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2016年4月28日 (木) 14:39時点における版

10式戦車
性能諸元
全長 9.42m
全幅 3.24m
全高 2.30m
重量 約44t(全備重量)
懸架方式 油気圧式
速度 70km/h(前進・後進速度[1]
主砲 44口径120mm滑腔砲日本製鋼所製)
副武装 12.7mm重機関銃M2砲塔上面)
74式車載7.62mm機関銃主砲同軸
装甲 複合装甲(正面要部)
増加装甲(砲塔側面)
エンジン 水冷4サイクルV型8気筒ディーゼル
1,200ps/2,300rpm
乗員 3名
開発費:約484億円
単価:約9.5億円(平成22年度)
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10式戦車(ひとまるしきせんしゃ)は、日本主力戦車陸上自衛隊が運用する国産戦車としては4代目となる。

概要

陸上自衛隊の4代目となる最新国産主力戦車である。

開発は防衛省技術研究本部、試作・生産は三菱重工業が担当した。戦闘力の総合化、火力・機動力・防護力の向上、小型・軽量化などを達成。2009年(平成21年)12月に実施された防衛省装備審査会議において部隊の使用に供することが認められ(部隊使用承認)、装備化年度が平成22年度(2010年度)になることから「10式戦車」と名称が定められた[2][注 1]

主砲には日本製鋼所の国産44口径120mm滑腔砲(軽量高腔圧砲身)を備え、新型の国産徹甲弾の使用により貫徹力を向上させている。また、90式と同様に自動装填装置を採用し、乗員は車長砲手操縦士の3名である。小型・軽量化と応答性・敏捷性の向上のため、水冷4サイクルV型8気筒ディーゼルエンジン油圧機械式無段階自動変速操向機(HMT)を組み合わせた動力装置(パワーパック)を搭載する。また、全国的な配備・運用のために車体を小型軽量化したことで重量は約44トンに抑えられており、さらに着脱が容易なモジュール型装甲を実装している。日本戦車戦闘車両としては初めてC4Iシステムを標準装備したことも特徴である。

平成22年度(2010年)より調達が開始されており、平成23年度(2011年)より富士教導団戦車教導隊などから順次部隊配備される。平成24年(2012年)に量産第1号車が富士学校機甲科部に引き渡され、平成24年(2012年)12月に駒門駐屯地第1戦車大隊へ配備された。

開発経緯

日本を防衛するための能力を将来にわたって維持するため、将来戦に対応できる機能・性能を有した現有戦車の後継が必要とされた。導入する戦車の条件として、C4Iシステムによる情報共有および指揮統制能力の付加、火力・防護力・機動力の向上、全国的な配備と戦略機動のための小型軽量化が求められた。

現有戦車の改修や、諸外国で装備されている戦車の導入も検討されたが、防衛省の政策評価書によれば次のような理由から不適当であるとされた。

  • 現有の74式戦車および90式戦車を改修する場合、C4Iシステムを付加するには内部スペースが足りず、設計が古いことから将来戦に求められる性能が総合的に不足する。
  • 諸外国の新鋭戦車を導入する場合、いずれも90式戦車より大型で重量が約6-12トン重い上、陸上自衛隊でそのまま利活用できるC4Iシステムを搭載しておらず、独自のC4Iに適合させるための改修が必要である。

以上の理由から既存の戦車の改修によって目標を達成することは困難であり、将来の各種任務に必要な性能を満たす戦車を装備するためには新戦車の開発を行うことが適当と判断された。ただしC4Iシステムを車外に外付けすることは可能である。

開発を担当したのは防衛省技術研究本部の技術開発官(陸上担当)、試作・生産は主契約企業の三菱重工業である。開発は平成14年度(2002年)から平成21年度(2009年)まで行われ、試作については平成14年度-平成20年度(2008年)にかけて、試験については平成16年度(2004年)-平成21年度(2009年)にかけて実施された。

2008年2月13日神奈川県相模原市の技術研究本部陸上装備研究所で新戦車の試作車両として初めて報道公開された。また、同時に主な諸元、砲塔内の一部を撮影した写真、走行・射撃映像なども報道向けに公開された。記者会見では価格についての質問があり、担当者から希望的なニュアンスで7億円との回答があったとされる。試作車両の車体後部左側面の銘板には「新戦車(その5)戦車(その2)戦車2号車」と書かれており、複数の雑誌で2008年1月に完成した試作2号車と記述していた。

2010年6月14日静岡県駿東郡小山町陸上自衛隊富士学校富士駐屯地)で10式戦車の試作車両として報道関係者に公開され、90式と並走した。同年7月11日に行われた富士学校・富士駐屯地開設56周年記念行事では2両の試作車による走行展示が行われ、これが初の一般公開となった。なお、7月9日の予行でも報道関係者に公開されている。

2010年10月24日には、埼玉県の朝霞訓練場で行われた自衛隊観閲式で展示が行われた。ただし、観閲行進には不参加[3]

試作車両
2010年富士総合火力演習でのドーザ付き10式戦車・試作3号車
2010年富士総合火力演習での10式戦車・試作3号車(後部)
2010年富士総合火力演習での銘板
まだ「防衛」と表記されている
試作1号車側面(陸上自衛隊広報センター)

2012年1月10日に量産第1号車(初号車)の「入魂式行事」が陸上自衛隊富士学校にて行われ、報道陣に対して試作車(1号車と3号車)と共に量産車の公開が行われた[4]。富士学校校長・機甲科部長らによる機甲科部マーキングへの最後の筆入れ(入魂の儀式)とテープカットがなされた[4]。量産車は試作車と細部が異なっており、主な変更点は以下の通り。

  • 車体前部の形状[4]
  • 砲塔側面モジュール装甲へのハッチの追加[4]
  • 主砲先端の砲口照合装置ミラーの位置の変更[4]
  • 砲塔後部の用具入れの形状の変更[4]
  • 車体側面の乗車用ステップの増加[5][注 2]
  • 砲塔側面の76mm発煙弾発射筒の開口部をそれぞれ1カ所に集約[5]

試作第4号車は2013年4月13日に一般公開された。塗装はOD一色で、車体下部に地雷原処理用装備のマウントが確認できる[6]。その他にも、砲塔、架台車(車体)研究用に第0号車(単車としては存在せず)があったとされる。

2012年(平成24年)6月29日からは陸上自衛隊広報センターにて試作1号車が広報センターの中庭に常設展示となっている[7]

2012年8月、富士総合火力演習にて実弾の射撃および難易度の高いスラローム走行技術を一般に公開した。

2013年(平成25年)4月時点での試作車の現状であるが、1号車は陸上自衛隊朝霞広報センターにて、試作2号車は土浦の武器学校、試作3号車(ドーザ付)は富士学校に展示されており、試作4号車は技術研究本部陸上装備研究所で保管されている。

仕様

火力・防護力・機動力などの性能は、90式戦車と同等かそれ以上を目標としている。乗員は車長砲手操縦士の3名。

将来の対機甲戦闘および機動打撃を行いうる性能と、ゲリラコマンド攻撃の対処における優位を確立するため、以下を開発のコンセプトとしている。

  • 高度なC4I機能などの付加
  • 火力・防護力・機動力の向上
  • 全国的な配備に適した小型軽量化
  • 民生品の活用(COTS)および部品の共通化などによるライフサイクルコストを含む経費の抑制
  • 将来の技術革新などによる能力向上に対応するための拡張性の確保
量産型の車体
試作車両と細部が異なる
乗員との対比でも解るようにコンパクトである

火力

火砲・弾薬

砲塔上面に各種センサー類、及び12.7mm重機関銃M2を備える

主砲は従来の44口径120mm滑腔砲より13%軽い、新開発された軽量高腔圧砲身の日本製鋼所製の国産44口径120mm滑腔砲を装備、砲弾は発射薬や飛翔体構造を最適化した国産の新型徹甲弾(APFSDS)が開発され、新型弾薬に合わせ薬室の強度も強化されている。また、将来的に必要であれば55口径120mm戦車砲に換装可能なよう設計されている。

10式戦車の設計では90式戦車で使われる120mm戦車砲弾の使用も考慮されている[8]。弾薬の互換性を保持するため主砲には一部にラインメタルの砲と共通の設計がなされ[9][10]、90式の主砲弾やその他のNATO弾も使用できるとされている[9][11]。なお、10式用の砲弾は徹甲弾の他に空包が調達されている。これにより、訓練や演習時、記念行事などでの模擬戦闘で90式ができなかった空包射ができるようになる[12]

副武装として主砲同軸74式車載7.62mm機関銃砲塔上面には12.7mm重機関銃M2を装備している。また、12.7mm重機関銃M2用の銃架は、車長潜望鏡上部にある円形のレールに取り付けられ、旋回式となった。

自動装填装置

自動装填装置を装備し、砲塔後部バスル内にベルト式の給弾装置を配置していると見られている。戦車用自動装填装置の多くは装填時の角度が決まっており、装填のたびに主砲をその角度に戻す形式だが、10式戦車の自動装填装置は主砲にある程度の仰俯角がかかっていても装填が可能とされる[9]。また、砲塔後面には給弾用ハッチがあり、そこから自動装填装置への給弾を行う[13]

砲弾の搭載弾数については、自動装填装置内で「現時点で14発」とする記事[9]や、砲塔弾薬庫に14発、砲手の後方に2発、車体に6発の計22発が収納できるとする記事[14]のほか、90式戦車とほとんど変わらないという記事[10]があり、こちらでは90式は自動装填装置内と車体内に各18発と戦闘室内に4発の計40発が搭載可能と記述している。

指揮・射撃統制装置

スラローム射撃を行う10式戦車

指揮・射撃管制装置に関しては、走行中も主砲の照準を目標に指向し続ける自動追尾機能があり、タッチパネル操作でも主砲の発砲が可能である。無線通信レーザーセンサー赤外線ミリ波レーダーなどのすべてのセンサーが完璧に機能する条件下では、小隊を組んだ10式戦車同士の情報のやり取りで、8標的まで同時捕捉し、これに対する同時協調射撃が可能となる。小隊長は、10式に装備された液晶ディスプレイをタッチパネル操作することで、各車に索敵エリアを指示したり、「自動割り振り」表示を押すことで各車に最適な標的を自動的に割り振り、同士討ちや重複射撃(オーバーキル)を避けながら効率よく標的を射撃することが可能になっている[15]

10式には自動索敵機能があり、センサーが目標を探知すると、目標の形状などから目標の種類(戦車装甲車両非装甲車両、航空機、固定目標、人など)を自動的に識別する。FCSは探知・識別した目標の脅威度の判定を自動的に行い、ディスプレイに目標を色分けして強調表示させる。これらの情報は、小隊内各車の状況(燃料、弾薬、故障状況など)とともに小隊内でリアルタイムに共有することができる。脅威度が高い目標が出現した場合は、90式戦車と同様に車長砲手をオーバーライドできるだけではなく、小隊長が他の小隊車のFCSを強制的にオーバーライドして照準させることができる。照準する際には、データベースから目標の弱点部位を自動的に精密照準する。射撃後、FCSは着弾した場所を精密に計測し、効果判定を行う。FCSが目標の撃破は不確実と判断したならば、FCSは乗員に次弾射撃をリコメンドする[16]

10式の試験項目には、直進およびスラロームの走行状態を模擬した加振を新戦車模擬砲塔部に与え、射撃管制誤差に関するデータを取得する性能確認試験の内容がある。平成24年度富士総合火力演習で、大きく左右に蛇行しながら正確な行進間射撃を行う「スラローム射撃」および急速後退しながら正確な射撃を行う「後退行進射撃」を実演した。90式戦車など、これまでの第三世代型戦車でも走行中に射撃を行う行進射において目標に命中させることは可能であったが、それは等速での前進中など比較的単純な走行間に限られ、スラローム走行のような急激に進路を変える走行においては十分な精密射撃を行うことはできなかった。また、ニコニコ超会議2内で行われた「10式戦車開発者によるトークショー」では、演習で披露された静止目標に対するスラローム射撃よりも難易度の高い、動目標に対するスラローム射撃でも百発百中の命中精度を有していることが語られている[17]

車長用潜望鏡後方の高い位置に設置された、車長用視察照準装置の赤外線カメラ部は全周旋回可能、C4Iによる情報の共有などもあり、味方と連携して索敵、攻撃を行うハンターキラー能力は90式と比べて向上しているとされる[9]

2008年2月の試作車両の報道公開に際し、砲塔上面から砲塔内部の視察が行われたほか、車長席と砲手席のモニターおよび操作パネル周りの写真も公開された。写真には砲手席に直接照準眼鏡と砲手用潜望鏡が写っているが、この写真が報道公開された車両のものかは明らかでない。

防護力

直接防護力

砲塔本体の両側面に装着されている分割式の増加装甲

防護力に関しては、新たに開発した複合装甲を使用し、防御力を下げることなく軽量化を図っている。

2006年に公表された防衛省技術研究本部のウェブサイト内の資料である「公共調達の適正化について(平成18年8月25日付財計第2017号)に基づく随意契約に係る情報の公表(物品役務等)」には、岐阜県の神岡出張所にて実施される正面要部耐弾性試験に関する内容が記載されている。これによると新型試作砲である120mm架台砲IV型、そして新型試作砲弾である徹甲弾IV型を用いること、それらを用いた射距離250メートルの射撃により砲塔正面左右および車体正面モジュール型装甲の耐弾性評価を実施するとされる。

列国の軍隊の現存する様々な砲弾に対して全て抗堪できる優れた防護能力を持っている[17]

炭素繊維セラミックスの装甲板への使用や、小型化などにより、全備重量は90式より約12%ほど軽量になったとされる。

正面要部(砲塔・車体正面)には90式と同じく複合装甲が組み込まれており、90式は内装式モジュール装甲であると言われているが、10式戦車の場合は砲塔正面、車体正面とも外装式モジュール装甲と報じられている[18]。装甲板は取り外し可能なので、任務の性質や重量制限などに応じて、装甲の程度を選択できる自由度を持つ。

正面要部には、複数本のボルトで固定された装甲板が確認できる。砲塔部の装甲板は先端が楔形であり空間装甲としての効果などがあると考えられている。また、操縦士用ハッチ上方の一部の部分は内側に引き込まれる形で垂直になっており、この垂直部分を隔てた更に奥に複合装甲からなる主装甲が存在する。車体部の装甲板の内側には前照灯が確認できる。砲塔部・車体部どちらの装甲板も、90式のキャンバスカバーのように正面要部を覆うようにボルトで取り付けられている。

90式の防盾は正面投影面積が左右対称だったが、10式では直接照準眼鏡と同軸機銃のない側である防盾右半分の面積を小さくしている。

砲塔本体の両側面には分割式の増加装甲が装着されており、試験映像ではこれが取り外された状態で走行・射撃試験が行われている。この増加装甲は空間装甲と物入れを兼ねており、必要に応じて内部に装甲を追加するという見方がある。

間接防護力

砲塔の四隅にはレーザー検知器が搭載されている。詳細については非公開だが、アメリカ・グッドリッチ社製のレーザー検知器だと言われている[19]砲塔側面前方には発煙弾発射装置が取り付けられている。なお、90式戦車の発煙弾発射装置はレーザー検知装置と連動するようになっており、10式戦車も同様の機能を有していると考えられる。 また、赤外線放射を抑えるために、サイドスカート下部のゴム製スカートで赤外線を遮断させたり、排気管を内側へ寄せるなどして、IRステルス化を図っている[20]

機動力

戦術機動性

2005年(平成17年)10月25日防衛省技術研究本部のサイト内に新設された「外部評価委員会 評価結果の概要」は、新戦車エンジンは「90式戦車と同等あるいはそれ以上の機動性能を実現可能な、新戦車用動力装置(エンジン、冷却装置および変速装置)」を目的とした試作がなされ、

の4点が試作品の基本設計結果としている。 この新戦車用機関の設計について外部評価委員会は「動力装置の設計は、現時点での最新技術を導入した正攻法なものと考えられる」とまとめている。

車体後方

小型・軽量な水冷4サイクルV型8気筒ディーゼル機関を採用し、燃費向上や黒煙低減などが図られている。最大出力は1,200ps/2,300rpm出力重量比は約27ps/tで、90式の約30ps/tと比べれば若干低いが、出力1,500ps重量55tの戦車とほぼ同等である。また、後述のHMTにより伝達効率が改善されており、スプロケット軸出力は90式と同等と発表されているため実質の出力重量比は90式よりも高くなる。なお、国産戦車における4サイクルディーゼル機関の搭載は61式戦車以来となる。

また、変速操向機には変速比を最適に制御できる油圧機械式無段階自動変速操向機(HMT, Hydro-Mechanical Transmission)を採用している。車両質量当たりのスプロケット(起動輪)出力は現有戦車に対して格段に向上しているとされ、90式の半分の半径で旋回が可能だという。また、後退速度も70km/hを発揮することができる(2010年7月11日、富士学校・富士駐屯地開設56周年記念行事における10式戦車試作車の走行展示にて前進速度と後進速度は同じ70km/hであると解説されている)。

水冷4サイクルV型8気筒ディーゼル機関と、無段階自動変速操向機(HMT)を組み合わせにより、動力装置(パワーパック)の高効率・高応答化、そして小型・軽量化を実現している。

エンジンの燃費に関しては90式と比べ省燃費となり、携行燃料は90式の1,100リットルから880リットルに減少しているとされ、これによるタンク容積の節約も車体の小型・軽量化に寄与しているとされる[10]

懸架装置は74式戦車と同じく全転輪が油気圧式となり、90式では省略されていた左右への車体傾斜機能が復活している。また、転輪の数は片側5個の等間隔となり、90式の6個より減少している。車体の振動の制御のために、アクティブサスペンションもしくはセミアクティブサスペンションが採用されていると言われることがあるが、実際には開発過程でセミアクティブサスペンションの試験が行われたのみであり、パッシブサスペンション[21][22]である。

操縦士席の様子は公開されていないが、操縦士用ハッチはスライド式で、車体の前面と後面には、操縦士用潜望鏡とは別に操縦士用の視察装置があり、操縦士はモニターを見ながら操縦するとされている。また、2007年に当時の技術研究本部長が『MAMOR』のインタビューで、今までメーター型だった計器をフラットパネル化する予定であると述べている。加えて、前述のニコニコ超会議2にて行われた「10式戦車開発者によるトークショー」では、冷暖房を装備していることを開発者が明かにしている。

10式戦車のエンジン機構は海外からも注目されており、トルコは開発を予定している新型戦車のエンジンに採用したいと希望していた。しかし、トルコは同時に開発した戦車を国外輸出する計画も持っており、第三国への技術流出を警戒する日本との間で条件が折り合わず、2014年3月、開発協議は棚上げとなった[23][24]

戦略機動性

90式戦車北海道での運用を考慮して開発されたために重量が約50トンあり、橋梁や路面の許容重量と活荷重の面で北海道以外での平時における配備・運用が難しいとされている[注 3]。このため、10式戦車の開発においては本州四国九州など全国的な配備運用に適した能力、砲塔・車体一体でのトレーラー輸送など戦略機動性の向上が求められた。その結果、90式と比べて全長で約38cm、全幅で約16cm小型化され、全備重量は約6トン軽い約44トンとされている。

全国的な道路交通網の整備がなされ、61式戦車が開発された頃に比べると鉄道に頼らずに済むようになったため、陸上自衛隊では74式戦車の開発以降、鉄道輸送は事実上断念している。90式の場合、専用のトランスポーターによる輸送を行えば、道路の許容重量によって走行できるルートが限られてしまう可能性が存在し[注 4]、長距離を自走させた場合に足回りを傷める可能性[注 5]があったが、小型の40t級車輌とすることで車体と路面へのダメージ低減に成功した。

全国の主要国道の橋梁17,920ヶ所の橋梁通過率は10式(約44トン)が84%、90式(約50トン)が65%、海外主力戦車(約62-65トン)は約40%とされる[25]

74式をトランスポーターで輸送する場合、73式特大型セミトレーラで砲塔と車体が一体の状態で輸送できる。一方、90式の場合は最大積載量50トンの特大型運搬車であれば砲塔と車体が一体の状態で輸送できるが、最大積載量40トンの73式特大型セミトレーラでは砲塔と車体を分離して別々に輸送する必要があった。

10式は74式と同じ輸送インフラを利用できるよう小型軽量化され、全備重量は約44トンとし、約4トン分の装甲などを取り外すことで73式特大型セミトレーラの最大積載量に収めている。2010年12月までに73式特大型セミトレーラに10式を乗せ、砲塔と車体が一体の状態で輸送しているところが目撃されており、その際には東名高速道路および国道を走行している[26]。なお、輸送時の写真を見る限りでは、10式の装甲などにおける外見上の変化は確認されていない。

C4I

諸外国の主力戦車に装備されつつあるC4Iシステム(Command Control Communications Computers and Intelligence〈指揮・統制・通信・コンピュータ・情報〉)を陸上自衛隊の戦闘車両で初めて搭載する。これにより単車内あるいは近くの10式戦車同士が相互に情報を伝達し、敵や味方に関する情報の共有や指揮統制も可能になる(#指揮・射撃統制装置を参照)。

また、基幹連隊指揮統制システムに連接させることで司令部や味方部隊との通信能力が向上し、戦車部隊と普通科部隊が一体化した作戦行動が可能となるという。将来的にはOH-1観測ヘリコプターAH-64D戦闘ヘリコプターからの情報も入手できるようになると言われている。

なお、10式戦車は74式戦車の後継機種であるため、事実上北部方面隊のみの配備となっている90式戦車に関しては車内に戦車連隊指揮統制システム(T-ReCs)を後付けした機種を運用している(第2戦車連隊のみ)[27]

高度なC4Iシステムを搭載した10式は、自衛隊員の間で「走るコンピューター」との異名をとっている[7]

国産主力戦車との比較

歴代主力戦車の比較表
10式 90式 74式 61式
画像
世代 第3.5世代 第3世代 第2.5世代 第1世代
全長 9.42 m 9.80 m 9.41 m 8.19 m
全幅 3.24 m 3.40 m 3.18 m 2.95 m
全高 2.30 m 2.25 m 2.49 m
重量 約44 t 約50 t 約38 t 約35 t
主砲 44口径120mm滑腔砲[注 6] 44口径120mm滑腔砲 51口径105mmライフル砲 52口径90mmライフル砲
副武装 12.7mm重機関銃M2×1
74式車載7.62mm機関銃×1
12.7mm重機関銃M2×1
7.62mm機関銃M1919A4
装甲 複合装甲(正面要部) 鋳造鋼(砲塔)
圧延防弾鋼(車体)
エンジン 水冷4サイクル
V型8気筒ディーゼル
水冷2サイクル
V型10気筒ディーゼル
空冷2サイクル
V型10気筒ディーゼル
空冷4サイクル
V型12気筒ディーゼル
最大出力 1,200 ps/2,300 rpm 1,500 ps/2,400 rpm 720 ps/2,200 rpm 570 ps/2,100 rpm
最高速度 70 km/h 53 km/h 45 km/h
懸架方式 油気圧式 トーションバー・油気圧
ハイブリッド式
油気圧式 トーションバー式
乗員数 3名 4名
装填方式 自動 手動
C4I ×
コスト 約9.5億円
2010年[注 7]
約11億円(1990年
約8億円(2009年
約4.0億円
1989年[注 8]
約1億円
2022年の物価に
換算すると約4.3億円相当)
[注 9]
生産数 126輌以上(増備中) 341輌 (生産終了) 873輌(退役) 560輌(退役)

調達と配備

90式戦車(左)と10式戦車
74式戦車(左)と10式戦車(試作1号車・陸上自衛隊広報センター)

10式戦車の調達初年度に当たる平成22年度概算要求では当初、4ヶ年度分の58輌(1年当たり14.5輌)を一括調達し、平成23年度(2011年)-平成26年度(2014年)に分割して取得する計画だった。

だが、2009年政権交代に伴い新たな防衛計画の大綱と次期中期防衛力整備計画の策定が1年間先送りされたため、一括調達は中止され、最終的には13両を124億円で調達することが正式に決定された[28]。なお、平成20年度予算から調達初年度に一括計上されるようになった初度費(製造に係わる初期投資費)[29]であるが、初度費込みの契約ベースでは187億円[30]とされていることから、初度費は約63億円と推定される。調達初年度の1輌当たりの単価は約9.5億円で、平成23年度(2011年)より取得が開始されており、74式戦車中隊(本部管理小隊を除く)が16輌、90式戦車中隊(本部管理小隊を除く)が12輌で編成されており、今後74式戦車中隊を10式戦車で更新していく中で16両から12両体勢に移行していく[31]

政府は、2010年12月17日に閣議決定された「平成23年度以降に係る防衛計画の大綱」において、戦車の配備数を「平成17年度以降に係る防衛計画の大綱」から200両削減し約400輌とすることとした。同時に閣議決定された中期防衛力整備計画(平成23年度-)では、平成23年度(2011年)から平成27年度(2015年)までの5年間で10式戦車を68輌調達するとしている[32]。第2次安倍内閣で閣議決定された「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱」では戦車定数が約300輌に削減され、中期防衛力整備計画 (2014)の整備期間である平成26年度-平成30年度までの間に44輌の調達が計画されている[33]

調達数

10式戦車の調達数
予算計上年度 調達数
平成22年度(2010) 13輌
平成23年度(2011) 13輌
平成24年度(2012) 13輌
平成25年度(2013) 14輌
平成26年度(2014) 13輌
平成27年度(2015) 10輌
平成28年度(2016) 3輌
合計 79輌

配備部隊

北部方面隊

富士学校

東部方面隊

西部方面隊

派生型

登場作品

脚注

注釈

  1. ^ 防衛省においては、2007年9月1日に「装備品等の部隊使用に関する訓令」が施行されると同時に「装備品等の制式に関する訓令」が廃止されて以降、装備品の「制式化」は行われていない。そのため、2010年6月17日付の朝雲ニュースにおける平成21年(2009年)12月に10式戦車と「制式化」されたという部分の記述は誤りである。また、10式戦車の名称についても制式化されたわけではないため「制式名称」ではない。
    “10(ヒトマル)戦車 試験終え初公開 最先端のC4I装備”. 朝雲ニュース (朝雲新聞社). (2010年6月17日). オリジナルの2010年6月28日時点におけるアーカイブ。. http://web.archive.org/web/20100628054504/http://www.asagumo-news.com/news/201006/100617/10061701.htm 
  2. ^ 量産車では一段目に1個、二段目に並んで2個のステップがあるため、どちらの足からかけても登れる
  3. ^ ただし、本州以南に関しては主要国道・都府県道において近年建設された橋のほとんどが昨今の道路事情・車両数増大・車両重量増大に対応する形で強化されており、そういった意味では運用そのものの障害は取り除かれている
  4. ^ ただし、法的な制限があるような表現があったが、車両制限令の規定により、自衛隊車両には幅や重量による制限は適用されない
  5. ^ これに関しては90式に限らず、74式に関しても一定以上の距離を走行後に足回りの点検整備が義務づけられていたため、90式に特有する問題では無い
  6. ^ 90式より高腔圧に対応
  7. ^ 2008年度予算から初度費が一括計上されており、10式の単価には初度費は含まれていない。
  8. ^ 平成元年度防衛白書中の資料「平成元年度主要事業の経費」によれば、56両に対し22,175百万円。
  9. ^ 1965年と2022年の物価を消費者物価指数で換算。

出典

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  2. ^ 技術研究本部60年史 - Ⅱ 技術研究開発 - 2 技術開発官(陸上担当)
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参考文献

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  • 『軍事研究 2011年6月号 別冊 新兵器最前線シリーズ11 10式戦車と次世代大型戦闘車』、ジャパン・ミリタリー・レビュー、2011年6月。 
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  • 』、潮書房、2008年5月。 
  • 『丸 別冊』、潮書房、2011年11月。 
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  • 『J Ground(Jグランド)』Vol.19
  • 『PANZER』、アルゴノート社、2008年5月。 
  • 『PANZER』、アルゴノート社、2010年12月。 
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  • 別冊宝島編集部 編『完全版! 自衛隊・新世代兵器 PERFECTBOOK』宝島社、2008年。ISBN 9784796666503 
  • アーマーモデリング』、大日本絵画、2013年1月。 
  • 「10式戦車と今後の戦車製造の態勢」『防衛生産委員会特報』第285号、日本経済団体連合会防衛生産委員会、2014年2月。 

関連項目

外部リンク