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M-84

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
M-84
セルビア軍のM-84
性能諸元
全長 9.53 m[1]
車体長 6.86 m[1]
全幅 3.57 m[1]
全高 2.19 m[1]
重量 42 t[1]
懸架方式 トーションバー方式[1]
速度 65 km/h(路上)[1]
行動距離 500 - 700 km[1]
主砲 125mm滑腔砲 2A46
副武装 12.7mm機関銃 M87
7.62mm機関銃 M86
装甲 560 mm
エンジン ディーゼルエンジン V-46TK[1]
1000馬力[1]
乗員 3 名[1]
諸元はM-84Aのもの
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M-84(セルビア語: М-84クロアチア語: M-84)は、ユーゴスラビア1980年代に開発された第三世代主力戦車である。ソ連で開発されたT-72M1が元となっている[2]

開発

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ユーゴスラビアは1977年にT-72のライセンス生産を決定し、1979年にソ連と契約を行った[1]。約2年をかけて自国環境にあわせた改設計を行っており、外見上は、砲塔上部の筒状の環境センサーや砲塔前面の発煙弾発射機が追加されたことが特徴である[1]。なお、量産前に旧ソ連から50両のT-72が輸入され、乗員の訓練に使われている[1][2]

M-84はユーゴスラビア人民軍に採用され、最初の量産車が完成した1984年から1991年のユーゴ解体までに500両ほどが完成したとみられている[1]。生産はユーゴスラビアを構成する各共和国の工場で分散して行われていた[1]。1988年には改良型のT-84Aの生産が開始された[1]

設計

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全体的な設計は、原型となったT-72M1と同一である[2]。主砲に125ミリ滑腔砲を装備し、対空用の12.7ミリ重機関銃と主砲同軸の7.62ミリ機関銃を搭載する点も原型と同じだが、原型よりも先進的な射撃統制システムを搭載するなど、さまざまな改良が施されている[2]。砲塔前面には電動式の発煙弾発射機があり、また排気管にディーゼル燃料を噴射して煙幕を発生させることが可能となっている[2]

運用

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ユーゴスラビア紛争などでは、分裂した各共和国に使用された。戦後もクロアチアスロヴェニアセルビアボスニア・ヘルツェゴヴィナスルプスカ共和国で使用されている。本車はユーゴスラビア内の各共和国で分散して部品を生産していたため、ユーゴスラビア紛争後は一度生産中止となっている[2]。その後、一部の国ではM-84の近代化改修や発展型の開発が行われている。

この他、中東方面へも輸出された。湾岸戦争においては戦前に発注されていた発展型のM-84ABがサウジアラビアに逃れたクウェート軍に配備された[1]。湾岸戦争前にも一部が到着済みであったが、進攻したイラク軍により破壊された。新たに供給されたM-84ABは、本国奪還のためイラク軍と戦った[2]リビアシリアにも輸出される予定であったが、実現しなかった。

派生型

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M-84
基本型。ソ連で開発されたT-72の輸出型T-72Mをもとにした発展型。
M-84A
発展型。
M-84A1
射撃管制装置の強化。エンジンを1,000馬力に強化。
M-84AB
コンピューター制御式のSUV-M-84射撃管制装置を搭載する発展型。DNNS-2昼夜間ガンサイト、新型の各種ペリスコープ、新型の通信装置、ジャイロコンパスなどを装備している。クウェートに輸出された。
M-84AB1
セルビア・モンテネグロ2005年に発表されたM-84ABの発展型。
M-84ABK
指揮戦車型。指揮系統のための機器、地上ナビゲーター、能力の高い交信システムを搭載する。
M-84ABN
M-84ABに地上ナビゲーターを搭載した発展型。
M-84A4スナイペル / M-84A4 Snajper
クロアチアで開発されたM-84AおよびM-84ABの発展型。たんにM-84A4とも呼ばれる。SCS-84昼夜間ガンサイト、DBR-84弾道計算機、新しい俯仰・旋回装置を搭載する。
M-84AS(M-2001)
セルビア・モンテネグロで2004年に発表されたM-84の発展型。ロシアT-90Sに準じた装備を持ち、新しい射撃管制装置、コンタークト5爆発反応装甲9M119Mレフレークス砲身発射型対戦車ミサイル、アガヴァ2サーマルサイト、TShU-1-7シュトーラ1防御システムを搭載している。
M-84ABI
装甲回収車型。
M-91 ヴィホル
クロアチアで生産。
M-95 デグマン / M-95 Degman
クロアチアで開発・生産されたM-84A/ABの発展型。改修版の爆発反応装甲・レーザー誘導対戦車ミサイル発射機能などを装備。
M-95 コブラ / M-95 Kobra
クロアチアで開発・生産されたM-84A4の発展型。
Mー84AS1/AS2
2023年より配備された最新型。国産の爆発反応装甲、各種センサー、戦場ネットワークシステム、新型砲弾を搭載している。30輌以上が発注されている。

運用国

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セルビアの旗 セルビア
陸軍 - 212輌
クロアチアの旗 クロアチア
陸軍 - 2023年時点で、74両のM-84戦車、2両のM-84AI戦車回収車を保有[3]
スロベニアの旗 スロベニア
陸軍 - 54輌
ボスニア・ヘルツェゴビナの旗 ボスニア・ヘルツェゴビナ
連邦軍 - 82輌
陸軍 - 85輌
クウェートの旗 クウェート
陸軍 - 125輌
 ウクライナ
陸軍 - 30両(予定)。2024年にクロアチアがドイツからレオパルト2A8を割引価格で購入するのと引き換えに余剰となる30両のM-84と30両のM-80をウクライナに供与することが両国で同意された[4][5]。翌年9月12日、ウクライナ陸軍第141独立機械化旅団で供与されたM-84が使用されていることが報道された[6]


脚注

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  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r 日本兵器研究会 2000, pp. 178–179.
  2. ^ a b c d e f g デアゴスティーニ 2004, p. 2.
  3. ^ IISS 2024, p. 79.
  4. ^ ドイツ製最新戦車「割引価格で売ります!」可能とした方法とは 購入国もウクライナも得をする?”. 乗りものニュース (2024年11月10日). 2025年9月13日閲覧。
  5. ^ Croatian M-84 Tanks Appear in Ukraine” (英語). MilitaryLand.net (2025年9月13日). 2025年9月13日閲覧。
  6. ^ Stronger Than T-72: Ukrainian Tank Crews Reinforced With Advanced Croatian M-84s” (2025年9月12日). 2025年9月13日閲覧。

参考文献

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  • The International Institute for Strategic Studies (IISS) (2024) (英語). The Military Balance 2024. Routledge. ISBN 978-1-032-78004-7 
  • 『週刊ワールド・ウェポン 世界の兵器 完全データ・ファイル』第107巻、デアゴスティーニ、2004年。 
  • 日本兵器研究会 編『世界の主力戦車カタログ』アリアドネ企画、2000年7月20日。ISBN 4-384-02524-6