ヤシガニ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
ヤシガニ
CoconutCrabDictionnaireDHistoireNaturelle1849.jpg
保全状況評価
{{{2}}}環境省レッドリスト
Status jenv VU.png
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
: 甲殻綱 Crustacea
: エビ目(十脚目) Decapoda
亜目 : エビ亜目 Pleocyemata
下目 : ヤドカリ下目 Anomura
上科 : ヤドカリ上科 Paguroidea
: オカヤドカリ科 Coenobitidae
: ヤシガニ属 Birgus
: ヤシガニ B. latro
学名
Birgus latro Linnaeus, 1767
英名
Coconut crab
ヤシガニの背面 - ニウエ
沖縄で捕獲されたヤシガニの腹部側

ヤシガニ (椰子蟹)Birgus latro は、エビ目(十脚目)・ヤドカリ下目オカヤドカリ科に分類される甲殻類の一種。陸上生活をする甲殻類では最大種である。

概要[編集]

日本ではヤシガニのその名前や言い伝えから、「ヤシの木に登りヤシの実を落として食べるカニ」としてのイメージが定着している。実際には、ヤシガニの食性は口に入るものなら腐敗した死肉でも食べる雑食性で、必ずしもその主食にヤシの実があるわけではない。ヤシの実を食すことは確かだが、実を切り落とすために木に登る習性も確認されておらず、上記のイメージは口述伝承から生まれた誤解である(食餌参照)。

ヤシガニは強力な鋏脚でヤシの実の硬い繊維も切り裂く事が出来る。また、銀食器などきらきらとした物を持ち去ることから、英語では Robber Crab (泥棒蟹)あるいは Palm Thief (椰子泥棒)などと呼ばれることもある。また、若いヤシガニは貝殻の中にその身を隠すこともある。生息域がインド洋の最西端からミクロネシアまで広がっているため、様々な名前で知られており、グアムではアユユと呼ばれ、その他の地域ではウンガ、カヴュ等と呼ばれることがある。また、生息する地域により様々な色をしており、明るい紫色から茶色まである。

生態[編集]

ヤシガニは陸上で生活をする最大の甲殻類である。名前の通りカニに似るが、ヤドカリの仲間である。雄は雌より大きく体長は40センチメートルを超え、脚を広げると1メートル以上にもなり、4キログラム以上に成長する。タカアシガニには及ばないものの、最大級の大きさである。寿命は50年程度と考えられている。ヤシガニの体は、大きく分けると頭胸部と腹部に分けることができ、10の肢を持つ。2本の前肢は、巨大なハサミになっており、30キログラム近くのものを持ち上げることができる。次の3対の肢は小さなハサミになっており、陸上歩行に適した形になっている。また、垂直にヤシの木を登ることも出来る。沖縄においてよく目撃されるのは、アダンの木に登ることである。木に登るときも降りるときも、頭を上に向けている。また、これらの肢は食べ物を扱うことが出来る。最後の対は非常に小さく、歩行ではなくえらの掃除に使われる。この肢は折りたたまれて鰓室の中に入っているため、外部からは見えない。

ヤシガニはヤドカリの仲間ではあるが、その大きさのため成体は体に見合う大きさの貝殻を見つけることは困難である。若いヤシガニは、カタツムリの殻などを用い、成長するにつれて、ヤシの実などを使うこともある。他のヤドカリとは違い、成体は腹部がキチン質石灰質でおおわれ硬く、カニのように尾を体の下に隠すことで身を守る。腹部が硬い物質でおおわれていることで、地上でくらすことによる水分の蒸発を防ぐ。しかし、定期的に腹部を脱皮する必要があり、再び腹部が硬くなるまでは30日ほどかかる。この間、ヤシガニは身を隠す。

ヤシガニは地下にハサミを使って掘った穴や岩の割れ目を住処とする。日中は天敵と直射日光を避けるために穴の中に隠れており、の日でないかぎり外に出ることを避ける。ただし生息数が多い地域では、日中にも食べ物を探しに現れることもある。巣の中で休んでいる時は、入り口をハサミでふさぎ、巣の中の環境を一定に保つようにする。ヤシガニはほぼ陸上生活に適応しているため、海岸線から6キロメートル以上も離れたところで発見されたこともある。

ヤシガニは成長すると産卵時を除いて水に入る事はない。また、まったく泳ぐことができないため、波打ち際までしか入ることができず、水の中ではおぼれる。

食餌[編集]

ヤシガニは主にヤシの実の胚乳であるコプライチジクなどの果物を食べるが、雑食性で、口に入れることができるものなら何でも食べる。沖縄先島では、熟したアダンの実をばらばらにして食べる。葉や腐った果物、カメ、動物の死骸も食べる。オカヤドカリ同様、共食いもある。現在は行っていない養殖場での経験では、脱皮するヤシガニを他のヤシガニが攻撃するという。必要なカルシウムなどは他の動物の殻を食べることで補っていると推測される。また、生まれたばかりのウミガメの子供のように逃げ足が遅いものも食べてしまう。ヤシガニ同士で食べ物の取り合いをすることが知られており、手に入れた食べ物はその場で食べずにに持ち帰って食べる。

沖縄の宮古島ではヤシガニを夏に捕えて茹でて食べる。ヤシガニは食物を得るため、または暑さや天敵を逃れるために木を登る。アダンの木に登っているのはよく目撃される。ヤシガニがヤシの実を食べているのを目撃した人の中には、木に登って実を切り落とし、地上に落ちたところを食べると考えた人もいる。しかしドイツ人の科学者ホルゲル・ランプフによると、ヤシガニは木の上でヤシの実を食べようとして偶然切り落としてしまうだけであり、そのような知性はないとする。ヤシガニは熟したヤシの実にハサミで穴を開け、中身を食べてしまう。

繁殖[編集]

ヤシガニは5月から9月の間に陸上で頻繁に交尾を繰り返す。7月と8月に繁殖はピークを迎える。雄と雌は交尾のためにもみ合い、雄は雌を仰向けにして交尾を行う。全ての行為は15分ほどかかる。交尾後間もなく、雌は自分の腹部の裏側に卵を産み付ける。雌は数ヶ月間卵を抱えたまま生活し、10月か11月の満潮時、いっせいに孵化したゾエアと呼ばれる幼生を放出する。

幼生は28日ほど海中をただようが、その間に大部分は他の動物に捕食される。その後海底に降りてヤドカリのように貝殻を背負ってさらに28日ほど成長を続けながら海岸を目指す。上陸後は水中で生活できる機能を失う。繁殖ができるようになるまでには4年から8年かかるとされ、甲殻類の中では例外的に長い期間である。

生息域[編集]

ヤシガニの分布域

ヤシガニはインド洋西太平洋に生息している。インド洋ではクリスマス島が最も保護されたヤシガニの生態系を維持しており、セーシェル共和国の島々、アルダブラ、グロリウス、アストーヴ、アサンプション、コスモレドに生息している。西太平洋のクック諸島のプカプカ、スワロウ、マンガイア、タクテア、マウケ、アティウ、それにパルマーストン等の島にも生息している。生息域には、ところどころに大きな空白部分があり、例えばボルネオ島インドネシアの大部分、それにニューギニアなどには生息していない。また、セーシェル諸島でも本島のマヘ島には生息していない。これは、島の住人によってヤシガニが食べつくされた結果である。

成体は泳いで海を渡ることが出来ないため、幼生体として海にただよう間に他の島々にたどり着いたとされている。しかし、28日間の幼生期の間に全ての島に到達することは不可能であると考える人もおり、漂流物に乗って他の島にたどり着いたのではないかとする人もいる。

日本でも沖縄宮古八重山の各諸島にも生息する。近年では、沖縄本島で絶滅したとされていたが、実際は本島全域で姿が確認されている。小笠原諸島でも稀に見つかることがあるが、繁殖はしていないと考えられている。人間による捕殺や道路整備による轢殺により生息数が急激に減少しているため、レッドデータブック絶滅危惧II類に分類されている。しかし、近年の沖縄食ブームにより、食用目的の乱獲が続いている。国家レベルの絶滅危惧種でありながら、乱獲の統制がほぼ全く行なわれていないまれな種でもある。

ただし地方自治体レベルでは、沖縄県多良間村でヤシガニの乱獲を防ぐことを目的とした「多良間村ヤシガニ(マクガン)保護条例」が制定されており、繁殖期の捕殺について罰則付きで禁じている。2013年9月27日宮古島ヤシガニ保護推進協議会は地域と期間を定めて、ヤシガニの捕獲を禁止した。[1]

人間との関わり[編集]

食用に茹でられたヤシガニ- 沖縄県黒島
ヤシガニそば - 沖縄県黒島

食用[編集]

太平洋の島々では高級食材の一種で、回春薬であるとされている。雌の卵と腹部の脂肪分は特に重宝されている。ロブスターのように茹でたり蒸したりして食べる。島によって調理法は様々で、ココナッツミルクで茹でる地域もある。日本では、沖縄県の一部地域でヤシガニを食べる習慣がある。

毒性[編集]

ヤシガニそのものに性はないが、ヤシガニが食べたものによっては毒を蓄えることがあり、宮古島以南でヤシガニにより中毒した例が報告されている。中毒症状は嘔吐・吐き気・手足の痺れなど。死亡例もある。そのため、素人が野生種を捕まえて自ら調理することは大変危険である。

この毒は沖縄にも自生する樹木・ハスノハギリ Hernandia nymphaefolia の果実に由来すると考えられており、これによりなぜ一部のヤシガニだけが毒を持つか説明がつく。ヤシガニは腐敗物、死肉、時には人間の出した生ゴミまで食べている食性から、体内に有害な病原菌ウイルスを取り込んでいる。そのため調理したヤシガニの生息環境によっては、病原性の食中毒を起こすとされている。まだ研究が進んでいないがヤシガニの食中毒はシガテラ毒が原因である可能性も指摘されている。

沖縄では、毒を持ったヤシガニは茹でても赤くならないという迷信がある。料理店では、赤くならないヤシガニを廃棄するため安全だと説明している。しかし赤く変色するヤシガニが安全であるという科学的根拠はない。甲殻類を加熱すると赤くなるのは甲羅に含まれるカロチノイド系色素のアスタキサンチンの反応[2]で、毒の有無とは関連性がなく毒を持っていても茹でれば赤くなる。

飼育[編集]

十分に成長していないヤシガニはペットとして飼うことも出来るが、ハサミの力がとても強力なため、檻を壊して逃げ出さないように注意が必要である。狭い所に潜る力も強く、よく逃げ出す。熟したパパイアが最もよい食料であるが、雑食であるので軟らかいものは何でも食べる。

さらに、飼育環境下ではヤシガニが脱皮の前後に必要な環境条件、例えば適切なタイミングでの海水の吸水や深い巣穴の中での待機といった行動を満足させるような環境を用意することは著しく困難であり、多くの場合脱皮時期が巡ってきたときに死ぬことが多い。沖縄の飼育場での経験でも、その時に共食いするという。また成体になるまでに非常に長い年月がかかる。先島で捕獲したヤシガニを本土で、半年養った記録がある。元々南国の動物なので寒い時期・地域で飼育はできない。

現在、日本では鳥羽水族館三重県)、すさみ海立エビとカニの水族館和歌山県) 、美ら海水族館(沖縄県)で飼育されているほか、多摩動物公園で飼育されたことがある。

脚注[編集]

  1. ^ 宮古毎日新聞ニュース
  2. ^ アスタキサンチンの項目を参照

外部リンク[編集]