M1エイブラムス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
M1 エイブラムス
M1A2 tanks at Combined Resolve II (14069815848).jpg
M1A2 SEPV2 エイブラムス
性能諸元
全長 9.83m[1]
車体長 7.92m[2]
全幅 3.66m[1]
全高 M1A1:2.44m[3]M1A2:2.37m[1]砲塔上面まで)
重量 M1:54.45t[4]
M1A1:57.15t[4]
M1A1(HA):61.5t[3]
M1A2:62.1t
M1A2 SEP:63.2t[1]
懸架方式 独立懸架トーションバー方式
速度 67km/h(整地
48km/h(不整地
行動距離 M1:495km
M1A1:465km
M1A2:426km
主砲 M1 IPM1
51口径105mm ライフル砲M68A1
M1A1/A2/A2 SEP
44口径120mm滑腔砲M256
副武装 12.7mm重機関銃M2(対物・対空)
7.62mm機関銃M240主砲同軸
装甲 複合装甲(砲塔前面および車体前面)
均質圧延鋼板(車体)
エンジン AGT1500
ガスタービン
1,500hp
乗員 4名
テンプレートを表示

M1 エイブラムス(M1 Abrams)は、アメリカ合衆国が開発した主力戦車である。

エイブラムスの名は、開発を推進した人物であり、バルジの戦いの英雄でもあるクレイトン・エイブラムス大将に由来する。


概要[編集]

M60パットンの後継として1970年代西ドイツと共同開発を進めていたMBT-70計画の頓挫により、新たにアメリカ単独で開発し、1980年に正式採用された戦後第3世代主力戦車である。主に、アメリカ陸軍およびアメリカ海兵隊が採用した。

特徴として、当時主流であったディーゼルエンジンではなく、ガスタービンエンジンを採用している点が挙げられる。また、当時としては最先端機器を用いた高度な射撃管制装置(FCS)を採用した事で、高い命中率を誇る。主砲西側第2世代主力戦車の標準装備と言える51口径105mm ライフル砲M68A1を採用した。

M1は、従来のアメリカ戦車と同様に発展余裕に富んだ設計で、制式化後も度重なる改良が施された事も特筆すべき点である。今日では44口径120mm滑腔砲M256を搭載したM1A1や、更に改修を加え第3.5世代主力戦車に分類されるM1A2が運用されている。

湾岸戦争イラク戦争といった実戦も経験し、現在でも世界最高水準の戦車であると評価されている[5]

開発経緯[編集]

XM1

1970年代初頭、アメリカ陸軍M60パットンの後継種を必要としていた。M60は、戦後第2世代戦車であり、近代化を図った「M60A2」を保有していたものの、やはり、第2世代戦車の域を出ないものであった。また、ソビエト連邦115mm滑腔砲を有するT-62の配備を進めていることが確認された事で、質・量共に劣勢にあると強い危機感を抱いた。

当初は、ベトナム戦争での敗北やそれに伴う戦費、MBT-70計画の頓挫からアメリカ議会は予算の承認を渋る声も聞かれたが、1973年1月に新型戦車の要求仕様が決定し、同年6月クライスラー社(現ジェネラル・ダイナミクス社)とゼネラルモーターズ試作車の発注が行われた。

3年後の1976年に試作車「XM815」が完成[6]し、アメリカ陸軍による試験評価が行われた。時を同じくして第四次中東戦争が勃発し、RPG-7対戦車ミサイルが使用され、通常装甲イスラエル国防軍の戦車が多数撃破された事を受けて、チョバム・アーマー複合装甲の研究も並行して進められた。

1976年に比較検討の結果、クライスラー社の試作車に開発を一本化させる事が決定され、名称を「XM1」と改める。同時に試作車11両が追加発注され、1978年中に全車が完成し、各種運用試験が行われた。

1979年には先行量産車110両が発注・製作され、各部隊での最終試験がなされ、1981年に「M1 エイブラムス」として制式採用された。

特徴[編集]

火器[編集]

主砲
M1A1の主砲、M256滑腔砲の射撃時の様子
M1 エイブラムスは、その開発当初から120mm砲の搭載を前提として開発されていた。だが、制式化を急ぐあまり120mm砲の開発が間に合わなかったため、初期型のM1およびM1の装甲改良型であるM1IP(IPM1)は、主砲にM60と同じ51口径105mm ライフル砲M68A1を装備した。しかし、高度な電子機器で構成された射撃管制装置(FCS)によって、第2世代戦車より高い射撃能力を有していた。
1985年から火力強化版のM1A1が導入され、この型から主砲をドイツラインメタル社製44口径120mm滑腔砲ライセンス生産したM256を装備、使用弾種の内、APFSDSの弾芯には劣化ウランを使用し、装甲貫徹力を高めている。


機関銃
12.7mm重機関銃M2
主砲同軸および、砲塔正面右側に7.62mm機関銃M240が装備されている。
砲塔上には、車長潜望鏡銃架12.7mm重機関銃M2を据え付けている。装填手用には、装填手用ハッチ周囲のレール上に設置された銃架に7.62mm機関銃M240を装備する。
車外戦闘の場合を考慮して、砲塔内にM16M4カービンが1丁備わっている。乗員には個人銃器としてM9拳銃が配給されている。


砲弾
M829APFSDS
装弾筒付翼安定徹甲弾。1991年に勃発した湾岸戦争イラク軍T-72戦車を効果的に撃破した。その後は改良を加えられ最新型はM829A3となっている。
このM829徹甲弾西独製のDM33を基に開発し、侵徹体をタングステン合金から劣化ウラン合金へ変更している。そのためタングステン合金よりも10-20%、貫通力が高まった。貫徹力は2,000mの距離から均質圧延鋼板に対して撃った場合、M829A1が540mm、M829A2は570mm、M829A3では680mmとなっている。また、摩擦熱により侵徹体から生じた微粉の発火により焼夷効果も得られる。
この徹甲弾に使用されている劣化ウランの毒性や残留放射能が戦闘員や現地住民の健康に悪影響をおよぼすとの意見も出ている。イラク戦争以降は戦車戦ではなくゲリラ戦へと変貌しており、徹甲弾の必要性が見直されてきている。
M830HEAT-MP-T
多目的対戦車榴弾。成形炸薬弾である対戦車榴弾の弾体を、爆発の破片で広範囲な殺傷力をもたせたものを多目的対戦車榴弾という。
装甲車などは十分に撃破できるが、榴弾に比べ破片が広がる範囲が狭い。また、歩兵トラックなどの軟目標にも使用できるため、目標が不明な時はこの砲弾を装填しておく。
M830HEAT-MP-T弾は、西独ラインメタル社のDM12A1を米ジェネラル・ダイナミクス社がライセンス生産したもので、アメリカ軍独自の改造が施されている。有効射程は2,500m、装甲貫徹力は均質圧延鋼板で600-700mm。発展型のM830A1は米アライアント・テックシステムズ社が開発した多目的弾MPATである。このM830A1は、装填時に近接信管に切り替えることでヘリコプターを攻撃することができる。弾頭部に装弾筒をつけることにより空気抵抗が減少し、有効射程は4,000mへ延びた。また、遠距離においての命中率も向上している。対象目標もヘリコプターのほか、建物バンカーも攻撃可能となった。
M830に比べ弾頭部の径が小型化したため装甲貫徹力はやや落ちた。米アライアント・テックシステムズ社は、M830に比べ軽装甲車両への攻撃力は30%、バンカーへは20%向上したとしている。
M1028
キャニスター弾北朝鮮軍中国軍人海戦術への対抗策として在韓米軍の要請によって開発された対人用砲弾である。
弾頭にはアルミニウム合金製の弾体に1個約10gのタングステン球が11kg詰まっている。発射時に弾頭は散弾銃のようにタングステン球を放出する。要求では有効射程200-500m、威力は、散開進行中の歩兵小隊に対し、1弾発射で10名の内の50%以上、2弾発射で30名の内の50%を打ち倒すことが求められた。要請を受け米ジェネラル・ダイナミクス社は1999年から開発を始め、デモンストレーションではブロック塀を貫通したうえで背後の標的にも命中するという対人殺傷能力のほか、有刺鉄線の排除や一般車両の破壊といった市街戦を行う上での有効性を示した。
2005年から生産に入り、少数がイラク派遣部隊に渡り良好な成果を上げている。類似の砲弾としてフレシェット弾が存在する。

装甲[編集]

M1A1 Abrams tank equipped with tank urban survivability kit.jpg

M1 エイブラムスの砲塔前面装甲は、避弾経始を考慮しているものの、それまでの第2世代主力戦車に見られた流線型の砲塔ではなく、傾斜を施した平面で構成されている。

装甲材は、M1が対HEAT対応の空間装甲、M1A1が対HEAT・対鉄弾芯APFSDS対応の無拘束セラミックス、M1A1(HA)/M1A2が対タングステン/劣化ウラン弾芯APFSDS対応の劣化ウランプレートと、徐々に向上強化されている(M1A2戦車の全周の装甲防御能力の推定)。

M1A1の導入は1985年から始まり、1987年初めからM1A1向けの(砲塔正面と車体正面の装甲内に状の劣化ウランを組み込む)装甲強化パッケージの提供が始まった。

1991年湾岸戦争においては、未改修のM1A1の大多数に対して、この劣化ウランプレート(劣化ウラン装甲材)を装着する改修が急遽実施されている。このウランプレートを装着する改修を受けた車両はM1A1(HA)に分類され、区別される。

M1A1をさらに改良したM1A2は、さらに防御力の強化が図られ、アメリカ軍向けには試作車両を含む77輛が生産された。改修計画SEP(System Enhanced Package)は1999年から始まっており、旧型となった一部のM1やM1A1は、M1A2やM1A2 SEPに改修されている。

動力機関[編集]

AGT1500 パワーパック

各国の戦車用動力機関はディーゼルエンジンが主流であるが、M1 エイブラムスではハネウェル AGT1500 ガスタービンエンジンを採用している。トランスミッション他、補器類も含めてパッケージ化されており、通称「パワーパック」と呼ばれる。

燃料はディーゼル燃料ではなく、航空機ジェットエンジンと同じJP-8を使用している。

ガスタービンエンジンは小型軽量、高出力で信頼性、加速性能、登坂能力も高く、燃料の許容範囲が広い、動作温度範囲が広い、冷却が不要など多くの長所もあるが、燃料消費率が悪く、1マイル(1.6キロメートル)走行に1ガロン(3.8リットル)以上を消費(1リットルあたり425m)するだけでなく、停車状態でもエンジンが動いているだけで毎時12ガロン(45.4リットル)を消費する。そのため、搭載燃料の容量を各国の第3世代主力戦車に比べて2倍近い500ガロンにしている。低速/停車時の燃費が極めて悪いため、アメリカ陸軍では停車時の電力供給を目的に補助動力装置(APU)を内蔵するようにした[7]

また、ガスタービンの高温排気が真後ろに噴出するため、市街戦などで歩兵が戦車の後ろに隠れていることができない。

地上を走る戦車は、吸気により塵砂を吸い込んで故障の原因となり、吸気フィルターを強化するなど手を加えねばならず、燃料タンクの拡大と合わせるとエンジン小型化の利点は相殺されている。

湾岸戦争では、8時間の作戦行動で燃料が無くなるため、一日に三回の給油を必要とした。

2,500ガロン(9,500リットル)を一度に運べるM978 重機動タンカーを動員して大量の燃料を供給し続けることで燃費の悪さを補ったが、これは、兵站上の負担であり、M1の他にガスタービンエンジンを戦車で採用しているのはソ連製のT-80スウェーデンStrv.103だけである[8]

その他の装備[編集]

CITV
砲塔左側上面にCITVが装備されたM1A2
車長用独立熱線映像装置(Commander's Independent Thermal Viewer)。M1A2の砲塔上面、装填手ハッチ前方に設置された円筒状の構造物で、赤外線カメラを内蔵しており、左右方向に回転することができる。M1A2の夜間戦闘能力を向上させる装備のひとつで、M1A1とM1A2の判りやすい識別点となっている。


MCD
砲塔左側上面にMCDを設置した海兵隊のM1A1
主砲を発射する海兵隊のM1A1の砲塔部。MCD取り付け基部が確認できる
2003年イラク戦争に派遣されたアメリカ海兵隊の幾つかのM1A1にはMCD(Missile Countermeasure Device)と呼ばれるミサイル対抗装置(ソフトキル型アクティブ防護システム)が取り付けられていた。この装置で有線/無線式の半自動誘導対戦車ミサイルと全自動式赤外線誘導式の対戦車ミサイルの誘導システムを無効化する。
本装置は、M1A2ではCITVが装備されている、砲塔上面の装填手ハッチ前に設置されている。


MCS(地雷処理システム)
地雷処理ローラーを装備した海兵隊のM1A1
マインプラウを装備した海兵隊のM1A1
湾岸戦争時、イラク軍砂漠に敷設した地雷原を突破するため、M1 エイブラムスの車体前部に、プラウ式、あるいはローラー式の地雷処理装置が装着された。いずれも、イスラエルの企業が開発した物をベースとしている。その後、2003年のイラク戦争、2009年のアフガニスタン派遣でも、これらの装備は引き続き使用されている。


TUSK
TUSK Iを装着したM1A1
TUSK Iを装着したM1A2
2007年頃からイラクで運用していたM1A1やM1A2の一部に、TUSK(Tank Urban Survival Kit)と呼ばれる、市街戦など都市環境下での運用に適応させるための強化キットが取り付けられていた。
基本キットの「TUSK I」は、対戦車兵器から発射される成形炸薬弾に対する防護を念頭に、車体側面に形の爆発反応装甲タイルを装備、防盾上に主砲同軸12.7mm重機関銃M2を追加、装填手用ハッチの周囲と機関銃に盾を追加、装填手用機関銃に暗視照準器を追加する、対地雷用のベリーアーマーと呼ばれる車体底部を覆う増加装甲を追加する、などの内容。
TUSK Iの追加キットである「TUSK II」では、車体側面の爆発反応装甲タイルの上と砲塔側面に瓦形の爆発反応装甲タイルが追加された。また、車長用に全周防護の盾などが追加されている。


煙幕弾発射筒
スモークグレネード弾発射筒とも呼ばれる煙幕弾発射筒が、6個1組で左右に1組ずつ砲塔側面に取り付けられている。アメリカ海兵隊のM1A1だけは8個1組の2組となっており、陸軍の車両との識別点にもなっている。
この煙幕は、肉眼像だけでなく熱線映像も遮る。煙幕弾の代わりにチャフを発射することもできる。従来は、操縦士の操作でエンジン排気管内に燃料を噴霧することで排気で煙幕を発生させる仕組みが備わっていたが、使用燃料がディーゼルからJP-8に替えられ、JP-8は排気管内に燃料を噴霧すれば容易に火災が生じるために、現在ではこの機構は使用できなくなっている。


空気殺菌システム
NBC兵器にも対応できるよう空気殺菌システムが装備されており、生物化学兵器攻撃を受けても乗員はガスマスクを着用せずに戦闘活動を続けることができる。


BFT
BFTを装備した海兵隊のM1A1 FEP
ブルー・フォース・トラッカー(Blue Force Tracker)の略。GPSを利用した敵味方位置情報識別システムを利用するための装備で、M1 エイブラムスの場合、砲塔上面前方右側の砲手用サイトの右外側に取り付けられる、箱状の構造物である。2003年のイラク戦後頃から、ハンヴィーMRAPなど、米軍の多くの車両に追加装備されるようになった。


APU(補助動力装置
前項の記述のように、M1 エイブラムスのガスタービンエンジンは燃料消費が激しく、アイドリング状態でも大量の燃料を消費するため、停車時にはエンジンを停止させておき、その間に必要となる電力はAPUで供給しようという事で追加された装備。当初、車体後部に箱状のユニットが取り付けられる形で装着されて、1991年の湾岸戦争時はこの形が多かったが、破損しやすい事から、砲塔後部のバスケット内に移された。発展型のM1A2 SEPでは、車体後部左側の一角に、車体に内蔵される状態で装備されるようになった。


渡渉用キット
リアパネルに渡渉用キットの一部を装着した海兵隊のM1A1
一部の海兵隊のM1A1に装備される、車体上面左後部と、車体リアパネル中央部のエンジン給排気口に装着される煙突状の装備品。通常のM1戦車の潜水渡渉能力は約1.2メートル程度だが、渡渉用キットの装着により水深2メートル程度まで渡渉能力が向上する。


ドーザーブレード
ドーザーブレードを装備した海兵隊のM1A1
M1 エイブラムスには、オプションとしてドーザーブレードは長らく用意されていなかったが、2010年頃以降の海兵隊のM1A1では、ドーザーブレードを装備している個体が複数確認できる。その形状から、イギリス軍チャレンジャー2用の物を、急遽流用したものと考えられる。


乗員[編集]

M1 エイブラムスには4名の乗員が搭乗する。開発当時は自動装填装置の搭載も可能とされていたが、乗員の減少に伴う負担増加が懸念された事から採用が見送られた。

車長は、砲塔の右後方で砲塔上から周囲警戒したり車内から画像によって索敵を行い、攻撃目標を砲手に指示する。砲手は、砲塔の右側で車長の足元前方に座り、戦闘中はほとんど移動しない。

装填手は、砲塔の左側で比較的広い空間を占有し、装填以外にも車長を補佐して周囲警戒や無線通信を担当することもある。操縦士は、車体前方中央の4名の中では最も狭い空間に、戦闘中は仰向けに近い姿勢で座り、操縦に専念する。

乗員は、耐火性能の高いつなぎを着用し、CVC ヘルメット、通信と騒音遮断用のヘッドセットゴーグルを頭部に装着する。また、ボディアーマーは、爆発時に発生した破片に対処するためにCVC アーマーを着用する場合が多かったが、現在ではより高性能なOTVIOTVを着用している。

価格[編集]

M1M1A1の価格は235-430万USドル(8,800両製造された各種仕様の異なるM1 シリーズの価格)。M1A2の価格は不明。

各型の比較[編集]

M1[4] M1A1[4] M1A1(HA)[9] M1A2 M1A2SEP[1]
製造期間 1979年–85年 1985年–87年 1987年–92年 1992年–現在 現在
全長 9.76m 9.83m
全幅 3.66m
全高 2.44m 2.37m
最高速度 72km/h 66.8km/h 67.6km/h
航続距離 495km 465Km 479km 465km 426km
重量 54.45t 57.15t 61.51t 62.10t 63.28t
主砲 51口径105mm ライフル砲M68A1 44口径120mm滑腔砲M256
乗員 4名(車長, 砲手, 操縦士, 装填手

(M1A1(HA)とM1A2 SEPの重量に関しては、"General Dynamics Landsystems"社公式HP記載のショートトンからメートルトンに換算)

メーカー側が生産を終了してしまったため、アメリカ軍の場合、基本はリサイクル車両を利用することにしている。戦場で修理が必要になった車両、または甚大なダメージによりスクラップになった車両をアラバマ州の工廠に戻し分解と洗浄が行われ、その後オハイオ州の工廠で再組み立てとアップデートパーツの組み付けが行われる(ナショナルジオグラフィックDVD M1エイブラムスより)。

実戦投入[編集]

M1A1は、1991年湾岸戦争において初めて戦場に投入され、サウジアラビア展開した。M1A1は、イラク軍が配備していたソ連戦車T-55T-62T-72に比べて性能で大幅に勝り[10]、敵側の射程を上回る3,000m以上の遠距離からアウトレンジ攻撃することができた。そのため、あまり反撃を受けず、M1A1の損害は十数両といわれている。しかし、激しく砂塵の舞う砂漠の戦いで熱映像装置(サーマルサイト)が十分動作しなかったためために同士討ちが多発し、この十数両の損害の半数は同士討ちによるものといわれている。

この反省から、コソボ紛争以降に投入されるM1A1/A2にはCIP[11](敵味方識別パネル)と呼ばれる装備が導入された。

湾岸戦争においては、ユーフラテス河畔に進撃途中であったアメリカ陸軍第24歩兵師団所属の1両のM1A1が、でぬかるんだ穴にはまって味方部隊から脱落し、移動不能な状態で3両編制のT-72部隊に遭遇し、被弾しながらも勝利した事例があるとされる[12]
この戦闘では、T-72の125mm滑腔砲による成形炸薬弾がM1A1の砲塔正面に命中したが、重大な損傷とならず、M1A1が反撃で放ったAPFSDSは、砲撃してきたT-72の装甲を貫通、内部の砲弾を誘爆させ砲塔を吹き飛ばした。この時に加えられた別のT-72による砲撃も、M1A1の装甲を貫通できず、前進を中止し逃走したこの車両も、M1A1から機関室へ攻撃を受け、エンジンを破壊された[12]
この時、最後の1両のT-72は前進を続行しており、M1A1との距離を400mまで詰めて弾芯の徹甲弾を発射、M1A1の砲塔へ命中させたが、M1A1は防弾鋼板を窪ませただけだった[12]
このT-72は逃走せず砂丘の陰に隠れたが、M1A1は熱線映像装置により、砂丘上空にT-72のエンジンから発せられる高温の排気ガスを発見し、これをもとに砂丘越しに砲撃を行い、T-72を撃破した。このでき事は真偽不明とされるが、トム・クランシーの「Armored Cav」などの文献[12]で紹介された。
この戦闘の後にやって来た回収部隊は、2両のM88戦車回収車で引きあげようとしたが、引き上げられなかったため、最新戦車が敵に鹵獲されないよう、別のM1A1による破壊が命令された。
2発の120mm砲弾が発射されたが、これは、一番頑丈な砲塔正面に命中したため、跳ね返されてしまった。3度目は装甲が比較的薄い後部を攻撃し貫通、砲塔内の弾薬庫を誘爆させることに成功したが、設計どおりに砲塔上面のパネルが吹き飛んで爆炎は車外に放出され、同時に自動消火システムが作動したため、乗員区画の破壊にも失敗した。
破壊は断念され、この車両は3両目の回収車の到着により引き上げられた。内部を調査した結果、照準装置は損傷していたものの、まだ主砲の射撃は可能であったことから、M1A1は主砲を装甲の方が上回ったということになる。その後、砲塔を付け替え、同車は再び戦場に復帰したとされる[13]

2003年イラク戦争にも投入され、一定の戦果を上げたが、戦争後は至近上方からラジエーターグリルなどの脆弱箇所を狙う武装勢力の対戦車擲弾発射器などによる攻撃や、対戦車地雷IEDなどによる被害が目立った。とくにIEDは、炸薬量に上限が無いため、さしものM1も砲塔部を吹き飛ばされるなど大きな被害を受けている[14]。 これらの戦訓も考慮されて、前述の TUSK(Tank Urban Survival Kit)が開発され、実運用される事となった。

2009年頃には、海兵隊がM1A1をアフガニスタンヘルマンド州に派遣したことで再度実戦投入された。これらの車両にはERAブロックこそ装備されていなかったものの、対地雷用の底部装甲(ベリーアーマー)、対IED用のDUKEアンテナ機銃シールドなど、TUSKの装備が追加されていた。

主砲弾や一部の装甲に使用されている劣化ウランは、戦地から帰還した将兵の間に発生した「湾岸戦争症候群」「バルカン症候群」と呼ばれる病気の原因物質ではないかと一部で疑われているが、因果関係ははっきりしない[15]

形式[編集]

XM1
中止されたMBT-70計画の後継として開発されたM1の試作車。初期はXM815と呼ばれたが、XM1と改名して計画が進められた。
M1
基本型。51口径105mm ライフル砲M68A1を搭載。
IPM1
M1の改良型。主に主砲基部・変速機サスペンションショックアブソーバーの改良が行われた。
M1A1
M1A1
44口径120mm滑腔砲M256を搭載し、搭載される電子機器類を換装した。また、車内の配置も変更されている。
M1A1(HA)
砲塔や、車体前面部の複合装甲劣化ウラン装甲材を導入し、APFSDSにも対応。湾岸戦争の直前、改造用キットが大量に調達・支給されたというエピソードを持つ。
M1A1HC
米陸軍米海兵隊の両者のM1A1への部品共通化プログラムへの対応。
M1A1D
海兵隊のM1A1 FEP(アフガン派遣車両)
M1A1用の「Digital enhancement package」を適用した車両。共同作戦対応能力をM1A1に与える。
M1A1M
M1A1のアップグレード型。主にイラクへの輸出用。
M1A1 FEP
FEPとは"Firepower Enhancement Package"の略。海兵隊が進める火力強化計画である。目的は海兵隊のM1A1の性能向上。主な改修内容は、電子機器の更新や、車外有線電話の設置、新型砲弾の搭載などである。
M1A1 AIM
AIM改修を施したM1A1の近代化改修型。AIMとは(Abrams Integrated Management:エイブラムス統合管理)のことである。
M1A1 KVT
クラスノヴィアン派生戦車カリフォルニア州にある、フォート・アーウィン国立訓練センターのアメリカ陸軍仮想敵部隊(OPFOR)が運用するM1A1。ロシア製戦車に似た塗装や外見をしている。
M1A2
現在、M1ファミリーの最新版。M1A1から電子機器類などのC4Iシステムが向上された車両。車長熱線映像装置と武器ステーション、自己位置測定装置や航法装置、各部隊・車両間での情報共有能力(IVIS)、デジタルデータバス、無線インターフェース・ユニットなどが新しく追加された。
M1A2 SEP
M1A2向けのシステム拡張パッケージ(System Enhancement Package)適用車両。 FBCB2(Force XXI Battlefield Command Brigade and Below)への対応機能、多数のコンピュータによる発熱から乗員室の室温を守る向上型冷却装置を装備している。
M1A2 SEPV2
M1A2 SEPV2
現在でのM1 エイブラムスシリーズの最新型。M1A2 SEPをベースとしている。
更新内容は、砲塔上にクロウIIリポートウェポンシステム(RWS)の搭載、装填手機銃へのシールド設置、砲手用熱線映像主照準装置装甲を追加、車長用キューポラの変更、車外有線電話ボックスの設置、AN/ULQ-35 デュークIED起爆妨害装置の搭載、従来のM250発煙弾発射機に加え、最新の発煙弾発射機の搭載、各種電子装備の更新、高性能エアコンの設置などである。
435両のM1A1がM1A2 SEPV2に更新される。そのため、IVISの設置、C4IやFBCB2への対応も含まれる。
最新型のM1A2 SEPV2はドイツ韓国などに配備されている。同戦車に搭載されたRWSはTUSK Iの時点で搭載する構想があったものの、必要なしと判断され、搭載はされなかったが、SEPV2に更新されてからRWSの重要性と必要性が見出されたため、搭載されるようになった。
M1A2S
サウジアラビア輸出・更新用のM1A2。サウジアラビア軍は湾岸戦争でのM1 エイブラムス戦車の実力を評価し、(アメリカからの無償供与のエジプトを除く)中東で最初にM1A2を購入した。湾岸戦争から2年後の1993年に315両が引き渡されており、このM1A2の導入はアメリカ本国より早い。2006年には、M1A2の追加導入と既存のM1A2の近代化改修をすることで合意した。その追加導入分と近代化改修されたM1がM1A2Sである。電子装備の改修やAIMの改修も施されているが、劣化ウラン装甲は取り外されている。
M1A3
現在開発中の型式で、重量を最初期M1なみの55tにまで軽量化する予定。軽量120mm戦車砲[16]への換装、自動装填装置の組み込み、車内電気配線の光ファイバー化、新型軽量装甲、新型エンジン、駆動装置の採用、赤外線カメラレーザー探知装置の搭載などの改良を施す予定で、2014年までに試作車の完成、2017年までの開発完了を目指している[17]


派生型[編集]

M1 Assault Breacher Vehicle(ABV)
M1 ABV
地雷原を啓開するための工兵車両で、M1の車体をベースとして生産された派生型。


M1 グリズリーCMV(M1 Grizzly Combat Mobility Vehicle)
M1グリズリーCMV
M1の車体にドーザー、バケットなどの装備を取り付けた工兵車両で、進軍の邪魔になる地雷や障害物を除去する。366両生産される予定だったが中止された。


M1 パンサーII 地雷処理車(M1 Panther II Mine Clearing Vehicle)
砲塔を除去したM1 エイブラムスの車体にマインプラウ若しくはマインローラーを装着した地雷処理車両で、リモコンによる無人遠隔操作で行動できる。M60 パンサー地雷処理車の後継に当たる。


M104 ウルヴァリン重突撃橋(M104 Wolverine Heavy Assault Bridge)
M104 ウルヴァリン重突撃橋
M1 エイブラムスの車体を流用して開発された架橋戦車2003年に実戦配備され、2014年までに44両が就役している。


XM2001 クルセイダー自走榴弾砲(XM2001 Crusader self-propelled howitzer)
XM2001 クルセイダー自走榴弾砲
M1 エイブラムスの車体を流用して開発された自走榴弾砲。弾薬運搬車/補給車であるXM 2002と同時開発された。長砲身56口径155mm砲 XM297を密閉式砲塔に搭載し、高度に自動化された射撃・再装填システムを持つ。2000年プロトタイプが完成したが、重量やコストが問題となり2002年に開発が中止された。米軍では引き続きM109A6 パラディン自走榴弾砲を改良・運用している。


M1 Abrams LIBERTY AIR-DEFENCE SYSTEM
M1の車体を元に、対空機銃、対空ミサイルを搭載した対空型。計画のみ。
M1 Abrams AGDS
M1の120mm砲を撤去し、2連装のブッシュマスターIII 35 mm 機関砲ADATS ミサイルを搭載した対空型。計画のみ。
M1 TTB
試験戦車。自動装填式120mm砲を搭載した無人砲塔、車体前部に乗員3名を集中配置した。主砲は自動装填式で、無人化されている。そのため、装填手が不要になり乗員は3名に減った。
M1 CATTB
先進要素技術試験戦車。自動装填式140mm砲、ステルス性、新型ガスタービンエンジンなど新技術を詰め込み、まったく別の車両に仕上がった。

運用国[編集]

アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国

性能を限定したM1A2は、クウェート・サウジアラビア、M1A1はエジプト・オーストラリアに輸出された。

オーストラリアの旗 オーストラリア

エジプトの旗 エジプト

  • M1A2相当 - 1,005両(M1A1からのアップグレード755両およびM1A2 250両)[20]

クウェートの旗 クウェート

サウジアラビアの旗 サウジアラビア

  • M1A2S - 315両
  • M1A1 - 73両[20]

モロッコの旗 モロッコ

  • M1A1SA - 200両

イラクの旗 イラク

  • M1A1M - 140両を導入予定[21]

中華民国の旗 中華民国台湾

  • M1A1 - 200両を導入予定

登場作品[編集]

出典・脚注[編集]

  1. ^ a b c d e ABRAMS M1A2 MAIN BATTLE TANK General Dynamics
  2. ^ M1A2 Abrams Main battle tank
  3. ^ a b ABRAMS M1A1 SIGNIFICANT BENEFITS-Improved Armor”. General Dynamics Landsystems. 2014年1月31日閲覧。
  4. ^ a b c d アメリカ軍主力戦車 M1 A1/A2 エイブラムズ M1 A1/A2 Abrams
  5. ^ M1エイブラムズ戦車 戦車研究室
  6. ^ ちなみにゼネラルモーターズ社の試作車は、従来のディーゼルエンジンを搭載していた
  7. ^ 佐藤幸徳著 『マイクロガスタービンの本』 日刊工業新聞社 2003年12月28日初版1刷発行 ISBN 4-526-05213-2
  8. ^ 他にガスタービンを搭載した戦闘車両として実戦には投入されなかったが第二次世界大戦中にドイツでパンター戦車にガスタービンエンジンを試験的に搭載した事例がある
  9. ^ ABRAMS M1A1 SIGNIFICANT BENEFITS-Improved Armor”. General Dynamics Landsystems. 2014年1月31日閲覧。
  10. ^ これらの敵戦車が輸出用に性能を落としたものだったのも要因とされる
  11. ^ : combat identification panelブラインド状のアルミ板のパネルにサーマルテープを貼り付け、車体の上面・側面などに装備した物で、赤外線暗視装置からは黒くぬけて見えるようにしたもの
  12. ^ a b c d Tom Clancy,Armored Cav(New York:Berkley books,1994)pp57-58 / James F.dunnigan & Austin Bay,From Shield to Storm(New York:William Morrow and Company,1992)pp294-295
  13. ^ 月刊「軍事研究」2008年12月号 ミリタリー・ジャパン・レビュー 146頁
  14. ^ M1エイブラムス 苦戦の最強戦車 時事通信社
  15. ^ 劣化ウラン弾 軍事兵器資料館
  16. ^ MCS用に開発されたXM360だと思われる
  17. ^ Armor: How An Autoloader Can Hurt M-1 Tanks
  18. ^ a b c M1 Abrams Main Battle Tank -Globalsecurity
  19. ^ Australian National Audit Office report on the DMO project Land 907
  20. ^ a b c http://www.militarium.net/wojska_ladowe/m1_abrams.php
  21. ^ M1 Abrams Tanks for Iraq --Defenceindustrydaily

関連項目[編集]

外部リンク[編集]