下痢

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下痢
Multiple rotavirus particles.jpg
5歳以下小児では、下痢の40%がロタウイルスによるものである[1]
分類および外部参照情報
診療科・
学術分野
感染症、消化器科
ICD-10 A09, K59.1
ICD-9-CM 787.91
DiseasesDB 3742
MedlinePlus 003126
eMedicine ped/583
Patient UK 下痢
MeSH D003967
世界の疾病負荷(WHO, 2004年)[2]
疾患 DALY
(100万)
割合
(%)
1 下気道感染症 94.5 6.2%
2 下痢性疾患 72.8 4.8%
3 大うつ病 65.5 4.3%
4 虚血性心疾患 62.6 4.1%
5 HIV / AIDS 58.5 3.8%
6 脳血管疾患 46.6 3.1%
7 未熟児、低出生体重 44.3 2.9%
8 出生時仮死出生外傷 41.7 2.7%
9 交通事故 41.2 2.7%
10 新生児の感染症など 40.4 2.7%
11 結核 34.2 2.2%
12 マラリア 34.0 2.2%
13 COPD 30.2 2.0%
14 屈折異常 27.7 1.8%
15 成人発症性の難聴 27.4 1.8%
16 先天異常 25.3 1.7%
17 アルコール使用障害 23.7 1.6%
18 他傷による怪我 21.7 1.4%
19 糖尿病 19.7 1.3%
20 自傷行為怪我 19.6 1.3%

下痢(げり、: diarrhea)は、健康時の便と比較して、非常に緩いゲル)状・若しくは液体状の便が出る状態である[3]。主に消化機能の異常により、人間を含む動物が患う症状であり、その際の便は軟便(なんべん)、泥状便(でいじょうべん)、水様便(すいようべん)ともいう。東洋医学では泄瀉(泄は大便が希薄で、出たり止まったりすること。瀉は水が注ぐように一直線に下る)とも呼ばれる。世界では毎年17億人が発症し、また毎年76万人の5歳以下児童が下痢により死亡している[3]発展途上国では主な死因の1つとなっている。

軟骨魚類両生類爬虫類鳥類および一部の原始的な哺乳類は、下痢とよく似た軟らかい便を排泄するが、それらの排泄を指して「下痢」とは呼ばない。それらの生物は、消化器官の作りが原始的であったり、全排泄(出産産卵をも含む)を総排泄腔で行うことから、便の柔らかいことが常態である。

定義[編集]

下痢は、消化吸収能力の機能低下や、毒物の服用、何等かの感染症、薬剤の副作用、内分泌疾患によって発生する便が泥状や水様の症状である。多くの場合、排便回数の増加を伴う[4]。急性のものと慢性のものに大別され、発症から2週間以内のものを急性のものとして扱い[4]、ウイルス性のものである可能性が高く、ほとんどの場合、自然に治癒する。発症から2週間以上たったものを持続性(慢性)の下痢として扱い[3][4]瀉下薬(下剤)の服用に伴い生じる下痢様症状は除外する。

便が非常に柔らかくなる際に合併する主な症状は、

  1. 下痢の原因に直接関係のある
  2. 副次的に生じる

などが挙げられる。特に水様便に伴う脱水症状により重篤な状態に陥る事もある。

便の状態は、ブリストル・スケールにより評価する[5]

ブリストル・スケール 状態 解説
Bristol stool scale neutral.png
1 コロコロ便 硬くてコロコロのウサギ糞状の便
2 硬い便 ソーセージ状ではあるが硬い便
3 やや硬い便 表面にひび割れのあるソーセージ状の便
4 普通便 表面がなめらかで柔らかいソーセージ状、
あるいは蛇のようなとぐろを巻く便
5 やや柔らかい便 はっきりとしたしわのある半分固形
6 泥状便 境界がほぐれて、フニャフニャの不定形の小片便、泥状の便
7 水様便 水様で、固形物を含まない液体状の便

疫学[編集]

2004年の100,000人あたりの下痢の障害調整生命年(DALY)[6]
  データなし
  < 500
  500-1000
  1000-1500
  1500-2000
  2000-2500
  2500-3000
  3000-3500
  3500-4000
  4000-4500
  4500-5000
  5000-6000
  > 6000

2004年には世界で約25億人が下痢に罹患し、150万人の5歳以下の子供が死んでいる[1]。これらの患者の半分以上がアフリカ及び南アジアに在住している[1]。20年前には500万人に1人が毎年死亡していたが現在では改善しつつある[1]。これらの年代では、下痢の死因は全体の16%を占め、肺炎の17%の死因に次いで第2位の死因となっている[1]

原因[編集]

通常、便は大腸内にて水分ミネラル吸収された上で排出されるが、何らかの原因で水分を多分に残したまま便意を催して排便されることがある。浸透圧により、腸壁から腸管内に水分が排出される。これが下痢である。

治療方針を決定するため原因鑑別を行う。

  • 内的要因
吸収不良
消化管の器質的異常
  • 消化管穿孔、炎症性腸疾患、悪性腫瘍
消化管の機能的異常
  • 便の大腸から回腸部への逆流[7]
  • 外的要因
  • 食中毒
    • 病原性、腐敗物の喫食
    • 化学物質、薬剤
  • 生活習慣
    • 飲酒、過食、冷熱刺激
  • ストレス
    • 過敏性腸症候群

感染症[編集]

感染性の下痢は、ウイルス、細菌、寄生虫など多くの原因がある[9]。感染性下痢はよく胃腸炎に関連づけられる[10]

成人の下痢で最も一般なのはノロウイルスであり[11]、5歳以下児童の下痢で最も一般なのはロタウイルスである[12]。さらにアデノウイルスタイプ40,41や[13]アストロウイルスによる感染性下痢も一般的である[14]

また赤痢コレラ病原性大腸菌などによる感染症や、クリプトスポリジウムといった病原性原虫寄生虫の寄生でも発生し、に至る場合もある。

吸収不良[編集]

小腸、すい臓の障害により、栄養分の吸収が十分にできないことによる。

炎症性腸疾患[編集]

過敏性腸症候群[編集]

そのほか[編集]

病態[編集]

脱水症状は特に細胞外液脱水になり、塩分などのミネラル分などの消耗も起きるので電解質代謝異常を来す。便は通常アルカリ性なので体液の酸アルカリ平衡酸性に向かいアシドーシスとなって、体液が酸性に傾きアシデミアになりやすい。これは嘔吐の際に、酸性の胃液を吐くため平衡がアルカリ性に向かいアルカローシスになって、体液がアルカリに傾くアルケミアになりやすいことと対比するとわかりやすい。また、脱水が高度になると循環血流量が減少するため、多臓器不全(腎不全など)やショック意識障害を招くこともある。

小腸性下痢と大腸性下痢の比較
小腸性下痢 大腸性下痢
便量 著しく増加 正常〜増加
粘液 まれ あり
メレナ 小腸出血時に発生 なし
血便 出血性腸炎を除きなし 時に存在
未消化物 あり なし
渋り腹
テネスムス
なし 頻回
体重減少 しばしば まれ
嘔吐 しばしば まれ

また、消化管穿孔性疾患に伴う腹膜炎は、頻回の便意をもよおすことがある[15][16][17]

管理[編集]

補水[編集]

経口補液を受けるコレラ患者

下痢の際には通常より多くの水分が失われるため、それを補填するために経口または輸液により水分補給を行う。

医薬品[編集]

原因が食中毒や感染症や消化管の器質的な疾患に起因する場合、原因に対する対症療法が行われる。食中毒、感染症、消化管の器質的な疾患に該当しない下痢の場合は止瀉薬の服用を行う。

いつもの下痢が突然起きた場合には、下痢止め薬を服用するとよい[要出典]。ただし食中毒などの感染症に伴う下痢は、病原体を速やかに排出する防衛作用であり下痢止め処置は病状の悪化を招くとの専門家の指摘がある[18]

脚注[編集]

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  1. ^ a b c d e whqlibdoc.who.int (PDF)”. World Health Organization. 2012年7月19日閲覧。
  2. ^ The global burden of disease: 2004 update (Report). 世界保健機関. Part.4 Table 12: Leading causes of burden of disease (DALYs), all ages, 2004. ISBN 9241563710. http://www.who.int/healthinfo/global_burden_disease/2004_report_update/en/. 
  3. ^ a b c Diarrhoeal disease Fact sheet N°330 (Report). http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs330/en/. 
  4. ^ a b c 小林健二、「下痢止めはいつ投与する?」JIM., No.18(9), doi:10.11477/mf.1414101515
  5. ^ ブリストル便性状スケール(BSスコア) ヤクルト中央研究所
  6. ^ Mortality and Burden of Disease Estimates for WHO Member States in 2004 (xls)”. World Health Organization. 2012年7月19日閲覧。
  7. ^ a b 洲崎文男、寺澤捷年、宿便についての一考察.について 日本東洋医学雑誌 Vol.66 (2015) No.2 p.173-174, doi:10.3937/kampomed.66.173
  8. ^ 奥恒行、「難消化吸収性糖質の消化・発酵・吸収ならびに許容量に関する研究」日本栄養・食糧学会誌 Vol.58 (2005) No.6 P337-342, doi:10.4327/jsnfs.58.337
  9. ^ Navaneethan U, Giannella RA (November 2008). “Mechanisms of infectious diarrhea”. Nature Clinical Practice Gastroenterology & Hepatology 5 (11): 637–47. doi:10.1038/ncpgasthep1264. PMID 18813221. 
  10. ^ David Schlossberg (2008). Clinical Infectious Disease. Cambridge University Press. p. 349. ISBN 9781139576659. https://books.google.ca/books?id=-wWY1_mSeq0C&pg=PA349. 
  11. ^ Patel MM, Hall AJ, Vinjé J, Parashar UD (January 2009). “Noroviruses: a comprehensive review”. Journal of Clinical Virology 44 (1): 1–8. doi:10.1016/j.jcv.2008.10.009. PMID 19084472. 
  12. ^ Greenberg HB, Estes MK (May 2009). “Rotaviruses: from pathogenesis to vaccination”. Gastroenterology 136 (6): 1939–51. doi:10.1053/j.gastro.2009.02.076. PMC 3690811. PMID 19457420. http://www.pubmedcentral.nih.gov/articlerender.fcgi?tool=pmcentrez&artid=3690811. 
  13. ^ Uhnoo I, Svensson L, Wadell G (September 1990). “Enteric adenoviruses”. Baillière's Clinical Gastroenterology 4 (3): 627–42. doi:10.1016/0950-3528(90)90053-J. PMID 1962727. 
  14. ^ Mitchell DK (November 2002). “Astrovirus gastroenteritis”. The Pediatric Infectious Disease Journal 21 (11): 1067–9. doi:10.1097/01.inf.0000036683.11146.c7 (inactive 2015-01-12). PMID 12442031. 
  15. ^ 猪熊哲朗 ほか、「穿孔性腹膜炎をきたした小腸結核の1例」日本消化器病学会雑誌 Vol.98 (2001) No.5 P553-558, doi:10.11405/nisshoshi1964.98.553
  16. ^ 米沢健 ほか、「穿孔性腹膜炎を起したアメーバ赤痢の2手術例」日本臨床外科医学会雑誌 Vol.42 (1981) No.3 P322-328, doi:10.3919/ringe1963.42.322
  17. ^ 浅野史雄 ほか、「腹膜炎症状で発症し異所性膵を伴った成人回腸重複腸管の1例」日本臨床外科学会雑誌 Vol.70 (2009) No.7 P2008-2012, doi:10.3919/jjsa.70.2008
  18. ^ 腸管出血性大腸菌Q&A 厚生労働省

関連項目[編集]

外部リンク[編集]