架空電車線方式
架空電車線方式 (かくうでんしゃせんほうしき)とは、電気鉄道の集電方式のひとつである。車両が通る空間の上部に架線を張り、ここからパンタグラフなどの集電装置によって集電する方式である。架線集電方式ともいい、架線はトロリー線、電車線などと呼ばれる。
トロリーバスは架空電車線方式、鉄道では架空電車線方式と第三軌条方式がほとんどであり、新交通システムも第三軌条方式からの発展形である。
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概要 [編集]
基本的な構造としては、車両の集電装置(パンタグラフ)と接触して電力を供給する為のトロリー線、それを吊し又は支持する為のハンガー・吊架線・碍子・吊り金具、それらを支持する電柱・トラスビーム・ブラケットなどの支持物で構成されており、確実な送電のために、変電所から「饋電線」が架線に沿って敷設され、標準で250mごとに饋電分岐線(フィードイーヤ)によりトロリー線に接続される。トロリー線を吊り下げる方式の為、トロリー線の重量により弛みが生じ、支持間隔が長いほど、重量が重いほど、張力が低いほど、その弛みが大きくなる。車両の速度が低い場合には、トロリー線の弛みが多少大きくても、集電装置のトロリー線に対する追随性には問題ないが、車両の速度が高い場合には、集電装置の上下動が激しくなって、トロリー線から離線するなどの障害を起こしやすくなる。その為、架線には適切な張力を与える必要がある。材質には、トロリー線には硬銅線を、それを吊る吊架線には亜鉛メッキ鋼より線が使用されおり、トロリー線の断面形状には、形円形・溝形円形・異形などがあり、日本では溝形円形が使用されている。断面積は、在来線の本線用が110mm²、在来線の側線用が85mm²、新幹線用は170mm²が使用されており、引っ張り強さに対する安全係数は2.2としている。集電装置の摺板の磨耗が偏らないよう、架線は摺板に対して横方向に蛇行して張られており、集電装置の摺板の摩擦でトロリー線が磨耗する為、トロリー線の使用限度が決められている。電圧が高い交流電化区間では、直流電化区間より架線を支持する碍子の個数や段数が増やされる。
また架線の望ましい条件として次のことが挙げられる
- 自重に加え強風による横荷重や積雪と結氷の付着による垂直荷重に耐えられる
- 一様の同程度のたわみ性があり硬点が無い
- パンタグラフの押上量が一様で車両の給電が円滑である
- 支持物の構造が簡素で信頼性と耐久性が高い
- 建設費が軽減できて保守もしやすい
架線のトロリー線までの高さは、軌道上面から5,100mmを標準として、最低4,550mmから最高5,400mmとしているが、狭いトンネル内(狭小建築限界トンネル、剛体架線の区間、ミニ地下鉄)ではこれよりも低くなることがある。また、桜木町事故以降、架線の断線による列車火災を防止するため、折りたたんだ集電装置と架線との距離を直流1500Vの場合は250mm以上(ミニ地下鉄では150mm)とすることや、車両の屋根を絶縁体で覆うことが決められている。また、トロリー線の偏位は、曲線での架線の偏位なども関連して、軌道中心から左右で最大250mm(新幹線は300mm)としている。
架線(電化区間)の終端には架線終端標識が設置される。
分類 [編集]
架線柱等からの吊架方式により、以下の分類がある。
直接吊架式(直吊架線方式) [編集]
吊架線を設けず、トロリー線のみを直接吊したもの。列車速度が制限されるものの、費用が安くて済む。路面電車やトロリーバスといった路面交通では一般的に使用されているほか、鉄道線であってもコストダウンのため、運転密度や最高運転速度の低い閑散線区で採用される例がある。日本では、弥彦線・越後線・和歌山線、境線のそれぞれ一部区間、土讃線の電化区間など、日本国有鉄道末期に電化されたローカル線にその例がある。
カテナリー吊架式 [編集]
カテナリー = Catenary とは懸垂線の意味。
- シンプルカテナリー式
- 最も多く用いられる代表的な架線である。パンタグラフが接触する部分であるトロリー線と、トロリー線をハンガーと呼ばれる金属線(5m間隔で設置)を吊架線で吊して支持する構造となっている。なお、この方式にて地方の幹線などでメンテナンス頻度の低減を狙ってトロリー線・吊架線を特に太くし、張力を高めたものを「ヘビーシンプルカテナリー式」と呼ぶことがある。なお材質は吊架線は亜鉛メッキ鋼線をトロリー線は溝付硬銅線を使用している
- ツインシンプルカテナリー式
- シンプルカテナリー方式の架線を2組並べたもの。デュアル、あるいはダブルシンプルカテナリー式とも呼ばれる。100mm間隔で架線に並列して架設しており、シンプルカテナリー式とほぼ同じ設備で負荷電流を増大できる、運転密度の高い大都市圏の路線や幹線で使用されている。
- コンパウンドカテナリー式
- パンタグラフによるトロリー線の押し上げ量を平均化する目的で、吊架線とトロリー線の間に補助吊架線というものを追加し、それを吊架線がドロッパ(10m間隔で設置)で支持して、補助吊架線がハンガー(5m間隔で設置)でトロリー線を支持する方式。高速走行時の離線が少なく集電容量も増加するため、新幹線(北陸・九州を除く)をはじめとする、運転密度が高く高速走行する路線(JR神戸線、近鉄大阪線、阪急京都・神戸線、阪神本線など)で使用されている。現在の新幹線では、線を特に太くし、張力を高めた「ヘビーコンパウンドカテナリー式」が採用されている。
- 合成コンパウンドカテナリー式
- 東海道新幹線では開業当初、高速で通過する集電装置による架線の振動を減衰させるために、コンパウンドカテナリー方式の吊架線と補助吊架線の間のドロッパー(10m間隔で設置)に合成素子(ばねとダンパーの機能を兼ね備えた部品)を挿入した合成コンパウンドカテナリー式が採用されたが、合成素子の重量による強風の際の架線系全体の揺れが大きく、事故が多発したため、後にヘビーコンパウンドカテナリー式に改修された。
饋電吊架式 [編集]
カテナリー式の吊架線を、太く電流が流れやすい線条として「饋電線」と兼用させたものを饋電吊架式(フィーダーメッセンジャー)と呼ぶ。例として、中央本線などの狭小トンネルで使用される π 架線方式がある。饋電吊架式の大きな利点として、線条数や部品点数を削減できることから、地下区間のほか、明かり区間でも適用が進んでおり、東日本旅客鉄道(JR東日本)の「インテグレート架線」、西日本旅客鉄道(JR西日本)の「ハイパー架線」などの開発名称がつけられている例がある。
剛体架線式 [編集]
鋼材を直接トロリー線とするものや、鋼材に直接トロリー線をつけたものを「剛体架線式」と呼び、断線しにくいという特徴を持つ。カテナリー吊りのスペースを取れない地下路線に多く見られる。地下鉄での採用例が多い。架線の柔軟性が無いためにパンタグラフの離線が多く、高速走行には向かない。そのため、JRや大手私鉄での採用区間では、当該区間を走行する際は、車両のパンタグラフを2基とも使用するなど、その数を増やすことによって対応していることが多い。近畿日本鉄道ではこの弱点を克服するため、剛体架線にカテナリー付きとした独自の剛体架線を採用し、新青山トンネルや近鉄難波線などのトンネルや地下区間で採用している。
張力調整装置 [編集]
自動張力調整装置、テンションバランサなどとも呼ばれる、気温や日照の変動によって伸縮する架線の張力を一定に保つ装置。一定間隔毎に設置されており、架空電車線の長さが800m未満の場合は片側、800m以上1600m未満の場合は両側に設置する。その為、架空電車線同士の境目ができてしまうので、そこを電気的に接続して電気を流しておく必要がある。接続の方法としては、架空電車線同士を少しの間平行に設置して、架空電車線同士を電線で接続する方法で電気的に接続するため、車両側から見れば架空電車線が入れ替わるように見える。
滑車式 [編集]
滑車と錘の量によって架空線の張力を調整するタイプ。最も広く用いられている。
ばね式 [編集]
ばねの縮む力によって架空線の張力を調整するタイプ。駅終端部やカーブ区間のほか、滑車式の設置が難しい箇所に用いられる。
参考文献 [編集]
- 久保田 博 「鉄道工学ハンドブック」 グランプリ出版 1995年 ISBN 4-87687-163-9