サハ共和国
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
サハ共和国(Республика Саха (Якутия), ヤクート語:Саха Республиката, 英語:Sakha (Yakutia) Republic)は、ロシア連邦を構成する共和国で、連邦構成主体の一つ。首都はヤクーツク。別名ヤクーチア(ロシア語形より)。旧称ヤクート・ソビエト社会主義自治共和国 (1922年から1990年)、ヤクート・サハ共和国 (1990年から1992年)。面積は3,103,200平方kmで、ロシアのヨーロッパ・ロシアを除いた地域の半分を占め、地方行政単位としては世界最大である。連邦管区では極東連邦管区の範囲になる。
目次 |
[編集] 概要
- 首都 - ヤクーツク市
- 大統領 - ヴャチェスラフ・シュティロフ
- 人口 - 94万9,280人(2002年国勢調査)
- 公用語 - ロシア語とヤクート語
- 主な民族 - ヤクート人(テュルク系)、エヴェンキ人(ツングース系)、ロシア人(東スラブ系民族)
[編集] 標準時
- 東部 - UTC+11 (夏時間はUTC+12) …マガダン時間
- 中部 - UTC+10 (夏時間はUTC+11) …ウラジオストク時間
- 西部 - UTC+9 (夏時間はUTC+10) …ヤクーツク時間
[編集] 地理
サハ共和国は南北に2500㎞、東西に2000㎞の国土を持つ。その最北端は北極海に浮かぶノヴォシビルスク諸島のヘンリエッタ島で、ノヴォシビルスク諸島をはさんで西はラプテフ海、東は東シベリア海が大陸に面する。これらの海は北半球で最も冷たく凍った海で、大河から淡水が流入するため流氷形成が活発であり、年間9カ月から10ヶ月は凍結する。
サハの土壌は全て永久凍土で、面積の40%は北極圏に含まれる。北部の北極海沿岸はツンドラで緑のコケ類が覆いトナカイが暮らす。ツンドラ帯の南部では小さくねじれたシベリアマツやカラマツが川に沿って育つ。ツンドラより南には針葉樹林帯(タイガ)が広がる。北はカラマツが主で、南に向かうにつれモミやマツが現れる。タイガはサハ共和国の47%を覆い、その90%はカラマツ類である。
[編集] 気候
ユーラシア大陸の北東部にあり、大陸性気候である。山がちな国土なため、冬の寒さは極限に達する。その一方、夏は緯度に比較して比較的高温になる。
冬は猛烈に厳しく、南極を除くと世界最低気温となる氷点下71.2度を1926年1月に記録したオイミャコンや、やはり冬の酷寒で知られるベルホヤンスクもあり、北半球の寒極と考えられている。雪は少ない。
1月の平均気温は北極海沿岸でマイナス28度、その他の内陸部ではマイナス50度に達する。7月の平均気温は北極海沿岸ではわずか2度、一方内陸部では19度にまで上がる。年平均降水量は内陸部で200mm、東部の山岳部で700mm。
[編集] 山地
サハ共和国の大きな山脈には、レナ川に並行して走るベルホヤンスク山脈があり、オホーツク海からラプテフ海まで弧状に大きく延びている。ベルホヤンスク山脈の東に並行してチェルスキー山脈が同じく弧状に延びるが、その山脈にあるポベダ山(Pobeda)が標高3,003mで最高峰とされている(近年の人工衛星による調査ではムスハヤ山(Mus-Khaya)が標高3,011mに達し本当の最高峰だとされている。)
南部にはスタノヴォイ山脈やアルダン高地など、南シベリアからモンゴルにかけて広がる山地の一部が延びている。アルダン高地は炭鉱地帯がある。
最も東にはチュクチ自治管区にまたがるコリマ丘陵があり、金が豊富である。
[編集] 水系
サハ共和国の水は全て北極海に流れる。国土の中央には非常に幅の広いレナ川が流れ首都のヤクーツクを通り、国土を南から北に縦貫して北極海へ注ぐ。10月から6月にかけて凍結するものの、重要な交通路になっている。
レナ川には無数の巨大な支流があるほか、インディギルカ川、ヤナ川、コリマ川といった独立した水系も北極海に流れている。
- レナ川(4,310km)
- オレニョーク川(2,292km)
- コリマ川(2,129km)
- インディギルカ川(1,726km)
- ヤナ川(872km)
- アラゼヤ川(1,590km)
- アナバル川(939km)
- ムナ川(Muna, 715km)
- セデンニャハ川(Sedennyakh)
また北極海沿岸のツンドラ地帯や大河沿いの氾濫原には無数の湖沼があり、大きな湖だけで700を超える。ヴィリュイ川の中流にある大貯水湖をはじめとしたダム湖も数多く建設されている。
[編集] 歴史
ヤクート人は比較的最近の13世紀に中央アジアからこの地に進出した。彼らはテュルク系民族でモンゴル系とも混血しており、もともとこの地にいた狩猟採取民族を征服し同化した。テュルク系語とモンゴル系語および先住民の言語の痕跡はヤクート語に残っている。ヤクートは「サハ」と自称するが、その語源は明らかではない。
先住のエヴェンキ人はサハのことを「ヤコ」(Yako)と呼び、これが17世紀始めに毛皮を求めこの地に来たロシア人に伝わり「ヤクート」となった。ヤクート人の一派であるティギン(Tygyn)の王は、ロシア人に対し軍事同盟の代わりにこの地への植民を認めた。この同盟を逆手に取られ、ティギンの人々はチュクチやカムチャツカなど極東の諸民族に対するロシアの征服に追従することとなる。1632年9月25日、コサックのピョートル・ベケトフは現在のヤクーツクの場所にレンスキー・オストログ(レンスキー砦)を築き、1638年8月、モスクワの政府はレンスキー砦を中心地とした新行政区を作った。
ロシア人(民族)はレナ川水系をオホーツク海など極東への交通路として使い、サハやその他の民族に対し毛皮を税として取り立て、これを元に貨幣経済を確立した。またロシア人(民族)はレナ川低地で農業をはじめた。特に、19世紀後半にレナ川地方へ追放された宗派の人々が大麦や小麦、芋などを栽培して生活した。19世紀末からソビエト連邦初期には軽工業および蒸気船などの交通が発達し始め、さらに金などの地下資源が見つかって鉱業も始まった。
1922年4月27日、ソビエトはそれまでの「ヤコルスカヤ地方」に替えて「ヤクート・ソビエト社会主義自治共和国」を作ったが、ロシア内戦期間中は首都ヤクーツクをはじめヤクート東部は白軍が実質的に支配し、1921年から1923年はヤクート反乱が起きた。
1992年、ソビエト崩壊後のヤクートは、ロシア連邦内の「サハ(ヤクーチア)共和国」として承認された。
[編集] 政治
サハ共和国の政府の最高職は大統領である。初代大統領はミハイル・ニコラエフであった。2007年現在の大統領は2002年1月の選挙で選ばれたヴャチェスラフ・シュティロフである。
立法府は一院制の「イル・トゥメン(Il Tumen)」と呼ばれる議会になっている。
[編集] 教育
最も重要な高等教育機関はヤクート国立大学とヤクート国立農業アカデミーである。
[編集] 宗教
ロシア人(民族)の到達前は、太陽に対する崇拝やテングリ信仰など、中央アジアのテュルク系諸民族に共通する信仰や、古シベリア諸語の民族に伝わるシャーマニズム(共同体を導く「光」のシャーマンと、魂の旅路を通した癒しを実践する「闇」のシャーマン)が中心であった。ロシア帝国の下で人口の大半は正教会に改宗し洗礼名を得たが、伝統的な宗教は生活の場で続いている。ソビエト時代多くのシャーマンが跡継ぎを残さず死んだが、ソビエト崩壊後はその復興への関心が高い。
[編集] 主要都市
[編集] 産業
主要産業は鉱業、木材産業、木材加工業である。
- 総工業生産高 (775億7020万ルーブル)
- 貿易総額 (1億7650万米ドル)
地下資源は石油、天然ガス、石炭、金、銀、ダイヤモンドなど非常に多様かつ豊富である。特に、ロシア全土で産出するダイヤモンドの99%がサハ共和国産で、ミールヌイやウダーチヌイの鉱山は特に大きい。ウラニウムは採掘が始まったばかり。
対日貿易額は約351万ドルで、南ヤクート炭田(ネリュングリなど)からの石炭中心にゴムタイヤ、ブルドーザー、機械部品を輸出している。
工業はヤクーツクに集中しているが、その他金鉱の町アルダン、ダイヤモンドの町ミールヌイとウダーチヌイ、炭鉱の町ネリュングリなどにも鉱工業が発達している。
ロシア国内外からの観光客受け入れにも積極的である。
ヤクート人(サハ)らは政治、金融、経済、畜産などに携わり、その他の先住民は猟師、漁師、トナカイ放牧などで生計を立てている。
[編集] 交通
貨物輸送では河川を利用した水運が主流である。レナ川とその支流沿いの河港をはじめ、北極海の港(ティクシなど)、4つの船会社が操業している。
旅客輸送では航空機が最も重要になっている。ロシア各地とサハ共和国内の各市町村は空路で結ばれている。ヤクーツクには国際線ターミナルもある。
連邦国道が2本、アムール州から延びるヤクーツク=ボルショイ・ネバと、東へ伸びるヤクーツク=コリマがサハを走っている。永久凍土があるためアスファルトで舗装することは現実的ではなく、道路は粘土で舗装されているが、雨になると泥沼と化しバスなどが立ち往生する。バム鉄道から北へ延びる鉄道支線がサハ南部のベルカキト・ネリュングリ・チュリマンなどの鉱工業都市を結んでおり石炭を日本など東アジアへ運んでいる。鉄道はアルダンやトンモトまで延伸されており、さらにヤクーツクへ延びる計画はあるが、いまだ建設には至っていない。
[編集] 人口動静
以下は2002年のロシア国勢調査における人口統計データである。
基礎データ
- 人口: 949,280人
- 都市人口: 609,999人(64.3%)
- 地方人口: 339,281人(35.7%)
- 男性: 464,217人(48.9%)
- 女性: 485,063人(51.1%)
- 世帯数: 305,017世帯
- 人口増減(2005年)
- 出生数: 13,591人
- 死亡数: 9,696人
- 平均年齢: 30.0歳
- 都市: 31.0歳
- 地方: 27.4歳
- 男性: 30.0歳
- 女性: 26.6歳
- 民族構成
歴史的な民族比率は以下のとおり。ソ連時代を通じロシア人(民族)やその他ソ連各地出身民族の割合が高まり、1970年にはロシア人(民族)が多数派となったが、ソ連崩壊後の2002年にはロシア人(民族)やウクライナ人(民族)の転出が続きヤクート人の方が多数派に戻った。
| 1939年国勢調査 | 1959年国勢調査 | 1970年国勢調査 | 1979年国勢調査 | 1989年国勢調査 | 2002年国勢調査 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| ヤクート | 233,273 (56.5%) | 226,053 (46.4%) | 285,749 (43.0%) | 313,917 (36.9%) | 365,236 (33.4%) | 432,290 (45.5%) |
| ドルガン | 10 (0.0%) | 64 (0.0%) | 408 (0.0%) | 1,272 (0.1%) | ||
| エヴェンキ | 10,432 (2.5%) | 9,505 (2.0%) | 9,097 (1.4%) | 11,584 (1.4%) | 14,428 (1.3%) | 18,232 (1.9%) |
| エヴェン | 3,133 (0.8%) | 3,537 (0.7%) | 6,471 (1.0%) | 5,763 (0.7%) | 8,668 (0.8%) | 11,657 (1.2%) |
| ユカギール | 267 (0.1%) | 285 (0.1%) | 400 (0.1%) | 526 (0.1%) | 697 (0.1%) | 1,097 (0.1%) |
| チュクチ | 400 (0.1%) | 325 (0.1%) | 387 (0.1%) | 377 (0.0%) | 473 (0.0%) | 602 (0.1%) |
| ロシア | 146,741 (35.5%) | 215,328 (44.2%) | 314,308 (47.3%) | 429,588 (50.4%) | 550,263 (50.3%) | 390,671 (41.2%) |
| ウクライナ | 4,229 (1.0%) | 12,182 (2.5%) | 20,253 (3.0%) | 46,326 (5.4%) | 77,114 (7.0%) | 34,633 (3.6%) |
| その他 | 14,723 (3.6%) | 20,128 (4.1%) | 27,448 (4.1%) | 43,695 (5.1%) | 76,778 (7.0%) | 58,826 (6.2%) |
[編集] 参考文献
- (米原万里・文、関口たか広・え、毎日小学生新聞・編) 『マイナス50°Cの世界 -- 寒極の生活』(知る知るシリーズ) 現代書館 1986年7月 71p ISBN 4768477364
- (米原万里・著、山本皓一・写真) 『マイナス50°Cの世界』 清流出版 2007年1月 125p ISBN 978-4-86029-189-1 (上掲同題書を改稿、写真追加)
[編集] 外部リンク
- サハ共和国政府
- 2002年ロシア連邦国勢調査 (英語)
|
|
|
|---|---|
| 中央連邦管区 | ベルゴロド州 | ブリャンスク州 | ヴラジーミル州 | ヴォロネジ州 | イヴァノヴォ州 | カルーガ州 | コストロマ州 | クルスク州 | リペツク州 | モスクワ州 | オリョール州 | リャザン州 | スモレンスク州 | タンボフ州 | トヴェリ州 | トゥーラ州 | ヤロスラヴリ州 | モスクワ市 |
| 北西連邦管区 | カレリア共和国 | コミ共和国 | アルハンゲリスク州 | ヴォログダ州 | カリーニングラード州 | レニングラード州 | ムルマンスク州 | ノヴゴロド州 | プスコフ州 | サンクトペテルブルク市 | ネネツ自治管区 |
| 南部連邦管区 | アディゲ共和国 | ダゲスタン共和国 | イングーシ共和国 | カバルダ・バルカル共和国 | カルムイク共和国 | カラチャイ・チェルケス共和国 | 北オセチア共和国 | チェチェン共和国 | クラスノダール地方 | スタヴロポリ地方 | アストラハン州 | ヴォルゴグラード州 | ロストフ州 |
| 沿ヴォルガ連邦管区 | バシコルトスタン共和国 | マリ・エル共和国 | モルドヴィア共和国 | タタールスタン共和国 | ウドムルト共和国 | チュヴァシ共和国 | ペルミ地方 | キーロフ州 | ニジニ・ノヴゴロド州 | オレンブルク州 | ペンザ州 | サマラ州 | サラトフ州 | ウリヤノフスク州 |
| ウラル連邦管区 | クルガン州 | スヴェルドロフスク州 | チュメニ州 | チェリャビンスク州 | ハンティ・マンシ自治管区 | ヤマロ・ネネツ自治管区 |
| シベリア連邦管区 | アルタイ共和国 | ブリヤート共和国 | トゥヴァ共和国 | ハカス共和国 | アルタイ地方 | クラスノヤルスク地方 | イルクーツク州 | ケメロヴォ州 | ノヴォシビルスク州 | オムスク州 | トムスク州 | ザバイカリエ地方 | ウスチオルダ・ブリヤート自治管区 |
| 極東連邦管区 | サハ共和国 | カムチャツカ地方 | 沿海地方 | ハバロフスク地方 | アムール州 | マガダン州 | サハリン州 | ユダヤ自治州 | チュクチ自治管区 |


