美女と野獣 (1991年の映画)
美女と野獣 | |
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Beauty and the Beast | |
監督 |
ゲーリー・トゥルースデイル カーク・ワイズ |
脚本 | リンダ・ウールヴァートン |
製作 | ドン・ハーン |
製作総指揮 | ハワード・アッシュマン |
出演者 |
ペイジ・オハラ ロビー・ベンソン |
音楽 | アラン・メンケン |
編集 | ジョン・カーナカン |
配給 | ブエナ・ビスタ |
公開 |
1991年11月22日 1992年8月20日 1992年9月23日 1992年10月9日 1992年10月21日 1992年12月2日 |
上映時間 |
劇場公開版:84分 アイマックス公開版:92分 |
製作国 | アメリカ合衆国 |
言語 | 英語 |
製作費 | $25,000,000[1] |
興行収入 | $377,350,553[1] |
次作 | 美女と野獣 ベルの素敵なプレゼント |
『美女と野獣』(びじょとやじゅう、原題:Beauty and the Beast)は、フランスの民話「美女と野獣」(J・L・ド・ボーモン夫人版)を元に1991年に制作されたディズニーの長編アニメーション作品である。日本での公開は1992年9月。また、2002年にはIMAXシアター向けに同作品を作り直して上映、2010年にはディズニーデジタル3-D版が上映された。
概要
アニメ映画史上初のアカデミー賞作品賞ノミネート作品(第64回)である(第82回アカデミー賞で「カールじいさんの空飛ぶ家」がノミネートされるまでは、この作品が唯一であった)。また、作曲賞と歌曲賞を受賞した。
アメリカでは1992年10月30日にホームビデオが発売され、1週間で700万本、1ヶ月で1420万本という売上を記録し、当時1300万本余を販売していた『ファンタジア』を上回る当時の米国記録を達成した[2]。
日本では1993年9月17日にブエナビスタジャパンからビデオが発売された。日本で初めて、セルビデオ(販売用ビデオテープ)のみで100万本を出荷した作品となった[3]。それまでの記録は『ファンタジア』の80万本(レーザーディスクを含めるとミリオンセラー)であった。本作の日本でのセルビデオ累計出荷本数は115万本[4]。
2009年に『エンターテイメント・ウィークリー』誌が発表した「1983年以降に製作された恋愛映画の名作25本」では、第25位に選出された。[5]
IMAX版では大画面の観覧に耐えるよう、細かい部分で書き足しなどを行っている。また最初の上映時には無かった「人間に戻りたい」などの家来たちの心情をアニメーション化するなど、一部シーンが追加されている。エンディングテロップもスクロールではなく、全面表示の切り替わりとなっており、IMAX向けに丁寧に作られていた。それらは後にDVD版として発売された。
ウォルト・ディズニーは1950年代からこの作品をアニメ化する構想を練っていた。当時の構想は原作の民話やボーモン夫人の話に近いものだったが、最終的に頓挫している。
2010年には『ディズニーデジタル3D』としてオーストラリアやスペイン、日本(2010年10月9日公開)などで公開された。なお、3D版はアメリカでは2012年1月13日に公開されている。
注意:以降の記述には物語・作品・登場人物に関するネタバレが含まれます。免責事項もお読みください。
ストーリー
森の奥にある城にとても傲慢な王子が住んでいた。ある日の夜、醜い老女が城を訪ね、一輪のバラをあげるかわりに城に一晩泊めてほしいと頼む。しかし王子はそれを断り、老女がもう一度頼んでも王子は聞く耳を持たず、追い返そうとした。するとその瞬間に老女は美しい魔女に変わり、優しい心を持たない王子と、王子をそのように育てた召使いたち、さらにその城全体に魔法をかけてしまう。そして王子は恐ろしい野獣の姿に、召使いたちは家財道具の姿になってしまった。魔女はどんな物をも映し出す魔法の鏡、そして初めに見せた一輪のバラの花を置き、消えていった。そのバラの花びらが全部散るまでに、王子が人を愛し人に愛されるという「真実の愛」を見つけなければ、王子たちにかけられた魔法が解けることはない…。
一方、街の発明家モーリスの娘・ベルは街一番の美貌の持ち主で、読書と空想が大好きな父親想いの娘だった。ある日、モーリスは父の発明を心から応援するベルに見送られ、街の発明大会へ一人向かう。今度こそ1位を獲るのだという希望を胸に。
そんな中、彼女に街一番の狩人ガストンがベルに結婚を申し込む。ところが高慢で意地悪な性格であるガストンは、ベルの気持ちも確かめずに一方的に繰り返し、結婚を迫るのだった。
ガストンの執拗なアタックに疲れてしまったベルは草原を歩く。そこへ、モーリスの馬が慌てた様子で走ってくる。父に何かあったのでは…と一人父を探しに出かけるベルがたどり着いたのは、野獣に変えられた王子が住む城だった。モーリスが王子に捕らわれていたことを知ったベルは、自分と引き換えに父を解放してほしいと王子に頼む。こうしてモーリスは城から解放され、ベルは王子と共に暮らすことになった。
最初のうちは礼儀を知らないわがままな王子に手こずるベルだったが、やがて一人城を飛び出して野生の狼に襲われたところを王子に助けられたことがきっかけで、王子と心を通わせるようになる。また、王子もベルと触れ合ううち、徐々に優しい心を身につけていき、自分を恐れず一緒にいてくれるベルに想いを寄せるようになり、いつしか二人は惹かれあうようになっていた。しかし、王子が貸してくれた魔法の鏡によってモーリスの病気を知り心配するベルを見て、自分がベルを愛していることに気付いた王子は「ベルをいつまでも閉じ込めていてはいけない」と考え、ベルに魔法の鏡を贈って城から解放し、街へ帰すのだった。
街へ戻ってきたベルは、ガストンがモーリスを利用してベルと結婚しようと画策しており、ベルが結婚に応じるまでモーリスを無理やり入院させようとしていたことを知る。ベルはガストンの求婚を拒絶し、モーリスが「娘が野獣に捕らわれた」と町民に話していたのを知ると、父の発言が正しいことを証明するため、魔法の鏡で野獣の姿をガストンに見せた。ところが、これを見たガストンはベルが野獣を好いていることに気づき、町の人々を煽動して野獣を討とうと城へ向かう。それを知ったベルは、王子を助けようと再び城へ戻る。
大半の町民はルミエールたちの奇策によりあえなく敗走する。しかしガストンだけは、ベルと別れた悲しみに浸る野獣を見つけ出し、戦いを挑む。始めこそ戦意など微塵も無かった王子だが、駆けつけたベルに気づいた瞬間立ち上がり、ベルを巡って戦いを始める。王子は圧倒的な体力で優勢となり、ついにガストンを降参にまで追い込む。ようやく王子のもとへたどり着いたベルと再会の喜びを分かち合うものの、卑劣にもガストンによって背後から剣を突き立てられてしまう。しかしガストンはそのまま足を滑らせて城から転落し死亡する。
王子はベルの介抱を受けるも、まもなくベルへの愛を言葉にしながら命を落とす。いよいよバラの最後の花びらが散る寸前、ベルは野獣を抱きしめて伝えた。「愛してるわ…」その時だった。ベルと王子のまわりを不思議な光が包む。そして、次の瞬間…。
登場キャラクター
詳細は各キャラクターの記事を参照。
- ベル
- 物語のヒロイン。容姿も心ばせも美しい娘。本の虫で、町の人からは少々風変わりな娘だと思われている。父モーリスがビーストの城で捕らえられ、父の身代わりとして自分が城で暮らすことを決める。そして、短気で乱暴だが根は優しいビーストと次第に心を通わせ、ついに結ばれる。「ベル」とはフランス語で「美しい」という意味。
- 野獣(ビースト)
- 呪いをかけられ、醜い野獣の姿となった王子。魔法のバラが全て散るまでに「真実の愛」を見つけなければ人間の姿に戻ることができないという呪いを掛けられている。絶望の内に日を送っていたが、ある日偶然捕えたモーリスの身代わりとなったベルと城で過ごす内に人間としての感情を取り戻してゆき、最後はベルの愛によって呪いから解き放たれ彼女と結ばれる。イノシシ、クマ、オオカミなどの動物をあわせたデザインになっている。
- ルミエール
- 城の給仕頭で、呪いで蝋燭の姿になっている。ゲストのもてなしが得意。スマートで陽気、城の中に敷かれた規則を気にしない大らかな性格からコグスワースから文句を言われることも。あせると蝋燭がとける。
- コグスワース
- 城の執事頭で、呪いで時計の姿になっている。生真面目で口うるさい性格のためにこの姿になったようだ。時計の針がくるくる回る。
- ポット夫人
- 城のメイド頭で、呪いでポットの姿になっている。優しく温かい性格で、ベルには母親のように接する。
- チップ
- ポット夫人の子供。呪いでティーカップの姿になっている。モーリスのおひげにくすぐったがる。ベルを好いていつも傍にいたがる。同じ姿の兄弟が何人もいる。
ミュージカル版ではカップの中にコーヒー豆がはいっている。
- フェザーダスター
- ルミエールの恋人。呪いで羽根ばたきの姿になっている。ラストでベルと人間の姿に戻ったビーストがダンスをしているとき、ルミエールの目の前を通っていく。
- ワードローブ
- 呪いで洋服ダンスの姿になった女性。元の姿はラストシーンの後姿のみしかでてきていない。
- モーリス
- ベルの年老いた父で発明家をしている。森で狼に襲われて道に迷い、辿り着いたビーストの城で暖を求めたがビーストに一蹴されて牢屋に入れられる。その後かけつけたベルが代わりに捕らえられたことで解放され、一方的に城から追い出されてしまう。病気で体が弱い。
- ガストン
- ハンサムで力持ちな町のリーダー的存在。狩りの名人で女性にも人気がある。一見すると良い男だが、内面は野獣そのもので、乱暴で教養は低く、ナルシストで傲慢な性格をしている。ベルの美貌に惚れ込んでいるが、ベルからはその性格の悪さから嫌がられている。力ずくでベルと結ばれるよう陰謀をめぐらすが、最期は殺そうと迫った野獣の城から転落してしまう。東京ディズニーランドのイベントにも登場。
- ル・フウ
- ガストンの手下で、いつもガストンについて回っている小太りの男。茶目っ気がありどこか憎めないが、ガストンのためなら何でもする。
声の出演
- ベル:ペイジ・オハラ (吹き替え:伊東恵里)
- ビースト:ロビー・ベンソン (吹き替え:山寺宏一)
- ルミエール:ジェリー・オーバック (吹き替え:江原正士、歌:若江準威知)
- コグスワース:デビッド・オグデン・ステイアーズ (吹き替え:熊倉一雄)
- ポット夫人:アンジェラ・ランズベリー (吹き替え:福田公子、歌:ポプラ)
- チップ:ブラッドレイ・マイケル・ピアース (吹き替え:山口淳史)
- モーリス:レックス・エバーハート (吹き替え:あずさ欣平)
- ガストン:リチャード・ホワイト (吹き替え:松本宰二)
- ル・フウ:ジェス・コルティ (吹き替え:中丸新将)
- ワードローブ:ジョー・アン・ウォーリー(吹き替え:近藤高子、歌:白石圭美)
- フェザーダスター:キミー・ロバートソン(吹き替え:横尾まり)
- ダルク:トニー・ジェイ(吹き替え:渡部猛)
- 本屋:アルヴィン・エプステイン(吹き替え:矢田稔)
- ナレーター:デビッド・オグデン・ステイアーズ (吹き替え:鈴木瑞穂)
スタッフ
- 製作:ドン・ハーン
- 監督:ゲーリー・トゥルースデイル、カーク・ワイズ
- 製作総指揮:ハワード・アッシュマン
- 脚本:リンダ・ウールヴァートン
- 作詞:ハワード・アッシュマン、アラン・メンケン
- 作曲:アラン・メンケン (アカデミー作曲賞受賞)
- 主題歌:「Beauty and the Beast」(アカデミー歌曲賞受賞)
原作との違い
この作品は原作の民話やボーモン夫人の『美女と野獣』とは大きくストーリーが異なり、現代的なフェミニズム要素を含むストーリーになっている。有馬哲夫は著書『ディズニーの魔法』[6]において、この違いを詳しく記している。原作では試練のもと成長するのはベルであり、外観ではなく中身の大切さを学び美徳に磨きをかけるが、本作では成長するのは野獣であり、粗暴さを改め、女性を尊重して愛することを学ぶ。野獣は心を入れ替えていくのに対し、ガストンは悔い改めないセクシストであるとしている。
原作にはガストンのような粗暴な求婚者は存在しないが、ジャン・コクトーの映画『美女と野獣』(1946年)では似たような役割の男性が登場する。また原作では「ベル」というのは彼女の本名ではなく、「美女」という意味のあだ名である。本名は作中では明かされない。
性差別内容に対する批判
本作の3年前に制作された『リトル・マーメイド』において、ディズニー社はヒロインの人魚姫アリエルに海の世界の友達や家族を捨てさせ、白人の王子の下に駆け落ちさせるラストを与え、多くの女性団体から抗議を受けている。
「ディズニーによる原作原典の改竄」の一環としての識者からの多くの批判と併せ、「ヒロインが最終的には男性の下で結婚し、幸せになる」というディズニー映画の普遍のパターンは、女性の生き様を狭く限定するものとして、絶えず受け続けている批判である。この『リトル・マーメイド』での各方面からの抗議に対し、ディズニー社は以後の作品では「より慎重に女性の役割について考える」と公式に約束した。こうして制作された本作では、ディズニー社は脚本家に女性を起用し、主人公のベルの性格設定について「現代的な女性で、活動的なフェミニストにした」と表明、公開された。
人権団体「New Internationalist(NI)」は、ディズニー映画の性差別主義的内容に対し、それが幼い子供たちを観客主体とすることによる危険性について、長年批判と抗議を行ってきている。「NI」は、この映画での「野獣」が、民話や原作と異なって乱暴な人物にされており、この荒れ狂う「野獣」が、ヒロインのベルの愛情によって「心を入れ替えていく」という内容に改竄されているとして、「これは若い女性への別の危険なメッセージです。ベルが現実世界の人間なら、彼女はほぼ確実に夫から虐待を受ける妻になるでしょう」と警告、批判を行っている。
「NI」や、やイスラエルの人権団体「Haaretz」 は、ディズニーの主人公ベルに対する「フェミニストとしての性格付け」が、「単に読書好きのキャラクター」になっただけであって、「結局は父親のために自己を犠牲にする旧態依然のディズニーヒロインである」としている。
また、登場直後は「教育を受け独立した女性」だったベルが、結局は映画の展開の中で「人生における目標は、良い夫を見つけることである」とするただの女性になってしまっており、何の反省もないディズニーのいつものステレオタイプな性差別指向であるとして批判している[7] [8] 。
派生作品
脚注
- ^ a b “Beauty and the Beast (1991)”. Box Office Mojo. 2010年1月8日閲覧。
- ^ 「ディズニーのアニメ『美女と野獣』 販売史上最高」『日経産業新聞』1992年12月9日、3面。
- ^ 「『美女と野獣』がミリオンセラー」『日経産業新聞』1993年12月6日付、7面。
- ^ 日経BP社技術研究部 『進化するアニメ・ビジネス―世界に羽ばたく日本のアニメとキャラクター』日経BP社、2000年、42頁。ISBN 4822225542
- ^ 最近25年間の恋愛映画の名作25本、第1位はあの大ヒット映画 「eiga.com」2009年3月4日配信
- ^ (新潮社[新潮新書]ISBN 4106100444, 2003年)
- ^ 『ディズニー映画は反ユダヤ主義と人種差別を促進しているのか?』(Haaretz、2009年8月17日付記事)
- ^ 『The Disneyfication of Folklore: Adolescence and Archetypes』(Wendy Friedmeyer、2003年)
- ^ 組踊公演「宿納森の獅子」 - 国立劇場おきなわ
- ^ 沖縄県立芸術大学 音楽学部 琉球芸能専攻
関連項目
- ガーゴイルズ
- 1994年にディズニーが制作したテレビアニメ。本作の正式な半リメイク作品である。全体的なストーリーのプロットはほぼ同じで、本作と同様に傲慢な王女のために城に呪いがかけられてしまうなど、共通点が多い。主人公のゴライアスの外見と内面も野獣に酷似したものとなっており、野獣になる前の王子にそっくりな性格のキャサリン王女なども登場している他、ポット夫人やチップにそっくりな母子のメリーとトムが登場しており、苦悩する王女を励ますという本作を連想させる行動をとっている。本作の流用シーンとして、ゴライアスとエリサ・マーザがエリサがベルと同じドレスを着てダンスを踊るシーンも描かれている。
- ただし、野獣=ゴライアスとベル=エリサとでは立場が全く逆で、本作ではなんとかベルの好意を得ようとする野獣と野獣を警戒してしまうベルという関係であるが、『ガーゴイルズ』ではなんとかゴライアスの信頼を得ようとする人間のエリサに対し、警戒心と恐怖心を抱いてしまう魔物のゴライアスという関係となっている。また、登場人物の一人デモーナは最初から主人公と同じ城に住んでおり、親友同士で自分からプロポーズして結婚し、子供をもうけたということになっており、映画「美女と野獣」で人権団体から受けたベルに対する性差別批判を意識したキャラクターとなっている。
- Kinect: ディズニーランド・アドベンチャーズ - ベルや野獣なども登場するゲーム。