、25-50万人の死者を出している[1]。先進国における死者は65歳以上人口が最も多い[1]。また病欠・生産性低下といった社会的コストも大きい[1]

感染経路は咳やくしゃみなどによる飛沫感染が主と言われている。一般的には経口・経鼻で呼吸器系に感染する。飛沫核感染(空気感染)や接触感染など違った形式によるものもある。予防においては、有症状患者のマスク着用が有用であり、飛沫感染防止に特に効果的であるが、形状や機能性などによっては完全に防げない場合もある。マスクのみでは飛沫核感染や接触感染を防ぐことができないため、手洗い・うがいなどの対策も必要である[4][5]。最も感染を予防できる方法はワクチンである[1]抗ウイルス薬も存在するが、ウイルスはすぐに耐性を獲得する[1]

臨床像[編集]

風邪とインフルエンザの違い[6]
風邪(Cold) インフル (Flu)
発熱 まれ 頻出(37-38℃)
頭痛 まれ 頻出
疼痛 わずか 大部分,重度となりえる
疲労・脱力 時々 大部分, 2-3週続く
極度の疲労 なし 大部分
鼻汁 頻出 時々
くしゃみ 頻出 時々
のどの痛み 頻出 時々
  • 風邪(普通感冒)とは異なり、比較的急速に出現する悪寒、高熱、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛を特徴とし、咽頭痛、鼻汁、鼻閉、咳、痰などの気道炎症状を伴う。腹痛嘔吐下痢といった胃腸症状を伴う場合もある。
  • 主要な合併症として肺炎インフルエンザ脳症がある。
  • 潜伏期間は1–2日が通常であるが、最大7日までである。
  • A型インフルエンザはとりわけ感染力が強く、症状も重篤になる傾向がある。
  • まれにA型、B型の両方を併発する場合もある。
  • 肺炎や上気道の細菌感染症を続発し死亡することがある。

合併症がハイリスクとなる人とは[7]

  1. 65歳以上の年齢
  2. 慢性呼吸器疾患(喘息やCOPD)
  3. 心血管疾患(高血圧単独を除く)
  4. 慢性腎、肝、血液、代謝(糖尿病など)疾患
  5. 神経筋疾患(運動麻痺、痙攣、嚥下障害)
  6. 免疫抑制状態(HIV感染や、薬物によるものを含む)
  7. 妊婦
  8. 長期療養施設の入所者
  9. 著しい肥満
  10. アスピリンの長期投与を受けている者
  11. 担癌患者

ウイルス学[編集]

「インフルエンザ」の病原体はRNAウイルスインフルエンザウイルスである。以下の3種類が存在する[1]

感染してウイルスが体内に入ってから、2日〜3日後に発症することが多いが、潜伏期は10日間に及ぶことがある[8]。子供は大人よりずっと感染を起こしやすい。ウイルスを排出するのは、症状が出る少し前から、感染後2週間後までの期間である[8][9]。インフルエンザの伝播は、数学的なモデルを用いて近似することが可能で、ウイルスが人口集団の中に広がる様子を予測する上で役に立つ[10]

インフルエンザは、主に次の3つのルートで伝播する。患者の粘液が、他人の目や鼻や口から直接に入る経路、患者の咳、くしゃみ、つば吐き出しなどにより発生した飛沫を吸い込む経路、ウイルスが付着した物や、握手のような直接的な接触により、手を通じ口からウイルスが侵入する経路である[11][12]。この3つのルートのうち、どれが主要であるかについては明らかではないが、いずれのルートもウイルスの拡散を引き起こすと考えられる[13][14]。空気感染において、人が吸い込む飛沫の直径は0.5から5マイクロメートルであるが、たった1個の飛沫でも感染を引き起こし得る[11]。1回のくしゃみにより40000個の飛沫が発生するが[15]、多くの飛沫は大きいので、空気中から速やかに取り除かれる[11]。飛沫中のウイルスが感染力を保つ期間は、湿度紫外線強度により変化する。冬では、湿度が低く日光が弱いので、この期間は長くなる[11]

インフルエンザウイルスは、いわゆる細胞内寄生体なので細胞外では短時間しか存在できない。紙幣[16]、ドアの取っ手、電灯のスイッチ、家庭のその他の物品上で短時間存在できる[17]。物の表面においてウイルスが生存可能な期間は、条件によってかなり異なる。プラスチックや金属のように、多孔質でない硬い物の表面でかつ、RNaseが完全に除去された環境つまり人が絶対に触らない無菌室内にある多孔質でない硬い物の表面では、実験的にはウイルスは1〜2日間生存させたのが最長記録である。RNaseが完全に除去された環境つまり人が絶対に触らない乾燥した紙では、約15分間生存する。
しかし、手などの皮膚の表面には多量のRNaseが存在するため、RNAウイルスは速やかに断片化されるため皮膚での生存時間は5分間未満である。この点は細菌やスピロヘータとしばしば混同されている[18]

鳥インフルエンザのウイルスは、最適な細胞ごと凍結することにより、長く冷凍保存できるという論文もある[19]。インフルエンザウイルスは、RNaseがなくても56℃、60分以上の加熱により不活化する。RNaseの存在下では常温5分未満で断片化する。またpH2未満の酸によっても数分で不活化する[19]

なお「H1N1=ソ連型」ではない。スペイン風邪もH1N1だが、ソ連風邪とは異なる。特に今言われている新型インフルエンザ(俗称「豚インフルエンザ」)もH1N1だが、Aソ連型ではない。ソ連型H1N1はほとんどタミフル耐性だが、新型インフルエンザH1N1ではタミフル耐性株はまだ少ない。日本で流行中のインフルエンザの98%が新型インフルエンザである。

予防[編集]

一般的な予防方法としては、日常生活上の注意とワクチンを使用した予防接種がある[20][21]。マスクの着用によってインフルエンザを予防することは、欧米およびWHOでは推奨されていないし、十分な予防効果の証拠がないとされる。マスクは湿気を保つためと、感染者が感染を大きく広げないための手段として考えられている。理論的にはウイルスを含む飛沫がマスクの編み目に捉えられると考えられるが、十分な臨床結果を必要とする。

  • 免疫力の低下は感染しやすい状態を作るため、偏らない十分な栄養や睡眠休息を十分とることが大事である。これは風邪やほかのウイルス感染に関しても非常に効果が高い。
  • 2010年3月にアメリカ臨床栄養ジャーナルに発表された無作為抽出二重盲検法プラセボ(偽薬)対照試験の結果では、冬季に毎日1,200IUのビタミンD3を摂取した生徒群は、プラセボを摂取した生徒群に比較して、42%も季節性インフルエンザに罹患する率が低かったとしている[22][23]

感染管理[編集]

  • 感染の可能性が考えられる場所に長時間いることを避ける必要がある。人ごみや感染者のいる場所を避けるなど[24][4]。予防にマスクを用いた場合は速やかに処分する。患者は直ちに個別室に隔離する[24][4]
  • 石鹸による手洗いの励行や、手で目や口を触らないこと、手袋やマスクの着用といった物理的な方法でウイルスへの接触や体内への進入を減らす[4]。ただし、間違ったマスクの使用は感染を拡大させる危険性がある[25]
    • 新型インフルエンザに対する飛沫感染防止として医療機関では防塵性の高い使い捨て型のマスクが利用されており、正しい方法で装着し顔にフィットさせなければ有効な防塵性を発揮できない。2005年のCDCガイドラインでは、一般的な季節性インフルエンザに対しては外科用マスク着用で対応可能とされている[26][4]
  • 換気をこまめに行う。空気清浄機などでも良い。
  • インフルエンザウイルスは湿度50%以上に加湿された環境では急速に死滅する[27]。このため部屋の湿度(50-60%)を保つことにより、ウイルスを追い出し飛沫感染の確率を大幅に減らすことが可能である。
  • また、予防効果としてのうがいが有効であると言われてきたが、厚生労働省が作成している予防啓発ポスターには「うがい」の文字がない[28][29]。また、首相官邸ホームページや報道によると明確な根拠や科学的に証明されていないとのこと[30][31]
    • ウイルスは口や喉の粘膜に付着してから細胞内に侵入するまで20分位しかかからないので20分毎にうがいを続けること自体が非現実的である。
    • ウイルスは鼻の奥で増殖するので、感染してしまった場合手洗いうがいはほとんど意味が無い。
  • 感染者が使用した鼻紙やマスクは水分を含ませ密封し、小まめに廃棄や洗濯をする。感染者と同じタオルを使用しない。感染者の触れた物をエチルアルコール漂白剤などで消毒する。
  • RNAウイルスは日光や消毒薬そしてRNaseに非常に弱いため、衣類に唾液・くしゃみなどが付着したものからの感染は科学的には考えられない[32]。が、一応こまめに洗濯した方がよい。

インフルエンザワクチン[編集]

WHOが年度のワクチン接種を推奨する人口[1]

  • 妊婦(全てのステージにて)
  • 6ヶ月以上から5歳未満の児童
  • 65歳以上の高齢者
  • 慢性疾患を抱える者
  • 医療従事者

インフルエンザワクチンは、不活化ワクチンである。インフルエンザ菌、特にHib(Haemophilus influenzae b型)に対するワクチンとの混同を避けるため、「インフルエンザHAワクチン」「沈降インフルエンザワクチンH5N1」と表記される。身体の免疫機構を利用しウイルスを分解・精製したHA蛋白などの成分を体内に入れることで抗体を作らせ、重症化を防ぐ目的に使用される。なお、インフルエンザワクチンに限ってはワクチンは接種を行っても個人差や流行株とワクチン株との抗原性の違い等により、必ずしも十分な感染抑制効果が得られない場合があり、100%の防御効果は無い[33]

現行の皮下接種ワクチンは感染予防より重症化の防止に重点が置かれた予防法であり、健康な成人でも感染防御レベルの免疫を獲得できる割合は70%弱(同時期に2度接種した場合は90%程度まで上昇)である。感染防御レベルの免疫を得られなかった者の中で発症しても重症化しないレベルの免疫を獲得している割合は80%程度とされる。100万接種あたり1件程度は重篤な副作用の危険性があることなども認識しなければならない。免疫が未発達な乳幼児では発症を予防できる程度の免疫を獲得できる割合は20-30%とされ、接種にかかる費用対効果の問題や数百万接種に1回程度は重篤な後遺症を残す場合があることを認識した上で接種をうける必要がある。2006年の米家族医学会では「2歳以上で健康な小児」への接種を推奨している[34]。 妊婦へ、妊娠中にインフルエンザワクチンを接種すると、産後に母子双方をインフルエンザ発症から保護することが示された[35]

インフルエンザワクチンの接種不適当な者[36]は、1.明らかな発熱を呈する者、2.重篤な急性疾患にかかっている者、3.本剤の成分によってアナフィラキシーを呈したことがあるのが明らかな者、4.上記に掲げる者のほか、予防接種を行うことが不適当な状態にある者である(以上、インフルエンザHAワクチン「生研」の添付文書より引用)。

循環器、肝臓、腎疾患などの基礎疾患を有するものや痙攣を起こしたことのある者、気管支喘息患者、免疫不全患者などは接種に注意が必要な「要注意者」とされる。かつてはこれらのような患者には予防接種を「してはならない」という考え方が多かったが、現在ではこれらの患者こそインフルエンザ罹患時に重症化するリスクの大きい患者であり、予防接種のメリットがリスクよりも大きいと考えられている[37]。インフルエンザワクチンは不活化ワクチンであるため、免疫不全患者に接種してもワクチンに対して感染を起こす心配はない。しかし、効果が落ちる可能性はある。

弱毒性インフルエンザワクチン[編集]

点鼻ワクチンであり、針を介さないため針を好まない人に有用である。また、生ワクチンであるが故、抗体の定着も良好。適応は5歳以上、50歳未満。禁忌は不活化ワクチンとは対照的に慢性的な循環器・腎臓・呼吸器疾患や代謝疾患、血液疾患、易感染性の者、妊娠している女性、ギラン・バレー症候群を既往に持つ者。副作用で頻繁に起こりうるのは鼻炎や感冒症状。日本では未承認である。よって輸入ワクチン取扱い医療機関にて申込み、全額自己負担での接種となる。

ワクチン投与(接種)[編集]

投与手段は皮下注射や筋肉注射であるが、米国では鼻噴霧式のものも認可されている[38][39]

効果は免疫力に比例するため青年者にはもっとも効果が高いが、若齢者・高齢者は免疫力が低いので効果も低くなる。過労、ストレス、睡眠不足や不摂生な生活をすれば身体の免疫力そのものが低下するのでワクチンを接種したから大丈夫と過信してはいけない。効果は、一般に2週間程度で効果が出始め、3カ月程度は効果があると考えられている。従って、接種2週間後までの不摂生は避けるべきである。

日本におけるワクチンの接種費用は3000〜6000円程度が多い。料金は医療機関によって異なり、健康保険の法定給付の対象外である。健康保険組合や国民健康保険組合などでは保険者独自の給付として、被保険者や世帯主に対し接種費用の助成を行う場合もある。65歳以上の高齢者、60〜64歳で心臓、腎臓若しくは呼吸器の機能に障害があり、身の周りの生活を極度に制限される人、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能に障害があり日常生活がほとんど不可能な人については予防接種法上の定期接種に指定され、多くの自治体に於いて公費助成が行われている。

2017年5月、皮膚に貼るタイプのインフルエンザワクチンを開発・人間への活用を目指すと学会で発表された[40]

ワクチン製造[編集]

日本では、インフルエンザウイルスのA型及びB型株をそれぞれ個別に発育鶏卵(鶏の受精卵)で培養し、増殖したウイルスを含む尿膜腔液をゾーナル遠心機による蔗糖密度勾配遠心法により濃縮精製後、ウイルス粒子をエーテル等により処理して分解、ホルマリンで不活化したHA画分を用い、各株ウイルスのHAが規定量含まれるよう希釈調製して製造している。2014-15シーズンまではA型2株とB型1株の3価ワクチンだったが、B型である山形系統とビクトリア系統の混合流行が続いていること、2013年WHOの推奨もあり、2015-16シーズンよりA型2株とB型2株の4価ワクチンが選定された[41]

鶏の受精卵を使用するワクチンの製造には6か月程度必要であるため、次の冬に流行するウイルス株を正確に予測し適合するワクチンを製造することは難しい。ウイルス株が変異していればその効果はいくぶん低下するが、アフィニティーマチュレーション(抗原結合能成熟)によりある程度の免疫効果が期待できる。これは弱毒性ワクチンよりも不活化ワクチンの方が効果がある[42]。抗原型の一致・不一致にかかわらずもともと免疫のない若齢者では弱毒性ワクチンの方が有効とされている[34]。感染歴のある成人では、交差免疫により生ワクチンウイルスが増殖する前に排除され免疫がつかないこともある。このような場合は、不活化ワクチンの方が高い効果が得られる。

1mLバイアルは、くり返し針を刺して注射液を分取するため、保存剤(チメロサール)を添加している。0.5mLバイアルおよびシリンジ製剤は保存剤なし(チメロサールフリー)。

副作用[編集]

インフルエンザワクチンは鶏卵アレルギーの患者にも接種の際に注意が必要である。そのため、一部の施設では接種自体行っていない。施設によっては、皮内テストなどを行った上で接種したり、2回に分割して接種する、アドレナリンおよび副腎皮質ステロイド製剤を準備した上で慎重な観察の下に接種するなどの工夫をして接種を行っている。

かつては日本でも学校で集団接種が行われていたが、同様に鶏卵アレルギーの問題のため現在は任意となっている。医療従事者向けに医療機関で実施したり、小中高校・大学などで実施する場合も、個人の意志による自発的な接種と位置づけられている[43]。2006年の報告では、インフルエンザ自体に対する集団接種の効果はある程度はある[44]ものの、費用対効果あるいはリスク対効果の点では不明である。

ギラン・バレー症候群[編集]

1976年に米国でH1N1が発生し、4300万人に予防接種を行った。約400人がギラン・バレー症候群 (GBS) となり、25人が死亡した。インフルエンザによる死亡は0のため大問題になった。1957年にも同様な現象が見られた[45]CDCによると通常でも毎週80-160例の新規患者が発生している。因果関係は明らかだが、予防接種を中止するほどの問題とはされていない(新型では11月末現在10例)。米国ではVAERS (Vaccine Adverse Events Reporting System) によるワクチン副反応監視が行われている。

治療薬の予防目的使用[編集]

2014年のコクラン共同計画による、出版バイアスを除外した臨床試験の完全なデータに基づいた分析ではインフルエンザの発症を予防するが[46]、当初の使用の理由である入院や合併症を減少させるという十分な証拠はなく、5%に嘔吐・悪心の副作用が生じ、精神医学的な副作用を1%増加させるとし、世界的な備蓄が必要なほどの恩恵があるかどうかの見直しの必要性を報告した[47]。小児では入院、重篤な合併症、肺炎のリスクの低下はなかった[46]

英国のガイドライン[編集]

英国国立医療技術評価機構の2008年の診療ガイドラインでは、オセルタミビル(タミフル)とザナミビル(リレンザ)の予防利用は、特定のリスク群の項をすべて満たす場合にのみ推奨している[48]。それ以外の場合には、季節的なインフルエンザ流行の予防に対して、オセルタミビルとザナミビルは推奨しないとしている[48]アマンタジンは、インフルエンザ予防に推奨しないとしている[48]

日本でのガイドライン[編集]

日本感染症学会の提言では、病院施設、高齢者施設においてインフルエンザが発生した場合、ワクチン接種の有無にかかわらず、同居者に対して抗インフルエンザ薬の予防的投与を行うとしている[24]

治療用の薬であるオセルタミビル(商品名「タミフルカプセル75」)、ザナミビル(商品名「リレンザ」)、ラニナミビル(商品名「イナビル」)は、予防用としても使用認可されている[24]。予防薬としての処方は日本では健康保険の適用外であり、原則的な利用条件が個別に定められている。

インフルエンザ感染症を発症している患者の同居家族や共同生活者(施設などの同居者)が下記のような場合には、タミフルのカプセル製剤を1日1回、予防使用することが認められている(7–10日間、継続して服用する)。健康成人と13歳未満の小児は予防使用の対象にならない。

  1. 高齢者(65歳以上)
  2. 慢性呼吸器疾患患者、又は慢性心疾患患者
  3. 代謝性疾患患者(糖尿病など)
  4. 腎機能障害患者

リレンザの予防投与では、その対象が「原則としてインフルエンザウイルス感染症を発症している患者の同居家族または共同生活者である次の者[49]

  1. 高齢者(65歳以上)
  2. 慢性心疾患患者
  3. 代謝性疾患患者(糖尿病等)
  4. 腎機能障害患者

オセルタミビル(タミフル)の健常者への予防投与による幾つかの有害事象が、神戸市立医療センター中央市民病院呼吸器内科により報告されている[50]274人のアンケートから、報告によれば、「最も多かった症状は「疲労」で、ほかには腹痛、下痢、食欲不振、頭痛、不眠症、発熱などであった。しかし、症状の消失は服用中止後と服用中の報告があり、服用との因果関係は明かではない」としている。

検査方法[編集]

大塚薬品販売のクイックナビ・Fluによる検査。写真ではインフルエンザA型陽性。

臨床検査技師など専門家でなくても迅速に診断が可能な検査キット[51]が2001年頃より臨床現場で使われ始め、普及している。この検査キットでは、「鼻腔吸引液」「鼻腔ぬぐい」「咽頭ぬぐい液」を用い、15–20分で判断をすることができる。A型とB型の鑑別も可能であるが、ウイルスの亜型の判別までは行えない。オセルタミビルは発症後48時間以内が非常に有効とされるため、迅速診断は非常に重要な検査方法となっている。しかし、発症した直後ではウイルス量が少ないため陽性と判定されないことがある。Chartrand C. らの報告によれば、陽性率は62.3%とされ(感染者の約6割が検出可能)[52][53]発症後18時間以内はインフルエンザに感染していてもキットで検出できない割合が高く、発症後2日目が最も陽性率が高いとされるが、発症後4-5日たつと陽性率は減少する。つまり、検査精度の問題により陰性であってもインフルエンザでないとの証明はできず、インフルエンザが疑われる症例であっても必ずしも迅速検査キットを用いた検査を行う必要はない。むしろ検査自体に苦痛があったり医療者をウイルス感染させる問題があることから、重症患者や高齢者、血液疾患や糖尿病などの健康上のリスクを抱えた患者以外には迅速診断検査を安易に行うべきではないとの専門家の意見も見られる[54]

治療[編集]

まず感染防止のため、患者を直ちに個別室に隔離する[24]英国国立医療技術評価機構(NICE)ならびに日本感染症学会の診療ガイドラインでは、発症してから48時間以内といった条件を満たした場合、ノイラミニダーゼ阻害薬の投与を行う[55][24]

NICEは、オセルタミビルかザナミビルが治療に選択されるとしている[55]。一方でNICEは、アマンタジンはインフルエンザの治療に推奨していない[55]。さらにアメリカ疾病予防管理センター (CDC) も2005年 - 2006年のインフルエンザについてアメリカではアマンタジンリマンタジン英語版を使用しないように勧告を行った(リマンタジンは日本では販売されていない)。このシーズンに流行のインフルエンザウイルスの90%以上がこれらの薬剤に耐性を得ていることが判明したためである。

2014年、コクラン共同計画英国医師会雑誌は共同で、出版バイアスを除外して24,000人以上からのデータを分析し、オセルタミビルとザナミビルは、当初の使用の理由である入院や合併症を減少させるという十分な証拠はなく、成人では発症時間を7日から6.3日に減少させ、小児では効果は不明であり、世界的な備蓄が必要なほどの恩恵があるかどうかの見直しの必要性を報告した[47]

抗インフルエンザ薬[編集]

抗インフルエンザ薬「タミフル」
抗インフルエンザ薬「イナビル」

インフルエンザウイルス自体に対する治療としては以下の通りに抗ウイルス薬が存在する。多くの場合発症後早期(約48時間以内)に使用しなければ効果が無い[24]。しかし、抗ウイルス薬により早期に症状が解消した場合、十分な免疫が得られない[56]。日本感染症学会ガイドラインでは48時間を経過した患者についても、既に軽快傾向である場合を除いて積極的投与を検討するとしている[24]

  • 塩野義製薬の新薬:S-033188
    • 経口薬。キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害作用によりウイルスが細胞内に侵入後増殖するときに使う酵素を阻害し、ウイルスが増殖できずそのまま死滅するため、1回の投与で1日以内に症状を抑える効果がある。全く新しい機序の薬である[59]

アマンタジン耐性インフルエンザウイルスや、ザナミビル(オセルタミビル)耐性インフルエンザウイルスの出現も既に報告され、アマンタジン耐性は、主に連続変異によってM2タンパク質の構造が変化することによるとされる。またザナミビルとオセルタミビルの両薬剤に耐性を持つウイルスの出現もすでに報告されている。こちらの耐性機構については、まだよく分かってはいないが、ヘマグルチニンが変異して細胞との結合力が低下して、ノイラミニダーゼの働きが弱くても細胞からの放出が行われることによって耐性を獲得する場合があることが報告されている。このような薬剤耐性ウイルスの出現に対抗するため、新薬開発の取り組みも継続されている。

2002年冬、インフルエンザが非常に流行したため抗インフルエンザ薬が不足するなどの問題が起こったことがある。

漢方薬[編集]

一部の医師は、オセルタミビル等の抗インフルエンザ薬に対する治療効果に対し疑問を持ち、漢方薬を使用した治療を研究し行っている[60][61][62]

以下のとおり一部の漢方薬には、日本においてインフルエンザ(あるいは流感)の適用を承認されているものがある。同名処方であっても薬事法に基づく製造販売承認上の効能・効果の承認内容が異なる場合がある(2008年10月現在)[63]

  • 麻黄湯 - 「悪寒、発熱、頭痛、腰痛、自然に汗の出ないものの次の諸症:感冒、インフルエンザ(初期のもの)…」との効能・効果の承認がある[64]。また、抗ウイルス薬のタミフルと同じ程度の症状軽減効果があるという報告がある[62]が、患者が気管支ぜんそくなどの基礎疾患を有していると差違が生じるとの報告もある[61]
  • 竹筎温胆湯 - 「インフルエンザ、風邪、肺炎などの回復期に熱が長びいたり、平熱になっても気分がさっぱりせず、せきや痰が多くて安眠が出来ないもの」との効能・効果の承認がある[65]
  • 柴胡桂枝湯 - 「発熱汗出て、悪寒し、身体痛み、頭痛、はきけのあるものの次の諸症:感冒・流感・肺炎・肺結核などの熱性疾患…」との効能・効果の承認がある[66]
  • 銀翹散[67]

対症療法[編集]

  • 暖かい場所で安静にして、水分を十分に摂る。空気の乾燥に気をつける。特に体を冷やさないこと、マスクを着用するなどの方法で喉の湿度を保つことが重要である。
  • 外出は避ける。うつす/うつされる機会をなるべく減らすことが大切である。
  • インフルエンザウイルスは熱に弱いので、微熱はあえてとる必要はない。熱が高く苦しい場合などには適宜、解熱剤を使用する。
  • 食事が摂取できないなどの場合は補液が必要となる。
  • 解熱に使用できる薬剤は、小児ではアセトアミノフェン(商品名:アンヒバ坐剤、カロナールタイレノールなど)に限られる。ジクロフェナクナトリウム(商品名:ボルタレンなど)やメフェナム酸(商品名:ポンタールなど)、イブプロフェンアスピリンなどの非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs) を15歳未満の小児に使用するとライ症候群を含むインフルエンザ脳症の併発を引き起こす可能性が指摘されているため、原則使用が禁止されている[68]。そのため小児のインフルエンザ治療においてはNSAIDsは使用せず、よほど高熱の時のみアセトアミノフェンを少量使用するのが現在では一般的である。市販の総合感冒薬は効果がなく、むしろ前述のNSAIDsを含むこともあり避けるべきである。

予後[編集]

感染者が他人へウイルスを伝播させる時期は発症の前日から症状が軽快してのちおよそ2日後までである[1]。症状が軽快してから2日ほど経つまでは通勤や通学は控えた方がよい[69]

疫学[編集]

インフルエンザの季節的な流行。
青は11-4月、赤は4-11月、黄色は一年中

日本における警報・注意報[編集]

国立感染症研究所が、全国の内科小児科のある病院診療所で定点調査を行い、公表している。感染症サーベイランス事業の一環として行われる。保健所ごとに基準値を設け患者数が一定数を超えると、大流行が発生または継続しているとみなし「警報レベルに達している」と発表される。流行の発生前で今後4週間以内に大きな流行が発生する可能性がある場合や流行発生後であるがまだ流行が終わっていない可能性がある場合は「注意報レベルに達している」と発表される。都道府県で個別に発表される警報とは異なるので注意が必要である。

WHOによる流行警戒水準[編集]

WHOは世界的流行(パンデミック)の警戒水準を以下に定めている[70]

  • 前パンデミック期
    • フェーズ1 - 動物のインフルエンザウイルスでヒト感染を引き起こすものは、報告されていない。
    • フェーズ2 - 動物(飼育または野生)のインフルエンザウイルスのヒト感染が知られ、ゆえにそのウイルスがパンデミックの潜在的脅威と考えられる。
  • パンデミックアラート期
    • フェーズ3 - 人々の間で、散発的にまたは(幾つかの)小規模集団において疾患が発生するが、コミュニティ・レベルの大発生を支えるほどのヒト―ヒト伝染には至らない。限定的なヒト―ヒト伝染が、ある環境(例:感染者と無防備な介護者との密な接触)で起こることはあっても、そのウイルスがパンデミック・レベルの伝染能力を得たわけではない。
    • フェーズ4 - コミュニティ・レベルの大発生の要因となるヒト―ヒト伝染が確認される。かかる事態が疑われるか確認された国は至急、WHO と相談すべきであり、状況を共同で評価し、早急なパンデミック封じ込め作戦を実行可能かどうか判断する。パンデミックのリスクの増大は重要である一方、パンデミックが当然に起こるとは限らない。
    • フェーズ5 - ヒト―ヒト伝染がWHOの同一管区の複数の国で広まる。大半の国は影響を受けていない段階だが、フェーズ5の宣言は、パンデミックが差し迫り、鎮静手段の計画を策定、伝達、実行するための時間が短いことを、強く示すものである。
  • パンデミック期
    • フェーズ6 - フェーズ5以外のWHOの管区の一国以上でコミュニティ・レベルの大発生に至る。フェーズ6の指定は、地球規模のパンデミックが起きていることを示すものである。

パンデミック指数[編集]

PSIカテゴリー

CDCはインフルエンザ・パンデミック重度指数(Pandemic severity index、PSI)を作成し、以下のカテゴリー分けが行われている。

CDC Pandemic Severity Index chart[71]
カテゴリー 致命率
1 0.1% 以下 季節性インフルエンザ、豚インフルエンザ[72][73]
2 0.1–0.5% アジアかぜ香港かぜ
3 0.5–1%
4 1.0%–2.0%
5 2.0% 以上 スペインかぜ

歴史[編集]

スペインかぜの患者でごった返すアメリカ軍の野戦病院

語源[編集]

「インフルエンザ」の語は16世紀イタリアで名付けられた。当時は感染症が伝染性の病原体によって起きるという概念が確立しておらず、何らかの原因で汚れた空気(瘴気ミアズマ)によって発生するという考え方が主流であった。冬季になると毎年のように流行が発生し春を迎える頃になると終息することから当時の占星術師らは天体の運行や寒気などの影響によって発生するものと考え、この流行性感冒の病名を、「影響」を意味するイタリア語influenzaと名付けた。この語が18世紀イギリスで流行した際に日常的語彙に持ち込まれ、世界的に使用されるようになった。なお、日本語となっている「インフルエンザ」はイタリア語での読みと違い、イタリア語での読みは「インフルエンツァ」である。

日本では平安時代に近畿地方でインフルエンザらしき病気が流行したと記述が残っており、江戸時代には幾度か全国的に流行し、「お七かぜ」「谷風」[74]「琉球風」「お駒風」など当時の世相を反映した名称で呼ばれた。古くから風邪、風疫とされるとおり、悪い風が吹いて人々を病気にするという認識があった。幕末にはインフルエンザの名称が蘭学者より持ち込まれ、流行性感冒(流感とも略す[75])と訳された[76]

インフルエンザウイルスによる動物の感染症[編集]

主に動物に感染するインフルエンザ感染症であるが、インフルエンザウイルスの変異によって動物→ヒト、ヒト→ヒトへ感染することも懸念されている。「ヒト→ヒト」への伝染が確認されると新型インフルエンザと呼ばれる。

鳥インフルエンザ[編集]

原因となるインフルエンザウイルスは人畜共通感染症 (zoonosis) であり、鳥類に感染することが知られている。ヒトインフルエンザは、元は鳥インフルエンザウイルスが遺伝子変異して人間に感染するようになったと考えられている。

これらの動物と人間が密接な生活をしている中国南部の山村などでウイルス遺伝子の混合が起こり次々と変種が登場するものと推測されている。

鳥インフルエンザウイルスには20種ほどのタイプがあり、中でもH1、H2、H3、H5、H7、H9型が知られる。H1・H3型は人間に感染し、Aソ連型・A香港型として知られる。H5、H7、H9型は毒性が強いことで知られる。鳥から人への感染力は弱いと見られ、人への感染例は少ない。しかし感染者の死亡率は60–70%とSARSの10%を上回る。

2003年末から2004年初めにかけ韓国香港ベトナム東アジアで大きな被害を出した鳥インフルエンザはH5N1型である。日本でも2004年1月に山口県で感染ニワトリが見つかったのを皮切りに、各地で鳥類への感染が報告されている。

日本で1925年に同様の被害を出したものはH7型といわれている。

ウマインフルエンザ[編集]

ウマに感染する呼吸器疾患。発見されると競馬の開催が不可能になることが多い。 日本国内での馬インフルエンザは1971年12月に発見され、関東地区を中心に流行。 それ以来競走馬へのワクチン接種が徹底されている。馬から人への感染はしない。

ネコインフルエンザ[編集]

猫インフルエンザは「インフルエンザ様の呼吸器疾患」であり、猫インフルエンザウイルスによるものではない。 ネコヘルペスウィルス1型が原因の猫ウィルス性鼻気管炎猫カリシウイルスが原因の猫呼吸器疾患を、インフルエンザと症状のみで誤称したものである。 ただしA型インフルエンザウイルスH5N1亜型ヒトトリを始めネコにも感染する。

ブタインフルエンザ[編集]

2009年4月、人が豚インフルエンザウイルスA型(H1N1型)に感染する例が確認された[77]

関連の感染症[編集]

SARS[編集]

2002年から国際的に問題となった重症急性呼吸器症候群 (SARS) と流行時期・初期症状が類似しているため、2003年冬以降はSARSとの鑑別診断が大きな問題となる。初期に確実な診断をするためにも、接種を受けることでインフルエンザを除外しやすくすることが強く求められている。

SARSの原因はSARSコロナウイルスという全く別のウイルスである。

インフルエンザ菌[編集]

インフルエンザウイルスによる感染を細菌の感染と混同し、「インフルエンザ菌」という誤った呼称で用いられることがある。

一方で、北里柴三郎らが1892年に重症のインフルエンザ患者から分離したヘモフィルス・インフルエンザエ (Haemophilus influenzae) という細菌を「インフルエンザ菌」と呼ぶ(グラム陰性桿菌であり「インフルエンザ桿菌」とも呼ばれている)。院内感染でない市中肺炎の原因菌は、肺炎球菌に次いでインフルエンザ菌であることが多い。

当時はウイルスというものの存在は広く認知されておらず、ヘモフィルス・インフルエンザエという細菌がインフルエンザ感染症を引き起こしている病原体の候補であると考えられたが、コッホの原則に基づく証明ができなかった。1933年にインフルエンザウイルスこそが真の病原体であると証明されたことで、この細菌が病原体であるという仮説が否定された。ヘモフィルス・インフルエンザエはインフルエンザウイルスに感染し免疫力が低下した人に二次感染して症状を悪化させていたことが原因であったと考えられる。

インフルエンザ桿菌B型 (Hib) の乳幼児感染症は致死率や後遺症発生率が高いが、予防接種(Hibワクチン)で感染を防ぐことが出来る。世界100か国以上でHibワクチンは定期接種プログラムに組み入れられ、公費負担による接種が行われている。日本では、2007年1月に厚生労働省の承認を取得し、2008年12月から発売されている。

脚注[編集]

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参考文献[編集]

診療ガイドライン

関連項目[編集]

外部リンク[編集]