特殊部隊

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特殊部隊(とくしゅぶたい、: Special Forces,SF/Special Operations Forces,SOF)とは、軍隊ないし司法警察において、一般の兵士捜査官が受けている訓練と装備では対応できない危険かつ困難な任務を遂行するために編成されている部隊戦闘員・捜査官・工作員の境界領域に属するような通常任務の範疇外の任務を遂行するため、特殊な技術やノウハウを習得した専門の将兵や捜査官により構成される。

概要[編集]

  • 習得者の存在自体が「通常の訓練と装備では対応できない危険かつ困難な任務の遂行」に該当するような技術を取り扱うため、習得者の隔離・監視が必要とされる。
  • 一般の兵士捜査官には法的に許されない行為を行うため、存在を正当化するために別途の法整備が行われている。
  • 日常業務や作戦の過程で、国家機密に触れるため隊員の身元をスパイなどから隠蔽しなければならない。

いずれにせよ、特殊部隊は入隊に際して守秘義務を守れるか否かが強く問われ、社会的信用や人格の安定性、強靭な体力、知力などが厳重に審査される。

分類[編集]

イギリス陸軍の特殊部隊SAS(1943年北アフリカ

軍隊、特殊部隊は機能によって大きく5つに分類できる。

特殊作戦部隊
特殊作戦全般に対応できる能力を持つ。
レンジャー部隊
特殊航空部隊
航空機を用いて部隊を空輸するほか、限定された航空作戦を行う能力を持つ。
心理戦部隊
広告テレビラジオを用いて友軍を支援し、心理戦を遂行する能力を持つ(心理戦を参照)。
民事部隊
軍隊と民間人の組織の関係を調整するなどの民事作戦を遂行する能力を持つ(民事作戦を参照)。
突撃部隊
一般にコマンド部隊のこと。
潜入工作部隊
イギリスSASが有名。

海軍においては水陸両用作戦部隊、空軍においては陸海の特殊部隊に航空戦力を提供する特殊部隊がある場合もある。法執行機関においてはSWAT部隊などを有する。

編制[編集]

特殊部隊の編制は、所属組織やその任務によって様々だが、原則的には少数精鋭で、優れた人材を選抜したものが多い。その性質上、部隊の規模が小さくなるため独立の軍種兵科として編成されることはほとんどなく、主に一個の部隊として編成される。

アメリカ軍統合軍の一つとして編成されている「アメリカ特殊作戦軍」また、「アメリカ特殊部隊連合軍」(United States Special Operations COMmand, USSOCOM)は、総数4万5千名前後と見られており、米軍の全兵力である約141万名のごく一部となっている。

ソ連スペツナズや旧東側国家の特殊部隊の場合はパルチザン部隊が起源であるので、旧西側に比して隊員の数が多く、選抜の基準が異なっていると考えられている。韓国国防白書2008年度版によると、北朝鮮軍は過去2年間で6万人の増員をし、約18万人の特殊部隊を保有しているとされている[1][2]

通常部隊との差異[編集]

一般的に陸軍では歩兵連隊砲兵連隊など、兵科ごとに部隊が編成されており、作戦において敵味方が前線において戦闘するのが陸上戦力運用の基本であり、後方における通信補給医療などの支援部隊と一体として運用される。また、海軍では艦艇が、空軍では航空機が戦闘単位であって、これらを効率的に運用することに終始する。特殊部隊はこうした既存の戦力運用の形態に囚われない、後方攪乱や対テロ作戦心理戦などの実行を主な目的としている。

軍隊系と警察系の違い[編集]

軍隊特殊部隊(軍隊SOF)[編集]

一般の空軍では遂行できない特殊作戦を担当するための特殊な技能を有する戦闘員で編成される部隊。

主な任務は戦場の偵察奇襲心理操作・民衆の扇動物理的破壊工作非合法極秘裏の武力行使等。隊員に要求される技能は、現地語での交渉術狙撃近接格闘術・爆発物取扱・野外生存術等。 これらの技術は、治安出動発令時における国内のテロリストへの対処にも応用される場合があるが、交渉や逮捕司法機関の領分であり、軍隊SOFの投入は即ち容疑者の射殺を意味する。

警察治安特殊部隊(警察SOF)[編集]

法執行機関の特殊部隊は、法令の執行に際して能動的な暴力を行使するために編成されているものである。

主な任務は、強行突入作戦を行い、武装した犯罪者の拘束・人質救出臨検要人警護などといった一般的な警察官では対応が困難な治安維持を根本目的とする。隊員に要求される技能は、狙撃近接格闘術交渉術犯罪心理学等である。

一般的な警察官は、正当防衛について一定の理解は示しているが、自ら暴力を行使することは想定しない。仮に、道行く不審者が刃物を持っているので職務質問しようとした際に警察官が殺害される可能性があっても、先制攻撃を加えることは絶対に許されない。これは、推定無罪の原則に則り、裁判を経て容疑者が犯罪者であると確定するまで、容疑者を犯罪者として扱ってはならないからである。

これは、必然的に能動的な暴力の行使を前提とする訓練も許されないということでもあり、暴力の行使が必要な場面では、一般的な警察官の規範を逸脱した組織―特殊部隊が必要とされる。しかし特殊部隊であっても法執行機関の基本原則は遵守される。司法が暴力を行使する目的は「市民の保護」、「容疑者を拘束して裁判に確実に出頭させる事」、「国家の治安の速やかなる回復」においてのみ許容され、全ての作戦行動には法的根拠が必要となり、超法規的措置は軍隊SOFと異なり許されない。これは凶悪な人質事件の犯人を射殺した場合でも変わらず、事前に警告した上で正当防衛や市民の生命などに関わる深刻な状況下で、止むを得ず射殺に及んだということを事件解決後に報告書に記し、出頭を要求されれば裁判や査問委員会で法の下厳正に審議され、正当性の有無を徹底的に事後検証される。

日本における特殊部隊[編集]

防衛省・自衛隊[編集]

自衛隊では以前より、陸上自衛隊第1空挺団冬季戦技教育隊対馬警備隊のほか、航空自衛隊基地警備隊などが特殊な任務を遂行する部隊としての性格を有していたが、正式な特殊部隊は編成されていなかった。

自衛隊ではまず、能登半島沖不審船事件を受けて2001年海上自衛隊特別警備隊(SBU)を創設した。次いで、島嶼防衛を目的として2002年に陸上自衛隊に西部方面普通科連隊(WAiR)が結成され、2004年に本格的な特殊部隊として特殊作戦群(SFGp)がアメリカ陸軍特殊部隊群(通称グリーンベレー)をモデルとして創設された。自衛隊が現時点で公式に特殊部隊と位置つけているのは、この特殊作戦群のみである。なお、2007年3月には、防衛大臣直轄の機動運用部隊として中央即応集団が創設され、特殊作戦群は第1空挺団や中央特殊武器防護隊、第1ヘリコプター団などと一元的に運用されることが前提となっている。

行政組織[編集]

警察[編集]

日本の警察に所属する部隊は以下のとおりである。

警備部
ハイジャック事件、重要施設占拠事案などの重大テロ事件、銃器などの武器を使用した事件などに対処する部隊として、特殊部隊(SAT)が編成されている。また、銃器などを使用した事案への対処や、原子力発電所などの警戒警備を主要な任務とする部隊として銃器対策部隊が編成されている。銃器対策部隊は、重大事案発生時には第一次的な対応を実施し、SAT到着後はその支援を行う。
SATと銃器対策部隊は、既存の特殊部隊を強化、再編成する形で1996年に創設された。SATは、8つの都道府県警察本部に設置されており、銃器対策部隊は全国の都道府県警察本部の機動隊に設置されている。また、銃器対策部隊の中には、警視庁銃器対策レンジャー部隊埼玉県警察RATS静岡県警察SRPのように、ロープ降下や突入制圧技術を有する部隊も存在する。
この他に、重要防護施設を警備する部隊が編成されている。皇宮警察では皇居東宮御所の警備を行う特別警備隊が、警視庁では総理大臣官邸警備隊が編成されている。また、原子力発電所を有する府県では原子力関連施設警戒隊が編成されており、福井県警察では常設部隊として編成されている。
刑事部
人質立て篭もり事件や、誘拐事件などの捜査を行う係として、全国の都道府県警察本部の刑事部捜査第一課に特殊犯捜査係が設置されている。特殊犯捜査係は警視庁では「SIT」、大阪府警察では「MAAT」と呼称している。近年では警視庁、大阪府警察以外の警察においても刑事部に突入班が編成されている。名称は警察本部によって異なっており、例として埼玉県警察では「STS」、神奈川県警察では「SIS」、千葉県警察では「ART」と呼ばれている。また、編成方法も警察本部により異なり、捜査第一課と機動捜査隊の混成で突入班を編成している場合もある[3]。 ”例として千葉県警察ART等が挙げられる。また、近年、警視庁では、SATを除隊した一部の隊員が、特殊犯捜査係(警視庁SIT)に人事異動をしている。これは、刑事部がSAT隊員の射撃技術などを即戦力として期待した結果、起用したものである[4]

海上保安庁[編集]

海上保安庁では、海上テロ事案などに対処するため、1996年特殊警備隊(SST)が創設されている[5]

脚注[編集]

  1. ^ 北朝鮮軍が特殊部隊6万人拡充、2008国防白書 聯合ニュース 2009/02/23
  2. ^ 北、特殊部隊6万人を拡充し18万人に 中央日報 2009.02.24
  3. ^ 『実録、世界の特殊部隊』(双葉社、2010年)に記載
  4. ^ 『警視庁・特殊部隊の真実』(著者伊藤鋼一大日本絵画、2004年)に記載
  5. ^ 『海上保安庁のすべて』 世界の艦船 編集部、海人社、2009年11月、66頁。ISBN 4910056041192。

関連項目[編集]