国鉄711系電車

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国鉄711系電車
711系100番台(S-101 + S-117編成)
(2009年1月 / 白石 - 苗穂間)
主要諸元
軌間 1,067
電気方式 交流単相20,000V (50Hz)
架空電車線方式
最高運転速度 110
起動加速度 1.1
減速度(常用) 2.5
編成重量 112.6t
主電動機 直流直巻電動機
MT54A - MT54E形 (150kW)
駆動方式 中空軸平行カルダン駆動
歯車比 4.82
制御装置 サイリスタ位相制御
制動装置 電磁直通空気ブレーキ
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国鉄711系電車(こくてつ711けいでんしゃ)は、日本国有鉄道(国鉄)が1967年昭和42年)に設計・開発した、日本初の量産交流近郊形電車

概要

函館本線の電化事業と並行して、徹底した耐寒耐雪機能を考慮して開発された北海道内初の国鉄電車である。

本系列以前の本州 - 九州向け在来線交流対応電車は直流電化区間との直通運転を行うためすべて交直両用であったが、本系列は在来線営業車初の交流専用[1]で設計され、かつ1M方式[2]を採用した量産車となった。

1967年(昭和42年)に試作車2編成4両が完成し、各種試験が行われた。量産車は1968年(昭和43年)から製作され、同年8月28日の小樽 - 滝川電化開業時に営業運転を開始した。1969年(昭和44年)の旭川電化、1980年(昭和55年)の千歳線 - 室蘭本線室蘭 - 沼ノ端電化と道内の電化区間が延長される度に増備された。

汎用的に使用できる車内設備を有し、普通列車のみならず「かむい」「さちかぜ」急行列車にも使用された。

1987年(昭和62年)の国鉄分割民営化では全車が北海道旅客鉄道(JR北海道)に承継されたが、後継の721系 - 731系の製作により、1990年代後半からは淘汰が進んでいる。

構造

S107編成(旧塗色)
S51編成(新塗色、1986年)
(先頭車前側縦どいは埋め込み)
運転台の様子

※ここでは量産車の仕様について記述する。試作車ならびに後年の改造内容については後述する。

車体

側面方向幕

構体は普通鋼製で、1,000mm幅の片開き引戸を車体両端の片面2か所に配する。客室と出入口を扉で仕切ったデッキを備え、455系などの急行形電車に類似する構造である。客室窓は1,080mm × 680mmの1段上昇式で、内外2組の窓枠をもつ二重窓[3]とし、内側の窓枠をFRP製とするなど、冬季の車内保温を重視した構造をもつ。

電動車モハ711形には、大容量の「雪切り室」が客室内2位、3位側の2か所に設置されており、吸気口も車体側面の高い位置にある。これは主電動機冷却のための外気を一度室内に導いたうえで雪を分離し、機器類への雪の侵入を防ぐためのものである。雪切り室と主電動機の間は床下の風洞と蛇腹でつながれている。

特急用として北海道に導入された485系1500番台が北海道の雪による故障続発で撤退したのに対し、北海道用に設計された711系などは冷却空気系に負圧を生じない設計を貫き、北海道特有の細かい粉雪の進入を防いだことで安定運用となった。本州に引き取られた485系1500番台はその後、正常に運行している。

電動機冷却用の風洞は床下の空間に設けられ、断熱材を収容する必要もあるため、床面は内地向け車両に対して50mm(レール面基準)高い位置にある。床面高は電動機を持たない制御車クハ711形も同一寸法とされ、このため前面の運転台窓・貫通扉種別表示器は本州向け電車より高い位置となっており、屋根から前頭部へかけての傾斜も無い。

前照灯シールドビームを正面中位の左右に各1灯、標識灯タイフォンは正面下位に設ける。灯火類は国鉄電車の規定位置にあるため、相対的な取付位置は低く見え、標準的な「東海形」の前面とは印象が異なる[4]。前部の排障器(スカート)はエゾシカヒグマなどの大型動物や、氷塊との衝突を考慮し、耐衝撃性を向上した大型のもので、板厚も厚くなっている。

車両間の貫通幌は車体側と幌枠側の両方に固定用クランプを持つ独特の仕様[5]で、国鉄新性能電車では唯一のものである。

外部塗色は車体全体を赤2号えんじ色)、先頭車の前面下部をクリーム4号とした配色であったが、1985年(昭和60年)から塗色変更が実施され、明るめの赤1号の地色に、前面と側面窓下にクリーム1号の帯を配したものに変更された。室内の化粧板も内地向け近郊形のような淡緑ではなく、新幹線0系特急急行用車両などと同じ薄茶色4号である。

車内設備

車内の様子(クハ711-210) 車内の様子(クハ711-210)
車内の様子(クハ711-210)

地域輸送を主用途とする近郊形として設計された車両であるが、座席配置は車端部分のみにロングシートを設けるセミクロスシートである。当初から急行列車での運用も考慮したため、クロスシート部の座席形状や 1,470 mm のシートピッチ、窓側に取り付けられた栓抜き付きのテーブルなどは急行形車両と同等である。近郊形に必要な 880 mm の通路幅は、窓側席の肘掛を省略して確保している。クハ711形にはトイレに加え、独立した洗面所も設置されている。床材は北海道用車両で一般的だった板張り[6]を廃し、一般的な鋼板リノリウム張りである。冷房装置は装備せず、屋根上に押込式通風器、室内に扇風機を設ける。

主要機器

サイリスタ連続位相制御(2分割)の 回路(上図)と動作(下図) サイリスタT1とT2を順に位相制御し 電圧を連続制御する
サイリスタ連続位相制御(2分割)の
回路(上図)と動作(下図)
サイリスタT1とT2を順に位相制御し
電圧を連続制御する

日本の電車では初めてサイリスタ位相制御を採用した。着雪による故障の起こりやすい接点(スイッチ)類を極力排除し、冬季のトラブル回避とシステムの小型化を図った。主電動機は永久並列の構成で、電圧制御のみを行い弱界磁制御[7]は用いない。新幹線0系も主回路制御は異なる(低圧タップ制御)ものの同構造であるが、いわゆる国鉄新性能電車では本系列が唯一のものであった。

勾配区間での走行がなく、また力行時に起動抵抗器を使用しないため、さらに多くの抵抗器を必要とする発電ブレーキは装備しない[8]。常用ブレーキは電磁直通空気ブレーキのみを装備する。

機器構成の簡略化で軽量化が図られ、電動車は1両で主回路を構成する1M方式が採用された。

量産車ではモハ711形1両の両端に制御車であるクハ711形を組成し、1M2Tの3両編成を基本構成とする。これはサイリスタ位相制御の採用で高い粘着性能が得られたことと、主電動機MT54の端子印加電圧を高くした(500V。同時に定格電流を360A → 330Aへと下げた)ことにより、定格出力が標準の120kW (375V×320A) → 150kW(500V×300A=500V×320A-10kW(差は損失分))で弱界磁制御を排して単純化し、定格速度が同一歯車比の抵抗制御車の52.5km/h → 73.0km/hへとそれぞれ向上したことで可能となったもので、コストを抑えつつ、輸送力を確保することに貢献している。反面、3両編成中に電動車が1両のみでMT比が低く、公称の起動加速度値1.1km/h/sは一般の特急形電車をも下回る[9]

このため、本系列は国鉄電車で長年多用された抵抗制御車特有の加速時の抵抗切り替えによるショックがなく、ゆっくりかつスムーズに加速し、速度が高まっても冷却ファンの音がしないなど、国鉄近郊形電車としては極めて独特の乗り心地となっている。加えて、新性能国電に付きものの主抵抗器冷却用のブロアー音も無く、車外、車内共に騒音は非常に少ない。

上 - DT38形台車(動力車用) 下 - TR208形台車(付随車用)
上 - DT38形台車(動力車用)
下 - TR208形台車(付随車用)

台車は本系列専用のDT38形・TR208形で、それぞれDT32形・TR69形をベースとし、インダイレクトマウント式空気バネの枕バネと円筒案内式の軸箱支持装置、密閉形円錐コロ軸受をもつ。軸バネはゴムで被覆され、凍結による減衰機能喪失を防止する。基礎ブレーキ装置はDT38形が両抱き式踏面ブレーキ、TR208形がベンチレーテッドディスクブレーキである。軸受け、軸箱支持共に、国鉄量産形電車では初採用の方式である。

主電動機は直流直巻電動機のMT54A形(第2次量産車まで)・MT54E形(第3次量産車)を用いる。これは国鉄新性能電車が広汎に使用する電動機MT54形(120kW、印加電圧375V)を基に、印加電圧を500Vに上げ、電圧比例的に出力150kWの交流電車用定格としたものである。冷却は独立した送風機を使用する他力通風方式で、車体の「雪切り室」と床下風道の循環気流を併用する方式として、氷雪の進入を防いでいる。この副次作用で、他形式に比べ、同じ主電動機を装備しながら、冷却ファンの音がしないことも特徴となっている。

動力伝達は中空軸平行カルダン駆動方式で、歯車比は近郊形標準の4.82に設定された。

形式別概説

クモハ711形
運転台をもつ制御電動車である。奇数向き(旭川方)で使用される。トイレ・洗面所を設けず、3 - 4位側車端に雪切り室を持つ。定員は84名(うち座席72名)である。
電装機器を1両にすべて搭載する1M方式の電動車で、電動発電機 (MG) ・空気圧縮機 (CP) も本形式に搭載する。試作車の2両のみが製作された。
モハ711形
運転台のない中間電動車である。トイレ・洗面所は設けず、定員は96名(うち座席78名)である。
搭載機器はクモハ711形と同様の構成で、同形式から運転台を省き「雪切室」の配置を点対称(2 - 3位)に変更した構成である。量産車にのみ設定される形式である。
クハ711形
運転台をもつ制御車である。試作車では偶数向き(小樽方)、量産車では両方向で使用される。トイレ・洗面所[10]を設け、定員は84名(うち座席72名)である。
MG・CPは搭載せず、容量700Lの水タンクを床下に設ける。

製作年次別詳説

711系S901編成を含む6両編成 (1994年 / 札幌駅) 711系S902編成 (1994年 / 札幌駅)
711系S901編成を含む6両編成
(1994年 / 札幌駅)
711系S902編成
(1994年 / 札幌駅)

試作車

1967年昭和42年)に製作された。最小限の車両数で比較試験を行うため、クモハ711形+クハ711形の2両編成とされ、仕様の異なる2本が用意されている。

  • クモハ711-901+クハ711-901(S-901編成)
  • クモハ711-902+クハ711-902(S-902編成)
    • 日立製作所製で、客用扉は一般的な片開き式引戸、客室窓はキハ56系と同様の開閉可能な1段上昇式二重窓である。
    • クハ711-902はディスクブレーキ装備のTR208Y形台車を装備し、室内天井には電気ヒーターを組み込んだ温風式送風機を設置する。クモハ711-902の床下には防雪のため全体を覆う機器カバーを設ける。

クモハ711形に共通の装備として、耐雪形のPS16Gパンタグラフ・DT38X形試作台車・連結面側車端部(3 - 4位)に設けた大型の雪切り室などがある。連結方向が決まっているため、車両間の引き通しはクモハ711形・クハ711形とも「片渡り」構造である。

1980年昭和55年)の第3次量産車製造時にクハ711形100番台を追加して3両編成とし、クモハ711形は編成の中間車[13]として使用することとなった。1999年平成11年)10月までに運用を終了[14]し、2編成とも廃車[15]された。S-901編成のみが苗穂工場構内に残存する。

第1次量産車

711系第1次量産車
S9編成を含む6両編成
(1994年 / 札幌駅)
  • モハ711-1 - 9
  • クハ711-1 - 16
    • 函館本線の小樽 - 滝川間電化開業用として、1968年(昭和43年)に製作された。
    • 3両編成を基本単位とし、運転台をもたない中間電動車モハ711形が新たに設定された。電気機器類は軽量化と製作価格低減のため仕様を変更し、主変圧器はTM13A形に、主制御器はCS35形に形式を変更した。パンタグラフは下枠交差式のPS102B形である。「雪切室」は点対称配置に変更され、車体側面向かって左側(2 - 3位)に配置する。
    • モハ711-9は2両編成の試作車を3両で使用するための増結用として製作され、主に901編成に組み込んで使用した。同車は 1980年(昭和55年)にクハ711-118 - 218と編成を組成し、以後は通常の3両編成として使用した。
    • クハ711形は試作車の902とほぼ同一構造とされたが、屋根上の通風器は一般の押込式に変更され、洗面所窓の形状も変更された。車両間の引き通しは「両渡り」構造に変更された。台車は密封コロ軸受・ディスクブレーキ装備のTR208形である。

第2次量産車

711系第2次量産車
S-60編成を含む6両編成
(2002年5月 / 札幌駅)
  • モハ711-51 - 60
  • クハ711-17 - 36
    • 函館本線の旭川電化用として、1969年(昭和44年)に製作された。
    • モハ711形は誘導障害対策のため各電気機器の仕様を変更し、主変圧器は2次側巻線を2分割したTM13B形、主制御器は主電動機の直並列接続化に対応したCS38形を装備した。車両番号は50番台を付番して区別する。
    • クハ711形は循環式汚物処理装置の準備工事がなされた程度で大規模な仕様の変化はなく、番号は第1次量産車の続番とされた。

第3次量産車

第3次量産車 S-107 編成 (2009年1月 / 岩見沢 - 峰延)
第3次量産車 S-107 編成
(2009年1月 / 岩見沢 - 峰延
クハ711-100
クハ711-100
モハ711-100
モハ711-100
クハ711-200 ← 小樽     旭川 / 室蘭 →
クハ711-200
小樽     旭川 / 室蘭
  • モハ711-101 - 117
  • クハ711-101 - 120
  • クハ711-201 - 218
    • 千歳線 - 室蘭本線(札幌 - 苫小牧 - 室蘭)電化用として、1980年昭和55年)に製作された。各部の仕様が変更され、100番台に番号区分された。
    • 車体は難燃化構造とされ、客用扉はステンレス製である。側面に字幕式行先表示器を装備したため、その位置の窓は固定式となった。クハ711形では当初から前照灯を4灯構成とし、正面上部にホイッスルを装備する。車体前部の雨樋は40系気動車同様、ステンレス製の外付式に変更した。
    • 本区分では車両間の引通しが「片渡り」とされ、クハ711形は奇数向き(100番台)・偶数向き(200番台)で仕様が異なる。100番台はトイレ・洗面所を設けず、定員は96名(うち座席70名)に増加した。200番台にトイレ・洗面所を装備し、循環式汚物処理装置も当初から装備する。
    • クハ711-119・120は2両編成の試作車を常時3両編成で使用するために製作され、クモハ711形の前位に追加組成[16]して使用された。
    • モハ711形は電気機器類が781系電車と同様のPCB不使用構造とされ、主変圧器・主整流器をそれぞれTM13D形・RS39B形に変更した。主制御器は水銀不使用構造のサイリスタを搭載するCS48形である。

改造

試作車の量産化改造
試作車(900番台)について、量産車と仕様を統一するための改造が2度実施された。
1回目の改造は1968年(昭和43年)に行われ、制御機器類の誘導障害対策・量産車との併結対応がなされた。客用扉横の戸閉スイッチは撤去、クモハ711形ではパンタグラフが量産車と同一の下枠交差式PS102B形に換装され、902の床下機器カバーは撤去された。
2回目の改造は1970年度(昭和45年度)に行われ、S-901編成では冬季の取扱に難のあった4枚折戸を通常の引戸に変更した。主回路の各機器も変更され、試作車特有の装備は二段窓を除き量産車とほぼ同一の仕様に改められた。
前照灯増設
降雪時の視界確保のため、前照灯を増設する改造が行われた。
正面上位の種別表示器直上部に砲弾型外装のシールドビーム2灯を増設し4灯化するもので、1973年(昭和48年)にクハ711-3・4に試験取付を行い、1977年(昭和52年)からクモハ711形・クハ711形に施工された。1979年(昭和54年)に全車への対応を完了している。
主変圧器などの非PCB化改造
従来より変圧器の絶縁油として使用されてきたポリ塩化ビフェニル (PCB) は1972年(昭和47年)に製造が禁止され、本系列の第3次量産車(100番台)や 781系電車では絶縁油にシリコン油を使用した非PCB仕様の主変圧器・主整流器が採用された。本系列の第2次量産車までに使用されたPCBを使用する機器についても非PCB機器への取替えが検討され、1976年(昭和51年)にモハ711-8 - モハ711-51に試験交換を実施した。
試験結果を踏まえ、第1次・第2次量産車の全車を対象とする交換工事が1977年から開始された。1982年(昭和57年)に全車の交換を完了している。
3扉化された S-117 編成 (2009年1月29日 / 岩見沢 - 峰延)
3扉化された S-117 編成
(2009年1月29日 / 岩見沢 - 峰延
クハ711-100
クハ711-100
モハ711-100
モハ711-100
クハ711-200 ← 旭川 / 室蘭     小樽 →
クハ711-200
旭川 / 室蘭     小樽
客用扉増設改造
札幌周辺での乗降客の増加に対応するため、客用扉を増設する改造が行われた。クハ711形の車体中央部に同一仕様の片開き式扉を設けるもので、クハ711-1・2を1987年(昭和62年)9月に先行改造の後、同年12月から第3次量産車のクハ711形を対象に改造が行われた。721系同様、中央扉にもきちんとしたデッキがあり、客室との間には両開きの仕切り扉が備わる。
施工車は扉の帯上下に同色の細帯を付して区別する。
  • クハ711-1・2・106・111・115 - 117・206・211・215 - 217
モハ711形は重量の関係で台枠強度の確保が困難なため、各番台とも客用扉の増設改造は行われていない。
室内設備仕様検討用改造(S-112編成)
731系電車開発に伴う仕様検討のため、1995年平成7年)に苗穂工場で1編成3両が改造された。
S-112編成(クハ711-112+モハ711-112+クハ711-212)全車を対象とし、室内諸設備の仕様変更(デッキの撤去・半自動装置・ドア開閉ボタン設置(後に撤去)・クールファンの設置・モハ711-112のオールロングシート化)が施工され、クハ711形では比較のため座席配置変更(一部ロングシート付き・ロングシート無し、片側ボックス席の1人掛け化)を施工した。改造は座席等の接客設備が主で、外観上の差異はほとんどない。
改造後は一般車と共通に使用されたが、クールファン取付部から室内に水が侵入するなど、改造に起因する不具合が多発したとされる。2006年(平成18年)7月以降は使用されず、同年11月に廃車となった。
冷房が設置されたS-104編成
(2009年1月 / 美唄 - 光珠内
冷房装置搭載改造
2001年(平成13年)より分散式冷房装置の搭載工事が苗穂工場で行われた。対象は後期製作の100番台で、客用扉増設未実施11編成33両のうち、S-110・S-114の2編成を除く9編成27両に施工された。
  • モハ711-101 - 105・107 - 109・113
  • クハ711-101 - 105・107 - 109・113・201 - 205・207 - 209・213
パンタグラフ換装
着雪による離線を防ぐためと補給部品を社内で統一する目的で、モハ711形のパンタグラフをシングルアーム式に換装する工事を2004年(平成16年)秋から2005年(平成17年)秋にかけて実施した。

運用の変遷

国鉄時代

711系第1次量産車S8編成
くるくる電車 ポプラ号
(1986年 / 札幌駅)

試作車は2両編成のまま量産車と混用され、モハ711-9を組成した3両編成(2M1T)や、2編成以上の連結運用では2両+3両の5両編成や2+3+3の8両編成として使用されることもあったが、1980年昭和55年)にクハ711形を追加製作し、全てを3両編成に統一している。

1968年(昭和43年)8月の滝川 - 旭川電化開業以降、主として3両から9両までの編成で函館本線の普通列車に充当されたほか、急行列車として以下の列車・区間で使用された。

高速域まで加速度が変わらない本系列の特性[17]は、気動車急行と同一の到達時分で停車駅の増加を可能とした。本系列によって、江別野幌などから急行列車が利用可能となった。

1971年(昭和46年)7月1日から運転を開始した「さちかぜ」は、上りが旭川発7:00、下りが札幌発18:00という旭川からのビジネスダイヤで設定する新しい試みがなされたほか、通常の特急停車駅を含むすべての途中駅を通過する「ノンストップ急行」として、同区間の136.8kmを1時間36分で連絡した。表定速度は国鉄急行列車では最速の85.5km/hに達し、これは運転最高速度が120km/hの特急「ひばり」や「はつかり」の87.0 - 89.4km/hに肉薄する水準であった。

1975年(昭和50年)に485系1500番台が導入され、道内初の電車特急「いしかり」が設定されると「さちかぜ」が廃止、「かむい」も格上げの形で減便される。1978年(昭和53年)には北海道専用の781系が開発され、冬季の減車(6両 → 4両)と計画運休(1時間 → 2時間ヘッド)による「間引き」の解消が可能になって以降、「かむい」の運転本数は漸次減少し、1986年11月1日のダイヤ改正をもって本系列による「かむい」の定期運行が廃止[18]され、急行運用は消滅した。

JR北海道

函館本線
(2009年1月 / 白石 - 苗穂
室蘭本線
(2009年1月 / 社台 - 錦岡
前3両:旧塗装に復元されたS-110編成 後3両:同じく2ドア非冷房を保つS-114編成による普通列車
(2011年6月 / 豊幌 - 江別

JR移行後の本系列は専ら普通列車 - 快速列車に使用されたが、札幌地区の都市化進展に伴って旅客輸送量が増大すると、2扉デッキ付きの構造がラッシュ時の乗降を滞らせ、列車の遅延が多発した。この対策として、ロングシート化や乗降ドアの3扉化、デッキ撤去などの改造が一部に施された。

新千歳空港1992年(平成4年)に開港すると、快速エアポート」の一部列車に本系列が使用され、1998年(平成10年)まで新千歳空港駅に乗り入れていた。

721系の増備により快速「エアポート」の運用はなくなり、1997年(平成9年)、731系の使用開始とともに本系列の淘汰が開始された。試作車の900番台は1999年(平成11年)までに運用を終了し、初期製造の基本番台と50番台は2004年(平成16年)までに全車が運用を終了している。

現況

3両編成16本計48両が札幌運転所に所属し、以下の区間で使用される。残存車はすべて後期製造の100番台である。

  • 函館本線(小樽 - 札幌 - 旭川)
  • 千歳線・室蘭本線(札幌 - 苫小牧 - 東室蘭 - 室蘭)
  • 回送列車として、旭川駅 - 旭川運転所[19]間の宗谷本線区間を走行する[20]

編成番号は、中間電動車の車両番号に識別記号「S」[21]を付加し、「S-117」などと表す。

函館本線では岩見沢 - 旭川、室蘭本線では苫小牧 - 室蘭で主として使用されている。

列車密度が高く、かつ高加減速性能が求められる札幌近郊の区間では、ラッシュ時間帯を除いてほとんど運用されていない。千歳線での運用は札幌運転所の出入庫を兼ねた、手稲・札幌 - 東室蘭の直通列車2726Mと2849Mのみであり、函館本線(小樽 - 札幌 - 岩見沢)での運用も比較的混雑する列車を避けて充当されている。

2扉、非冷房を保つS-110編成については2012年「北海道デスティネーションキャンペーン」のプレイベントとして2011年6月から旧塗装に復元され、他の非冷房車と共通で運用されている。この車両の編成番号表示は、現行の助士席窓部のステッカーを撤去し、貫通扉部の列車番号表示器[22]を再設した上で掲出されており、シングルアームパンタグラフであることを除き、当時の外観に限りなく近ける配慮がなされている。

脚注

  1. ^ 国鉄初の交流専用電車は試作車のクモヤ790形(改造車)、クモヤ791形(新造車)である。
  2. ^ 主回路を構成する機器を1両の電動車にすべて搭載する電装方式で、101系電車が2両単位のMM'ユニット方式で製造されるまでは標準の方式であった。
  3. ^ キハ27 - 56形の客室窓と同寸である。
  4. ^ 同様に、床の厚さが窓の高さに影響している例は、キハ22形でも見られる。
  5. ^ 本系列の計画時に室蘭本線沼ノ端 - 岩見沢間の電化計画があり、運用中に編成の向きが変わっても幌を付替えずに編成同士を併結可能とするための仕様である。
  6. ^ 北海道向けの特急形キロ26形グリーン車を除く気動車は、冬季の保温のためと、解けた雪で濡れた際の滑りにくさや、靴底の滑り止め金具による損傷を考慮し、床表面材に木材を使用していた。
  7. ^ 弱界磁制御は供給電圧が固定である直流車でさらなる回転数の上昇を得るためのものであり、任意の電圧を供給できる交流専用車では、弱界磁よりも電圧を上げる方が制御が簡単に行え、高速域のトルクが落ちない利点がある。
  8. ^ 他にはクモユ141形の例があるが、国鉄新性能電車以降では稀有な例である。
  9. ^ 初期の新幹線0系電車の起動加速度とほぼ同じ。急曲線がなく、平坦な線形で、駅間距離も比較的長いという、投入区間の条件を考慮した上での決定であり、蒸気機関車牽引列車も混在する中、それほどの高加速度を要求されなかった当時としては、十分な性能であった。最高速度の110km/hは、国鉄近郊形電車として後に117系が並ぶまで最速であり、後述する高速性能としてはおおむね485系並みを達成していた。
  10. ^ 第3次量産車の100番台 (101 - ) ではトイレ・洗面所を設けず、水タンクは装備しない。
  11. ^ 貴賓車クロ157形と同一の構造である。
  12. ^ 雪噛みやすきま風を防ぐため下段は固定され、上段のみが下方に開く構造であった。また、二重窓とは異なり、冬季の結露は避けられなかった。
  13. ^ 運転台は一部機器を撤去したのみで、そのまま存置された。
  14. ^ 運用終了にあたり、901編成は新造当時の塗装を復元して運行された。クモハ711形は中間車化されて以降、正面のクリーム色が省略されていたが、これは廃車後に追加塗装されている。
  15. ^ 各々の編成に組成されていたクハ711形100番台の2両は、他編成のクハ711形置き換えに充てられた。
  16. ^ 100番台は初期の試作車や基本番台 - 50番台と組成すると方向幕が使用できないため、白幕のままサボ受けが付く特異な外観となった。
  17. ^ 後に同線に投入された485系電車歯車比は3.50の特急形電車標準仕様で、編成出力は4M2Tで1920kWであったが、これを使用した特急「いしかり」のノンストップ便は、歯車比4.21、2M4Tで1200kWの本系列を使用したノンストップ急行「さちかぜ」に比べ、運転時分を1 - 2分短縮するに留まった。
  18. ^ 気動車「かむい」はその後も残り、1988年(昭和63年)3月13日、「そらち」に統合される形で廃止された。
  19. ^ 北旭川貨物駅に隣接する。
  20. ^ 2003年の宗谷本線の電化完成当初も同線を走行していたが、その後2010年10月に旭川駅が高架開業するまでは当日の最終列車到着・翌日の始発まで、同駅2番ホームに滞泊していた。
  21. ^ Standardから。
  22. ^ 711系では編成番号表示用としていた。

参考文献

  • 鉄道ジャーナル社 『国鉄現役車両1983』 鉄道ジャーナル別冊No.4 1982年
  • 電気車研究会 『鉄道ピクトリアル』1989年3月号 No.508 特集:711系〜781系交流電車
  • 電気車研究会 『近郊形交直流〜交流電車』 JR電車ライブラリー4 1995年 ISBN 4885480787
  • エムジーコーポレーション 『北海道JR系現役鉄道車両図鑑』 2009年 ISBN 9784900253612

関連項目