ラディカル・フェミニズム
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ラディカル・フェミニズム(英: radical feminism、急進的女性主義[1][2][3])とは、リベラル・フェミニズムへのアンチテーゼ、共に既成左翼を甘いと批判していたはずの新左翼・マルクス主義への失望から誕生したラディカルなフェミニズムの一形態である[4][5]。略す際にはラディフェミと略される[6]。男女関係は政治的なもので、「男性は権力を持ち、女性は持たない」と男性を抑圧者と考え、男女の利害は競合・敵対するモノと考える。リベラル・フェミニズムよりも、差異派フェミニズム・分離主義なフェミニズムであり、女性という性別を前提とし、「女性」という集団独自の存在意義を強調する[4][6][7]。ラディカル・フェミニズムは労働条件等の法的男女平等化を訴求するところはリベラルフェミニズム[8]やソーシャル・フェミニズム[9][4]に共通するが、法的男女平等化では満足しない。ラディカル・フェミニストはしばしばSNSを含む示威行動(デモ)で、不快に感じた言動・メディアコンテンツ・ミスコンテストなどのイベントを糾弾・炎上させ、中止と謝罪を要求する。これらが女性作者・発案者という女性主体で生まれたモノであっても、ラディカル・フェミニズムに反したモノ認定されると炎上事態になり、特に二次元のコンテンツは完全女性向け作品を除いた二次元全般を嫌悪する人々もいることから、炎上しやすい。日経BPの調査で、炎上させられた「萌え絵」の拒否派は日本人女性の14%であった[6][4][10][11]。ラディカル・フェミニズムでは!男性との恋愛・結婚・家庭そのものを女性抑圧の元凶とし、「異性愛至上主義」批判を展開した。「母性、結婚、売春は男性を支える組織であり、結婚は男性の性欲に奉仕するための組織である」と女性のセクシャリティ否定などフェミニスト女性間でも賛否の割れるラディカルな主張をし、男性と恋愛している者・既婚女性排除(特に男(児)を産んだ女性)などしたため、ラディカルフェミズム組織は結束主義に向かい、組織内で対立と分裂が度々起こった[1][4][12]。
新左翼・マルクス主義からの独立と対立[編集]
ラディカル・フェミニズムは、1960年代末にマルクス主義・既成左翼を甘いと批判した新左翼運動の内部で、社会革命が目的にも関わらず新左翼男性らに従来の補助的・性的役割を押し付けられた女性たちの失望から始まった[5][13]。1970年に出版されたケイト・ミレットの『性の政治学』と、シュラミス・ファイアーストーンの『性の弁証法』を思想的支柱とする。ミレットは、「家父長制」を男性が女性に性的従属を強いるシステムであると定義し、これが私的領域から公的領域に至るまで影響を及ぼしていると批判。男女の性差は家父長制の産物であるとした。またファイアーストーンは、女性の生殖能力も男性優位を前提とした階層構造を発展・維持させている要因であると論じた。更にマルクス主義フェミニズムはマルクス主義の史的唯物論にラディカル・フェミニズムを取り入れたことで生まれた。しかし、マルクス主義フェミニズムはラディカル・フェミニズムを「観念論」と見なし、「市場」と「家族」の相互依存関係も問うべきと批判している。更には新左翼・マルクス主義フェミニズム派が資本主義社会・企業のために女性を含めた労働者階級は抑圧されていると主張すると、ラディカルフェミニズム派はマルクス主義の男性中心主義を指摘・男性からの抑圧は資本主義社会だけではなく、マルクス主義で用いる階級分析論だと女性こそが抑圧された階級と位置づけ対立した[14][15][13]。日本では1990年代に行われたマルクス主義フェミニストの上野千鶴子とラディカル・フェミニストの江原由美子による論争が知られている[16]。
反結婚・反ポルノ売買春運動[編集]
ラディカル・フェミニズムは、「個人的なことは政治的である」というスローガンの下、女性の抑圧は階級的抑圧など他の抑圧には還元することができないものだと主張している。 従来の(リベラル)フェミニズム活動が女性の地位の向上や社会参加を推進するための法的平等要求活動なのに対して、ラディカル・フェミニズムの活動は活動家たちが「女性差別的」と判断した文化や慣習などのモノの排他要求活動である。 ラディカルフェミニストのアンドレア・ドゥウォーキンは、「結婚とはレイプを正当化する制度」と述べ、結婚をレイプと同一視している[17]。ラディカル・フェミニズムを端的に象徴するものとして、反ポルノの立場をとるラディカルフェミニストと性にポジティブな立場をとるフェミニストの対立、ラディカルフェニストによるポルノグラフィ撲滅運動がある。ラディカル・フェミニストは、ポルノグラフィに出演した女性の被害例(身体的・精神的暴力を伴う撮影など)や、ポルノグラフィが男性による性犯罪・ドメスティックバイオレンス・セクシャルハラスメントを助長するとした強力効果論を挙げ、またポルノグラフィの存在を社会的に容認することは女性蔑視を再生産するものとし、女性解放の障害になっているとして、厳罰を伴う法的規制を求めている。1980年代に、キャサリン・マッキノンとアンドレア・ドウォーキンらが展開した『反ポルノグラフィ公民権条例』運動は特に有名であり、ポルノ・買春問題研究会などの日本のラディカル・フェミニズム団体に多大な影響を与えている。
代表的なラディカルフェミニスト[編集]
- ケイト・ミレット
- シュラミス・ファイアーストーン
- メアリ・デイリー
- キャサリン・マッキノン
- アンドレア・ドウォーキン
- スーザン・ブラウンミラー
- ナバネセム・ピレー
- グロリア・スタイネム
- 伊藤和子
- 角田由紀子
- 中里見博
- 牟田和恵
- 猪谷千香
- 江原由美子
ラディカルフェミニズム団体・サイト[編集]
関連文献[編集]
- マギー・ハム著、木本喜美子・高橋準監訳、『フェミニズム理論辞典』、明石書店、1999/07、ISBN 4750311723
- 吉沢夏子、『女であることの希望 ラディカル・フェミニズムの向こう側』、勁草書房、1997/03、ISBN 9784326651993
- ナディーン・ストロッセン著、松沢呉一監修、岸田美貴訳、『ポルノグラフィ防衛論ーアメリカのセクハラ攻撃・ポルノ規制の危険性』、ポット出版、2007/10、ISBN 9784780801057
- アンドレア・ドウォーキン著、寺沢みづほ訳、『ポルノグラフィ-女を所有する男達』、青土社、1991/04、ISBN 9784791751280
関連項目[編集]
- ミサンドリー/差異派フェミニズム/メガリア/WOMAD[18]
- ミソジニー
- リベラルフェミニズム
- マルクス主義フェミニズム/上野千鶴子
- 純潔運動/貞操
- 廃娼運動/買春/売春
- フェミナチ/ツイフェミ/炎上
- 国連女子差別撤廃委員会(CEDAW)
- ポルノ・買春問題研究会/イクオリティ・ナウ
- フェミニスト・イニシアティヴ
- ポルノグラフィ/悪書追放運動/白ポスト
- 性的対象化/表現規制/ 萌え絵/ 萌え絵批判
- トランス排除的ラディカルフェミニスト/LGBT/性的少数者/トランスジェンダー
- セクシャルハラスメント/#MeToo
- ミス・コンテスト/ミスキャンパス
- ロリータ・コンプレックス
脚注[編集]
出典[編集]
- ^ a b 「ニューヨークにおける ラディカルフェミニズムの運動と思想,栗原涼子 ,2010年,昭和女子大学学術機関レポジトリ」 ファイアーストーン、ウィルズは結婚、家族そのものを女性抑圧の元凶とした。また、ティ=グレイス・アトキンソン(Ti-GraceAtkinson)、パメラ・キーロンはプロウーマンラインを強調し、異性愛至上主義に踏み込んで批判を展開した。 アリス・エコルズはアトキンソンがザフェミニスツを最もラディカルな組織であると印象づけようとしたが、失敗したとし、分担制を採用したことで組織はファシズムに向かったと論じている。 組織の中心となったバーバラ・メルホフ(BarbaraMehrhof)とシェイラ・クロナン(Sheila・Cronan)は「男性の興隆」と題する論文を書き、男女関係は政治的なものであり、男性は権力を持ち、女性は持たないとし、「母性、結婚、売春は男性を支える組織であり、結婚は男性の性欲に奉仕するための組織である」とし、女性のセクシュアリティーをむしろ否定することにより。解放を得る言説を強化した。1971年後半になると、すべての既婚女性から会員資格が剥奪された。 ファイアーストーンは内部抗争に疲れ果てた末に退会し、新左翼内の女性差別を批判する一方で、「ラディカルフェミニズムは新左翼の革命思想が革命的すぎるから批判するのではなく、十分に革命的ではないために批判する」とした。その後、彼女自身は「フェミニスト社会主義」をめざした。 アリス・エコルズは、ラディカルフェミニズムの運動を総括し、1973年には運動が内部抗争以降に明らかに衰退した原因として、エリート主義、中産階級中心、(ラディカルフェミニズム)女性間の協調のなさを挙げた。 サラ・チャイルドは 1983年になって、60年代フェミニズムを振り返り、「私のラディカルな考え方は決定的に間違っていた」と述べ、その理由を白人女性中心であったことを指摘した。
- ^ 「性别學與婦女硏究: 華人社會的探索」p126,Fanny M. Cheung、 張妙淸、 Han-ming Yip 1995年
- ^ “韓国を破滅に導く「フェミvs.アンチ・フェミ」の不毛すぎる対立(金 敬哲) @gendai_biz” (日本語). 現代ビジネス. 2022年3月26日閲覧。
- ^ a b c d e “【特集1-2】フェミニズム(三成美保)” (日本語). 比較ジェンダー史研究会. 2021年11月18日閲覧。
- ^ a b ニューヨークにおける ラディカルフェミニズムの運動と思想
- ^ a b c 世界第 10~12 号 - p95,1997年,岩波書店
- ^ “エマ・ワトソン、「フェミニスト失格」と炎上|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS” (日本語). MOVIE WALKER PRESS. 2022年2月4日閲覧。
- ^ フェミニズムには多様な潮流がある。もっとも長い歴史をもつのがリベラル・フェミニズムである。これはつねに主流派を占め、法や文化における性的平等の認識を支配した。リベラル・フェミニズムは、「性的平等」の権利を、「性別に基づき他者と異なる扱いをうけることはないという個人の権利」と定義する。平等が達成されるのは、集団であれ個人であれ、女性が男性と社会的に平等になったときではなく、女・男ともに、個人が自分自身の選択により自己の利益を最大限に追求することができる選択権を保障されたときとされる。
- ^ ソーシャルフェミニズムは個人主義を基礎に置くリベラル・フェミニズムとは異なり、女性抑圧の根源を資本主義に求めた。主体としての女性についても、「個人」としての女性を問題視するのではなく、「女性という集団」を論じようとする。他方で、平等化達成のためには体制変革が必要であると考え、抑圧された他の諸集団との連携を重視する。
- ^ “「ミニスカの女性キャラが交通啓発」フェミニストとVチューバーの議論がすれ違う根本理由 アニメコラボが炎上を繰り返すワケ” (日本語). PRESIDENT Online(プレジデントオンライン) (2021年12月19日). 2022年2月4日閲覧。
- ^ 日経クロストレンド. “ネット炎上事件簿2021 鬼門の「萌え絵」 拒否派は女性の14%” (日本語). 日経クロストレンド. 2022年2月4日閲覧。
- ^ 「現代フェミニズム理論の地平: ジェンダー関係・公正・差異」p35 ページ ,有賀美和子 , 2000年
- ^ a b 『家父長制と資本制――マルクス主義フェミニズムの地平』p12,上野千鶴子 1990(岩波書店)
- ^ https://swu.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=5109&item_no=1&attribute_id=21&file_no=1
- ^ “ミレットとファイアーストーン”. 2009年9月12日閲覧。
- ^ 国立国会図書館. “1990年前後発行の上野千鶴子と江原由美子によるフェミニズム論争が載っている論文を探している。” (日本語). レファレンス協同データベース. 2021年11月18日閲覧。
- ^ 『ポルノグラフィ―女を所有する男達』p38,アンドレア・ドウォーキン, 寺沢みづほ(翻訳),青土社,1991年,ISBN 9784791751280
- ^ a b Lee, Claire (2018年8月9日). “South Korean authorities face backlash over warrant for radical feminist site operator” (英語). The Korea Herald. 2022年3月26日閲覧。