無反動砲

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無反動砲(むはんどうほう、: recoilless rifle)は、発射する砲弾が持つのと同じ運動量を持たせた物体や爆風を砲の後方に放出することにより、作用反作用の法則を利用して、発射時の反動を軽減し、駐退復座機構や頑丈な砲架を省略した砲である。

“無反動”とは称されているが、実際には砲の規模や方式に応じたある程度の反動が発生し、砲身内部にライフリングがあるものは、砲弾通過時にその回転力の反作用も受ける。

概要[編集]

カールグスタフ 84mm無反動砲用の各種弾薬

主に対戦車兵器として歩兵部隊に配備される、小~中口径の火砲で、弾種の変更が容易であるため、フレシェット散弾(対人攻撃)、発煙弾信号弾照明弾の打ち上げなどにも利用できる。

従来の火砲のような強烈な反動が無いため、衝撃吸収機構を必要とせず、砲腔圧力の低さから砲身の肉厚を薄くできる。これにより小型軽量の発射装置で大口径砲弾を発射でき、重量が軽減されることで、歩兵や軽車輛にも対戦車能力を付与することができた。

構造上、反動軽減のために発射薬が発生させるエネルギーを消耗するため、砲弾に与えられる運動エネルギーが小さくなることが避けられず、高い砲口初速を得るには発射薬を大量に使用しなくてはならないため、砲弾のサイズが同じなら通常の砲より弾速と射程が劣る。対戦車用の無反動砲の場合、威力を弾速に依存しない成形炸薬弾粘着榴弾を弾頭に使用することで欠点を補っているほか、カールグスタフ無反動砲の対戦車榴弾のように、弾体にロケット推進装置を取り付け、発射後に加速することで速度と射程を向上させる複合式の機構を持つものも多く、第二次世界大戦後において開発された携行無反動砲の多くは、この複合式機構により小型化と充分な弾頭威力を並立させている。

M40 106mm無反動砲の上部に取り付けられている、M8C 12.7mmスポッティングライフル

作動原理的に避けられない欠点として、質量投射式ではカウンターマスと呼ばれる個体物を投射することにより、後方噴射式では後方に噴出したガスによる大きな噴射流が発生し、それらの他に土砂や土埃が巻き上がるため、爆風や炎、土煙で周囲に発射源を容易に特定される危険を伴う(敵に発見されて反撃を受けやすい)という問題があった。そのため、発砲後は極力速やかに位置を移動するか、目標に初弾を必中させる必要があり、軽量小型で運搬が容易ではない大型大口径のものは、正確な照準を可能とする精密照準装置(光学視差式距離計レンジファインダー)等)が大型で複雑なものしかなく、砲の付属照準装置として搭載することが難しかったため、“スポッティングライフル(測距銃)”と呼ばれる、曳光弾専用の銃を砲と同軸に装備して正確な照準の手段としていた。

もう一つの欠点としては、発砲時には砲の後方に発射炎と爆風、そしてカウンターマスや高温の噴射ガスによる危険域が一定範囲発生するため、いずれの方式でも後方へ一定範囲の危険域が存在し、そこに味方が立ち入らないよう配置、運用される必要があった。このため、建造物の室内や掩蔽壕といった狭い空間からの発砲は不可能であるか困難で、可能なものであっても「壁から*mは離れる必要がある」といった制約が生じる。また、同様の理由から、携行可能なものを肩担して用いる場合には、伏射(伏せ撃ち)の際には射手自身の下半身や足を危険域に巻き込まないように注意する必要があり、大きな仰角を取って射撃を行いたい場合には、事前に後方の地面を掘り下げる必要があった(陣地から射撃する場合には、その点を考慮した砲座を構築せねばならない)。

無反動砲は、上述のような欠点はあるものの、より軽便な携帯ロケットランチャーや高性能な対戦車誘導弾などが普及した後も、ロケット弾より弾頭の初速(飛翔速度)が高く、横風の影響も受けにくいために弾道性能が高く(命中精度が高い)、対戦車ミサイルより安価かつ多目的に使用できる事から使われ続けている。

発射方式[編集]

発射方式には後方に発射する主砲弾と同じ運動エネルギーを持つ重量物(カウンターマス、もしくはカウンターウエイトと呼ばれる)を射出して反動を相殺する質量投射式と、後方に発射ガスを高速で噴出させて反動を軽減させる後方噴射方式があり、質量投射式にはデイビス式(デイビス砲)が、後方噴射方式はクルップ式、バーニー式(バーニー砲)、クロムスキット式がある。

デイビス式は“イギリス式”、クルップ式には“ドイツ式”、クロムスキット式には“アメリカ式”の通称もある。これらはいずれもそれぞれの方式が初めて用いられたものを開発、及び装備・運用した国に由来している。

第二次世界大戦中に開発されたパンツァーファウストシリーズ、戦後に開発されたパンツァーファウスト3RPG-7のような、発射筒の口径(発射筒内径)に比べて弾頭直径が極めて大きい、外装式の弾頭を持つ対戦車擲弾発射器には、発射筒からの弾体の発射にデイビス式やクルップ式と同じ作動原理を用いているものがあり、これらも広義ではデイビス式もしくはクルップ式の無反動砲に分類されることがある。

デイビス式[編集]

航空機(水上機)に対潜用として搭載された、アメリカの3インチ(76.2mm)デイビス砲

1906年に「デイビス砲(英語: Davis gun)」の名称で開発された、世界最初の無反動砲で用いられた方式。前方砲口の反対側にも砲口を設け、後方に砲弾によって発生する反動と同じ運動エネルギーを持つ重量物を射出して反動を相殺、もしくは軽減する。

「デイビス砲」の名はアメリカ海軍中佐であるクレランド・デイビス(Cleland Davis)に由来する。デイビス砲そのものはアメリカで発明されたが、初めて採用されたものはイギリス軍においてであり、航空機に搭載する対飛行船、また対潜水艦兵器としてであった。両国では数種の口径のものが試作され、実際に航空機に搭載してのテストも行われ、小規模ながら部隊配備も行われていたが、「機密兵器」に指定されていたために実際の運用実態は詳しく判明していない。しかし、運用は極めて限定されたもので、戦果を挙げた例もなかったと推定されている。実際に製造・運用した米英両国共に、第一次世界大戦が終結すると「装備を継続するに値する性能がない」として運用が中止され、デイビス砲とその使用弾薬の構造については1914年にアメリカで特許が申請されているが、研究開発が継続されることもなかった。

ソビエトではこのデイビス砲を参考にした同様の構造の物を独自に研究・開発し、大口径から小口径まで多種多様の無反動砲を開発し、特に航空機に搭載する大口径火器として試験を繰り返したが、いずれも満足な性能を達成できず、開発を主導したクルチェフスキー(Леонид Васильевич Курчевский)(ロシア語版)が責任を問われて逮捕・投獄の後に処刑されてしまったため、後に独ソ戦によりドイツ軍の使用したクルップ式のものを捕獲して調査した結果、無反動砲に対する評価が覆るまでは、ソビエトでこの種の火砲が省みられることはなかった。

デイビス式無反動砲の模式図
1.砲身 2.砲弾 3.装薬 4.カウンターマス

初期のカウンターマスは金属の塊やワックスなどの軟体で、大きな後方爆風(バックブラスト)を生じないため、閉鎖された空間や狭い陣地から発射しても射手が爆風に巻き込まれないが、打ち出されたカウンターマスの飛ぶ距離は他の方式より長い(後方危険界が広い)という難点があった。また、カウンターウェイトを撃ち出す必要上、同口径同重量の砲弾を発射する通常の砲の倍の発射薬が必要となり、原理上、十分に反動を軽減するには前方砲身と同じかそれに匹敵するだけの砲身長のある後方砲身が必要となる(砲身長が同一でなければ、加速距離が同一にならないため、反動を相殺、もしくは十分に軽減できない)ため、砲の全長が長大になる、という構造上の欠点があり、更には、砲身の中央に薬室がある、という構造になるため、通常の後装式火砲のような閉鎖器を設けることができず、装弾時には砲身を中央で分割するか、前装式火砲のように前部もしくは後部の砲口より砲弾と装薬を装填するしかなく、連射が難しい、という問題もあった(上述のソビエトでの研究開発では手動もしくは機械式の次発装填装置が研究・試作されている)。

ドイツ軍は第二次世界大戦中に双発爆撃機に搭載する対艦攻撃兵器として、口径35.6cmという大口径のものを開発したが、対艦誘導爆弾対艦ミサイル)に対して有用性が低いとされ、試作に終わっている。

上記のものの他、デイビス式無反動砲は戦間期の1930年代にアメリカで個人レベルの研究が行われ、数種の特許が申請されているが、いずれも実用化は成されず、無反動砲が広く装備されていくにも関わらず、その作動形式としては顧みられないものとなったが、第二次世界大戦後には「後方危険界を小さくできる」点に再び注目が集まり、砕けやすい硬質プラスチックや金属の微粉末、他には高比重の塩水等を使用するようにすることで後方の危険区域を縮小することができるようになり、砲身長の問題は「少量の発射薬で発射し、砲口から出た後に砲弾に内蔵したロケットモーターブースター)で本格的に加速する」という複合方式にすることによって解決している。これらの改良によって再び用いられるようになり、特に、再装填の問題を考慮する必要のない使い捨て方式の対戦車兵器において多く採用されている。

クルップ式[編集]

発射する砲弾と同程度の運動エネルギーを持つガスを、ガス圧により容易に底が破砕する薬莢と尾栓にベンチュリ効果を発揮する噴出孔を設けた閉鎖器、そしてノズルを用いて後方に噴出させて反動を軽減する方式。ドイツのクルップ社により開発されたためこの名がある。

デイビス式と異なり後方にも砲身を設ける必要はないため、通常の後装式火砲と同じく砲尾には閉鎖器があり、薬室からノズルへガスを導く尾栓の小孔の角度を偏向させてライフリングと逆向きに導く事により、カウンタートルクを軽減させる構造のものもある。尾栓の噴出孔ではなくノズルにガス噴射を偏向させる構造を持つものもあった。

デイビス式と同じく、砲弾の加速用に加えて、反動軽減用のガスを発生させる分の発射薬が必要となるため、通常の砲に比べて大量の装薬が必要となる。また、閉鎖器の噴出孔は発射を繰り返すと噴射ガスによる摩擦と圧力により腐蝕・摩耗してしまい、所定の砲腔圧力を発揮できなくなるため、この部分を射数に応じて交換しなければならない、という欠点があった。

第二次世界大戦後においても無反動砲の主力形式として広く用いられる方式で、戦後開発されたものにはデイビス式と同じく「少量の発射薬で発射し、砲口から出た後に砲弾に内蔵したロケットモーターブースター)で加速する」という複合方式とすることにより、個人携行に適した小型化・軽量化を達成したものが誕生した。

なお、薬莢底の構造とノズルのみによって反動を軽減し、砲尾を密閉する構造の閉鎖器を持たない形式のものもあるが、それらも作動形式としてはこのクルップ式に分類される。

クロムスキット式[編集]

クロムスキット式無反動砲の作動方式の模式図

アメリカ軍により開発された方式。“クロムスキット(Kromuskit)”の名は、開発を担当した2人の設計者、クルーガー(Kroger)とムッサー(Musser)の名を合わせた合成語である。

作動原理はクルップ式と同様だが、砲弾の薬莢に多数のガス噴出用の孔が空いており、発射時にはその孔から噴出したガスを大型の薬室に一時溜め、適度な初速を得るのに必要な砲腔圧力を発生させた後、砲尾の閉鎖器にある噴出孔から噴出させる。これにより、反動低減効果とともに、ガスが一時的に閉じこめられているため、他の方式より砲弾の初速を得やすい。また、薬莢の小孔から薬室へガスを導く際、砲のライフリングと逆向きに導く事により、カウンタートルクを軽減させることも可能である。

クルップ式同様に、同じ初速を得るには通常の砲弾より大量の発射薬が必要となる。また、構造上、砲尾の薬室部分が一段太くなるため、砲の前後バランスが砲尾側に偏る、という問題もある。

開発元のアメリカにおいては無反動砲の主流方式となり、第二次世界大戦後アメリカが各種口径のものを同盟国を始め西側諸国に広く供与したこともあり、無反動砲の主流形式の一つを成した。

バーニー式(バーニー砲)[編集]

イギリスの発明家であり兵器開発者でもある、チャールズ・デニストン・バーニー卿(Charles Dennistoun Burney, 2nd Baronet(英語版)によって発明された方式で、後方にガスを放出することで反動を軽減することはクルップ式と同様で、発射ガスを直接後方に噴射せず、側面に噴出孔を設けた薬莢から噴出したガスを薬室の周囲の空間に導いた後に、適度な初速を得るのに必要な砲腔圧力を発生させた後、砲尾から噴出させることはクロムスキット式と同様である。それら2つの方式との違いは、バーニー式では高いベンチュリ効果を発揮するノズルからガスを噴出しつつ、ガス噴出ノズルを複数設けて後方噴射を分散させ、噴射するガスの圧力を高めることなく砲腔圧力の低下を緩やかにしている点である。

クルップ式やクロムスキット式に比べ、軽量化に優れること、発射する砲弾の初速を高くすることができ、砲口初速を求めなければ同程度の総重量でより大口径大重量の砲弾を発射することができる、という点において優れたが、複数の発射ノズルを持つために構造が複雑になること、また、砲尾側が重くなり、多数のノズルが突出しているために閉鎖器周りが煩雑になり、ノズルが障害となって迅速な装填作業に支障をきたす、という問題があった。射数を増すに従い噴出ノズルが噴射ガスによる摩擦と圧力により腐蝕・摩耗し、所定の砲腔圧力を発揮できなくなるばかりか、反動軽減能力が不安定になる、というクルップ式と同様の問題も発生する。

バーニー砲は第二次世界大戦中より研究され、戦争末期より大戦後にかけて実用化され装備が進められ、歩兵の用いる携行型から、7.2インチ(約18.3cm)及び8インチ(203mm)の大口径のものまで各種が開発されたが、上述の構造的な問題と、戦争が終結したことによる軍備の縮小により、大規模な導入は行われずに終わった。

なお、対戦車砲弾の一つである粘着榴弾(HESH)は、元々はこのバーニー砲用の砲弾(対コンクリート構造物用)として、“Wall buster”の名称で開発されたものである。


無反動砲一覧[編集]

第二次世界大戦[編集]

アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国

イギリスの旗 イギリス

スウェーデンの旗 スウェーデン

※ライフルの名称だが作動形式はクルップ式の無反動砲である

ナチス・ドイツの旗 ドイツ国

日本の旗 日本


第二次世界大戦後[編集]

アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国

アルゼンチンの旗 アルゼンチン

イギリスの旗 イギリス

イタリアの旗 イタリア

スウェーデンの旗 スウェーデン

ソビエト連邦の旗 ソビエト連邦

チェコスロバキアの旗 チェコスロバキア

フィンランドの旗 フィンランド

ユーゴスラビア社会主義連邦共和国の旗 ユーゴスラビア/ユーゴスラビアの旗 ユーゴスラビア/セルビアの旗 セルビア

中華人民共和国の旗 中華人民共和国


ジープに搭載されたM40無反動砲


無反動砲搭載装甲車両

日本の旗 日本

アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国

フランスの旗 フランス

ユーゴスラビア社会主義連邦共和国の旗 ユーゴスラビア

参考文献・参照元[編集]

書籍
webサイト

関連項目[編集]