性器クラミジア感染症

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
性器クラミジア感染症
Pap smear showing clamydia in the vacuoles 500x H&E.jpg
パップスミア示すクラミジア・トラコマチス (ヘマトキシリン・エオジン染色キット)
分類および外部参照情報
ICD-10 A55-A56.8, A70-A74.9
ICD-9-CM 099.41, 483.1
DiseasesDB 2384
eMedicine med/340
MeSH D002690
テンプレートを表示

性器クラミジア感染症(せいきクラミジアかんせんしょう)は、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)の一種により生じる性感染症 (STD)。性器クラミジアでは男性では尿道に膿みや性器の痒みや痛みを生じるものの、5割無症状又は軽度で感染を拡大させることがある。女性ではおりものが増えたり、性器から異臭がするくらいで8割は本人的に無症状に感じることもあり無自覚で感染させる。咽喉への感染(喉クラミジア)では、喉が痛くなり痰が増えたりするが無症状の場合もある。クラミジアは無症状や苦痛が淋病など他の性病に比べると軽いために治療せずに放置する者もいるが、男女とも不妊、男性は排尿痛や膿又は尿道分泌液、女性は子宮頸管炎子宮内膜症の原因となったりする。性病で最も感染者が多く、二番目に多く症状が似ているが重いことで知られる淋病と並び、知名度のある性感染症である、[1][2][3]。感染経路は、キスコンドームを用いないオーラルセックス又はアナルセックスを含む互いの粘膜が触れる性行為の他、クラミジアに感染している母親からの母子感染もある。治療にはクラミジアに有効な抗生物質を、駆除に必要な量、日数で用いられる。2012年から日本でも検査が可能になったため、知名度は低いが、クラミジア又は淋病と似た症状なのに陰性の場合は、クラミジアと判別困難であるマイコプラズマ又はウレアプラズマ(性器又はのどに感染し、潜伏期間は1〜5週間)の可能性が高い。こちらも放っておくと悪化、炎症を起こし、不妊の原因もなる[2][4][5][6]

疫学[編集]

日本国内

2007年には、女子高校生の13.1%、男子高校生では6.7%が感染しているとの報告があり10代の若者への感染の蔓延が懸念されている[7]。更に、2013年10月から2014年3月までに全国の産科施設を受診した妊婦32万5771例を対象とした検査によれば、2.4%が感染していたと報告されている[8]

  • 19歳以下:15.3%、20 - 24歳:7.3%、25 - 29歳:2.2%、30 - 34歳:1.2%、35 - 39歳:0.8%、40歳以上:0.9%

この感染率は欧米と比べて高く、先進諸国のなかで最も感染が拡大している可能性が指摘されている[7]。 米国で2008 - 2010年に医師がクラミジア検査が必要であると判断した妊婦約60万例の結果では、

  • 19歳以下:9.6%、20 - 24歳:5.2%、25 - 29歳:1.8%、30 - 34歳:0.9%、35 - 39歳:0.6%

とされており、各年齢層共に日本の感染率が高い。また、都道府県によるバラツキが大きい事が報告されている[9]。しかし、大流行とも言える状態にあるも関わらず、公衆衛生行政が積極的な関心を示していない事に危機感を示す医師もいる[10]

原因[編集]

クラミジアの1種であるクラミジア・トラコマチス(CT)が尿路や性器に感染することで起こる。なお、性器クラミジア感染症を引き起こすのはCTのうちのD - K型であり、A - C型とL型は別の疾患を引き起こす。

感染経路[編集]

性交オーラルセックスキスなどにより粘膜に感染する。感染部位は咽頭尿道男性のみ)、内(女性のみ)、直腸[11]。相手が咽頭感染している場合通常の口づけでは感染する可能性は低いが、ディープキスの場合は感染率が高くなる。極めて稀だが、洋式便座、公衆浴場、タオル等を介して感染することもある。

症状[編集]

感染後数週間で発症するが、約80%は無症状とされる[8]男性の場合は、尿道から透明な膿が出る。痛みを伴う場合もある。女性の場合はおりものが増える事があるが、自覚症状は乏しい。喉頭感染では喉が痛くなり痰が増えたりするが、無症状の場合もある。

治療せずに放置しておくと、クラミジアが体内深部に進行し、男性の場合は尿道経由で前立腺炎・副睾丸炎(精巣上体炎)・肝炎・腎炎になる事がある。女性の場合は急性腹膜炎[12]、子宮頸管炎・子宮内膜炎・卵管炎になり、進行すると骨盤腹膜炎になったり肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)や卵巣炎を引き起こし、子宮外妊娠(卵管妊娠)[13]不妊の原因となる事もある。また産道感染により、新生児が結膜炎肺炎を発症することがある。また絨毛膜羊膜炎をおこし流産早産の原因ともなる。更に、クラミジアに感染していると、他の性感染症HIVの感染率が飛躍的に高くなるとされている。

女性の不妊だけでなく男性の不妊との関連性も指摘されている[14]

診断[編集]

男性の場合は泌尿器科・性病科、女性の場合は産婦人科・性病科を受診。咽頭感染の場合は耳鼻咽喉科。性器感染の場合は患部から体液を採取、もしくは採尿し、クラミジアの有無を調べる。

クラミジア性の尿道炎と、マイコプラズマウレアプラズマが原因となる非クラミジア性かつ非淋菌性の尿道炎との症状の差はみられないため、症状による鑑別は困難であり検査により容易となる[15]

検査には病院のほか、検査キットが販売されている。保健所が無料で行っている場合がある[16]。こうした無料の検査は月に1~2度である。

治療[編集]

日本の2016年のガイドラインよる説明では、クラミジアではマクロライド系のアジスロマイシンやニューキノロン系やテトラサイクリン系の抗生物質が用いられる[17]。咽喉のクラミジアでは性器への感染に準じる[18]

アジスロマイシンでは1グラム単回の服用でよく、他の薬では継続して服用する。症状は数日でなくなる事が多いが完全に死滅していない事があるので、指示通り服用が必要となる。薬に耐性のある耐性菌も増加している。途中でやめた場合ぶり返したり、菌が薬剤に対して耐性を持ってしまい症状が悪化したり、治りにくくなることがあるためである。また、オーラルセックスによるが咽頭感染例が10%とする報告もあり[8]、耳鼻咽喉科との連携が必要と指摘されている[8]

予防[編集]

性感染症である本病は禁欲が根本的な予防策である。とりわけ不特定多数との性行為の自粛である(確率的にその中に感染者が含まれているため)。コンドームの着用である程度予防することができるが100%ではなく、から口へ、口から性器へという場合などが考えられる。

出典[編集]

[脚注の使い方]
  1. ^ 性器クラミジア感染症について - 保健福祉部感染症対策局感染症対策課”. www.pref.hokkaido.lg.jp. 2022年1月14日閲覧。
  2. ^ a b 淋菌感染症(淋病)、クラミジア感染症、マイコプラズマ・ウレアプラズマ感染症について | みうら泌尿器科クリニック”. muc-kobe.jp. 2022年1月14日閲覧。
  3. ^ 性感染症 診断・治療ガイドライン 2016, p. 51.
  4. ^ マイコプラズマ・ウレアプラズマについて|性病専門のあおぞらクリニック新橋院・新宿院” (日本語). 2022年1月14日閲覧。
  5. ^ マイコプラズマ・ウレアプラズマ|東京・銀座の性感染症内科|銀座ヒカリクリニック”. www.ginza-hikari.jp. 2022年1月14日閲覧。
  6. ^ マイコプラズマ/ウレアプラズマ|山の手クリニック”. 山の手クリニック. 2022年1月14日閲覧。
  7. ^ a b 今井博久、高校生のクラミジア感染症の蔓延状況と予防対策 日化療会誌 55 (2): 135-142, 2007
  8. ^ a b c d 全国の妊婦32.6万例の大規模調査で判明 妊婦の2.4%に性器クラミジア感染症 日経メディカルオンライン 記事:2015年4月13日 閲覧:2015年9月15日
  9. ^ 全国の都道府県別流行状況(性器クラミジア感染症) 広島市 健康福祉局 衛生研究所
  10. ^ 熊本悦明、南邦宏、若者を性感染症から守る 若い女性における性感染症の大流行―クラミジア感染症を中心に 公衆衛生 72巻 6号(2007) pp. 436-443
  11. ^ 緑川昌子ほか、クラミジア直腸炎の1例 消化器内視鏡の進歩:Progress of Digestive Endoscopy Vol.42 (1993) p.289-292
  12. ^ 尾崎慎治ほか、クラミジア感染による急性腹膜炎5例 日本臨床外科学会雑誌 Vol.63 (2002) No.3 P737-741
  13. ^ 永松健ほか、近年の子宮外妊娠の原因疾患としてのクラミジア感染について 日本産科婦人科内視鏡学会雑誌 Vol.17 (2001) No.2 P31-34
  14. ^ 徳田倫章ほか、男性不妊症におけるクラミジア感染症 血清抗クラミジア抗体検査の有用性 日本泌尿器科学会雑誌 Vol.90 (1999) No.6 P608-613
  15. ^ 性感染症 診断・治療ガイドライン 2016, p. 91.
  16. ^ HIV・性感染症に関する検査・相談のための保健所マップ(東京都保健福祉局)
  17. ^ 性感染症 診断・治療ガイドライン 2016, p. 61.
  18. ^ 性感染症 診断・治療ガイドライン 2016, p. 37.

参考文献[編集]

関連法規[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]