敬礼

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敬礼挙手の敬礼挙手注目の敬礼)」を行う日本海上自衛隊海士、左右列)および、それに対し「答礼挙手の答礼)」を行いながら歩むアメリカ海軍将校将官、中央)
敬礼お辞儀の敬礼)」で出迎える白服の人物(右手前)に、「答礼挙手の答礼)」を行う日本陸軍将校(陸軍少佐、中央)。また、護衛の憲兵(右奥)は陸軍将校に対し「敬礼挙手の敬礼)」を行っている

敬礼(けいれい)とは、相手に敬意を表すこと()。一般的には下位の者が上位の者に対して行う動作を指し、受礼者たる上位の者はこの「敬礼」に対し「答礼(とうれい)」で応え、また同位の者でも相互に「敬礼」は交換しあう。

日常の動作では握手お辞儀などが含まれ単に「礼」と言うことが一般的であるため、「敬礼」と称す場合には特に近代以降の軍隊などで行われている挙手の敬礼(挙手注目の敬礼)を指すことが多い(軍隊礼式)。

本記事では主に日本の軍隊礼式について記述する。

一般礼式[編集]

一般的には握手やお辞儀の敬礼を行う。握手・お辞儀共に東洋西洋で古くから行われていた行為であるが、東洋においてはお辞儀が、西洋においては握手が広く行われる。古くは跪礼なども行われた。また、などを敬い拝む意味の敬礼(きょうらい)もある[1]

日本では上体を傾ける角度により、15度の「会釈」・30度の「敬礼」・45度の「最敬礼」(浅い順)と使い分けを行なっている。

軍隊礼式[編集]

軍隊においては一般的な挙手の敬礼(挙手注目の敬礼)のほか、や各種兵器などを用いたもの、手・腕ではなく頭・視線・体勢で表現するもの、個人(各個)・団体(部隊)によるものなど多種多様な敬礼が存在する。敬礼は受礼者が答礼してから元の姿勢に復するまで続けるべきであるとされている。

この軍隊礼式を参考として導入しているものは、準軍事組織沿岸警備隊国境警備隊など)や警察消防などの公的機関だけでなく、警備会社や交通会社(航空・鉄道・船舶・バスなど)といった民間の組織などもある。

自衛隊礼式[編集]

自衛隊では「自衛隊の礼式に関する訓令(昭和39年5月8日防衛庁訓令第14号)」に基づき、以下の礼式が定められている。概ね、アメリカ軍および事実上の前身である旧日本軍(陸海軍)の礼式の影響を多分に受けている。

89式小銃で「捧げ銃の敬礼(「捧銃」)」を行う陸上自衛隊自衛官
国旗に対し着剣捧げ銃の敬礼を行う陸上自衛官
自衛隊の礼式
受礼者 各個の敬礼
(着帽時)
各個の敬礼
(脱帽時)
隊の敬礼 警衛隊敬礼 歩哨等の敬礼
天皇 捧げ銃の敬礼
又は挙手の敬礼
45度の敬礼 着剣捧げ銃の敬礼、
挙手の敬礼
又は45度の敬礼
着剣捧げ銃の敬礼 停止して、
捧げ銃の敬礼
又は挙手の敬礼
国歌君が代 姿勢を正す敬礼 姿勢を正す敬礼 姿勢を正す敬礼 捧げ銃の敬礼 停止して、
捧げ銃の敬礼
又は挙手の敬礼
国旗 挙手の敬礼 姿勢を正す敬礼 捧げ銃の敬礼
(儀式に際し、国旗に対しては
着剣捧げ銃の敬礼)、
挙手の敬礼
又は姿勢を正す敬礼
捧げ銃の敬礼
(儀式に際しては
着剣捧げ銃の敬礼)
停止して、
捧げ銃の敬礼
又は挙手の敬礼
隊員のひつぎ 天皇に同じ 天皇に同じ 捧げ銃の敬礼
(儀式等に際しては
着剣捧げ銃の敬礼)、
挙手の敬礼
又は45度の敬礼
捧げ銃の敬礼
(儀式に際しては
着剣捧げ銃の敬礼)
停止して、
捧げ銃の敬礼
又は挙手の敬礼
皇后皇太子 銃礼
又は挙手の敬礼
10度の敬礼 捧げ銃
(特別儀仗隊にあっては
着剣捧げ銃)
の敬礼、
頭右(左、中)の敬礼
又は指揮者のみの敬礼
捧げ銃の敬礼 停止して、
捧げ銃の敬礼
又は挙手の敬礼
皇后、皇太子
以外の皇族
銃礼
又は挙手の敬礼
10度の敬礼 頭右(左、中)の敬礼
又は指揮者のみの敬礼
捧げ銃の敬礼 停止して、
捧げ銃の敬礼
又は挙手の敬礼
内閣総理大臣
防衛大臣
防衛副大臣
防衛大臣政務官
幕僚長・一佐相当の
その隊の指揮系統上の
部隊等の長・中隊長等
駐屯地(基地)司令
それに準ずる指揮官等
銃礼
又は挙手の敬礼
10度の敬礼 頭右(左、中)の敬礼、
指揮者のみの敬礼
又は号令により隊列
又は隊員の姿勢を正した後に
指揮者のみの敬礼
捧げ銃の敬礼 停止して、
捧げ銃の敬礼
又は挙手の敬礼
その他のもの 銃礼
又は挙手の敬礼
10度の敬礼 号令により隊列
又は隊員の姿勢を正したのち、
指揮者のみの敬礼
警衛司令より上位者である
幹部自衛官及び准尉が
警衛所の所在する営門を
出入する場合は
警衛司令のみの敬礼
銃礼
又は挙手の敬礼
着剣捧げ銃の敬礼(64式小銃
着剣捧げ銃の敬礼(M1小銃
着剣捧げ銃の敬礼 
着剣した小銃を右手で体の中央前に上げ、同時に左手で銃の引金室前部を握り、前腕を水平にして体につけ、小銃を体から約10センチメートル離して垂直に保ち、次に右手で銃把を握って行う(自衛隊の礼式に関する訓令第10条参照)。天皇や国旗・隊員への棺・慰霊碑等に対して行われる。
なお、大正後期頃までの旧日本軍の礼式において「捧銃(捧げ銃)」の動作はこの自衛隊とほぼ同じであったが、礼式令改正後の昭和期は持ち手が左右逆(右手が上・左手が下)で、また左手は銃把に相当する小銃下部ではなく右手位置から握り拳1個分下の前床(木被)部を握り、親指を伸ばす違いがあった。
捧げ銃の敬礼 
着剣していない小銃による。動作は「着剣捧げ銃の敬礼」に同じ(自衛隊の礼式に関する訓令第10条参照)。主な対象者は将官以上の階級・役職にある高官に対する栄誉礼時に行われるものとされている[2]が、対象者が佐官や尉官であっても着任式や離任式において観閲台付近に立する衛兵たる隊員は観閲行進開始前及び終了時における観閲官への敬礼として捧げ銃を行う。
銃礼 
立て銃の姿勢から、左手の手のひらを下にして指をそろえて伸ばし、手首と前腕をまっすぐにしておおむね水平に伸ばし、人さし指の第1関節が銃口に軽く接触する程度に保って行う(自衛隊の礼式に関する訓令第10条参照)。
他の敬礼と異なり、旧日本軍では行われていなかった敬礼の方式で、アメリカ軍の「rifle salute at right shoulder(右肩担い銃敬礼)」に相当する。
挙手の敬礼
挙手および「頭右(かしらみぎ)」、旗(自衛隊旗)の敬礼
挙手の敬礼 
右手をあげ手のひらを左下方に向け、人さし指を帽のひさしの右斜め前部にあてて行う(自衛隊の礼式に関する訓令第10条参照)。
詳細は「挙手の敬礼」参照。
10度の敬礼 
頭を正しく上体の方向に保ったまま、体の上部を約10度前に傾けて行う(自衛隊の礼式に関する訓令第10条参照)。
会釈に相当。
45度の敬礼 
頭を正しく上体の方向に保ったまま、体の上部を約45度前に傾けて行う(自衛隊の礼式に関する訓令第10条参照)。
最敬礼に相当。
頭右(左、中)の敬礼 
頭を受礼者に向けて行う。ただし、頭を向ける角度は、約45度を限度とする。着帽時に行われる。脱帽時は基本的に「頭(かしら)」の号令で受礼者に正対(半ば「左向け」または「右向け」)し、「中(左・右)」の号令で「10度の敬礼」を行う(自衛隊の礼式に関する訓令第10条)。
原則として2名以上の隊列を組む部隊が行う敬礼の一種なので、指揮権を有する部隊長以上に対して行われるべきである事から、陸上自衛隊では、中隊長(特科部隊等を除く・但し、特科部隊は離着任式のみ頭中の敬礼が行われる)以上の指揮官や駐屯地司令に対して行われる[3]
脱帽時は基本的に「10度の敬礼」をもってそれに換えることが出来る[4]ものの、式典においては進行上事務官や技官が参加している場合、脱帽にも関わらず普通に「頭中(左右)の敬礼」をしている場合もあり、それらは基本的に訓令違反に該当されるが黙認扱いになっている。
姿勢を正す敬礼 
気を付けの姿勢をとって行う(自衛隊の礼式に関する訓令第10条参照)。
脱帽時の敬礼の一種(主に国歌に対して行われる)また、儀仗等においてが式典会場付近にいる場合は受礼者に対する栄誉礼において「姿勢を正す敬礼」を行う[5]
着席中は号令により起立、直立不動の姿勢を取る。
旗の敬礼 
隊が姿勢を正す敬礼を行う場合は、姿勢を正してそのまま捧持し、その他の敬礼を行う場合は、右手で旗ざおを垂直に上げ同時に左手で右わきのところで旗ざおを握り、次に旗ざおを水平に前方に倒して行う。ただし、捧持用バンドを使用して捧持している旗は、右手をのばし旗ざおを水平に前方に倒して行う(自衛隊の礼式に関する訓令第51条)。旗手は旗の敬礼を行うと同時に顔を受礼者に向ける。
主に中隊(隊)以上の部隊で行う。


旧日本陸軍の礼式[編集]

軍旗の敬礼(宮城遥拝)。手前の連隊長以下将校と見習士官は「投刀」、後列の下士官兵のうち帯刀本分者は「捧刀」、他は「捧銃(捧銃の敬礼)」を行っている

旧日本陸軍における独自の礼式としては、種々の沿革があるが「陸軍礼式令(昭和15年1月25日軍令陸第3号)」によると第4章に軍旗に関する敬礼が定められている。

  • 軍旗の敬礼
    軍旗は、天皇に対するとき及び拝神の場合に限り敬礼を行うものとされ、旗手、軍旗衛兵並びに軍旗中隊及び誘導将校、護衛下士官並びに軍旗誘導部隊は、軍旗の敬礼を行う場合に限り敬礼を行うものとされた。
  • 軍旗に対する敬礼
    抜刀将校や武装下士官兵の軍旗に対する敬礼は天皇に対する敬礼に同じである。すなわち、抜刀将校は刀の礼、武装下士官兵は捧銃・捧刀の礼を行う。
    室内においては、拝礼する。
    軍旗に行き遇い又はその傍を通過する者は、行進間においては停止し、乗馬者は乗馬のまま、乗車者は乗車のまま、軍旗に面して敬礼を行う。

旧日本海軍の礼式[編集]

旧日本海軍においては、通則として「君が代」の奏楽、吹奏を聞くときは姿勢を正すこと、上官に対しては敬礼し、上官はこれに答礼し、同級者は相互に敬礼を交換すべきであるとされる。

  • 各個の敬礼 室内、室外の区別があるが、室外の基本形式は挙手注目の礼である。拝神の礼は常に室内の最敬礼に依る。また剣を持ってするもの、銃を執ってするものなどがある。
  • 艦船部隊の敬礼 軍艦旗の揚卸は艦艇の毎日行事であるが、楽隊(信号兵)は「君が代」を吹奏し、衛兵隊は捧銃し、上甲板以上に在る者はこれに向って挙手注目し、中甲板以下に在る者は姿勢を正す。将旗を掲げる軍艦または短艇に対しては、衛兵隊は敬礼し、「海行かば」を1回吹奏し、上甲板に在る者は敬礼し、姿勢を正す。短艇の敬礼は将官に対しては「橈立(かいた)て」、佐官・尉官に対しては「橈上(かいあ)げ」を行う。軍隊の敬礼は「頭右(左)」を令し、隊長は各個の敬礼を行う。拝神の礼は「捧銃」を行い、「国の鎮め」を吹奏する。ただし靖国神社のみに対しては「水漬く屍」を吹奏する。

軍艦の敬礼は、

  • 軍艦旗に対する敬礼。
  • 軍艦が天皇乗御の艦船に遇った場合には幹部および当直将校は艦橋に集まり、その他の乗員は上甲板および舷側に整列して敬礼を行い、衛兵隊および番兵は捧銃し喇叭「君が代」を吹奏し、副長の令で祝声(万歳三唱)を唱えて敬意を表する。
  • 軍艦が相遇う時、将旗あるいは代将旗を掲げた軍艦または短艇に遇う時は、喇叭を吹奏して敬礼し、外国軍艦に相遇った時にも互いに敬意を表する。
  • 船舶灯台などより軍艦に対しその国旗を降下して敬礼する時は軍艦は軍艦旗を半ば降下して答礼する。外国商船もまた軍艦に対してはその国旗を降下して敬意を表する。
  • 艦船にはその他登舷礼式といって天皇に対する敬礼を行う場合、および戦時、事変あるいは遠洋航海などのため出入港する艦船を送迎する時、総員が舷側に整列して敬礼を表する。
  • 軍艦の敬礼の中に号笛を吹いて敬意を表する敬礼がある。号笛は細長い海軍特有の小笛で、制規の服装をして軍艦に出入する副長以上あるいは特命全権大使などが乗艦退艦する際、舷門で行うものである。

挙手の敬礼[編集]

花輪に対して「敬礼(挙手の敬礼)」を行うアメリカ空軍大佐(将校、中央)と上級部隊等最先任上級曹長(下士官、右)他。「敬礼(挙手の敬礼)」の形が大きく異なっている
陸上自衛隊幹部(統合幕僚長たる陸将君塚栄治)の「答礼」。「敬礼」に対し上位者が行う「答礼」であるため、肘は張らずに指と腕も伸ばさず、力を入れない形になっている
敬礼を行うアメリカ海軍の軍人(将校・下士官・兵)。「敬礼(挙手の敬礼)」の形は各自大きく異なっている

挙手の敬礼挙手注目の敬礼)は、軍隊の敬礼(軍隊礼式)の中で最も有名なものである。この敬礼は近代的軍隊の発祥地であるヨーロッパにおいて、を装着した騎士が王族や貴族に拝謁する際、鉄兜の目の保護具である鎧戸を持ち上げるその仕草が端緒とされる。またイギリスでは王・女王に騎士が謁見をする際、自らの額に右手の甲を当てて、手のひらに武器を握っていないことを証明するために行われていた。

下位の者より「敬礼挙手の敬礼)」を受けた受礼者たる上位の者は、例外を除き「答礼挙手の答礼)」を行う。受礼者が行う「答礼」は厳密には「敬礼」と異なるものであるが、動作がほぼ同様であるため一般的にはこれも「敬礼」と総称されることが多い。

また、上位の者が行う「答礼」および同位の者同士が交換し合う「敬礼」の場合、動作や形(指や腕の位置・角度)は下位の者が行う「敬礼」と異なり、力まず簡易なものになる場合も多い。

なお、軍隊組織において挙手の敬礼の形は基本が定義され、軍隊に初めて入隊した者は教育隊を含む部隊や軍学校にて先ず敬礼の教育・指導を受けるものの、あくまで癖・嗜好・体格も異なる人間が行う動作であることから、同じ軍種・職種・階級であっても形に相当の差異が生じることは決して珍しくはない(かつ、時と場合によっては同一人物であっても差異が生じる場合もある)。そのため、軍隊組織において画一的な挙手の敬礼の形というものは厳密には存在しない。例として、以下の3枚の画像は「答礼」を行うアメリカ海軍将校を捕えたものであるが、各自の「答礼」の形は全く異なることが確認出来る。

日本では明治初め、西洋を模範とした近代軍隊である旧日本軍(陸海軍)建軍の際に導入された。脱帽時には挙手の敬礼をしてはならず、会釈・お辞儀の敬礼をする。日本以外の軍隊などにおいては脱帽時にも行うところが多い。国によっては、負傷などの理由で右手を使えない場合、左手で挙手礼を行うよう定めている場合もある。また、掌(てのひら)を下方に向けるか、前方に向けるかという差もあり、旧日本軍や自衛隊、アメリカ陸軍では掌は下方に向けるが、フランス陸軍などでは前方に向ける。またイギリス軍の様に伝統のある軍隊では、歴史的経緯から管轄によってやり方が異なる(陸軍は前に向け、海軍は下に向ける)こともある。


旧日本陸軍[編集]

視察に訪れた陸軍大将東條英機(中央)に対し、出迎えの陸軍将校・陸軍軍属高等官一同(手前列)が「敬礼」を行う姿。陸軍大将(東條)はその「敬礼」に対し「答礼」を行っている

日本陸軍の陸軍礼式令(昭和15年1月25日軍令陸第3号)では、「挙手注目の敬礼は姿勢を正し右手{傷痍疾病に依り右手を使用し得ざる者は左手}を挙げ其の指を接して伸ばし食指と中指とを帽の庇の右(左)側(庇なき帽に在りては其の相当位置)に当て掌を稍〻外方に向け肘を肩の方向にて略〻其の高さに斉しくし頭を向けて受礼者の目若くは敬礼すべきものに注目す」(片仮名を平仮名に改め、小文字を{}で括る)と、定義されている。

なお、元帥陸軍大将寺内正毅は右腕が不自由だったため、左手を挙げて敬礼を行っていた。

旧日本海軍[編集]

靡下将兵より「敬礼」を受け、「答礼」を行う海軍中将長谷川清(最左)他。「答礼」の形は同じ壇上に立つ陸軍中将朝香宮鳩彦王(中央)とほぼ同様'

日本海軍の海軍礼式令(大正3年2月10日勅令第15号)[6]では、「挙手注目は姿勢を正し右手を挙げ右臂を右斜に右前腕及び掌を一線に保ち五指を伸ばして之を接し掌を左方に向け食指の第三関節を帽の右前部又は庇の右縁に当て頭を向けて受礼者の目又は敬礼を受くへきものに注目す」(片仮名を平仮名に改める)と、定義されている[7]

なお、主に戦後、極端に脇を締め肘を張らない挙手の敬礼を「海軍式敬礼」などと称し、さも日本海軍の正式な敬礼の形として喧伝されていることが多いが、これはあくまで「俗なもの」に過ぎず決して(日本海軍の)正しい敬礼の形ではない。海軍礼式令では上述の通り「(極端に脇を締め肘を張らない)俗・海軍式敬礼」のような形は一切定義されておらず、実際に当時の海軍軍人は後述の通り「(脇を開き肘を張る)俗・陸軍式敬礼」を行っている姿が多数確認出来る単純に海軍礼式令では陸軍礼式令の様に肘の高さについて言及されていないに過ぎない)。ごく一部の海軍将兵が時と場合により「俗・海軍式敬礼」を行っていたことはあれど、それをもって海軍全体の敬礼の形となすことは不適当である。また、逆に日本陸軍においても主に受礼者が「俗・海軍式敬礼」を答礼として行っている姿もある。

例として、以下の5枚の画像は靡下将兵の敬礼を受け答礼中の連合艦隊司令長官たる海軍大将山本五十六空母瑞鶴」にて発着甲板上に集合し敬礼を行う乗組員一同、海軍中将に対し敬礼を行う靡下将兵、敬礼を行う航空機搭乗員たる海軍中尉、敬礼を行う飛行予科練習生の姿であるが、何れにおいても敬礼の形・腕の位置が確認出来るほぼ全ての海軍将兵および生徒は、役職や階級を問わず「俗・陸軍式敬礼」を行っていることが確認出来る。特に2枚目画像「瑞鶴」の場合、沈没直前の船体は大傾斜中で足場は悪く危険であり、かつ甲板上は乗組員で溢れ肩が触れ合う状況ながらも大多数の将兵は脇を大きく開け、肘を肩の位置で高く水平に張る挙手の敬礼を行っている。

自衛隊[編集]

航空自衛隊幹部(統合幕僚長たる空将岩崎茂、中央)に対し「敬礼」を行う陸上自衛隊幹部(1等陸佐、左)および海上自衛隊幹部(1等海佐、右)。海自幹部の「敬礼」は肘を大きく張っており、陸海自衛官の「敬礼」の形に大差はない。なお、空将は「答礼」は行っていない
「敬礼」ないし「答礼」を行う航空自衛隊幹部
  • 陸上自衛隊と航空自衛隊は、礼式に関する訓令第10条によって、「右手をあげ手のひらを左下方に向け、人さし指を帽のひさしの右斜め前部にあてて行う」とされる。
  • 海上自衛隊は、狭い艦艇内で行われることを想定しているため、右肘上腕部を右斜め前約45度に出して肘を張らない特徴がある(肘を張ると擦れ違い敬礼の交換の際に相手とぶつかってしまうため)。しかしながら、本項画像や本記事最上掲画像の様に陸自(空自)と同様の肘を大きく張った敬礼が行われる事もある。


特殊な形式の例[編集]

警察礼式[編集]

警察部隊の敬礼(1954年アイルランド警察)。代表たる指揮官のみが挙手注目の敬礼で、隊員は受礼者に対し注目して敬礼 (かしら左) している

警察の礼式は、基本的に軍隊の礼式に準じている。日本では、警察礼式(昭和29年8月2日国家公安委員会規則第13号)に定めがある。

室内の敬礼 
室内の敬礼は通常脱帽している室内で行い、室外であっても着帽していない私服勤務員などは室内の敬礼を行う。その要領は、受礼者に向って姿勢を正し、注目した後、体の上部を約15度前に傾け、頭を正しく上体の方向に保って行う。その場合において、帽子を持っているときは、右手にその前ひさしをつまみ、内部を右ももに向けて垂直に下げる(制帽を持っている婦人警察官にあっては、右手にその縁をつかみ、記章を前方に、内部を右腰に向け、右腕に抱える )。室内の敬礼は受礼者から離れること約3歩の間合いで行う。
挙手注目の敬礼 
挙手注目の敬礼は制帽やヘルメットなどを着帽している場合に行い、無帽の場合は行わない。その要領は、受礼者に向かって姿勢を正し、右手を上げ、指を接して伸ばし、ひとさし指と中指とを帽子あるいはヘルメットの前ひさしの右端(制帽を着用している婦人警察官にあつては、つばの前部の右端)に当て、たなごころを少し外方に向け、ひじを肩の方向にほぼその高さに上げ、受礼者に注目して行う。挙手注目の敬礼は受礼者から離れること約8歩の間合いで行う。なお、テレビの刑事ドラマなどで、しばしば登場人物の刑事が私服無帽ながらこれを行うシーンが登場することがあるが、日本の警察礼式においては誤りとなる。
警棒の敬礼 
受礼者に向かって姿勢を正し、警棒を握ったこぶしを(手の甲側を受礼者に向けるように)前方に向け、そのおや指があごの直前約10センチメートルの位置に来るよう活発に上げ、警棒を身体と約15度になるように前に傾け、つばの一方の先端部をあごに向けて受礼者に注目して行う。捧刀の礼の動作に同じ。
部隊の敬礼 
まず隊列を正し、指揮官の「かしらー右(左)」又は「注目」の号令で、受礼者に対し、指揮官は挙手注目又は警棒の敬礼を行い、隊員は、注目し、「なおれ」の号令で旧に復する。受礼者が、隊列を離れること約8歩の所で行う。

馬術競技会礼式[編集]

馬術では礼が重んじられる。近代オリンピックで見られるようなブリティッシュ馬術の競技会では、全ての競技者は審判長または臨席の国家元首に対し敬礼を行わねばならない[8]

敬礼は騎乗したまま行われる。競技者が男性の場合、ヘルメット着用時には挙手注目の敬礼を、トップハット(シルクハット)または山高帽(ボーラーハット)着用時には脱帽して前傾する敬礼を行う例が多い。女性では、指を揃えた右手を横斜め下に伸ばしつつ前傾する敬礼を行う例が多い。なお、馬場馬術競技においては、手綱を片手にまとめて取って敬礼を行うよう規則づけられている[9]

船舶の敬礼[編集]

民間船が軍艦に対して国旗の上げ下げで行う(人間が敬礼するのではない)ものと、人間が行う登檣礼がある。国旗礼では、民間船側が国旗を下げた後、軍艦側が同じ事をしたのを確認後、上げる事で完了する。

脚注[編集]

  1. ^ 仏教においては、右掌と左掌を合わせた合掌が基本的な礼式である。神道においては、一般に2拝2拍手1拝が行われる(神道#参拝の方法拝揖)。
  2. ^ 基本原則として佐官や尉官への敬礼はたとえ銃を携行していたとしても立て銃のまま頭中の敬礼を行うのが通例であるが、駐屯地創立記念行事における観閲式においては、観閲官たる駐屯地司令・部隊長の希望によって捧げ銃による敬礼を行う場合もある。無論栄誉礼ではない事から冠符及び祖国は演奏されず、通常の敬礼動作として扱われている。また、受礼者が将官の階級にある統裁官であっても訓練開始式等における統裁官への敬礼は捧げ銃ではなく頭中である事から、捧げ銃の敬礼そのものは執銃時における栄誉礼として実施される場合における敬礼動作と見るのが筋ではある
  3. ^ 中隊等において副中隊長・運用訓練幹部等への敬礼を行う場合は「挙手の敬礼」を行う。連隊・大隊における副連隊(副大隊)長への敬礼も基本的には「挙手の敬礼」になるが、式典においては「頭中の敬礼」を行う場合もある。1佐の幕僚長に対する敬礼は「挙手の敬礼」となるなど、必ずしも部隊長の階級ではなく「役職」に対しての敬礼であるため、階級上は「頭中の敬礼」を行うと思われる事例においても「挙手の敬礼」を行う場合がある。
  4. ^ 「頭」の号令で受礼者へ身体を正対させ「中(左・右)」の号令で「10度の敬礼」を行うのが本来の姿である。
  5. ^ 但し、受礼者の当該国歌や「君が代」が演奏される場合においては正面に対して敬礼を行う。
  6. ^ 『御署名原本・大正三年・勅令第十五号・海軍礼式令』
  7. ^ 『御署名原本・大正三年・勅令第十五号・海軍礼式令』p.16
  8. ^ 国際馬術連盟『General Regulations』22nd edition、Article 127.1
  9. ^ 国際馬術連盟『Rules for Dressage Events』22nd Edition、Article 430.4, 430.10

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]