シキミ

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シキミ
花を付けたシキミ、養老山地(岐阜県海津市)にて、2013年3月25日撮影
花を付けたシキミ、岐阜県海津市、2013年3月
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
: アウストロバイレヤ目 Austrobaileyales
: マツブサ科 Schisandraceae
: シキミ属 Illicium
: シキミ I. anisatum
学名
Illicium anisatum L.[1]
和名
シキミ
英名
Japanese star anise

シキミ(樒、櫁、梻、学名Illicium anisatum L.[1])は、マツブサ科シキミ属分類される常緑小高木-高木の1[2]。有で、実の形状は中華料理で多用される八角に似ることから誤食されやすい危険な毒草の一つ[3]。仏事に用いるため寺院に植栽される。別名「ハナノキ」「ハナシバ」「コウノキ」「コウシバ」「コウノハナ」「仏前草」[2][4][5]

特徴[編集]

常緑樹で、高さは10メートル程度、胸高直径は30センチメートルとなる。樹皮は暗い灰褐色になり、老木になると縦の裂け目を生じる。若枝は緑色。

は、枝の先端に集まってつき、短い葉柄を持つ楕円形から倒卵形を帯で、長さ5-10センチメートル、深緑色でつやがある。葉の質はやや厚く、何となく波打ったようになることが多い。葉の先端は急に突き出して鈍端。

は葉の付け根から一つずつ出て春に咲く。花びらは淡黄色で細長く、ややねじれたようになる。果実は扁平で周囲に8本の突起が出ている。上面が裂開し種子が出る。種子は褐色でつやがあり、小さいドングリを押しつぶしたような形をしている。

毒性[編集]

花や葉、実、根、茎の全てが毒成分を持つ。なかでも種子はアニサチンが多く含まれ、食用すると死亡する可能性がある[6]。実際、下記のように事故が多いため、シキミの実は植物としては唯一、毒物及び劇物取締法により劇物に指定されている[7]

シキミの種子は、ややシイの実に似ている(なれていれば間違えない程度)ため、誤って食べて死亡した例がある。また、後述するように、スパイスの一種であるトウシキミの果実(八角)がシキミの果実に非常によく似ているため、シキミの果実をトウシキミの果実と誤認して料理に使用し食べることで中毒を起こす事故が多い[6][8]。また、第二次世界大戦以前はシキミの果実を実際に「日本産スターアニス」として出荷し海外で死亡事故などが発生している[9][8]

中毒症状は、嘔吐、腹痛、下痢、痙攣、意識障害等で、死亡事例も多い[8]

他の動物においても、シキミは毒として働く。たとえば、放牧されるウシは、毒性のある草を選択して食べないことが多いが、シキミに関しては誤食して死ぬ可能性があると指摘されている[10]。また、シキミは、ニホンジカの食害を受けにくく、不嗜好性植物リストにも挙げられている[11]。ただし、安芸の宮島サルは、シキミの種子を食べるという[12]

近縁のトウシキミ Illicium verum には毒成分が無く、果実を香辛料(スターアニス、八角(はっかく)または大茴香(だいういきょう)という)として用いるが、日本には自生していない。

成分[編集]

アニサチン[編集]

毒成分は、1881年にEykmanによって「シキミン(Shikimin)」として精製された後、1952年にLaneらによってアニサチンが単離された[13]。また、アニサチン誘導体であるデオキシアニサチンなども単離されている[14]

シキミ酸[編集]

1885年ヨハン・エイクマンによってシキミの果実からシキミ酸 (Shikimic acid) が発見された[15]。その後の研究で、ほとんどの植物において、シキミ酸経路によって芳香族アミノ酸が生合成されることがわかっている。また、タンニンの主要成分である没食子酸の前駆体でもある。シキミ酸は、シキミ属(トウシキミ等)のほか、コンフリーやイチョウにも多く含まれていると報告されている[16]

精油成分[編集]

シキミの葉には芳香があり、水蒸気蒸留により精油が採れる。GC/MSの分析結果によると、1,8-シネオールサフロールなどがその主成分と推定されている[17]

分布と生育環境[編集]

温暖帯の山地に生育するシキミ

中国台湾大韓民国済州島)と日本に分布する[4]

日本では本州宮城県石川県以西)、四国九州沖縄に分布する[4]

温暖帯の山地にやや普通に生育する[2][4]

日本文化と“シキミ”[編集]

古くから日本人になじみの深い植物であり、万葉集をはじめ、いくつかの和歌集で確認されている。

  • 奥山の しきみが花の 名のごとや しくしく君に 恋ひわたりなむ (「万葉集」巻20-4476)
  • しきみおく あかのをしきの ふちはなく 何にあられの 玉と散らまし (「山家集」下)
  • あはれなる しきみの花の契かな ほとけのためと 種やまきけん (「夫木和歌抄」)

また、「枕草子」や「源氏物語」にも登場し、前者ではその香りが称賛されている。

  • 帯うちして、拝み奉るに、「ここに、つかうさぶらふ」とて、しきみの枝を折りて持て来たるは、香などのいと尊きもをかし。 (「枕草子」116段)
  • 濃き青鈍の紙にて、しきみにさしたまへる、例のことなれど、いたく過ぐしたる筆づかひ、なほ古りがたくをかしげなり。 (「源氏物語」若菜下の巻)

名称に関して[編集]

  • 地方によりシキビハナノキカエデ科にも別にハナノキがある)、コウノハナなどともいう。
  • 学名には、リンネが命名したIllicium anisatum L.と、シーボルトが命名したI. religiosum Sieb. et Zucc.("religiosum"は「宗教的な」という意味)が存在するが、リンネのものが有効となっている。
  • シキミの語源は、四季をとおして美しいことから「しきみ しきび」となったと言う説、実の形から「敷き実」とする説、重(しげ)く実をつけるとする説、あるいは有毒なので「悪しき実」からともいわれる[18]
  • 中国では莽草拼音: mǎngcǎo)、厳密には日本莽草拼音: rìběn mǎngcǎo)と呼ばれている。生薬としては日本でも莽草(ボウソウ)の名称を使う。
  • 平安時代の神楽歌の中に「榊葉の香をかぐわしみ求めくれば…」とあることから、シキミは古くは神事用の常盤木(ときわぎ)であるサカキの一つとして、神仏両用に使われたと考えられている。[19][18]。現在でも京都市の愛宕神社などの神事にはシキミが使われている。

伝承[編集]

シキミのイラスト
  • 日本特有の香木とされるが、『真俗仏事論』2には供物儀を引いて、「樒の実はもと天竺より来れり。本邦へは鑑真和上の請来なり。その形天竺無熱池の青蓮華に似たり、故に之を取りて仏に供す」とあり、一説に鑑真がもたらしたとも言われる。
  • 空海青蓮華の代用として密教の修法に使ったとされる[20]。青蓮花は天竺の無熱池にあるとされ、その花に似ているので仏前の供養用に使われた。密教では、葉を青蓮華の形にして六器に盛り、護摩の時は房花に用い、柄香呂としても用いる。
  • 和歌山県伊都郡かつらぎ町花園では、各枝に8弁の葉があるシキミを空海が植えたとされており、八葉の蓮華にちなみ、「八葉のシキミ」と呼ばれていた。しかし、このような珍しい特徴を持つシキミは、大正初期に枯死又は紀州大水害で流出し、現存しないと考えられている。なお、地名である花園の「花」は、シキミに由来すると考えられている[20]
  • 年中継続して入手できるため、日本では、俗古来よりこの枝葉を仏前墓前に供えている。古くから、シキミの枝を墓前に挿すと、オオカミ等の獣が(土葬の)墓を暴くのを防ぐと信じられていた[21]
  • 茎、葉、果実は共に一種の香気があり、日本特有の香木として自生するシキミを用いている。葉を乾燥させ粉末にして抹香[4]線香[4]・丸香としても使用する。シキミには毒気があるが、その香気で悪しきを浄めると言われている。
  • 葬儀には枕花として一本だけ供え、末期の水を供ずる時は一葉だけ使う。納棺に葉などを敷き、臭気を消すために用いる。人は亡くなると、魂が枕元の枝を片手に熊野へ参り、阿弥陀寺の釣鐘を撞いてからあの世に旅立つといわれ、その様は「亡者の熊野詣」と言い伝えられている。

脚注[編集]

[脚注の使い方]
  1. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “シキミ”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2017年12月15日閲覧。
  2. ^ a b c 林 (2014)、91頁
  3. ^ かざまりんぺい、えひまかみつる『完全図解冒険図鑑 大冒険術』株式会社誠文堂新光社、2004年、67ページ、ISBN 4-416-80502-0
  4. ^ a b c d e f 林 (2011)、200頁
  5. ^ 小野蘭山「本草綱目啓蒙」巻13 (1803)
  6. ^ a b 東京都薬用植物園. “トウシキミ(八角)とシキミ(有毒)”. 東京都健康安全研究センター. 2013年4月15日閲覧。
  7. ^ 毒物及び劇物指定令(昭和40年政令第2号)第2条第1項第39号「しきみの実」
  8. ^ a b c 独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所 (2012年12月7日). “シキミ”. 独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構. 2013年4月15日閲覧。
  9. ^
    従来我国から輸出先の一番大手筋は印度新嘉坡方面であったが、今春新嘉坡政庁は日本品の輸入を禁止した。その原因は英国の守備兵が三人茴香の中毒で死んだのが発端だと伝えられているということであった。……
    (三十一年〔昭和1956年〕九月 『塩野香料商報』)

    青木正児(「八角茴香」『中華名物考』 平凡社東洋文庫〉479、1988年、p.251より)

  10. ^ 有毒植物およびウシが食べない植物(公益社団法人山口県畜産振興協会・山口型放牧研究会ホームページ)2014年11月22日閲覧
  11. ^ 橋本、藤木 "日本におけるニホンジカの採食植物・不嗜好性植物リスト" 人と自然 25 133-160 (2014)
  12. ^ 金井塚務『宮島の植物誌』東洋書店、1998年、103頁。ISBN 4885952204
  13. ^ Lane et al. "On the toxin of Illicum anisatum. I. The isolation and characterization of a convulsant principle: Anisatin", J. Am. Chem. Soc. 74 3211-3215 (1952)
  14. ^ 中村ほか "シキミ有毒成分アニサチンとデオキシアニサチンの瞬導体ノルアニサチンとノルデオキシアニサチンの部分構造" 日本化學雜誌 87 171-179 (1966)
  15. ^ L.B.Enrich et al.,"Liquidambar styraciflua:a renewable source of shikimic acid" Tetrahedron Letters,49,2008,p2503.
  16. ^ Bochkov et al., "Shikimic acid: review of its analytical, isolation, and purification techniques from plant and microbial sources" J. Chem. Biol. 5 5-17 (2012)
  17. ^ 藪内 ほか, "未利用資源を虫よけ剤に活用するための研究" 平成30年度和歌山県工業技術センター研究報告, 28 25-27 (2019)
  18. ^ a b 木下「和漢古典植物名精解」和泉書院 (2017)
  19. ^ 堀田「世界有用植物事典」(平凡社)
  20. ^ a b 仁井田好古(編)「紀伊続風土記」高野山之部
  21. ^ 朝川善庵「善庵随筆」(1850)

参考文献[編集]

  • 北村四郎・村田源、『原色日本植物図鑑・木本編II』、(1979)、保育社、ISBN 4-586-30050-7
  • 林弥栄『日本の樹木』山と溪谷社〈山溪カラー名鑑〉、2011年11月30日、増補改訂新版。ISBN 978-4635090438
  • 林将之『樹木の葉 実物スキャンで見分ける1100種類』山と溪谷社〈山溪カラー名鑑〉、2014年4月15日、山溪ハンディ図鑑14。ISBN 978-4635070324

関連項目[編集]

外部リンク[編集]