腸管出血性大腸菌

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腸管出血性大腸菌(ちょうかんしゅっけつせいだいちょうきん、enterohemorrhagic Escherichia coli:EHEC)とは、ベロ毒素 (Verotoxin=VT)、または志賀毒素 (Shigatoxin=Stx) と呼ばれている毒素を産生する大腸菌である[1]「病原性大腸菌」の一種である。このため、VTEC (Verotoxin producing E.coli) やSTEC (Shiga toxin-producing E.coli) とも呼ばれる。この菌の代表的な血清型別には、O157が存在する。

この菌による感染症は、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律により3類感染症として指定され、確認した医師は直ちに所轄する保健所などに届け出る必要がある。

歴史[編集]

  • 1982年 アメリカオレゴン州ミシガン州などでハンバーガーが原因食と推定される食中毒からEscherichia coli O157:H7(O157)が初めて検出される。[2]
  • 1993年には、アメリカのシアトル周辺で大規模なハンバーガー食中毒事件も発生。[3]
  • その後北米欧州オーストラリアなどでも集団発生が相次いで発生している。
  • 日本では、1990年埼玉県浦和市(現さいたま市)の幼稚園にて井戸水が原因とされる食中毒が発生した(園児2名が死亡)。
  • 1996年 日本において、爆発的な発生が見られる。特に大阪府堺市においては小学校の学校給食で提供された食品がEscherichia coli O157:H7に汚染されていた事により、10,000人を超える集団発生(堺市で小学生3名、岡山県で小学生2名が死亡)。
  • 1997年以降、毎年千数百人の患者が発生している。[1]

感染経路[編集]

腸管出血性大腸菌による感染は、ベロ毒素産生性の腸管出血性大腸菌で汚染された食物などを経口摂取することによっておこる腸管感染が主体である。また、ヒトを発症させる菌数はわずか50個程度と少なく強毒性を有するため、二次感染が起きやすく注意が必要である。また、この菌は強い酸抵抗性を示し、胃酸の中でも生残し腸に達する[1]

血清型別[編集]

大腸菌は、耐熱性菌体抗原であるO抗原160種類以上と、易熱性の鞭毛抗原であるH抗原60種類以上によって分類される[2]

  • O抗原
ベロ毒素を産生することのあるO抗原としては、O1、O2、O5、O18、O25、O26、O55、O74、O91、O103、O104、O105、O111、O113、O114、O115、O117、O118、O119、O121、O128、O143、O145、O153、O157、O161、O165、O172などがある。そのうち、O157によるものが全体の約80%を占める。
  • H抗原
上記で示したO抗原であっても、H抗原が異なる場合等はベロ毒素を産生しないものがある。

したがって、腸管出血性大腸菌などの血清型別を表記する場合には、Escherichia coli O157:H7などと表記する。

ベロ毒素を産生する血清型別(抜粋)[4]
O1:H20 O103:H2 O128:H2
O2:H6 O111:H- O128:H8
O4:H10 O114:H4 O128:H25
O5:H- O118:H2 O157:H7
O26:H11 O118:H12 O157:H-
O26:H- O128:H- O163:H19

病原性[編集]

腸管出血性大腸菌は、無症状や軽度の下痢から、激しい腹痛頻回の水様便著しい血便(下血)などとともに重篤な合併症を起こし死に至るものまで、様々である。感染力は比較的強く他の食中毒原因菌の1101100の100〜1000cfuの摂取で感染が成立するとされている[5]

  • 感染患者に、性別・年齢等有意な差はない。
  • 感染の機会のあった者の約半数は感染から3-8日の潜伏期[6]の後に激しい腹痛をともなう頻回の水様便となる。多くは発症の翌日ぐらいには血便となる(出血性大腸炎)。ほかの経口感染症(サルモネラ腸炎ビブリオなど)と比べると吐き気嘔吐はみられないことが多く、あっても程度は軽い。発熱は一過性で軽度(37 ℃台)である事が多い。血便になった当初には血液の混入は少量であるが次第に増加し、典型例では便成分の少ない血液がそのまま出ているような状態になる。
  • 有症者の6-7%は下痢などの初発症状発現の数日-2週間(多くは5-7日後)以内に、溶血性尿毒症症候群(Hemolytic Uremic Syndrome, HUS)、や脳症などの重篤な合併症を発症する。溶血性尿毒症症候群を発症した患者の致死率は1-5%とされている[7][8]。このほか、稀ではあるが虫垂炎腸重積など、消化器系の合併症にも注意が必要である(ひどい場合は穿孔壊死によって腹膜炎に進展する)。
  • 重症合併症の危険因子としては、乳幼児高齢者及び血便腹痛の激しい症例が挙げられている[8]が、それ以外でも重症合併症が起こる可能性がある。

診断[編集]

症状の発症とは関係なく糞便からの病原体(腸管出血性大腸菌)の分離、分離した菌株の毒素産生性の確認または毒素遺伝子の確認。同時に毒素型、抗体型を知る事が出来ればより効果的な治療につながる[9]

治療法[編集]

症状、季節、年齢など様々な要素を考慮した診断を基にして、それに応じた対症療法が行われる[10]

  • 下痢症状を有する場合、安静、水分の補給及び年齢・症状に応じた消化しやすい食事の摂取。
  • 激しい腹痛や血便が認められ、経口摂取がほとんど不可能な場合は輸液を行う。腎機能障害の発現に注意する。
  • 腸管運動抑制性の止痢剤は、腸管内容物の停滞時間を延長し、毒素の吸収を助長する可能性があるので使用しない。
  • 強い腹痛に対する鎮痛剤として、ペンタゾシンの皮下注射または筋肉内注射。スコポラミン系は腸管運動を抑制するため避ける。
  • 抗生物質の投与
    • 小児 - ホスホマイシン、ノルフロキサシン、カナマイシン
    • 成人 - ニューキノロン、ホスホマイシン

脚注[編集]

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  1. ^ a b c 国立感染症研究所 (2002), IDWR感染症発生動向調査週報 2002年第6号感染症の話, http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k02_g1/k02_06/k02_06.html 2010年2月9日閲覧。 
  2. ^ a b 岡田淳ほか (1994), 微生物学・臨床微生物学, 臨床検査技師講座, 22 (3rd ed.), 医歯薬出版, ISBN 4-263-22622-4 
  3. ^ 厚生労働省検疫所 (n.d.), 3類感染症・腸管出血性大腸菌, http://www.forth.go.jp/mhlw/animal/page_i/i03.html 2010年2月9日閲覧。 
  4. ^ 大阪大学 (n.d.), ヴェロ毒素産生性大腸菌(VTEC), オリジナルの2009年4月15日時点によるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20090415070140/http://www.med.osaka-u.ac.jp/doc/o157/contents/vtec.html 2010年2月9日閲覧。 を基に一部追加
  5. ^ 山篠貴史、太田美智男、ベロ毒素生産性大腸菌 O157 の有機酸耐性 化学と生物 Vol.41 (2003) No.9 P.619-627, doi:10.1271/kagakutoseibutsu1962.41.619
  6. ^ 知って得する病気の知識 O157 日本医師会
  7. ^ なお、激しい腹痛血便のあった場合は、その数日後に上記の合併症を起こすことがあるので、特に注意が必要である。
  8. ^ a b ">厚生労働省 (1997), 一次、二次医療機関のための腸管出血性大腸菌(O157等)感染症治療の手引き(改訂版), http://www1.mhlw.go.jp/houdou/0908/h0821-1.html 2010年2月9日閲覧。 
  9. ^ 腸管出血性大腸菌(EHEC)検査・診断マニュアル 平成24年6月
  10. ^ 一次、二次医療機関のための O-157 感染症治療のマニュアル 厚生労働省食中毒関連情報

関連項目[編集]

外部リンク[編集]