生物兵器

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生物兵器(せいぶつへいき)とは、細菌ウイルス、あるいはそれらが作り出す毒素などを使用し、人や動物に対して使われる兵器のこと。国際法ジュネーヴ議定書)で使用が禁止されている。生物兵器を使用した戦闘を生物戦(せいぶつせん)という[1]

生物兵器の歴史[編集]

古代ギリシアではアテナイ軍がヘレボルスという有害な植物をキルハの水源に投入し、住民は激しい下痢をおこし、アテナイ軍は侵略することができた[2]

東ローマ帝国は城壁都市に昆虫爆弾を使い、トンネルにを放って敵を撃退したり、サソリを入れた爆弾を投げつけたりした[2]

西暦1000年から1300年には、の巣の投下が行われた[2]

1348年にはジェノバの港街カッファでモンゴル軍が生物兵器として病気の患者の死骸を投下し、ペストを広めた[2]

1710年、エストニアのタリン(レヴァル)でペストが広められた[2]

1763年6月、ポンティアック(オブワンディヤグ)の叛乱で天然痘に汚染された毛布やハンカチが配布され、ジェフリー・アマースト少将は「忌まわしい人種を絶滅させる」と述べた[2]。また、アメリカ独立革命で天然痘が繰り返し発生したが、これも細菌戦としておこなわれたという[2]

保有の禁止[編集]

生物兵器は従来より戦争で使用する兵器としての保有は生物兵器禁止条約で禁止されている。

1995年地下鉄サリン事件を受け、世界的に生物兵器の保有に関する法体制の整備が進む。特にアメリカは2001年炭疽菌を使用したテロが発生し、法整備がなされた。

日本では1982年生物兵器禁止法が制定されている。

隔離・治療[編集]

多くのウイルスや細菌は人から人への感染を起こすため、感染者の隔離が必要となる。

通常は患者を隔離し、患者と接触した人へのワクチン注射を行えば感染を防ぐことができる。しかし、兵器として使用された場合には多くの人が感染することになるため、通常の隔離では対応しきれない。そのため状況に応じて地区の隔離や、最悪の場合その国への渡航を禁止し国まるごと隔離する必要がある。

心理戦[編集]

WHOは生物兵器はそれがもたらす傷病を別にしても、恐怖を与えるという意味で心理戦としても使用されるという[3]

主な生物兵器[編集]

炭疽菌[編集]

炭疽菌は生物兵器の代表格とされており、2001年にはアメリカのアメリカ炭疽菌事件でテロに使用され、死者を出している。日本でも、1993年オウム真理教東京都江東区亀戸の新東京総本部(登記上の主たる事務所でもあった)で実際に噴霧した(亀戸異臭事件)。

生物兵器の種類[編集]


各国の事例[編集]

アメリカ合衆国[編集]

生物兵器禁止条約批准以前に配備されたE120生物爆弾。

アメリカの生物兵器研究は、フランクリン・ルーズベルト大統領とアメリカ合衆国陸軍長官のもとで1941年10月に開始され[4]、生産施設はインディアナ州テラ・オートに建設された[5]フレデリックフォート・デトリックの施設で、対人および穀物を対象とした対植物兵器が開発された[6]

朝鮮戦争でアメリカは日本軍の731部隊のデータをもとに細菌戦を実施したといわれるが、キャサリン・ウエザースビーは北朝鮮、ソ連、中国による捏造したプロパガンダとした[7]

アメリカは1975年1月22日にはジュネーヴ議定書を批准[8]、1975年には生物兵器禁止条約(BWC)を批准した[Kissinger 1969]


日本[編集]

ソ連[編集]

ステプノゴルスク細菌科学技術研究所[9]は、炭疽菌感染症炭疽症)による細菌攻撃の開発を行った[10]

中華人民共和国[編集]

中国では1980年代に生物兵器開発計画が行なわれた[11]。元ソ連軍細菌戦計画の指揮官の一人であるカナタジャン・アリベコフ は、中国は1980年代後半で生物兵器工場の1か所で重大な事故を引き起こし、ソ連は偵察衛星により、中国の核弾頭試験場近くで生物兵器研究施設及び製造工場の存在を確認していたと断言した。ソ連は1980年代に2つの地域で別々に発生した出血熱の流行は中国の科学者がウイルス性出血熱の兵器化に関与した研究施設における事故が原因とであると疑った[12]

1997年1月、アメリカ合衆国国務長官マデレーン・オルブライトイラン他の国へ中国が生物兵器を輸出している疑いがあると述べた[13]。2002年1月16日、合衆国は従来からの主張に基づき中国の3企業に対し化学兵器及び生物兵器の製造に使用される材料をイランに供給したとして制裁措置を課した。これに対し、2002年後半に中国は軍民両用に利用可能な生物学的技術について「生物両用品及び関連設備・技術輸出管理条例」を施行した[14]

朝鮮民主主義人民共和国[編集]

2001年、中国人民解放軍の調査で、コレラ炭疽菌発疹チフスなど約15種類の細菌類を年間約1トン以上も生産・保管できる能力があることが確認されている。[15]

2009年、韓国国防省は、北朝鮮が2500~5000トンの化学兵器と、生物兵器に使われる13種類のウイルス・細菌を保有している可能性があり、北朝鮮は世界最大の化学・生物兵器保有国の1つとした[16]

ベルギーのシンクタンク国際危機グループによれば、北朝鮮はマスタード・ガスホスゲン血液ガスサリンタブンなどを保有している[16]

脚注[編集]

  1. ^ 「生物兵器」世界大百科事典
  2. ^ a b c d e f g スピアーズ 2012年,p.34-37
  3. ^ a b c d e f g h i j k l WHO生物・化学兵器への 公衆衛生対策WHO,2004年
  4. ^ Committees on Biological Warfare, 1941-1948
  5. ^ United States: Biological Weapons, http://www.fas.org/nuke/guide/usa/cbw/bw.htm, Federation of American Scientists, October 19, 1998
  6. ^ United States
  7. ^ 中嶋啓明「朝鮮戦争における米軍の細菌戦被害の実態 ─現地調査報告」大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター年報 (1), 15-22, 2003
  8. ^ 国際赤十字社による締約国一覧
  9. ^ Weapons of Mass Destruction (WMD)
  10. ^ Miller, Judith; Engelberg, Stephen; and Broad, William. Germs: Biological Weapons and America's Secret War. New York: Simon and Schuster, Inc., 2002.
  11. ^ Roland Everett Langford, Introduction to Weapons of Mass Destruction: Radiological, Chemical, and Biological, Wiley-IEEE, 2004
  12. ^ William J Broad, Soviet Defector Says China Had Accident at a Germ Plant, New York Times, April 5, 1999
  13. ^ Leonard Spector, Chinese Assistance to Iran's Weapons of Mass Destruction and Missile Programs, Carnegie Endowment for International Peace, September 12, 1996
  14. ^ Nuclear Threat Initiative, Country Profile: China
  15. ^ 明らかになった北朝鮮 生物・化学兵器に実態Foresight2001年2月号,新潮社
  16. ^ a b “北朝鮮、13種類の細菌兵器を保有か 韓国国防省の報告”. (2009年10月5日). http://www.afpbb.com/article/politics/2649709/4722637 2016年7月16日閲覧。 

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]