百鬼夜行シリーズ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。うなぎや (会話 | 投稿記録) による 2022年10月28日 (金) 13:19個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (→‎シリーズ年表)であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

百鬼夜行シリーズ』(ひゃっきやこうシリーズ)は、京極夏彦による日本の小説シリーズ講談社より刊行されている。

概要

第二次世界大戦の戦中・戦後の日本を舞台とした推理小説で、民俗的世界観をミステリーの中に構築している点が特徴[1]。作中に実体として登場はしないが、個々の作品のタイトルには必ず妖怪の名が冠せられており、その妖怪に関連して起こる様々な奇怪な事件を「京極堂」こと中禅寺秋彦が「憑物落とし」として解決する様を描く。

作品内では民俗学論理学など広範にわたる様々な視点から、妖怪の成り立ちが説かれ、「憑き物落とし」が「事件の種明かし」になることで、推理小説の枠内で語られることが多いが、伝奇小説的な作品もある(推理小説的な「トリック」自体に意味がない作品)。

謎解き役である中禅寺の通称(屋号)から京極堂シリーズ(きょうごくどうシリーズ)と呼ばれることも多いが、作者自身はシリーズ名を特定はしていない。

また、長編に登場した異なる複数の人物を描く「百鬼夜行」シリーズ、探偵・榎木津礼二郎が大暴れして事件を破壊する「百器徒然袋」シリーズ、旅先で事件に首を突っ込んだ妖怪研究家・多々良勝五郎の的外れな推理がなぜか当たってしまう「今昔続百鬼」、記者・中禅寺敦子と女学生・呉美由紀の女性バディが事件に臨む「今昔百鬼拾遺」シリーズの、鳥山石燕の画集からタイトルを採った、長編と何らかの形で繋がった短編集が4シリーズ刊行されている。

2008年に、講談社での新企画の開始に伴い、シリーズ次作と予告された『鵺の碑』から版元を別の出版社へ移籍すること、講談社ノベルス版の増刷を中止することなどが告知されている[2]

シリーズ第1弾の『姑獲鳥の夏』は、京極夏彦のデビュー作品であり、メフィスト賞創設のきっかけとなった。講談社ノベルスから刊行されたのち、講談社文庫から通常文庫版と分冊文庫版が刊行され、順にハードカバー化もなされている。通常文庫版は1000ページ以上に及ぶことがあり、分厚いことで有名。

2015年10月より、本シリーズの世界観や登場人物をそのまま使用した、著者公認のシェアード・ワールドシリーズ「薔薇十字叢書」が展開されている[3]

累計発行部数は1000万部を突破している[4]

主な登場人物

声はテレビアニメ版『魍魎の匣』での声優、演は映画『姑獲鳥の夏』『魍魎の匣』での役者。

主要人物

中禅寺 秋彦(ちゅうぜんじ あきひこ)
声 - 平田広明 / 演 - 堤真一
本作の主人公。中野古本屋「京極堂」を営む男。家業は住居部の裏手にある「武蔵晴明神社」の宮司にして陰陽師、副業として「憑物落とし」の「拝み屋」でもある。の実家の営む菓子司の屋号を勝手に自身の店に拝借しており、その店の屋号に因んで「京極堂」と呼ばれる。「武蔵晴明神社」は平安時代の陰陽師である安倍晴明が祀られていて所縁もある。
宗教口碑伝承民俗学妖怪等に造詣が深く、知識と理を尊んで根拠のないことは語らない。重度の書痴でもあり、家屋敷から店舗に至るまで本で溢れている。「この世には不思議なことなど何もない」と言うのが口癖にして座右の銘。偏屈で理屈っぽいが常識人で、胡散臭い擬似化学やそれを前提に置いた誤った怪異認識、心霊科学超常現象といったものはナンセンスだと毛嫌いしているが、巷間の占い師などが行っている心霊術の仕組み(的確な状況判断、予備知識の蓄積、巧緻な弁舌による誘導質問、事前調査によって成り立つ)自体には精通しており、好き嫌いを別にすれば同じ手法で相手を手玉に取ることもできる。その一方で妖怪変化や幽霊、迷信、呪術のような、民間の口碑伝承、信仰俗信の類は大好きで、宗教も科学も敬愛している。
憑物落としの際には、赤い襦袢、背中と両胸に晴明桔梗を白く染め抜いた漆黒の羽織着流し、黒の足袋に鼻緒だけが赤い黒の下駄と、黒ずくめの格好をする。ただし、羽織はいつも黒というわけではなく、『魍魎の匣』では真っ白い羽織も纏った。常に和装で、終始不機嫌な仏頂面をしており顔つきは平素から「凶悪」と称される。しかし、つき合いの長い者には感情の変化がわかる。また、基本的に出不精だが、興味のある本が見つかったと聞くと大層喜んで足を運ぶ。これは郵政省を信用しておらず、郵便事故が起きるのを危惧しているからでもある。
憑き物落としの手法は、謎の解明はせず、謎に対する解答を出すのではなく、謎の方を一般の人間に解るレヴェルまで解体し、現実を一旦反故にして、謎の謎たる背景を揺さぶって関係者の世界観を破壊し、謎自体が無効化してしまうような状況を造り出して再構築するというもの。社会と世間、世間と個人の関係を一旦反故にして、事件の起きている場そのものを複数同時に解体し、個々の事件を限りなく無効にしてから、世間と社会を個人個人に組み直して事件を全く別なものに変質させ、関係者個人に直接社会を見せ付ける。結果的にいいように収めているだけで、収まるところに収まれば、解決しなくても構わないと云うスタンスであり、事件解決自体に興味はない。最初はまるで脈絡がなく善くは解らないが、聞いていればそのうち解るというような話し方をする。常々犯罪者は特別な人間ではないと発言し、どんな悪党にも紳士的で、蟠った関係を修復するために事件に名前と形を与えて関係者全員から祓い落し、事件自体を無効化する方法を採る。
事件解決に暗躍する役どころながら積極的に干渉することを好まない。慎重すぎるほどに慎重な性格で、嫌がる割には結局事件の解決に引っ張り出されるものの、基本的に最初から関わることはない。自分の言葉がどれだけ凶器になるかを弁えており、犯罪行為を容易に隠蔽できるので、遵法者たらんと厳格に自戒し、直接間接を問わず、自分の行為によって犠牲者が出ることを好まない。間違ったことを云うのが嫌いなので、間違う惧れのあることは口にせず、意見が持てる程の情報を得ていない時は何も云わない。妹の敦子に言わせれば、「兄が出張るから解決するのではなく、解決の目処が立ったからこそ兄が出張る」ということらしい。関係者の余計な思い込みが原因で綺麗に憑き物を落とせないこともあり、木場が暴力をふるいがちだと知りながらナイーブな内面を慮って隠し事をするため、却って彼の暴走の原因になることもある。スピンオフ作品『百器徒然袋』シリーズでは榎木津の来訪を察知して思わずどもったり、安易に唆される、人を馬鹿にして遊ぶなど本編に比べて腰が軽い面を見せる。『今昔続百鬼-雲』では大笑いしていたこともある。
榎木津関口とは旧制高校時代からの腐れ縁。個性の強いキャラクターたちのまとめ役的存在であるが、自身も相当の変わり者である。古本屋を開業する前は高校教師であった。「好きなだけ本が読める」という理由から、転職を決意。
肉体労働を嫌い、本人曰く「14の時に力仕事をしないと誓った」とのことで、関口の表現では「筋も骨も無いほど痩せている」。身軽で体幹自体は弱くないが、非力。痩身だが甘いもの好きで、干菓子などを好んで食べている。酒は飲めない。整理魔なのできちんと収納して散らかすことはないが、字が書いてある物なら走り書きや割り箸の袋のような紙屑だろうが何でも取っておく悪癖もある。
戦時中は内地に配属され、巷に「匣館」と呼ばれる登戸の公式記録にはない「美馬坂近代医学研究所(帝国陸軍第12特別研究施設)」の2階の部屋を宛がわれ、美馬坂幸四郎の元で神国・日本が勝利した暁には異教徒を国家神道に改宗せねばならないと「宗教的洗脳実験(強制改宗)」の研究をさせられた。自分自身のことを語りたがらない彼において最も思い出したくない忌まわしい過去であり、『魍魎の匣』で最後の最後まで貝のように口を閉ざすもバラバラ殺人事件の犯人である久保の両腕・両脚が発見されるに及んで、いつになく重い腰を上げたのだった。学生時代は肺病患者のような風貌で不機嫌な表情をしていたが、その不健康な顔色から従軍しなかったという誤った認識を周囲に抱かれていた。
下北半島出身。幼少時は恐山の祖父母の下で育った。家族は、後述する妻の千鶴子と、実妹の敦子。飼っているの名前は石榴。家には季節関係なく一年中吊してある風鈴がある。
原作者の京極夏彦がモデルとなっている人物。
関口 巽(せきぐち たつみ)
声 - 木内秀信 / 演 - 永瀬正敏(姑獲鳥の夏)・椎名桔平(魍魎の匣)
小説家中禅寺の学生時代からの親友だが、中禅寺からは「ただの知人」であるといつも強調される。
学生時代は鬱病に悩まされ、現在も完治には至っていない。臆病で気が小さく、時に場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)になるほどの対人恐怖症で常に精神不安定。大変な汗っかきで、文字通り滝のような汗をかく。コンプレックスの塊だが、やや自己愛の強い人格で惨劇等のつらい記憶を早く忘れようとするため、好意を抱いた相手のことも忘却の彼方に振り捨てようとする。また噂などを鵜呑みにし易い面もある。怪異の影響を受けやすく、精神的に危うい。処置を施すまでもなく簡単に宗教に取り込まれてしまう自覚があるため、宗教的なものを一切敬遠している。
一人称は「僕」、モノローグは「私」で区別されている。第1作『姑獲鳥の夏』では最初から最後まで通じて語り手を務めており、以後の作品でも語り手役となることが多い。
理系学生で本来なら徴兵を免れるはずだったが、何かの手違いで赤紙が届き、前線送りとなった。学徒出陣であったため将校として一小隊の隊長となり、部下の1人に木場がいた。小隊は、彼ら2人を残して全滅した。生還後、大学で粘菌の研究を行っていたが、生計が立たなくなったので文筆業に移行。中禅寺敦子の口利きで稀譚舎の文芸誌に稿を寄せる一方、別名義の「楚木逸已(そきいつみ)」でカストリ雑誌にも投稿している。小説の単行本は1冊のみ刊行されたが、好事家にしか話題になっておらず、経済的には常に困窮している。ジャンルは私小説で、自らが経験した事柄をベースに書いているが、途中で文体が壊れて行くために、世間では幻想小説という評価がなされている。
捜査能力も推理能力も皆無で探偵的資質を持たず、作中では二人の天才肌の友人に挟まれた気弱な凡人として翻弄される。榎木津からは「関」「猿」など数々の不名誉な仇名をつけられている。
共産主義者でこそないが、恐ろしく合理主義を嫌う体質で、権力者が嫌い。差別に対して人一倍敏感だが、陰惨な事件に遭遇すると、犯罪を穢れとして祓い落とし日常に戻ろうと無自覚に差別主義的な発言をしてしまうことがあり、理解できないことを一時期ペテンと連呼し、自身も鬱病に苛まれながら他の精神を病んで犯罪を犯した人間をサイコキラー呼ばわりして京極堂に厳しく叱責された。京極堂と敦子の会話がお互いに皮肉ばかり言うため、情報を求めても渡らないと誤解したこともあった。
かなり小柄で姿勢が悪く、口調は丁寧だが、口を余り開けずに喋る所為か、発音が不明瞭で声量も不安定、語尾が尻すぼみになるので聞き取り悪い。正直そうだが間違いに気付くと嘘を吐いて誤魔化し、悪意はないが取り繕うために適当なことを云う。その上、小心者の癖に結構卑怯者なので、安易な道を選択する。愛想は悪くないが要領が悪く、おどおどしていて煮え切らない態度を取り、卑屈で覇気がない。ただ、度胸がないから温順しく見えるだけで、内面は意外と兇暴。
人に優っているのは粘菌や茸の名前を多く知っていることくらいだと思っているが、病歴の関係から神経科学精神病理学心理学の知識を持ち、また小説家であることから文化的な情報にもそれなりに詳しい。食生活は貧しく味音痴なのに妙に食道楽振っているので、料理に関する蘊蓄も豊富。なお世話になった教授の奨めで研究室に残っただけなので、そもそも粘菌が好きという訳ではない。榎木津に強要されたお蔭で、ベースギターを弾くことができるのだが、音痴な上にリズム感が全くない。
既婚者で妻は雪絵。自宅は中野駅から徒歩20分ほどの位置で、京極堂までも30分とかからない。両親と弟が健在だが、縁が薄いらしく未登場。実家は日蓮宗だが自身は無信心で、かといって科学の信奉者という訳でもない。子供自体は嫌いではないが、自分の遺伝子がひとり歩きして別個の人格を成すと云う事象に生理的な恐怖を覚えるので、子孫を残すことに執着する気持ちを理解できない。人は好きで、心が弱いので積極的に関わりを持ちたいと思っていて、他人の手を借りなければ生きていけないことも承知しているが、慈しみが苦痛になり人間関係を重く感じて繋がりを断ち切りたくなる瞬間がある。育ててくれた親に対する感謝の気持ちもあるが、濃い血縁の者が生きて存在すると云う事実自体が耐え切れない程に重く感じるのが、親族と疎遠になっている原因である。
世の中の不幸を一身に引き受けてしまったかのようについていない人物で、一般人でありながら幾度となく災厄に見舞われては、その度に容疑者にされる。自分が心の病だと云う認識もなく体質だと高を括って生きて居たが、雑司ヶ谷の事件以降幾つかの悲劇の渦中に身を置いたことでようやく明瞭に鬱病だと認識して精神が乱れ崩れ、冤罪による逮捕で厳しい尋問を受け一度は廃人同然になる。
榎木津 礼二郎(えのきづ れいじろう)
声 - 森川智之 / 演 - 阿部寛
「薔薇十字探偵社」の私立探偵中禅寺関口旧制高等学校の一期先輩であり、木場の幼馴染。関口と対照的に躁病の気がある。
眉目秀麗、頭脳明晰、運動神経もよく喧嘩も強いうえ旧華族の生まれという一見非の打ち所のない人物。だが、本人はあらゆる社会的地位に無頓着で、自身は神の子であり探偵は神の就くべき天職であると豪語し(誇示しているわけではなく素直にそう思っている)、中禅寺兄及び中禅寺と関口の妻以外の周囲の親しい全ての人間を「自らの下僕」と標榜し、時として面白いものを子供のように追究する天衣無縫な変人。事件関係者は敵も味方も双方酷い目に遭わされ、京極堂によると「関わると物凄い勢いで馬鹿になる」という。しかし、親しい関係者を「下僕」と称しつつも内心は信頼して友情を大切にしている部分があり、人の道に外れた者には声を荒らげて激怒するなど真っ当な面も持っている。人目を気にせず傍若無人に振る舞えるのは、他人のことなんかどうでもいいと思っている代わりに、他人が自分をどう思っていようが関係ないと肚を括っているからだとされる。また、『姑獲鳥の夏』・『絡新婦の理』の時など探偵業務でも普通の受け答えをこなすことがあり、いつもの奇矯な姿を見知っている者からは非常に驚かれている。
一応「探偵」ではあるが、「捜査は下賤の存在が行うもので、神たる自分には必要ない」として捜査を行わない。事件が起きて現場へ来るよう依頼されても、一応は出向いて現場の観察もするが、事務的捜査や推理はほぼ皆無に近く、その癖後述の特殊能力や聡明さ・他人に興味を持たない性分のおかげで、依頼者の話を聞かないうちから唐突に犯人や探し物の位置などの正解を語って「解決」してしまう。記憶の時系列とその記憶を見た時の時系列が食い違っているのを無視して言い放つため、最終的には解決に至るものの途上の混乱の原因にしかならない。そのため、関係者は全く展開についていけない。探偵は主役として遍く事件の中心に立つ必要があり、事件の真ん中から犯人を追い出して解決したことを天下に知らしめなければならないと考えており、探偵には真理あるのみとして、事件の渦中に飛び込んで大暴れし事件の構造を破壊することで解決へと導く。そういったこともあり周囲の人間からは「榎木津に依頼をしても被害者が増えるだけ」などと評されるが、世間一般での評判は「数々の大事件を解決した名探偵」とのこと。また、事件の謎が解明されていなくても、自身が依頼された点だけ解き明かせば平然と「僕の仕事は終わりだ。解決した」と公言し、反論されても「別物だ。依頼は事件の謎の解明じゃない。混同するな」と陽気に一喝してしまい、良くも悪くも警察の捜査への介入など一切しない。
一企業の長として身を立てた傑物・榎木津幹麿元子爵を父に持つ。このため、榎木津自身もやんごとなき身として扱われることが多いが、榎木津と云う看板一枚で世界と対峙し、半ば強引に社会や世間や個人を捩じ伏せるように生きているため、当人はそれを非常に迷惑がっている。実際、父も変わった人物で、本人は父の方が変人だと思っている。商売に成功している総一郎という兄がいる。
幹麿に生前分与された財産で神保町に貸ビル「榎木津ビルヂング」を建て、そこを事務所兼住居としていて実質的な生計はビルのテナント料で立てている。実家から世話役として遣わされた安和寅吉という青年、探偵助手の益田と3人で探偵社を運営している。ただし、自身は依頼をまともに取り合わない上に支離滅裂な言動で依頼者を混乱させるため、探偵の依頼はほとんど来ない。暇な時は寝ているか、事務所の3人で話しているかのどちらかである。金がないことが苦労だと思えない性格で、本当に食うに困る程の貧乏はしたことはないが、不思議に貧乏が寄って来ないので何とかなっている。しかし、財界の著名人が関わる事件を幾度も解決に導いたとされているため、上流階級の間では知名度が高まっている。
因みに「薔薇十字探偵社」という社名は榎木津が探偵をやろうと思い立った際に、たまたま京極堂が「薔薇十字の名声」を読んでいたことから名付けられた。
実は極度の弱視であるが、代わりに「他人の記憶が見える」という特殊能力(体質)を持つ。得られる情報は視覚に限られており、音や匂いや時系列の関係性、思考や思い入れなどは一切把握出来ない。感覚的にはシャルル・ボネ症候群に近いとされ、普通に日常生活を送れているのは、人一倍聡明で学習能力が高いからであるが、超能力だと割り切ることも、拙い現代科学に委ねることもできず、内面では秩序を獲得するために混沌を許容する矛盾を抱え込んで生きている。この能力が奇矯さに拍車をかけた原因でもある。この能力は子供の頃からあったが、戦争中に照明弾を受け視力を大幅に失って以来、更に強くなったという。なお、弱視なのに何故か運転免許を所持しており、技量は人並み以上なのだが車の扱いが酷く乱暴なので同乗者は肝を潰す思いを味わう。
人の名前を覚えるのが不得手なうえに覚えようとする努力すらしない。そのため、付き合いの深くない相手を適当な(間違った)名前で呼ぶ。が、『百鬼徒然袋-風-』・『邪魅の雫』では全員のフルネームを覚えてる点もあることから自身の気持ちに影響されている。また、親交の深い相手でも縮めたり愛称で呼ぶことが多い。京極堂や関口には「榎さん(エノさん)」と呼ばれる。
戦中は海軍将校であり、剃刀と渾名されるほどの名将であったという。だが軍事の合間に新しいゲームを考案しては部下達に散々付き合わせるなど現在と変わらずの天衣無縫振りだったらしく、伊佐間や今川はかなり酷い目に合わされている。
好きなものは猫と赤ん坊。魚も好きで飼いたいとの記述もある。苦手なものは水気のない菓子(クッキーなど)と竃馬(カマドウマ)。見た目が西洋風なのでよくクッキーなどを出されるそうで、それをよく愚痴る。
差別意識で他人を侮辱する人間を嫌う。美貌と地位のために学生時代から女性に非常に持てていたが、性格と言動のせいでほとんどの相手と長続きしなかった。また、昔オカマに言い寄られたことがあるようでオカマも嫌いである。
『百器徒然袋』シリーズでは主人公。
中禅寺 敦子(ちゅうぜんじ あつこ)
声 - 桑島法子 / 演 - 田中麗奈
中禅寺秋彦の妹。中堅出版社「稀譚舎(きたんしゃ)」が出版する科学雑誌「稀譚月報」の記者。『姑獲鳥の夏』時点で勤続2年目。
兄である京極堂(秋彦)とは一回りほど年が離れており、また詳細は不明ながら幼い頃より千鶴子の実家に預けられて育ったため、同じ環境による影響で千鶴子の実妹だと誤解されることが多い。兄とは憎まれ口を叩き合う仲ではあるが、初めて会ったのが物心ついてからであるためか少し距離感を与えるところもあるらしい。憎まれ口を叩き喧嘩しても常に負けるが、兄を信頼していてよく相談する。兄の京極堂(秋彦)も、「男のようなじゃじゃ馬」とよく言いつつも変な男性が近づくと睨みを効かせる。高等女学校までは兄夫婦と同居していたが、卒業後に自活を始め、自力で学費を貯めて独学で大学に入学するが、つまらないといってすぐに中退している。就職後は世田谷区上馬町にある戦後に変死した画家がアトリエとして使っていた事故物件に住んでいる。
活動的な服装を好み行動力もある性質で、出不精な兄とは似ても似つかない。京極堂(秋彦)が評するように一見すると男子のようだが、その立ち振る舞いや雰囲気は女性特有のものである。しかし、観察力に優れて好奇心旺盛な面や論理的思考を偏愛する点など兄妹といえる部分もある。関口とは対照的に、相談ごとの受け答えも達者で推理力や洞察力もある。ただ、謎は解明できても、事件を解決して収めるのは苦手。善悪好悪優劣に拘らず、間違っているものや筋が通っていないものを許せない性分であるが、時折良くない予想が補完されるような事実に辿り着いて厭になることもある。
正しさに拘泥するあまり極めて慎重で、他人の意見を尊重しがち。思慮深く理知的である反面、直感では動かない。理を求めてものごとを見据え、極めて現実的な処に軸足を置いて真理を見上げ、そこに至る道を模索していると例えられ、理性を重んじ、理を覆う思い込みを極力取り払うように心掛けて世の中の真実の色を見ようとしている。
明るく利発な性格からか、鳥口青木の2人から密かに慕われているが、2人とも兄の存在を恐れてもいる。また、兄の友人である多々良の担当編集を務めている。
『今昔百鬼拾遺』シリーズでは主人公。
木場 修太郎(きば しゅうたろう)
声 - 関貴昭 / 演 - 宮迫博之
刑事榎木津の幼馴染で、関口とは戦時中同じ部隊だった。初登場時は東京警視庁捜査一課所属で、階級は巡査部長。本庁勤務以前は豊島区の所轄に配属されていた。その後、何度か後述の暴走癖により処罰され、『塗仏の宴』の大暴走により警察官服務規程違反を犯して減俸降格処分を下され、巡査として麻布署に転属している。
戦前からの職業軍人で、大戦を経てなお時代劇のような勧善懲悪を求めて刑事となる。「鬼の木場修」と称され、信念のためとはいえ何かと暴力をふるうため、職業的規範を逸脱してたびたび暴走する無頼漢。余計なことを言ったり暴力沙汰に及ばなければ穏便に解決したはずのこともあったが、こいつならやりかねないという思い込みで暴力沙汰に及んで台無しにしてしまう。守ろうと決めても相手の心情を考慮せず、自己満足のために全力を尽くして守るべき相手を結局は守れずに終わる。同じく捜査一課所属の青木の先輩であり、相棒でもあったが、『魍魎の匣』の暴走が原因で長門を相方に変えられた。
榎木津と共に鯨飲の酒豪であり喧嘩好き。また榎木津とは喧嘩友達でもあり、彼らが喧嘩するのは「挨拶みたいなもの」らしく、何も考えず無礼講で気楽に付き合える腐れ縁である。京極堂と関口は「木場の旦那」と呼ぶ。
几帳面で執念深くて打たれ強く、細かいことを覚えている。現場百辺の信念で身体を張って捜査し、劇的な捕り物による一件落着や簡潔な善悪の二項対立を理想としている。いかつい強面で経歴から想像されるとおりの豪傑であるが、刑事然とした外見や粗雑な言動・態度と裏腹に、本質的にはナイーヴな性格である。子供の時分は絵を描くことを好み、警察手帳にはファンである女優の美波絹子の写真が挟んである。鰓が張った四角ばった顔で、榎木津から「箱」・「下駄」・「四角」などと呼ばれる。
端的に云うと天邪鬼な性格で、狂おしい程に原理原則を欲している癖に、悉くそれらを否定したいのだと思い込んでいて、理屈が嫌いなのではなく、他人の構築した理屈を認めたくないだけであり、理論化を拒む振りをして自分なりの理論を構築している。行動を読めないところがあり、敵う筈のない強敵に出合うと異常に駆り立てられて、正義や信念が逸脱した行動として発露し、その度に酷い目に遭う。
几帳面だが無頓着なので私生活は滅茶苦茶。くだらないことに金を使うせいで貧乏で、下宿先では食事が出ず自炊もしないので喰うや喰わず、仕事で無理をしては酒を浴びるように飲む、と云う不健康な生活を送る。整理整頓は得意なので一見部屋は綺麗だが、分別した塵芥を捨てそびれたり、何故必要なのか判らない変なものをきちんと取っておいたりする。
冗談が利き容貌のわりには話術も巧みで聞き上手なので、水商売の女性からは人気があるのだが、貼ってあるレッテルが取れた女との恋愛に苦手意識があり、性的には正直なので女遊びは一人前にするものの、恋愛として異性(性別)を意識した途端に固まってしまう。
実家は小石川石材店を営み、両親や妹夫妻がある。就職時は実家住まいだったが、警視庁への異動時から小金井の親戚宅で下宿生活。根っからの江戸っ子
戦中は南方に派兵され、経験薄く及び腰の上官関口を放っておけずに面倒を見て、結果的に2人だけ生還した。思い悩み閉じ籠もる人種は積極的に嫌いなのだが、関口だけは何故か見捨てられず面倒を見てしまい、終戦後も腐れ縁が続いている。戦中の階級は軍曹
初登場は『夏』。『匣』では主役級となり、『夢』『理』『宴』などでも主要人物となる。
青木 文蔵(あおき ぶんぞう)
声 - 諏訪部順一 / 演 - 堀部圭亮
東京警視庁捜査一課の刑事。階級は巡査。木場の元相方であり、先輩にあたる木場と彼の刑事としての理念を敬愛している。単独行動を取りがちな木場と対照的に控え目で優等生然としているが、必要と判断すれば遺憾ない行動力を発揮する。激昂した木場を目前にしても怯まぬ精神力を有している。『塗仏の宴』での行動により、小松川署管轄内にある江戸川縁の派出所へ左遷されるが、大磯の事件での活躍もあり、半年も経たずに警視庁捜査一課一係に復帰した。
性格は実直で真面目、優しく礼儀正しい。我を張ることが少なく上司に好かれる性質。木場には経験の浅いひよっこ扱いされているが、いざというときは体を張って戦うことも辞さない勇敢さも持ち合わせ、内心には高く評価されている。外見は頭が大きく童顔で、榎木津をはじめ多くの人から小芥子のようだとも言われる。
実家は仙台の近くで親は健在。現在は独身寮を出て水道橋で下宿している。
戦中は海軍の特攻隊に配属されていた。突撃前に終戦を迎えたため生還している。武道の腕は警官の嗜み程度。
創作では鳥口益田と一緒に「三馬鹿(組)」とまとめられることが多い。
木場に伴い初期から登場しており、『雫』では主要人物となる。
鳥口 守彦(とりぐち もりひこ)
声 - 浪川大輔 / 演 - マギー
赤井書房の不定期発刊のカストリ雑誌「月刊實錄犯罪」の編集記者兼カメラマン。「實錄犯罪」は関口別名義で執筆する主な掲載誌でもある。中禅寺敦子とは同業で、関口を通じて知り合ったのち、カメラマンとして取材に同行するなどしている。福井県名田庄村出身。元は写真家志望だった。
軽快で嫌味のない性格だがやや粗忽なところがあり、極度の方向音痴。間違った諺や慣用句の類を多用する癖がある。だが、根は真摯な青年で、惚けているようで話の呑み込みは早く、京極堂を感心させ「カストリ雑誌の編集者にしておくには惜しい逸材」と言わしめた。また割と大柄で「人間三脚」を標榜するほどの屈強な体格。両目の間が詰まり気味だが、それなりに二枚目。鼻先が尖っているためか、容姿は橇犬(ハスキー)や樺太犬に例えられる。
中禅寺を「師匠」、関口を「先生」、榎木津を「大将」とそれぞれ呼称。口癖は「うへえ」という意味の良くわからない感動詞で、事あるごとに口にしている。
戦中は陸軍に配属された。
創作では青木益田と一緒に「三馬鹿(組)」とまとめられることが多い。
初登場は『匣』で、『檻』でも主要人物となる。
益田 龍一(ますだ りゅういち)
初登場(『鉄鼠の檻』)時は国家警察神奈川県本部捜査一課刑事。その後『絡新婦の理』で刑事の職を辞して薔薇十字探偵社に入社、榎木津に弟子入りした探偵見習い(助手)。薔薇十字探偵社は、失物探しや素行調査など一般的探偵業は益田しかしていない。普通の探偵仕事で得た収入をそっくり事務所に入れ、そこから月々の給金を適当に捻出している。
基本的には生真面目だが、あえて軽薄な表面を作って振舞い、しばしば悪癖となる。本質は思い悩む性格をしており、肝の細いと云う点では関口以上の小心者で、腕力も闘争心も根性もなく弱い。隠し切れないことは無理に隠さず、怒られれば間髪を容れずすぐさま謝る。外見を軽く見せるためか、上京してから前衛詩人のように前髪を長く伸ばしている。
「箱根山僧侶連続殺人事件」では山下の配下として最初から捜査に参加していたが、事件が有耶無耶のまま幕を閉じた失態の責任を取らされて、減俸の上、防犯課に回される。刑事は尊厳ある立派な職務だと確信しているものの、法の番人や公僕としての高邁な志を持ったことがなく、社会と云う高処から事件を見ることが出来ず、箱根の事件を経て秩序と正義の根幹にあるべき社会認識が揺らぎ、警察側の理屈が自分には合わないことに気づいてしまい、事件後半月も経たずに神奈川県警を退職し、やることは似ているが大義名分が不要で商売として割り切れる探偵になることを決意して、薔薇十字探偵社の門を叩く。公務員から社会的な信用のない探偵になったことについて、周囲のほとんど全員から考え直すべきだと忠告されているが、本人の意志は固い。
探偵助手の身でありながら榎木津に数々の有難くない二つ名(益山、マスカマ、カマオロカなど)を頂戴しており、まともに本名を呼ばれることがほぼない。
鍵盤楽器の心得があり、これが探偵社採用の決め手になった。
創作では青木鳥口と一緒に「三馬鹿(組)」とまとめられることが多い。
『檻』『理』『百器』『雫』などの主要人物。

家族

中禅寺 千鶴子(ちゅうぜんじ ちづこ)
声 - 皆口裕子 / 演 - 清水美砂
中禅寺秋彦の妻。西洋風の美人で淑やかな性格だが舌鋒は鋭く、夫を「仏頂面の石地蔵」「しようもないことをするマトモじゃない人」と言い放ち、中禅寺を言い負かす事が出来る唯一といえる人物である。実家は京都和菓子屋「京極堂」を営んでいる。結婚後も実家の手伝いのため度々京都に帰省している。骨董は判らないが陶器は好きで、陶芸を始めようかと思っている。
関口 雪絵(せきぐち ゆきえ)
声 - 本田貴子 / 演 - 篠原涼子
関口巽の妻。 夫の事は「たつさん」と呼んでいる。鬱病の夫を温かく見守る包容力ある女性。ただ、どこか寂しげである。東京生まれの、本人曰く3代続いた江戸っ子で、潔い性格をしている。
中禅寺の妻・千鶴子とは連れ合って映画を観に行ったりする程仲が良い。
石榴(ざくろ)
中禅寺秋彦の飼い猫。あくびをすると柘榴のように見えることから名をつけられた。中国の金華の猫らしい。中禅寺曰く「化けると云われたから買ったのに全然化けやしない」とのこと。愛想は悪い。また、邪険に扱われている割には主人(中禅寺)以外にはなつかない。
榎木津 幹麿(えのきづ みきまろ)
榎木津礼二郎の父。元子爵。耳が大きく額にほくろがある。貿易会社を経営している。政財界など、日本のあらゆる権力に対して力を持つ人物だが、礼二郎に負けず劣らずの奇人。
博物学に興味があり、大の虫好きで、虫を取りたいがために会社を爪哇へ海外進出させた程(しかし結果的にはそれが功を奏して、他の華族と違い戦後に凋落することが無かった)。螽斯(キリギリス)を採集して自宅の温室で越冬させるのが趣味。社長室ではを放し飼いし、椰子蟹も飼育している。
元華族という歴史的肩書きと系列外社の長としての社会的肩書きを持つが、肩書きが一切要らぬ人種であり、自分の氏素性を振り翳すこともない代わりに、他人がどんな身分であろうと気に留める様子もない。子供達に帝王学を学ばせた割に、彼等が成人すると「大人を養う義務はない」と言ってある程度の予算を生前分与して半ば放逐状態にしてしまう(世襲制が当たり前だった当時では奇異な話)。礼二郎と仲は良いのだがお互い信用し合ってはおらず、中禅寺によれば馬鹿の王様と馬鹿の皇太子だと互いに思っているらしい。息子が千姫を見つけて以来、探偵は何かを探す仕事だと思っている節があり、個人的な知り合いの家探しのために不動産屋の真似事を任せたこともある。
榎木津 総一郎(えのきづ そういちろう)
榎木津礼二郎の兄。こちらは父や弟と比べて真っ当な性格をしており、父から生前分与された予算を元手にしていくつかの会社を経営し成功を収めている。終戦後は進駐軍相手のジャズクラブなどを経営し、現在はジャズクラブに加えて日光のホテルのオーナーもしている。
ごく初期から言及されているものの、未登場。2021年に漫画版『中禅寺先生物怪講義録』4巻の方で先に登場した。容姿も性格も異なるが、兄弟仲は悪くない。

交友関係

伊佐間 一成(いさま かずなり)
声 - 浜田賢二
町田釣り堀「いさま屋」の主人。
外見はひょろ長く、口髭を生やしたその顔は平安貴族風の美形らしい。飄々とした性格で、あまり物事に動じたり、頓着したりはしない。年齢の割に老成しており、榎木津には初対面で内面を看破されている。また非常に口数は少ない。衣服の取り合わせは無国籍。元々は技術者を目指していたので手先が器用。
『旅荘いさま屋』と云う割烹旅館の長男だが、戦禍で焼失した旅館は新築して姉夫婦が継ぎ、釣り堀は戦前まで生簀として利用していたのを改造したもの。資本主義社会に馴染めず戦前は煩悶したが、奇天烈で破天荒な榎木津との出会いと後述の臨死体験を経て、雑事が気に懸からなくなり以前より余計に飄然とした。
戦時中は海軍で榎木津の部下だった。五体満足で終戦を迎えたものの、復員船の中で、突如マラリアにかかり、臨死体験らしき奇妙な夢を見た。そのとき以来、飄々とした性格に拍車がかかったと当人は分析している。
多趣味かつ暇人で、代表的なものは釣り、、金属加工など。外国の民族風の笛を吹いたりしている。釣り好きが高じ、しばしば日本各地へ釣り旅行に出向く。また、暇にあかせて拾ってきた金属を溶接し、抽象的なオブジェを作成して並べている。臨死体験を経て無宗教から多宗教に転じたが、心持ちは敬虔ではあるものの信心深くなった訳でもない。完全な超常音痴、心霊音痴なので、お化けの類を全く怖がらないが、気持ちも話も通じない狂信者を最も恐怖する。
『夢』の主要人物。『匣』『理』『百器』にも登場。
今川 雅澄(いまがわ まさすみ)
青山にある骨董店「待古庵(まちこあん)」の店主で、中禅寺らの知り合い。
今川義元公の末裔という由緒正しい代々続く蒔絵師の一家の次男坊で、店は戦時中の大怪我で復員後に死んだ従兄弟が、生前経営していた「骨董今川」(今の店名に改名させた)を引き継いだ形。「待古庵」の名は、子供の時のあだ名「マチコサン」に由来し、特に意味は無いが、客はその字面を見て勝手に納得すると言う。
外見は眼も鼻も口も大きく、唇も厚ければ眉も髭も濃く、耳も福耳、と云う全体に密集した派手な造りだが、顎だけは貧弱でしまりのない唇と禽獣のようとも言われる珍妙な顔で、伊佐間はその奇怪さをポンチ絵に例えている。水気の多い口調で話す。水気の多い口調で話し、おっとりのんびりした性格も併せ一見愚鈍な印象だが、かなり頭は切れる。
戦時中は榎木津の部下で、性格的に近い物があるためか、同僚伊佐間とは復員後も懇意にしている。
口をもぐもぐとしか動かさないため、多少興奮して話すだけで口角に自然と泡が発生しているなどやや見苦しい一面も。そのため榎木津からは乳製品を食さないよう厳命されているらしい。
若い頃は継げずとも家業に携わるつもりでおり、明治以降に蒔絵に新しい様式が樹立されず芸術から工芸になっていることを堕落と感じてそれを打開しようと云う向上心を持っていた。だが、小手先の技巧に手を出したと父に叱責され、自分では理解できない領域にいた兄への劣等感を抱えたまま絵筆を折って絵から離れる。
『檻』『理』の主要人物。『百器』にも登場。
安和 寅吉(やすかず とらきち)
声 - 坂本千夏 / 演 - 荒川良々
通称・和寅。榎木津家に仕えていた使用人の息子。
子爵に中等学校までは入れて貰ったが勉学が肌に合わずに中途退学、建具屋に弟子入りしたが職人仕事も肌に合わなかったため、住み込みで榎木津の身の回りの世話をしている。
薔薇十字探偵社の探偵秘書を自称する。榎木津の予定管理をするのではなく、世間の予定や日程を榎木津に合わせるのが仕事だと考えている。益田のことは君付けで呼び、格下に見ている節がある。中禅寺、榎木津、関口のことを全員「先生」と呼ぶ。
気立ては良いが野次馬根性が非常に強い性格。反面、真面目に仕事をしない礼二郎に代わって依頼人の話を聞いたり、礼二郎の生活ぶりをたしなめるような保護者的な一面も見せる。幾らギターを教えても上達しないらしく、榎木津からは文句を云われている。
原作では青年だが、アニメ版では10歳程度の少年になっている。
里村 紘市(さとむら こういち)
声 - 青山穣 / 演 - 阿部能丸
九段下で「里村医院」を開業する傍ら、警察の監察医も務めている外科医。解剖・縫合の腕前はかなり高い。普段は人当たりのよい好人物で、性格も至って温厚且つ優しいが、3度の飯より解剖が好きなため、死体と聞けば患者をついほったらかしてまで飛んで行く奇癖の持ち主。人懐っこい言動でショッキングな内容も平気で語り、木場からはいつも病気・変態などと罵られているが、本人は大真面目で全く気にしていない。
戦時中は海軍の軍医をしていて、縫合が巧いことで有名だった。
初登場は『夏』。『今昔』『瑕』にも登場。
竹宮 潤子(たけみや じゅんこ)
演 - 鈴木砂羽
池袋にあるバー「猫目洞」の女主人。暹羅猫のような可愛らしい童顔をしていて、30歳は越している筈だが、見ようによっては10代に見えないこともない。店名も表情が猫の眼のように善く変わることに由来している。
木場は警察官になった当初は池袋署に配属されており、その頃からの常連でかなり親しい。木場には少なからず好意を持っており、口には出さないがことあるごとに木場の身を案じている。また女性の気持ちを察するのが苦手な木場に助言して、捜査の示唆を与えることもある。
チンピラまがいの連中の襲撃を受けた際に自分の身よりも高級酒を守ろうとするなどなかなか肝の据わった人物。「酒場の女に姓はない」らしく基本的にはフルネームで名乗ることはない。聡明で、学歴の高さを誇らず、酒場の女主を愉しんでいる粋人とされ、頭の回転の素早さや情報通なところから過去に何かあったことを想像させるが、過去を語ろうとはしない。
増岡 則之(ますおか のりゆき)
声 - 三木眞一郎 / 演 - 大沢樹生
柴田財閥顧問弁護士の1人。いつも高級そうなスーツを着こなし、銀縁の眼鏡をかけている。目鼻立ちが派手で顔が長く、そのまま馬のような男と評されるほどの馬面。凄まじい早口のマシンガントークで喋る(本人曰く、常に多忙のため少しでも時間を短縮するため。しかしいついかなる場合でも口調は変わらない)が発音・発声ともはっきりとしているので聞き漏らすことはない。その口調から傲慢かつ嫌味な性格と思われがちだが、感情表現が不器用なだけで、他人のことを真剣に考えてやれる信念の持ち主。
柴田財閥絡みの事件が起こる度に登場しており、初登場の『魍魎の匣』では柴田財閥を通じて紹介された薔薇十字探偵を訪れたが、榎木津にまともな依頼は不可能と判断したのか以降の事件では京極堂へ相談を持ち掛けるようになる。また、作中の事件で逮捕された複数の人物の弁護も担当している。野次馬根性が強く、京極堂のウンチクも真剣に聞いている。
映画版では眼鏡はかけておらず、いつも懐中時計で時間を気にしているという設定が追加された。
初登場は『匣』。柴田絡みの事件で登場するため、『理』にも登場。
川島 新造(かわしま しんぞう)
声 - 相沢正輝
木場榎木津の戦前からの友人で飲み仲間・喧嘩友達。あだ名は川新。六尺を超える大男で、常に黒眼鏡をかけ、未だに復員服を着てさらに坊主頭のためかなりいかつく見える。戦時中、甘粕正彦の腹心として満州で働いていた。その時は特殊な任務に就いていたらしく、図体に似合わずかなり身軽。復員後は「騎兵隊映画社」という会社を興して映画制作を行っている。『絡新婦の理』では目潰し殺人事件の容疑者にされた。
『理』では容疑者となる。『匣』『宴』にも登場。
久遠寺 嘉親(くおんじ よしちか)
演 - すまけい
「久遠寺医院」の院長。第一作『姑獲鳥の夏』の事件を通して、京極堂らと知り合う。
容姿は禿げた赤ら顔に目が窪んでしまっている締りの悪い顔。60を超えた老人だが威勢の良い性格で、世の道徳に反することに対してはしっかり反論し、また医院をたたんでからも医者としてのプライドを高く持ち合わせている。専門分野は外科であるが、病院の方針と戦争の影響で近年は産婦人科をしていた。ドイツへの留学経験もある。
『姑獲鳥の夏』での事件をきっかけに医院を閉鎖し、現在は戦前から贔屓にしていた箱根にある「仙石楼」という宿で居候をしている。
『夏』『檻』に登場。
一柳 朱美(いちやなぎ あけみ)
静岡県伊豆市で暮らす女性。元憲兵で現在は置き薬商人の夫・史郎(しろう)と二人暮らし。その容姿は大抵の者は美人と答えるが、さらに加えて若く見られがちで実際は20代後半だが夫がいるようには見えないとよく言われる。
出身は信州独鈷山中にある集落で、ミナカタ様という神様の髑髏を祀る「頭家(とうや)」という格式ある家系だったが、17歳で失火により親族を失っている。昭和19年に結婚した最初の夫は兵役忌避で情婦と出奔した後で殺害された。初登場『狂骨の夢』では、過去にまつわる事情で神奈川県逗子市に住んでいたが、事件後、東京に引っ越した。しかし、都会の喧噪と馴染めずに静岡に転居した。
非常に淡泊な性格・口調をしているが、一方で困っている人を見ると放っておけないという江戸っ子気質の女性で、そのために中禅寺の周辺や事件に関わることになった。
『夢』の主要人物。『宴』にも登場。
降旗 弘(ふるはた ひろむ)
精神科医。実家は小石川にある歯科医木場とは幼馴染み。榎木津とも面識があった。
子供の頃に「累々と積み上げられた頭蓋骨の周囲で男女が交接する」奇妙な悪夢を見、それをきっかけにその夢の意味をどうしても知りたくなり、自分を見極めるべく大学で精神神経医学を学ぶ傍らフロイトの孫弟子に師事して精神分析学を学ぶ。しかし、学べば学ぶほど自身の抑圧された性的願望や倒錯、歪んだ親子関係と云ったものばかりを突き付けられ、自己嫌悪に陥っていき、次第に心を閉ざすようになってしまう。半年程は精神神経科医をしていたが、後に連続目潰し殺人の容疑者となる平野を診察したのが止めとなり、ついに心が折れて退職。逗子の教会の居候となり、自己嫌悪に苛まれていた。
人一倍繊細で、正義感が強い癖に慎重と云う複雑な性格で、思慮深いが悪く云えば陰湿で猜疑心も強い。子供の頃は軍隊遊びが大嫌いで、他の子供達から臓躁的に苛められていたが、不気味な悪夢について話を聞いてくれた木場と榎木津の2人だけは友人だったと思っている。無信心な父は苛めを受ける息子を弱虫と誹って殴り、加特力教徒の母は優しかったが指針にも依り所にもならなかった。
初登場『狂骨の夢』では神奈川県逗子市にある飯島基督教会というところに居候して、信者の懺悔を聞くという役割を与えられていた。事件で木場・榎木津と20年来の再会を果たし、京極堂に憑き物を落とされる。事件後は東京に戻り、ある水商売の女性のヒモとなる。
『夢』の主要人物。『理』にも登場。
柴田 勇治(しばた ゆうじ)
柴田財閥会長の柴田耀弘(しばた ようこう)の養子。旧姓は北条で、現在は零落れているが、元は由緒ある旧家。『魍魎の匣』で柴田耀弘の唯一の直系であったはずの少女と、柴田耀弘自身が亡くなってしまったことで柴田財閥のトップに立つ。
温厚かつ真面目な性格で、決して悪い人物ではないが場の空気を汲み取ることが出来ず場違いな発言をしたりもする。人格的には申し分無いが商才はあまり無いらしい。とびきりの正義漢で極めて善人、常識人且つ人格者だが、少しズレていて、底抜けに鈍感で頗る楽観的と云う欠点がある。また、真実と信念と心情を並び立たせようと欲張り、いずれも捨てられず半端な対応をしてしまうことも多い。
「武蔵野連続バラバラ殺人事件」を取り敢えず整合性ある形で収束させた榎木津を過剰に買っていて、初登場の『絡新婦の理』では増岡を通して彼に聖ベルナール女学院で起きた不祥事の対応を依頼する。榎木津の奇矯な言動にも常態を崩さない数少ない人物。
聖ベルナール女学院の舎監だった山本教諭と婚約していたが、相手は目潰し魔事件の被害者となり死別。後に家族全員を亡くした織作茜を妻にすることで柴田家に迎え入れようとするが、断られてしまう。
大河内 康治(おおこうち やすはる)
中禅寺たちの旧制高校時代の同窓生。顔つきや肩の線など、髪型以外は宮沢賢治に似ているらしい。哲学書を常時携行していると云う変わり者で、自らを偏屈者と称して憚らず、人付き合いが悪かった。ニーチェが好きでニーチェを主に研究しており、常にニーチェの著書を携帯している。戦後は進駐軍相手の通事をしていたが退職し、片手間で家業の板金工場の経営をし乍ら、細々と哲学書の翻訳をしている。また、通事時代にマックアーサーの女性解放政策に触れ、婦人の人権問題に造詣が深い女権拡張論者となり、表立って活動している訳ではないが、婦人解放の運動家や思想家とも懇意にしている。人は好いが顔つきが悪いせいで、共産主義の活動家と間違えられて公安に引っ張られたことがあるらしい。
縁のある相手が八方塞がりになった時、常識の通用しない帝大の先輩である榎木津に依頼するよう提案することがある。作中では久遠寺涼子や杉浦美江、本島俊男に薔薇十字探偵社を紹介している。
司 喜久男(つかさ きくお)
榎木津の古い友人で、輸入雑貨を商売にしている貿易商。榎木津を「エヅ公」、木場を「修ッ公」と呼ぶ。頭を五厘刈りにして、凹凸の少ない日焼けした顔に金縁の眼鏡を掛け、派手な色のアロハシャツを着た、どう見ても堅気の風体ではないちんぴら風の胡散臭い男。常に気安い口調で話し、初対面の相手にも馴れ馴れしい態度で接するが、敵に回すと恐ろしいらしい。上野界隈の地下道に住む浮浪者など、極東の暗黒街に顔が利く。
『魍魎の匣』で名前だけ登場し、中禅寺にオランウータンゴリラ密輸について情報を提供している。『塗仏の宴』では上野の地下道で人捜しをしていた看護婦・玉枝に声をかけ、榎木津を紹介する。「五徳猫」にも登場。
多々良 勝五郎(たたらかつごろう)
京極堂の友人で、自称・妖怪研究家。妖怪の話で京極堂と互角に渡り合えるほど妖怪に詳しい。戦後は友人の沼上と全国を行脚しており、かつて出羽即身仏にまつわる殺人事件に巻き込まれた際に京極堂に助けてもらった。『塗仏の宴』の頃から、『稀譚月報』で『失われた妖怪たち』を連載中。小柄で小太りな体型で、「寸詰まりの菊池寛」に例えられる外見。
『今昔続百鬼ー雲』では主人公。
多田克己モデルとなっている人物。
明石(あかし)
京極堂が築地の先生と呼ぶ人物。どこに何が記してあって、誰が何を知っているのかを悉く識っているとされ、京極堂も真の知者であり識者、築地一いい男で日本一の知識人だと尊敬している。職業は不詳だが、多忙らしい。仏教界の重鎮や管長クラスとも懇意にしている。堂島のことは「あんなくだらない男」と認めておらず、中禅寺が対峙しようとした際には懇々と説教して破門するとまで云って関わるのを止めようとした。

警察

木下 圀治(きのした くにはる)
声 - 石川和之
東京警視庁刑事部捜査一課に所属する刑事。木場や青木の同僚で、同年齢の青木とは非常に仲が良い。青木とは少し違ったタイプで、積極的に上司の機嫌を取ったりもする。やや小太りの体形。柔術の達人。
娼婦を嫌っているが、それには理由があり己の記憶を封印している。毛倡妓に憑かれており、幽霊が怖い。
叩き上げで階級は低いので発言力はないが、真面目なので上司からの信頼は篤く、信念があり、臨機応変に対応するタイプではないが、頑固でも堅物でもないので変な誇りも自尊心も持っていない。
『匣』『理』などに登場。
大島 剛昌(おおしま たけまさ)
東京警視庁刑事部捜査一課課長。階級は警部木場の元上司。木場に負けず劣らず口調が荒っぽい。暴走気味の木場をよく叱っているが、実力は買っているところがあり、本来なら懲戒免職ものの木場の失態も彼の働きによって減俸や降格程度で済んでいる。『陰摩羅鬼の瑕』からは、その手腕をかわれて公安部捜査三課に異動となった。
長門 五十次(ながと いそじ)
東京警視庁刑事部捜査一課の刑事。木場の新しい相棒(実際は暴走気味の木場の監視役も兼ねている)で課一番の年長者。
木場に引けを取らない観察眼を持っており、細かいところにもよく気が付く。経験豊富で、腹芸も通じ捨て目も利く。殺人現場に到着するとまず一番に被害者に黙祷するという変わり者。地道で地味な捜査を得意とする粘りタイプの刑事。如何なる時でも自分のペースを保っており、木場は彼を一目置きつつ苦手としている。いつも自作の弁当を職場に持ってくる。
妻は戦前に癆咳で他界しているらしい。
木場が麻布署に左遷されたあとは、木下と相棒になる。
『夢』『理』などに登場。
石井 寛爾(いしい かんじ)
声 - 宇垣秀成
国家警察神奈川県本部捜査二課の刑事。初登場の『魍魎の匣』では警部だったが、元々の捜査能力の低さに加え、木場の暴走も重なって失態を犯し降格させられた。しかし『狂骨の夢』では2箇月程で再び警部に返り咲いて、木場とも和解し以降は協力関係となる。昭和28年春から一種の懲罰人事で津久井署の署長に就任、警察法改正に合わせて本部に戻される予定。
神経質で嫌味な感じで、上昇志向が強く、本人に悪意はないが誤解されるような言動を執ることが多いせいで、腹を割って話せる関係にはなれない。屈託はないが屈折し、成績は良いが大将にはなれず、人脈はあるが人望はない。だが、幾つかの事件を経て視野が広くなり、正義も悪も人それぞれだと云うことを弁え、行動の成否は社会正義ではなく法に則って判断して社会を見張ることが、法治国家における警察官の役目だと考えるようになった。
典型的なキャリア組タイプで所轄警官と捜査方針を巡っての軋轢が絶えない。また力任せに事件を解決しようとする方法を嫌っており、作中でも「腰抜け」と評されることが多く、自身の意見を否定されると言い訳じみた弁解をするが、逆に肯定されると饒舌になる。当初は木場とは反りが合わず嘗められており、後におだてられる形で和解し実力もそれなりに認められるようになった。榎木津からは蒙古系の性の雲脂性などと罵倒され、非常に苦手としている。
『匣』『夢』『檻』『雫』に登場。
山下 徳一郎(やました とくいちろう)
国家警察神奈川県本部所属の刑事。エリート出身で階級は警部補。かつて石井の腹心の部下で益田の直属の上司だった。競争意識が異常に強く、警察を一種の企業と考えており、法律を約款、倫理や正義を商道徳と捉えていたため、事件解決に真摯な心持ちになれなかった。
「武蔵野連続バラバラ殺人事件」の端緒の段階の捜査主任であったが、捜査が暗礁に乗り上げた挙句に犯人が東京警視庁に特定されて一つも手柄を挙げられず、石井の失脚の煽りを受けて課内での立場が無くなっていた。
初登場は『鉄鼠の檻』。その時は高圧的な態度で捜査に当たり関係者から厭まれ、捜査2日目には所轄刑事に反旗を翻されて吊し上げを食らい捜査に全く役に立たなかったばかりか、目と鼻の先で次々と殺人が行われ、挙げ句犯人を取り逃がすという大失態を犯してしまう。初めは直感に任せて少しでも怪しいと感じたものは即刻拘束するという捜査手法をとっていたが、そうした経験を通して捜査手法や性格に大きな変化が見られ、直感や感性で事実を推し量ってはいけないと考えるようになった。事件後、責任を取らされて降格させられたが『邪魅の雫』で再登場したときには再び警部補になっていて、かつての部下の益田もかなり変わったという印象を持った。
色白で鼻梁が高く顔も長い、歌舞伎役者のような顔をしている。『鉄鼠の檻』の事件の際に発生した火災で頭を火傷し、禿が残った。寄席が好きで、講談より落語を好む。
『檻』『雫』に登場。

出版関係者

小泉 珠代(こいずみ たまよ)
声 - 長沢美樹
稀譚舎の社員。関口の担当編集者でもある。敦子の上司で、彼女からは「先輩」と呼ばれている。『魍魎の匣』や『狂骨の夢』でその事件の重要人物を関口に引き合わせており、本人の意図したことではないが結果的に関口が事件に深くのめり込んでしまう原因を度々作ってしまっている。
山嵜 孝鷹(やまさき たかお)
演 - 小松和重
稀譚舎の社員。敦子小泉の上司で、稀譚舎が発行している雑誌「近代文藝」の編集長もしている。6尺を越えようという白髪の大男。
関口に掲載作品の単行本化を持ちかけて「目眩」を発行する。関口の作品は全て近代文藝に掲載されているため稀譚舎での単行本化が容易であり、またある程度は売れると目測していたが一部の好事家にしか受けなかった。
妹尾 友典(せのお とものり)
演 - 田村泰二郎
赤井書房の社員。鳥口の2人しかいない上司の1人。不定期発刊のカストリ雑誌「實録犯罪」の編集長だが編集者は彼と鳥口の2人しかいない。どんな話題にも食い付き、また非常によく喋る、子供のような性格。
赤井 禄郎(あかい ろくろう)
赤井書房オーナー。赤井書房は学習用教材の販売業が本業で、出版業は道楽でやっているらしい。そのため實録犯罪の仕事にはほとんど干渉してこないが、その反面廃刊になったとしても何ら不利益を被るとこは無い。
温厚な人物だが、廃車寸前の車を元に偽ダットサンスポーツDC-3型の改造車を道楽で作り、何処からか東京通信工業の試作携帯用テープ式録音機を持ってくるなど、謎が多い。

シリーズ年表

1911年(大正11年)
  • 「襟立衣」 秋(『百鬼夜行―陰』)
1944年(昭和19年)
  • 「青鷺火」 10月14日
1946年(昭和21年)
  • 「青女房」 秋(『百鬼夜行―陽』)
1950年(昭和25年)
  • 「岸涯小僧」 初夏(『今昔続百鬼―雲』)
  • 「文車妖妃」 夏(『百鬼夜行―陰』)
  • 「目競」 秋(『百鬼夜行―陽』)
1951年(昭和26年)
  • 「泥田坊」 2月7日(『今昔続百鬼―雲』)
  • 「手の目」 2月(『今昔続百鬼―雲』)
  • 「古庫裏婆」 秋(『今昔続百鬼―雲』)
1952年(昭和27年)
  • 「目目連」 5月(『百鬼夜行―陰』)
  • 「川赤子」 7月(『百鬼夜行―陰』)
  • 『姑獲鳥の夏』 7月
  • 『魍魎の匣』 8月~10月
  • 「小袖の手」 8月31日(『百鬼夜行―陰』)
  • 「鬼一口」 9月半ば(『百鬼夜行―陰』)
  • 『狂骨の夢』 11月~12月
  • 「倩兮女」 12月末(『百鬼夜行―陰』)
1953年(昭和28年)
  • 『鉄鼠の檻』 2月
  • 「煙々羅」 2月(『百鬼夜行―陰』)
  • 『絡新婦の理』 2月~4月
  • 「屏風覗」 2月(『百鬼夜行―陽』)
  • 「鬼童」 3月(『百鬼夜行―陽』)
  • 『塗仏の宴』 6月
  • 「火間虫入道」 6月19日(『百鬼夜行―陰』)
  • 「鳴釜」 7月(『百器徒然袋―雨』)
  • 『陰摩羅鬼の瑕』 7月
  • 「毛倡妓」 8月(『百鬼夜行―陰』)
  • 「瓶長」 8月(『百器徒然袋―雨』)
  • 「墓の火」 初秋『百鬼夜行―陽』
  • 「青行灯」 秋(『百鬼夜行―陽』)
  • 「大首」 秋(『百鬼夜行―陽』)
  • 『邪魅の雫』 9月
  • 「雨女」 9月11日(『百鬼夜行―陽』)
  • 「山颪」 9月(『百器徒然袋―雨』)
  • 「蛇帯」 11月半ば(『百鬼夜行―陽』)
  • 「五徳猫」 11月(『百器徒然袋―風』)
  • 「雲外鏡」 12月(『百器徒然袋―風』)
  • 「面霊気」 年末(『百器徒然袋―風』)
1954年(昭和29年)
  • 『今昔百鬼拾遺 鬼』 3月
  • 『今昔百鬼拾遺 河童』 8月
  • 『今昔百鬼拾遺 天狗』 10月
2006年(平成18年)
  • 「ぬらりひょんの褌」

既刊一覧

種別 題名 刊行年月 備考
長編 姑獲鳥の夏 1994.09
長編 魍魎の匣 1995.01
長編 狂骨の夢 1995.05
長編 鉄鼠の檻 1996.01
長編 絡新婦の理 1996.11
長編 塗仏の宴 宴の支度 1998.03
長編 塗仏の宴 宴の始末 1998.09
長編 陰摩羅鬼の瑕 2003.08
長編 邪魅の雫 2006.09
連作小説集 百鬼夜行――陰 1999.07
連作小説集 百器徒然袋――雨 1999.11
連作小説集 今昔続百鬼――雲 2001.01
連作小説集 百器徒然袋――風 2004.07
連作小説集 百鬼夜行――陽 2012.03
長編 今昔百鬼拾遺 鬼 2019.04
長編 今昔百鬼拾遺 河童 2019.05
長編 今昔百鬼拾遺 天狗 2019.06
連作小説集 今昔百鬼拾遺 月 2020.08 上記『今昔百鬼拾遺』3冊の合本

関連作品

  • 『幻想ミッドナイト』 角川書店、1997年 ISBN 4-04-788111-2
  • 『エロチカ eRotica』 (e-NOVELS編) 講談社、2004年 ISBN 4-06-212289-8
    • 「大首 妖怪小説百鬼夜行第拾弐夜」 (当時は「第拾壱夜」未執筆)
  • 『小説 こちら葛飾区亀有公園前派出所』 集英社、2007年
    • 「ぬらりひょんの褌」 (『南極(人)』所収)

余談

  • 作者が『姑獲鳥の夏』の舞台となった雑司ヶ谷を訪れた際、本当に現地に病院が建っていた事実を知り「まずい」と思って以来[5]、それ以降の舞台に関してはあえて現実に存在し得ないことを前提に設定するようになった。
  • 主要登場人物については、作者の友人、知人がモデルであるという。中でも関口のモデルは物故後に小説家デビューを果たした関戸克己であることが有名である。他に古本屋仲間として小説家の北村薫山口雅也などがモデルの者も登場する。
  • 本シリーズでは、タイトルとなった妖怪が文化として成立する過程を紙上再現するため、その妖怪に関するあらゆるキーワードを作中に散りばめていると作者は語っている。たとえば『陰摩羅鬼の瑕』では水木しげるの『ゲゲゲの鬼太郎』でのエピソードを踏まえ、「豪邸に住む身寄りのない富豪の男性、本当は死んでいる婚約者といった設定は、先行する水木さんの作品を想起してもらうためにも欠かせなかった」と語っている[6]

薔薇十字叢書

第1期は2015年10月から12月まで。第2期は2017年4月より刊行。

第1期
タイトル 著者 イラスト 出版年月 レーベル
ジュリエット・ゲェム 佐々原史緒 すがはら竜 2015年10月 講談社講談社X文庫ホワイトハート
石榴(ねこ)は見た 古書肆(こしょし) 京極堂内聞 三津留ゆう カズキヨネ 2015年10月 講談社〈講談社X文庫ホワイトハート〉
天邪鬼の輩(ともがら) 愁堂れな 遠田志帆 2015年10月 KADOKAWA富士見L文庫
桟敷童の誕(いつわり) 佐々木禎子 THORES柴本 2015年10月 KADOKAWA〈富士見L文庫〉
ヴァルプルギスの火祭(かさい) 三門鉄狼 るろお 2015年11月 講談社〈講談社ラノベ文庫
神社姫(くだん)の森 春日みかげ 睦月ムンク 2015年11月 KADOKAWA〈富士見L文庫〉
ようかい菓子舗京極堂 葵居ゆゆ 双葉はづき 2015年12月 講談社〈講談社X文庫ホワイトハート〉
第2期
タイトル 著者 イラスト 出版年月 レーベル
風蜘蛛の棘(いばら) 佐々木禎子 THORES柴本 2017年4月 KADOKAWA〈富士見L文庫〉
縊鬼(いつき)の囀(さえずり) 愁堂れな 遠田志帆 2017年5月 KADOKAWA〈富士見L文庫〉
蜃(しん)の楼(たかどの) 和智正喜 toi8 2017年5月 KADOKAWA〈富士見L文庫〉
漫画
『中禅寺先生物怪講義録 先生が謎を解いてしまうから。』
少年マガジンエッジ』(講談社)にて2019年11月号より連載中[7]。作者は志水アキ[7]

脚注

注釈

出典

  1. ^ ミステリー小説に見る「民俗的世界観」 : 「都市」から. 「田舎」への視点.福西大輔、『熊本大学社会文化研究』14号、2016
  2. ^ http://www.osawa-office.co.jp/weekly_bn/364.html
  3. ^ 「百鬼夜行」はここまできた!シェアード・ワールド小説『薔薇十字叢書』刊行開始!”. ダ・ヴィンチニュース (2015年10月6日). 2016年6月26日閲覧。
  4. ^ 累計1000万部超! 京極夏彦氏「百鬼夜行」シリーズがついに完全電子書籍化!”. プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES. 2019年4月29日閲覧。
  5. ^ 大極宮 Q&A〜作家たちへの質問
  6. ^ 一柳廣孝吉田司雄 編著 『ナイトメア叢書3 妖怪は繁殖する』 青弓社、2006年。
  7. ^ a b “京極堂の講師時代を描くオリジナルスピンオフ「中禅寺先生物怪講義録」エッジで”. コミックナタリー (ナターシャ). (2019年10月17日). https://natalie.mu/comic/news/351820 2021年3月18日閲覧。 

関連項目

外部リンク