東部馬脳炎

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透過型電子顕微鏡によるEEEの画像(倍率83900、ウイルスを赤く色分けしている)
単粒子再構成法によるWEEのモデル(解像度12Å、)

東部馬脳炎(とうぶうまのうえん、: Eastern Equine Encephalomyelitis (EEE))とは、トガウイルス科アルファウイルス属に属する 東部ウマ脳炎ウイルス病原体とする人獣共通感染症である。

近縁の西部ウマ脳炎ウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルスも同様の感染症を起こすが、東部ウマ脳炎ウイルスが最も重篤な症状を示す。

日本では三ついずれも感染症法で四類感染症に、家畜伝染病予防法では日本脳炎とともに「流行性脳炎」の名で法定伝染病に指定されているが、2014年までに報告事例は無い。

概要[編集]

東部ウマ脳炎ウイルスは一本鎖(+)RNAウイルスであり、アメリカ北東部の湿地帯でと小型鳥類の間を循環していて、この蚊を介してウマヒトへの感染が成立する。ウイルス自体は両生類は虫類からも見つかっているが、人への感染源は鳥の血を吸った蚊に限られている。

ウマでは5-14日の潜伏期を経て、発熱食欲不振などが認められ、組織学的には非化膿性脳炎が認められる。

ヒトの場合、ほとんどは不顕性感染となる。潜伏期間は3~10日で高熱、悪寒、倦怠感、筋肉痛などの症状を生じるが、1~2週間で回復することが多い。しかし、脳炎を発症した場合は重篤化し、昏睡や死亡に至る。脳炎を起こした患者の致死率は50~75%に達し、特に幼児や高齢者で死亡率が高い。神経学的後遺症が残るなど予後も悪い。

2019年のアメリカでの流行[編集]

11月19日現在、8州で流行し、感染者が36人、うち死亡者が14人、致死率39%である。 (通常の感染者数は年平均7人であり、最近10年間では2012年の15人が最高だった。)[1]

西部馬脳炎(WEE)[編集]

西部ウマ脳炎ウイルスによる人獣共通感染症。 概要は東部馬脳炎に近いが、三つの中では最も症状が軽いとされる。潜伏期間は5~10日、年長者ほど回復は早く通常は5~10日で回復する。脳炎を発症した場合の致死率は8~15%。

ベネズエラ馬脳炎(VEE)[編集]

ベネズエラウマ脳炎ウイルス英語版による人獣共通感染症。 EEEと異なり発病率が高く、ほぼ100%に達するが重篤化することは少ない。潜伏期間は1~6日で、発熱以外に頭痛、筋肉痛、硬直などを生じる。重篤化した場合の致死率は10~20%。 南アメリカ北部(ベネズエラコロンビアなど)の湿地帯で蚊と齧歯類の間を循環している。本来の病原性は弱いが、変異によって強毒性の流行型ウイルスが生じると、ヒトやウマ相互で感染するため大流行を引き起こす。 1962年からの大流行では3万人が感染し190人が死亡した。1969年からの大流行ではウマの被害が大きく、メキシコとテキサスで1万頭の被害が出ている。1995年には10万人が感染し300人以上が死亡している。

生物兵器[編集]

ベネズエラウマ脳炎ウイルスは感染力が強く、噴霧されたウイルスを10~100個吸入しても感染する。また、発病率も高く変異により強毒化することなどから、1950~1960年代に生物兵器として研究が進められた。 アメリカでは アメリカ合衆国生物兵器プログラム英語: United States biological weapons programで使われた病原体7種の一つだったが、1969年11月のニクソン大統領の指令により廃棄された。

脚注[編集]

参考資料[編集]