パンツァーファウスト

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索
1944年フィンランド国防軍に提供されたパンツァーファウスト30
専用に4本収納されている。砲身の後半には噴煙への注意書きがある

パンツァーファウスト:Panzerfaust, 「戦車への拳」)は、第二次世界大戦中のドイツ国防軍が使用した携帯式対戦車擲弾発射器。「ファウストパトローネ(Faustpatrone, 「拳の弾薬」)」とも呼ばれた。いわゆるロケット弾とは異なり、弾体自力での飛翔能力は持たないが、その分後方へ噴出される爆炎が少なく、トーチカ塹壕からでも比較的安全に発射できた。

概要[編集]

パンツァーファウストを装備する東部戦線のドイツ兵(1945年)

フーゴ・シュナイダー社(HASAG)で開発され、1943年夏から生産された。シュリーベン強制収容所(KZ Schlieben)が量産を担当し、月産150万発の要求を満たすために収容者が酷使された。1945年ドイツ敗北までにいくつかの改良型が生産された。構造の単純さとその有効性から大量生産され、末期のドイツ陸軍を写した写真資料にも残る。複数本の携帯も可能だったため、一人で多数の車両を破壊した兵士も多いとされる。ベルリン攻防戦では国民突撃隊に一人一本提供され、はなくともパンツァーファウストはあるという状況も生じた。連合軍にも多数鹵獲されたが、誤用や安全装置の不備による事故が多発したため、アメリカ軍では使用禁止の通達が出されている。

最後に生産された150型と終戦に間に合わなかった250型は、戦後にソビエト連邦で模倣され、RPG-2やその発展型RPG-7として大量生産された。また、スウェーデンもコピー型のPansarskott m/45や46を生産した。

戦後のドイツにおいてもパンツァーファウストの名称は引き継がれており、ドイツ連邦軍ディナミット・ノーベル社(Dynamit Nobel AG)により開発されたパンツァーファウスト3を配備し、日本陸上自衛隊でもIHIエアロスペース社によるライセンス生産品が使用されている。これは、旧来のパンツァーファウストよりもソ連で独自に発展したRPG-7に近い、弾頭ロケット推進機能のある携帯無反動砲となっている。

構造[編集]

パンツァーファウストとパンツァーシュレックの8.8cmロケット弾(右)

軍用車両トーションバーカバーを転用したとされる直径5cm、長さ1mの鉄パイプ製発射筒の上面に簡素な照準器と発射装置を備える。発射筒内には発射薬として少量の黒色火薬が充填され、安定翼を折り畳んだ棒が付いた直径15cmの成型炸薬弾頭を先端に装着している。クルップ式無反動砲であり、弾体に推進力は無い。発射筒は使用後に破棄される使い捨て兵器だが、これを回収して工場で再生することができ、150型では使用者による約10回の再装填が可能になった。

製造の簡単な個人用使い捨て兵器として開発されたため、照準器に空けられた穴を照門、穴を通して見える弾頭の頂点を照星とする簡素な構造となっている。発射姿勢は筒の部分を脇に挟んで構えるもので、照準器を使わず至近距離から発射する場合は肩に担ぐ場合もあった。初期の30型では安全ピンを引き抜き板状の照準器を起こすと、撃発装置のボルトを前方に押してスプリングを圧縮できるようになり、これを90度回転させて固定、上部のボタンを押して発射する。しかしこれは操作時に暴発事故が起こりやすく死傷者が発生したため、60型以降は安全装置を兼ねた照準器を、畳まれた状態から射撃位置に引き起こすだけで発射可能になり、撃発装置の上部にあるレバーを押して発射する。

弾頭には、内部に漏斗型のへこみが付けられ、へこみの表面にはライナーと呼ばれるなどの密度が高い金属の内張りがはめこまれており、後部に4枚の安定板が装備されている。弾頭が発射されると、その後方で4枚の安定翼が開き飛翔する。飛翔した弾頭が装甲板に命中すると、弾頭の先端にあるキャップが砕け散り、その衝撃により弾頭内部では起爆薬が発火して炸薬に引火し燃焼が始まる。それにより衝撃波を伴う4,000℃以上の燃焼炎による爆轟が発生して、ユゴニオ弾性限界を超える圧力を受けたライナーは、漏斗のへこみの中心に燃焼炎が集中してライナーを溶かし、そこから秒速10kmのメタルジェット(溶解金属のジェット噴流)となって噴出して[1]、装甲板を溶かして穴をあけることができる。こうした構造を持つ成形炸薬弾の特徴として、吹き込んだメタルジェットの延長線上に兵や爆発物・燃焼物があれば内部の被害が大きくなり戦車の撃破も可能だった。しかしそれらを避けた場合は致命的な打撃とはならないこともあった。

実戦[編集]

パンツァーファウストを担ぐフィンランド軍の対戦車兵(1944年6月)

初期の小型弾頭の「クライン」では約140mm、後の型は約200mmの装甲板を貫徹する能力を持ち、当時の連合国軍の全ての戦車を撃破可能だった。そして、大戦後半のあらゆる戦線で用いられ、特に歩兵の支援の無い戦車にとっては脅威となる存在であった。

弾頭の飛翔速度が低いために弾道が山型を描き命中精度が低く、近距離からの発射や、複数の射手が同時に同じ目標を狙うことで補っており、これは、第二次世界大戦以降も携帯式対戦車兵器の戦法として用いられている。また、本体を固定してロープを撃発装置に繋ぎ、敵戦車がこれにひっかかると発射されるブービートラップとしても使用できた。

パンツァーファウストを使って目覚しい戦果を上げた例として、グスタフ・ヴァレ大尉以下3名の防御戦闘を挙げる。 1945年4月の戦車師団「クラウゼヴィッツ」麾下の戦車猟兵大隊に所属する彼らが、30輌のチャーチル歩兵戦車中隊をイルツェン近郊で迎え撃った。この時戦車中隊は随伴歩兵を連れておらず、ドイツ兵を視認できずに一方的に22輌を撃破された。ヴァレ大尉以下全員は負傷したものの、生還し騎士鉄十字章を授与されている。

誤射で友軍のヤークトティーガーを破壊した事例もある。

パンツァーファウストの発展型として、航空機から発射して敵戦車や爆撃機を攻撃する、口径50mmのSG(ゾンダーゲレート)500 イェーガーファウストも試作された。筒状の発射器は機体の胴体か主翼を垂直に貫き、目標の上または下を航過する際に金属磁力を感知して自動的に発射するように設計されていた。対戦車用は斜め下方、対爆撃機用は斜め上方に向け多連装で搭載された。しかし、試験時に暴発して一斉発射され、機体が損傷したこともあり、実用には至らなかった。また、歩兵用の対空兵器として、ヒューゴ・シュナイダーAGによりルフトファウストA型が試作された。この初期のタイプはパンツァーファウストに近い構造であったが、後に発射原理の異なるロケット発射器であるルフトファウストB型、改めフリーガーファウストに発展した。

種類[編集]

パンツァーファウスト30 Kleinを構えるドイツ空軍歩兵
Panzerfaust 30 Klein(Faustpatrone1)
射程:30m 重量:3.2kg 装甲貫徹力:140mm
Panzerfaust 30(Faustpatrone2)
射程:30m 重量:5.1kg 装甲貫徹力:200mm 1943年8月制式化。
Panzerfaust 60
射程:60m 重量:6.1kg 装甲貫徹力:200mm 1944年10月制式化。
Panzerfaust 100
射程:100m 重量:6.8kg 装甲貫徹力:200mm 1944年11月制式化。
Panzerfaust 150
射程:150m 重量:7kg 装甲貫徹力:200mm以上 1945年1月制式化 限定配備。
Panzerfaust 250
射程:250m 計画・試作のみ 後にソ連によりRPG-1、2に発展。

登場作品[編集]

映画[編集]

徴兵された国民突撃隊の少年兵らが使用。発砲時に真後ろにいたため、後方墳流を浴びた人間が死傷する描写がある。

漫画・アニメ[編集]

HELLSING
ミレニアム大隊が使用する。
独立戦車隊
「Jungle Express」にて、後半、有村大尉がペロフから受け取って発射し、反乱を起こした日本陸軍九三式装甲自動車を小破させる。
『特攻師団』
1938年にカルガニコ中佐ベルリンで使用(時代考証的には間違いだが、ギャグ漫画に突っ込みは野暮)。

ゲーム[編集]

コール オブ デューティシリーズ
CoD
ドイツ軍ロケットランチャーとして登場する。
CoD:UO
マルチプレイの一部マップに配置されている。
CoD2:BRO
ドイツ軍のロケットランチャーとして登場する。
スナイパーエリートV2
一部マップに落ちており、拾って使用することが可能。敵の戦車を一撃で破壊できる。

脚注[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ モンロー/ノイマン効果と呼ばれている

関連項目[編集]