トライアル (オートバイ)

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トライアル競技 ベータ製

トライアル (Observed trials, Motorcycle trials) は、高低差や傾斜が複雑に設定されたコースを、いかにオートバイに乗ったままで走り抜けることができるかを競うオートバイ競技である。

概要

現在は、ヨーロッパ(特にイギリススペイン)において盛んである。発祥時期は定かでないが、20世紀初頭のオートバイ出現と同時に、イギリス貴族の遊びとして始まった説がある。[要出典]

アダム・ラガ 2007

ルール

予め定められた競技時間(コースや大会によって異なるが、世界選手権で5時間から6時間)の間に、セクションと呼ばれる採点区間(通常10-15のセクションを2-3回走行する)を走行し、セクション毎に0~5点の範囲で減点を行う。セクション通過中に足を1回つくと1点減点、2回つくと2点減点、3回以上は3点減点になる。指定されたセクションのエリアを飛び出したり転倒した場合、足をついた状態でエンジンを停止させた場合、各セクション通過持ち時間(世界選手権1分30秒、全日本選手権1分など)以内にセクションを通過出来なかった場合、セクション内で車両がバックした場合、セクション通過を放棄した場合は5点減点となる。セクションを減点0で通過することをクリーンと呼ぶ。また、定められた競技時間内に全セクションを通過してゴールに到着できなかった場合、ゴールした時点での超過時間に応じたタイムペナルティが減点に加算される。こうして、全セクション終了時点で減点合計が一番少ない者が勝者となる。

セクションは自然の地形を利用するものから人工的なものまでさまざまであり、コースの右側にいマークを、左側にいマークを置く。オートバイの前輪が、複数の赤と青のマークの間を通らなければならない。セクションのエリアを明確にするため、補助的にコーステープを敷設する場合もある。

また、セクション内には原則として競技者であるライダー以外の立ち入りは禁止であるが、例外としてマインダーと呼ばれる競技補助者が1名立ち入ることが許される。マインダーはライダーの走行するルートをライダーと共に考えたり、走行ルートに先回りをして路面状況などの情報やセクション内での時間経過をライダーに伝えたり、転倒などの際にライダーの身に危険が及びそうな場所では、万一の際にバイクを支えられるように用意したりするなど、ライダーのセクション走破を陰から支える役割を担う。

なお、トライアルは他のモーターサイクルレースとは異なり、基本的に排気量によるクラス分けがない[1]。これは、排気量が大きくなればパワーは向上するが、その分車重が重くなり扱いにくくなるといったように、単純に排気量の大小がバイクの優劣、ひいてはセクションの走破に決定的な役割を及ぼさないためである。そのため、競技においては250-300ccを中心として、さまざまな排気量のバイクが混走する。またライダーが自分のスタイルや技量に合った排気量を選択できるように、同じ車体を用いながら排気量を細かく設定しているメーカーもある。

競技会

  • ヨーロッパを中心に人気があるトライアル世界選手権も、マシンの進化やライダーのテクニックの向上により、近年ではますますセクション難易度が高まる傾向にある。観客動員増を目論んだ2日間制競技も、転戦するファクトリーやライダーへの負担が大きく、より巨大なチームに有利な状況を作り出してしまい、若手やプライベーターが好成績を望む事が難しくなるなど、自動車レースと似たような状況に陥ってしまった。それによって現在では世界選手権への参加台数が減少する傾向が顕著になってきた。事態を憂慮したFIMでは、2000年度より若手の登竜門クラスとして世界選手権にジュニアクラスを、2004年度よりユース125クラスを新設、さらにコスト削減を目的に2006年度からは、ヨーロッパ地域での世界選手権は1日制大会に戻した[2]。また、セクション難易度の上昇による参加者減少に対処する為、ノーストップ・ルールの再導入[3]も検討されている。
  • 世界選手権やデ・ナシオン以外の有名な競技会として、イギリススコットランドで行われるスコティッシュ6日間トライアル(Scottish Six-Days Trial:SSDT)がある。文字通り6日間という長期にわたって行われるこの競技会は、通常のトライアル競技会のように一定の敷地内にセクションを固めて設置するのではなく、スコットランドの各地に分散してセクションを設置し、セクション間の移動は競技車が公道を自走して移動する形で行われる。このような競技形態をツーリングトライアルという。
  • ここまで記されてきたトライアル競技は全て屋外で行われるものであり、アウトドアトライアルと総称される。これに対し、少数の人工的に製作されたセクションをスタジアムアリーナなどの屋内施設に設置して行われるトライアル競技をインドアトライアルと呼ぶ。2001年からはインドアトライアル世界選手権も開催されており、2005年に行われたワールドゲームズでは公開競技に採用された。

競技車両

座席すら廃された競技用トライアルバイク シェルコ

トライアルバイク(トライアラー[4]ともいう)は、いわばオートバイの基本構造だけを残す形に簡略化・軽量化されたオートバイである。

エンジン

静止状態からの加速や低回転域のトルクを重視した特性を与えられた軽量・コンパクトな単気筒エンジンをほとんどの車種で搭載する。かつては空冷2ストロークエンジンが主流であったが、低速・低回転時におけるトラクションの良さやエンジン技術の進化に加え、2ストロークエンジン特有の排気ガスの環境への影響などを考慮した結果、現在は250cc前後の中排気量車を中心に、水冷4ストロークエンジンを搭載するバイクが増えつつある。

車体関係

フレーム
フレーム形状はダイヤモンドフレームかクレードルフレームを採用する車両が多い。素材は鉄(主にクロモリ鋼)かアルミニウムだが、形状・素材にかかわらず、走破性を高めるためにフレーム剛性を単純に高めるよりもある程度の柔軟性を持ったフレームとなっている。エンジン搭載部の下部には、セクションとの接触に備えて大型のプロテクターを装備する。
ステップ周り
トライアルライダーはセクションイン前にあらかじめどのギアを使用してセクションを攻略するかを決めており、通常セクショントライ中はギアを変速することはない。そのためギアのチェンジペダルは不用意にブーツが当たって変速しないように、ステップから離して設置されている。ステップは、普通のオートバイと比べて高い位置にあり、ライダーがスタンディングポジション(ステップペダルに立った状態)をとる事によってさらに高重心の状態となる。この高い重心に加えてライダー自身の重心移動によって、ライダーはバランスを上手にとりながら転倒することなくセクションを走破する。
ハンドル
ハンドルは幅広で、ステアリングの切れ角は普通のオートバイと比較して格段に大きい。これもライダーがバイク上でバランスを取りやすくするためである。
サスペンション
サスペンションは、微妙な操作によって車上でバランスをとり、操作を直接タイヤに伝えるようにするために、ストロークは短くセッティングも固めである。
燃料タンク
燃料タンクは3〜4リットル程度の容量しかもたない。これは、コースを周回する間だけエンジンに燃料を供給すればよいからであり、転倒や落下で破損したときの被害を抑えるためでもある。
シート
シートはもっぱらスタンディングポジションでの操作を前提とするので、立った状態で邪魔にならない小型のものが装備される。競技専用車に至っては、リアフェンダー部にシートの絵が描いてあるだけのものもある[5]
タイヤ
タイヤはトライアル競技専用のトライアルパターンと呼ばれる、モトクロッサーに似た凹凸の激しいブロックパターンのタイヤが装着される。しかし、形状こそ似ているものの、トライアル用タイヤはあらゆる路面状況に対応するため、モトクロッサー用タイヤに比べてかなり柔らかい[6]。また、不整地でタイヤの接地面積を増やして大きなグリップ力を得るために、通常のバイクよりもかなり低い空気圧(簡単に指で押し込める程度)で装着される。
車重
セクショントライ中の取り回しや操作性を考慮して、各種軽金属や炭素繊維ポリカーボネートなどを使用して非常に軽量に作られている。また、同様の理由から重量物の徹底的な集中化やばね下重量の軽量化も図られている。世界選手権などで使用する競技用のバイクでは乾燥重量は約70キログラム前後。入門用の排気量50ccのものでは60キログラムを切るものもある。
その他
競技専用車は保安部品を備えておらず、そのままでは公道を走行することはできない。しかし、法律により公道を走行しない車両でも灯火類の装備を義務付けている国(ヨーロッパの一部地域)もある[4]。また、公道を自走して移動する必要があるツーリングトライアルでは、保安部品を装着して公道走行が可能なように登録を受けたトライアルバイクしか出走できない。

かつては国内4大メーカーの全てがトライアルバイクを製造していた時期もあったが、現在公道走行可能な車種は新車では発売されていない。なお、レース専用モデルとしてホンダから競技専用車は発売されている。ヤマハでは発売こそされていないものの、トライアルバイクでレース参戦をしている。公道走行可能なトライアルバイクの新車は、モンテッサ[7]ガスガスベータシェルコスコルパオッサチスパなど外国車に限られる。

装具

トライアルはモトクロスエンデューロと同じオフロードで行われる競技であるが、ライダーの装備はそれらとは大きく異なっている。

ヘルメットは、顎の部分を守るチンガードを廃した、いわゆるジェット型ヘルメットを用いる。これは、トライアルはモトクロスやエンデューロに比べて絶対的な競技速度域が低いためにチンガードはさして重要ではなく、それよりもチンガードを廃することによってより広い視界を確保したほうが競技面でも安全面でも有利なためである。前頭部にはバイザーが装備されているが、これも視界確保のために他のオフロード用ヘルメットに比べて短いものが装備される。そして、側頭部には外部の声や音を聞き取るために穴やスリットが開けられている。また、ゴーグルは視界の妨げになるために荒天時でも基本的には装着しない。

服装は、一般的にはモトクロスやエンデューロ用のジャージにレーシングパンツを装着することが多いが、生地により柔軟性を持たせて動きやすさに重点を置いたトライアル専用のジャージやパンツも発売されている。さらに全日本選手権スーパークラスや世界選手権クラスの選手の中には、より動きやすさを求めて、薄手の生地で作られた身体に密着するワンピースタイプのジャージを着用する選手も多い。グローブは、より繊細かつ微妙なクラッチ・ブレーキ操作を可能にするために薄手のものを用いる。動きやすさを重視するためプロテクターは基本的に装着せず、装着してもライダーの動きを妨げない小型のものをジャージの下から肘や膝に装備する程度である。

ブーツは、外見こそモトクロス用やエンデューロ用に酷似しているが、セクションの下見などで不整地を歩くことが多い関係上、プロテクション効果よりも歩きやすさを重視した柔軟性の高いものとなっている。

その他

  • 世界選手権などに参戦するトップライダーともなれば、足をつかずにオートバイを長時間停止、ほぼ垂直な壁を登る、フロントを上げたまま岩場を飛び回る、足を付かずにバックなども可能である。
  • 特撮番組仮面ライダークウガ』においては、トライアル選手の成田匠兄弟がバイクスタントを担当し、バイクアクションで直接敵を打撃する様々な技を披露した。クウガのバイク・トライチェイサー2000などの撮影用ベースになったのは、ガスガス社のパンペーラ250。これはトライアル用バイクのTXT250に大容量タンクとシート、アップフェンダーを装着した市販モデルで、中身はトライアル車そのものだった。
  • トライアルバイクを使ったシーンが印象的な瞬間接着剤コマーシャルがあった。内容は、前輪を持ち上げて走行(ウィリー走行)し、前輪を柱に当てて停止すると前輪が柱に接着され、ライダーが降りてもオートバイは倒れずにそのまま立っている、というものであった(1988~1989年の東亞合成アロンアルフアのTVCF[8])。このとき実演していたトライアル国際A級ライダー(当時)の工藤靖幸はウィリーキングと呼ばれ、1991年5月5日に日本自動車研究所高速周回路で、ウィリー走行による連続走行距離の世界記録となる331.019kmを樹立している。
  • 2006年に全日本チャンピオン黒山健一ゲータレードのTVCFで、ジャックナイフ走行(後輪を持ち上げた状態で走行する)を披露している。
  • 2004年トライアル世界選手権では、藤波貴久ホンダ)が日本人初の世界チャンピオンとなった。
  • 静岡市オフロードバイク隊では、HONDA TLM220ヤマハ・セロー225WEホンダ・TLM220など、トライアル競技用やそれに近い車種を配備している。またヘルメット(周囲の音を聞き取りやすい)とブーツ(徒歩でも歩きやすい)もトライアル競技用を利用している。

脚注

  1. ^ 世界選手権ユース125のように排気量が限定されている場合もある。
  2. ^ ヨーロッパを離れる日本北米大会等は変わらず2日制
  3. ^ 1998~2003に導入されていたが、停止減点の判定で混乱が多く2004年よりルール改正となった
  4. ^ a b 加藤隆夫監修『ライダーのためのバイク用語辞典』CBSソニー出版。ISBN 4-7897-0040-2
  5. ^ 着座しても強度的には何ら問題はないが、着座しての運転はほとんど考慮されていない。
  6. ^ そのため、アスファルトなどで舗装された道路を走行するとすぐに磨り減ってしまう。
  7. ^ HRCが技術提携
  8. ^ このCFは、東亞合成のウェブサイトで現在も見ることができる。

関連項目

外部リンク