鎮痛剤

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鎮痛剤(ちんつうざい、: Analgesic)とは、痛みに対する鎮痛作用を有する医薬品の総称。感覚をなくす麻酔薬とは区別される。

鎮痛剤は、中枢神経系末梢神経に対し様々な機序で作用する。鎮痛剤の主なものに、アセトアミノフェン(国際一般名パラセタモール)や、サリチル酸アセチルサリチル酸(アスピリン)、イブプロフェンロキソプロフェンのような非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、モルヒネトラマドールのようなオピオイドが含まれる。

鎮痛剤は痛みの種類によって選択され神経因性疼痛では、三環系抗うつ薬抗てんかん薬など、鎮痛薬に分類されていないものが使用されることがある。SNRIとして知られるデュロキセチン(サインバルタ)は、「糖尿病性神経障害に伴う疼痛」や「線維筋痛症に伴う疼痛」への適応が承認されている。

用語[編集]

英単語Analgesicは、ギリシャ語で"〜無しで"を意味する"an-"と、"痛み"を意味する"-algia"の合成語である。

または英語圏では口語的に痛み止めPainkillerPain reliever)と呼ばれる。

主な鎮痛剤[編集]

アセトアミノフェンとNSAIDs系薬剤[編集]

アセトアミノフェン(国際一般名パラセタモール)の正確な作用機序は分かっていない。しかし、中枢神経に働きかけているという事はうかがえる。アセチルサリチル酸など非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、シクロオキシゲナーゼの作用を阻害し、炎症のメディエーターであるプロスタグランジンの生成量を減少させる。アセトアミノフェンとオピオイドとは対照的に、この作用が痛み、更には炎症を抑える。

プロスタグランジンの前駆体であるアラキドン酸阻害作用を有するミノサイクリンは、神経障害性疼痛への鎮痛剤として東京大学医学部附属病院で臨床試験の第III相が行われている[1]。動物研究においては数多くの成果が示された。また、ミノサイクリンの鎮痛作用や神経保護作用はエンドカンナビノイドシステム (ECSの関与が実証された[2][3][4]

アセトアミノフェンは、低頻度で低用量であれば安全とみなされるが、そうでない場合、致命的な肝機能障害を引き起こす可能性がある。

NSAIDsには、ジクロフェナクロキソプロフェンフェルビナクフルルビプロフェンも挙げられる。NSAIDsは、消化性潰瘍腎不全アレルギー反応、また高用量で耳鳴りを引き起こすことがある。また、血小板の機能にも影響を与えるので出血の危険性が増す可能性がある。ウイルス性疾患にかかった16歳以下の子どもに対するNSAIDsの使用は、ライ症候群を引き起こすことがある。

COX-2抑制剤[編集]

COX-2阻害剤はNSAIDから派生している。1990年代以降注目を集めた。NSAIDsはシクロオキシゲナーゼという酵素の、少なくとも2つのアイソザイムを阻害することが分かっており、それはCOX-1、COX-2である。研究によって、NSAIDsの副作用のほとんどはCOX-1を遮断する事によって起きており、COX-2は炎症作用にかかわっていることがわかった。NSAIDsは、一般的にCOX-1とCOX-2の両方の働きを阻害する。このためCOX-2のみを選択的に阻害する薬剤を創れば、胃痛などの副作用のない優れた消炎鎮痛剤になると考えられた。

ロフェコキシブセレコキシブなど、これに分類される薬品は、NSAIDsと等しい鎮痛効果を持ちながら消化管の出血が起こりにくいとされ、ベストセラーとなった。しかし発売後のデータ分析によって、消化管出血は起こりにくいものの心疾患の確率が上昇することがわかり、ロフェコキシブは市場から回収された。これがロフェコキシブのみのことなのか、COX-2阻害剤全体に共通する副作用であるのか、現在議論されている所である。

オピオイド[編集]

モルヒネは典型的なオピオイドであり、ほかに様々な薬物(コデインオキシコドンヒドロコドン英語版ペチジン)は全て、脳のオピオイド受容体に同じように影響を及ぼす。ブプレノルフィンは、オピオイド受容体の部分的作動薬英語版であると考えられ、またトラマドールセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害作用を持つ。オピオイドの投与は、錯乱、呼吸抑制、・ミオクローヌス・縮瞳を引き起こす事があるため、その服用量は制限されるべきである。

オピオイドは、効果的な鎮痛効果をもたらすが、一方で不快な副作用をもたらす可能性がある。モルヒネの投与の開始時には、三人に一人には、吐き気や嘔吐の症状が現れる。一般的に制吐剤を用いる。掻痒症(かゆみ)が生じた場合には、別のオピオイドに変更する場合がある。便秘は、オピオイドの投与を受けた患者のほぼ全てに起こる症状である。便秘に対しては、ラクツロース・マクロゴール含有剤・co-danthramerなどの薬剤が一様に用いられる。

オピオイドや他の鎮痛麻薬は、適切に用いられれば安全で有効である。しかし、依存や耐性の危険性がある。服用量を減らす場合には、離脱症状が起こらないように配慮する必要がある。

特異的な薬剤[編集]

慢性的もしくは神経因性疼痛による痛みをもつ患者においては、他の薬剤が鎮痛作用を持ちうる。三環系抗うつ剤、特にアミトリプチリンは、中枢神経に起因する痛みを改善する事が分かってきている。カルバマゼピンガバペンチン、またプレガバリンの正確な機序は、明確になっていない。しかし、これら抗てんかん薬は、神経因性疼痛を改善するのにいくらか効果がある。

剤型と用途[編集]

併用[編集]

鎮痛剤はよく併用される。例えば、処方箋の不要な一般医薬品に、パラセタモールコデインの併用はよくみられる。鎮痛剤の組み合わせは、プソイドエフェドリンのような血管収縮剤と合わせて、腫れ物の治療に用いたり、抗ヒスタミン剤と合わせてアレルギー患者の治療に用いられる。

パラセタモールアスピリンイブプロフェンナプロキセンなどのNSAIDsは、弱〜中オピエート(ヒドロコドン英語版まで)との併用によって、複数部位に作用し有益な相乗作用を示すが、一部の組み合わせは単剤で用いられるよりも効果がない。また薬物相互作用による重大な副作用につながることがある。

局所か全身か[編集]

局所の鎮痛薬は、一般的には全身性の副作用を避けるために推奨される。例えば、関節の痛みに対してはイブプロフェンかジクロフェナク含有ジェルが用いられる。また、カプサイシンも局部に用いられる。リドカインとステロイドは、より長期間の鎮痛ために、関節に注射されるかも知れない。リドカインは、口腔内の傷の痛みの鎮痛・あまり多くはないが医学的な治療・歯科治療のための局所麻酔に用いられる。

向精神薬[編集]

テトラヒドロカンナビノール(THC)や他のカンナビノイドには、大麻に由来するかあるいは合成によって作られ、鎮痛作用がある。アメリカ大陸やヨーロッパでは利用できる箇所増えているが、それ以外の国では違法薬物とみなされる。その他の向精神薬にはNMDA受容体拮抗薬であるケタミンや、クロニジン、α2-アドレナリン受容体拮抗薬であるメキシレチン、その他の局所麻酔類似物がある。

非定型、鎮痛薬の補助や増強[編集]

オルフェナドリン・シクロベンザプリン・スコポラミンアトロピン・ニュートリンなど、第一世代の抗うつ薬抗コリン薬抗てんかん薬は、オピオイドのような、主に働く、鎮痛剤の作用を増強するために多く用いられる。この併用には、副交感神経系に働きかけで神経障害に起因する疼痛の改善・他の鎮痛剤の作用が調整できるなどの利点がある。

デキストロメトルファンは、オピオイドに対する耐性の形成を遅らせて、NMDA受容体に作用する事によって更なる鎮痛効果をもたらす事が知られている。メタドンとケトベミドンと、おそらくピリトラミドのような幾つかの鎮痛剤の組み合わせは固有のNMDA作用をもたらす。

医薬品副作用を改善し、更なる利点をもたらす薬剤も多くある。例えば、オルフェナドリンを含む抗ヒスタミン剤は、強い鎮痛剤によって引き起こされるヒスタミンの放出を抑える。メチルフェニデートカフェインエフェドリンアンフェタミンメタンフェタミンデキストロアンフェタミン英語版コカインなどの精神刺激薬は、極度の鎮静作用を抑え、抗うつ薬と同様、痛みに苦しむ患者の気分を高揚させうる。

テトラヒドロカンナビノール(THC)の明らかな作用の一つは、慢性的な痛みによってオピオイドの投与を受けている患者に対する制吐作用である。マリノール製剤・経口直腸ハッシュオイルの蒸気吸入は、喫煙によって大麻を吸入するよりも効果的であり、これは多くの医師が大麻の喫煙を止めるように助言を行う事と同じ理由である。

依存[編集]

連用により薬物乱用頭痛を引き起こすことがある。

近年のアメリカでは、オキシコドンやヒドロコドンなど、オキシコドン・アセトアミノフェン・パラセタモールを複合的に配合したパーコセットとは対照的な、単一成分の処方薬による依存患者が増えている。単体のヒドロコドンは、ヨーロッパの幾つかの国で錠剤の医薬品として入手ができるのみである。依存をもたらすどころか、これら多くのコデインを含むパラセタモール・ジヒドロコデイン・ヒドロコドン・オキシコドンなどアメリカで用いられる薬品は、服用する者に深刻な肝障害の危険性を負わせる。冷水や冷媒によって抽出されるオピオイドは薬物乱用者・自己投薬者・合法的な薬の所持者に、これら問題が発生する可能性を減らす。アメリカで販売されているほとんどのヒドロコドン・コデイン・ジヒドロコデインを含む咳止めシロップは、過剰摂取の危険性をはらんでいる。

出典[編集]

脚注[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]