下痢

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索
下痢
Multiple rotavirus particles.jpg
5歳以下小児では、下痢の40%がロタウイルスによるものである[1]
分類および外部参照情報
診療科 感染症、消化器科
ICD-10 A09, K59.1
ICD-9 787.91
DiseasesDB 3742
MedlinePlus 003126
eMedicine ped/583
Patient UK 下痢
MeSH D003967
世界の疾病負荷(WHO, 2004年)[2]
疾患 DALY
(100万)
割合
(%)
1 下気道感染症 94.5 6.2%
2 下痢性疾患 72.8 4.8%
3 大うつ病 65.5 4.3%
4 虚血性心疾患 62.6 4.1%
5 HIV / AIDS 58.5 3.8%
6 脳血管疾患 46.6 3.1%
7 未熟児、低出生体重 44.3 2.9%
8 出生時仮死出生外傷 41.7 2.7%
9 交通事故 41.2 2.7%
10 新生児の感染症など 40.4 2.7%
11 結核 34.2 2.2%
12 マラリア 34.0 2.2%
13 COPD 30.2 2.0%
14 屈折異常 27.7 1.8%
15 成人発症性の難聴 27.4 1.8%
16 先天異常 25.3 1.7%
17 アルコール使用障害 23.7 1.6%
18 他傷による怪我 21.7 1.4%
19 糖尿病 19.7 1.3%
20 自傷行為怪我 19.6 1.3%

下痢(げり、: diarrhea)は、健康時の便と比較して、非常に緩いゲル)状・若しくは液体状の便が出る状態である[3]。主に消化機能の異常により、人間を含む動物が患う症状であり、その際の便は軟便(なんべん)、泥状便(でいじょうべん)、水様便(すいようべん)ともいう。東洋医学では泄瀉(泄は大便が希薄で、出たり止まったりすること。瀉は水が注ぐように一直線に下る)とも呼ばれる。

軟骨魚類両生類爬虫類鳥類および一部の原始的な哺乳類は、下痢とよく似た軟らかい便を排泄するが、それらの排泄を指して「下痢」とは呼ばない。それらの生物は、消化器官の作りが原始的であったり、全排泄(出産産卵をも含む)を総排泄腔で行うことから、便の柔らかいことが常態である。

世界では毎年17億人が発症し、また毎年76万人の5歳以下児童が下痢により死亡している[3]発展途上国では主な死因の1つとなっている。

定義[編集]

ブリストル排便スケール。Type4が普通便とされる。

下痢は、消化能力の機能低下や、毒物の服用・何等かの感染症によって発生する症状である。

急性のものと慢性のものに大まかに分けられる。発症から2週間以内のものを大体急性のものとして扱い、ウイルス性のものである可能性が高く、ほとんどの場合、自然に治癒する。発症から2週間以上たったものを慢性の下痢として扱う[3]

便が非常に柔らかくなる以外の主な症状としては、

などが挙げられる。特に大腸での水分吸収が行われないために生じる脱水症状は危険である。

小腸性下痢と大腸性下痢の比較
小腸性下痢 大腸性下痢
便量 著しく増加 正常~増加
粘液 まれ あり
メレナ 小腸出血時に発生 なし
血便 出血性腸炎を除きなし 時に存在
未消化物 あり なし
渋り腹
テネスムス
なし 頻回
体重減少 しばしば まれ
嘔吐 しばしば まれ

また、骨盤内の腹膜炎は、頻回の便意をもよおすことがあり、これを「下痢」と感じることがあるため、気をつける必要がある。

他にも、上部の消化管出血(特に十二指腸からの出血)は吐血ではなく下痢便として排泄されることがあるため、注意が必要。

鑑別疾患[編集]

感染症[編集]

感染性の下痢は、ウイルス、最近、寄生虫など多くの原因がある[4]。感染性下痢はよく胃腸炎に関連づけられる[5]

成人の下痢で最も一般なのはノロウイルスであり[6]、5歳以下児童の下痢で最も一般なのはロタウイルスである[7]。さらにアデノウイルスタイプ40,41や[8]アストロウイルスによる感染性下痢も一般的である[9]

また赤痢コレラと言った伝染病や、クリプトスポリジウムといった病原性原虫寄生虫の寄生でも発生する上に、結果的にに至る場合もあるため、たかが下痢と侮らず、少しでも続くようなら医師に相談した方が賢明である。特に海外旅行の後で症状が出た場合にはなおさらだ(輸入感染症)。

吸収不良[編集]

小腸、すい臓の障害により、完全に食物を吸収できないことによる。

炎症性腸疾患[編集]

過敏性腸症候群[編集]

そのほか[編集]

原因[編集]

通常、便は大腸内にて水分ミネラル吸収された上で排出されるが、何らかの原因で水分を多分に残したまま便意を催して排便されることがある。更に重症な場合は、逆に腸壁から腸管内に水分が排出される。これが下痢である。

大人は乳糖分解酵素の活性が失われ、乳糖を分解、吸収できないため大腸内での乳糖の濃度が高まると大腸内の浸透圧も高まり、大腸内で多量の水分を保留することとなり、これが下痢を引き起こす。糖アルコールである甘味料の多く(例:マルチトールソルビトールなど)も分解、吸収できない場合が多いため、大量に摂取した場合に同様のメカニズムにより下痢が引き起こされる。エリスリトールは体内に吸収されるので下痢がおきにくい[10]。大量のマグネシウムの摂取も人体に大量に吸収されないため同様のメカニズムにより下痢が引き起こされる。

日常において最も多く見られる原因としては、以下が挙げられる。

病態[編集]

脱水症状は特に細胞外液脱水になり、塩分などのミネラル分などの消耗も起きるので電解質代謝異常を来す。便は通常アルカリ性なので体液の酸アルカリ平衡酸性に向かいアシドーシスとなって、体液が酸性に傾きアシデミアになりやすい。これは嘔吐の際に、酸性の胃液を吐くため平衡がアルカリ性に向かいアルカローシスになって、体液がアルカリに傾くアルケミアになりやすいことと対比するとわかりやすい。

また、脱水が高度になると循環血流量が減少するため、多臓器不全(腎不全など)やショック意識障害を招くこともある。

予防[編集]

貧困地帯では正常な飲料水を得られないことがある

衛生的な水を確保し、また手洗いを徹底する。

東洋では下痢に対しては腹部を冷やさないようにすることが大切であるとされている。不快感を軽減することもできるため使い捨てカイロのような発熱体を腹部にあてがうことも役に立つ。ファッションの趣味として、腹部を露出することを好む者の場合、下痢になるリスクが高いため飲食物に注意を払うことが望ましい[11]。なお、同じ腹痛でも、虫垂炎などの炎症が原因の場合、温めることは逆効果となるので注意を必要。

重篤な疾患でないと診断されていても、慢性に下痢をしてしまう人は、カフェインなど腸を必要以上に刺激してしまうものを避け、高浸透圧の人工甘味料も避けよう。さらに、常用薬副作用によって下痢を引き起こしている可能性もあるため、医師、薬剤師などに相談することである。

管理[編集]

補水[編集]

経口補液を受けるコレラ患者

下痢の際には通常より多くの水分が失われるため、それを補填するために多目の水分補給が必要。浸透圧の問題と、ナトリウムの吸収経路の問題(ナトリウムのトランスポーターはグルコースと共輸送のものがあるため)から、家庭では、温かい「ごく薄い」味噌汁スポーツドリンクなどをこまめに少しずつ取ると良いといわれる。脱水症状は重篤になることもあるため、水分補給は気をつけて行う必要がある。食事をとらない場合は、一日2000mLを目安に少しずつ飲むとよい。尿量が「いつもくらい出る」という点もひとつの目安になる。東洋医学によると、冷やした飲み物は望ましくないとされている。西洋医学においても、冷たい飲み物は胃腸に刺激になるため、避けたほうがいいと考えられる。医療機関においては、嘔吐などにより経口摂取が不可能、または経口では不十分にしか摂取できないと判断されると、経静脈輸液を行う。

発展途上国では多くの子供が感染症による下痢の脱水症状で死亡しており、点滴による水分補給も設備面で困難であるために、水分を小腸で吸収させる経口補水塩を用いた治療が行われている。

医薬品[編集]

いつもの下痢が突然起きた場合には、下痢止め薬を服用するとよい。梅干なども効果があるとされている。食中毒などの感染症に伴う下痢は、病原体を速やかに排出する防衛作用であり、むやみな下痢止め処置はかえって病状の悪化を招くため、服用すべきでない。「いつもの下痢」でも異常に下痢が続く場合や症状が急変した場合はすぐに医師に相談すべきである。

代替療法[編集]

東洋医学では下痢は、している場合と、が虚している場合に分けられ、それぞれ、補う方法が異なるため、一律に下痢と診断して治療に当たることは望ましくない。

疫学[編集]

2004年の100,000人あたりの下痢の障害調整生命年(DALY)[12]
  データなし
  < 500
  500-1000
  1000-1500
  1500-2000
  2000-2500
  2500-3000
  3000-3500
  3500-4000
  4000-4500
  4500-5000
  5000-6000
  > 6000

2004年には世界で約25億人が下痢に罹患し、150万人の5歳以下の子供が死んでいる[1]。これらの患者の半分以上がアフリカ及び南アジアに在住している[1]。20年前には500万人に1人が毎年死亡していたが現在では改善しつつある[1]。これらの年代では、下痢の死因は全体の16%を占め、肺炎の17%の死因に次いで第2位の死因となっている[1]

脚注[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ a b c d e whqlibdoc.who.int (PDF)”. World Health Organization. 2012年7月19日閲覧。
  2. ^ The global burden of disease: 2004 update (Report). 世界保健機関. Part.4 Table 12: Leading causes of burden of disease (DALYs), all ages, 2004. ISBN 9241563710. http://www.who.int/healthinfo/global_burden_disease/2004_report_update/en/. 
  3. ^ a b c Diarrhoeal disease Fact sheet N°330 (Report). http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs330/en/. 
  4. ^ Navaneethan U, Giannella RA (November 2008). “Mechanisms of infectious diarrhea”. Nature Clinical Practice Gastroenterology & Hepatology 5 (11): 637–47. doi:10.1038/ncpgasthep1264. PMID 18813221. 
  5. ^ David Schlossberg (2008). Clinical Infectious Disease. Cambridge University Press. p. 349. ISBN 9781139576659. https://books.google.ca/books?id=-wWY1_mSeq0C&pg=PA349. 
  6. ^ Patel MM, Hall AJ, Vinjé J, Parashar UD (January 2009). “Noroviruses: a comprehensive review”. Journal of Clinical Virology 44 (1): 1–8. doi:10.1016/j.jcv.2008.10.009. PMID 19084472. 
  7. ^ Greenberg HB, Estes MK (May 2009). “Rotaviruses: from pathogenesis to vaccination”. Gastroenterology 136 (6): 1939–51. doi:10.1053/j.gastro.2009.02.076. PMC 3690811. PMID 19457420. http://www.pubmedcentral.nih.gov/articlerender.fcgi?tool=pmcentrez&artid=3690811. 
  8. ^ Uhnoo I, Svensson L, Wadell G (September 1990). “Enteric adenoviruses”. Baillière's Clinical Gastroenterology 4 (3): 627–42. doi:10.1016/0950-3528(90)90053-J. PMID 1962727. 
  9. ^ Mitchell DK (November 2002). “Astrovirus gastroenteritis”. The Pediatric Infectious Disease Journal 21 (11): 1067–9. doi:10.1097/01.inf.0000036683.11146.c7 (inactive 2015-01-12). PMID 12442031. 
  10. ^ a b c 難消化吸収性糖質の消化・発酵・吸収ならびに許容量に関する研究、(平成17年度日本栄養・食糧学会学会賞)、奥恒行、日本栄養・食糧学会誌 Vol.58 (2005) No.6 P337-342
  11. ^ a b c 順天堂大学医学部附属病院看護部公式サイト
  12. ^ Mortality and Burden of Disease Estimates for WHO Member States in 2004 (xls)”. World Health Organization. 2012年7月19日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]