カマドウマ

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カマドウマ
Rhaphidophoridaecricket.jpg
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
: 昆虫綱 Insecta
: バッタ目(直翅目) Orthoptera
亜目 : キリギリス亜目(剣弁亜目)Ensifera
上科 : カマドウマ上科 Rhaphidophoroidea
: カマドウマ科 Rhaphidophoridae
亜科 : カマドウマ亜科 Aemodogryllinae
: カマドウマ属 Atachycines Furukawa, 1933
: カマドウマ apicalis
学名
Diestrammena apicalis
(Brunner von Wattenwyl, 1888)
和名
カマドウマ(竃馬)
英名
Rhaphidophoridae

カマドウマ(Diestrammena apicalis、竈馬)はバッタ目・カマドウマ科に分類される昆虫の一種。俗称で「便所コオロギ、オカマコオロギ[1]」などとも呼ばれる。

概要[編集]

キリギリスやコオロギ、ウマオイに似るが、成虫でも翅をもたず専ら長い後脚で跳躍する。その跳躍力は非常に強く、飼育器の壁などに自ら激突死してしまうほどである。背中の形や長い横顔などが跳ねるの姿を連想させ、古い日本家屋ではの周辺などによく見られたことからこの名前が付いた。俗称として「便所コオロギ」などとも呼ばれる事もある。日本列島及び朝鮮半島の一部に分布するが、地域によっては体の色や交尾器の特徴などが微妙に変化しているため、いくつかの亜種に区別されている。

カマドウマという和名は、厳密には北海道から九州の地域と韓国に分布する原名亜種(複数ある亜種のうち最初に学名が付けられた亜種のこと)のみを指し、他の亜種には別の和名が付いている。しかしカマドウマ科の昆虫は互いに似たものが多く、日本産のカマドウマ科だけでも3亜科70種以上が知られ、専門家以外には正確な同定は難しい。したがって、明確な種別の認識なしにこれらカマドウマ科の昆虫を一まとめにカマドウマと言うこともある。この場合は「カマドウマ類」の意か、別種を混同しているかのどちらかである。

特徴[編集]

形態[編集]

カマドウマ
頭部
腹部

体長はオスで18.5-21.5mm、メスで12.0-23.0mmほど。メスは腹部後端に長い産卵管があり、この産卵管を含めると21.5-33.0mmほどになる。他のカマドウマ科の種と同様に、成虫でも翅をもたない。体はやや側扁し(左右に平たく)、横から見ると背中全体が高いアーチを描いた体型をしている。背面から側面にかけては栗色で、腹面や脚の付け根、脛節などは淡色となる。各部には多少の濃淡はあるが、目立つ斑紋はない。幼虫も小型である以外は成虫とほぼ同様の姿をしているが、胸部が光沢に乏しいことや、第1-第3ふ節の下面に多数の剛毛があることなどで成虫と区別できる。

顔は前から見ると下方に細まった卵型で、口付近には1対の長い小顎鬚(こあごひげ)がある。体長の3倍以上ある触角で、暗所でも体の周囲全体を探れる。3対ある脚のうち後脚は特別に発達して跳躍に適した形になっており、腿節は体長とほぼ同じ長さがあり、脛節は体長よりも長い。

生態[編集]

古墳の石室内で群生するマダラカマドウマ

主に身を隠せる閉所や狭所、暗所、あるいは湿度の高い場所などを好むため、木のウロ、根の間、洞穴などに生息し、しばしば人家その他の建物内にも入る。また時には海岸の岩の割れ目に生息することもある。古墳の石室内にも群生し、しばしば見学者を驚かせる。夜行性のため日中はこれらの隠蔽的な空所にいるが、夜間は広い場所を歩き回って餌を探す。夜に森林内を歩けば、この仲間がよく活動しているのを見ることができる(特に夏季)。また後述の通り樹液にも集まる為、カブトムシ等の採集の為設置したトラップに大量に集まるという事も珍しくない。

極めて広範な雑食性。野生下ではおもに小昆虫やその死骸、腐果、樹液、落ち葉などを食べている。飼育下ではおおよそ人間が口にする物なら何でも食べる。動物質、植物質、生き餌、死に餌を問わない。野外でも共食いがしばしば発生しているという。

繁殖は不規則で、常に卵、成虫、様々な齢の幼虫が同時期に見られる[2]

天敵はヤモリ、トカゲモドキ(南西諸島のみ)、カエル、各種鳥類、寄生蜂、カマキリアシダカグモ等である。

近似種との区別[編集]

カマドウマ科にはよく似たものが多いため正確な同定はかなり難しく、単なる絵合わせによって正しく同定をすることは不可能で、脚の棘や交尾器の形態などの詳細で正確な観察に基づいて同定しなければならず、それほど簡単ではない。特に幼虫の場合は専門家でない限り正確な同定はほぼ不可能と考えてよい。ある程度昆虫に詳しい者が行った過去の記録にもクラズミウマ Diestrammena asynamora などとの混同も少なくないという。

ただし家屋や納屋などに見られるカマドウマ科のうち、胴体や脚に濃淡の斑紋が明らかなものは少なくともカマドウマではなく、多くはクラズミウママダラカマドウマである。また一つの地域に生息する種は限られるので、産地や環境からある程度の種に絞り込むことも可能である。

日本人とのかかわり[編集]

竈馬という風流な名[3]をもち、特に大きな害をなさないこの虫も、今日では便所コオロギというイメージの良くない名とともに不快害虫として忌み嫌われることも少なくない。かつての日本家屋は密閉度が低かったため、カマドウマが周辺の森林などから侵入し、多くの日陰や空隙と共に食料も提供してくれる土間の隅などに住み着くことも多かった。そのため家人にとっては馴染みの日常的な存在であったが、自然が住宅から遠ざかり家屋の構造や住環境も変化した結果、カマドウマ類が生息する家も少なくなった。更に殺虫剤の発達と相俟って、人間に発見されれば即座に殺傷駆逐の対象とされることも多くなり、駆除対象以外での日本人とのかかわりが少なくなっている。 一方で、少年時代や古き良き時代をカマドウマと共に思い出すなど、日本人にとっては馴染み深い生き物であることは確かである。

分類[編集]

カマドウマ属は東南アジアから東アジアにかけて約20種ほどが知られる。しかし形態の似たものが多いため分類が難しく、未知の部分も少なくない。日本産のカマドウマも従来より地域ごとに色々な特徴をもったものが知られており、その一部は学名未定のまま和名のみが付けられていた。しかし2003年の杉本雅志・市川彰彦の論文[4]で分類学的な整理と未記載亜種の正式な記載などが行われた結果、日本のものは2007年現在で6亜種と未記載の1種に区別されている。しかし未だ完全な解明には至っておらず、西日本から南西諸島にかけての地域を中心に、更に新たな亜種(あるいは種)が追加される可能性もあるという[5]

2006年現在、日本から知られているカマドウマ種群は以下のとおりである。「D.」は属名Diestrammenaの略。

  • カマドウマ Diestrammena apicalis apicalis (Brunner von Wattenwyl, 1888) 北海道から九州、韓国に分布する原名亜種。ヤマズミウマ Paradiestrammena kotljarovskyi Gorochov, 1998 はシノニムとされる。
  • エラブカマドウマ D. apicalis panauruensis Sugimoto et Ichikawa, 2003 沖永良部島与論島の亜種。
  • ヤクカマドウマ D. apicalis yakushimensis Sugimoto et Ichikawa, 2003 屋久島の亜種。
  • アグニカマドウマ D. apicalis nabbieae Sugimoto et Ichikawa, 2003 粟国島の亜種。
  • クメカマドウマ D. apicalis gusouma Sugimoto et Ichikawa, 2003 奄美大島徳之島沖縄本島浜比嘉島久米島に分布する亜種。別名ヒメクメカマドウマ。
  • メシマカマドウマ D. apicalis ssp. 長崎県男女群島の女島(めしま)に分布するカマドウマの未記載亜種とされるもの。「ssp.」はsubspecies(亜種)の略で「〜の一亜種」という意味。
  • アマギカマドウマ D. sp. 伊豆半島(和名は天城山に因む)に分布する未記載種。茨城県にも似たものがいるという。「sp.」はspecies(種)の略で「〜の一種」という意味。

脚注[編集]

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  1. ^ 大槻文彦 (11 1935). “おかまこおろぎ”. 大言海 (88 ed.). 東京: 冨山房. pp. 477. 
  2. ^ 野沢登 (1983) in 石原保・監修『学研生物図鑑 昆虫III バッタ・ハチ・セミ・トンボほか』学研。ISBN 4-05-100392-2
  3. ^ 古名の「いとど」は季語である。
  4. ^ Sugimoto, M and Ichikawa, A., (2003). Review of Rhaphidophoridae (excluding Protrogrophilinae) (Orthoptera) of Japan. Tettigonia (5): 1-48.
  5. ^ 日本直翅類学会・編 (2006) 『バッタ・コオロギ・キリギリス大図鑑』 北海道大学出版会。ISBN 4-8329-8161-7

関連項目[編集]