マルクス主義フェミニズム

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マルクス主義フェミニズムとは資本主義や私有財産において女性がいかに抑圧されているのかを研究し説明することを目的としたフェミニズムの一派である。マルクス主義フェミニストによると、女性は、現在の資本主義経済を抜本的に改革しない限り自由を手にすることがない、という。現在の資本主義経済では、女性労働者の多くは報酬が不十分である[1]

マルクス主義の理論的背景[編集]

共産党宣言におけるカール・マルクス (1859) とフリードリヒ・エンゲルス (1848) の取り組み、および経済学批判におけるマルクスの取り組みにより[2]資本主義と迫害の関係性に関するの初期の説のいくつかに対し、その元となる土台が提示された。唯物史観と呼ばれた、マルクス (1859) によって展開された研究の理論と方法論によって、経済によって社会全体がどう構築されているのか、日々の生活や行動にどう影響しているのかが明らかにされている[3]唯物史観では、社会の下部構造を決定する過程における経済と技術の要素が果たす役割が強調されている。その下部構造によって、労働者階級をしばしば搾取し権力者の利益を増大させることを目的とした制度や法律が規制されている。マルクス (1859) は、これらの制度は、自身の権力を維持するために階級闘争を続けたり活発化させたりせねばならなかった支配者階級の人間によって制定された、と論じている。しかし、 マルクス(1859) は、新たな支配者階級に権限を与えようとする下層階級の人間による組織や団体行動の可能性をも認めている。 ウラジーミル・レーニン (1917) がこの可能性について論じているように、 労働者階級による革命的な運動にとって前衛党による社会主義の組織が重要な存在となる[4]

1884年、エンゲルスは『家族・私有財産・国家の起源』を出版した[5]。 エンゲルス (1884) は、封建制度から土地私有制に切り替わったことで女性の地位が大きな影響を受けた、としている。私有制において、土地またはその他の生産手段を持たない人は奴隷のような立場にある。エンゲルス (1884) は彼らの立場を、私有制のもとで生活するには所有者のために働くことが「義務」である、と表現した。エンゲルス(1884) は、この種の制度への移行により公私の領域が分断され、賃金を得られる仕事に男性ばかりがありつけるようになった、としている。

エンゲルス (1884) は、女性の地位が低いのはその生物学的性質でなく社会的関係が原因で、女性の労働力とその性別上の能力を制御せねばならないという男性側の取り組みが核家族内で徐々に制度化されたのだ、と述べている 。「マルクス主義唯物史観」の展望を通じ、エンゲルス (1884) は、処女を守る風潮、それを破った者を有罪とし体罰を与える制度、といった女性の性的モラルに関連する社会現象が広まっていくと推測し、女性は自分の夫に従うようにと求める。そしてついには、これらの現象から、古代の生産システムにおける新興の奴隷所有者階級の長による個人資産の包括的支配、そしてそれに伴う自分の財産が自分の子孫にのみ相続されてほしいという考え方が近年増長しているという事実、をつきとめた。エンゲルス (1884) いわく、貞淑で性的に忠実であることが賞賛されるのである。なぜならそれらによって所有者階級の男性に占有された女性の性的な生殖能力を独占的に利用できることが保証されるからである。

このように、性差別は階級差別と密接に関わっていて、社会における男女の関係はプロレタリアとブルジョワジーの関係に似ている[1]。この点からみると、女性が従属的立場にあるのは階級差別が原因である。階級差別は(人種差別のように)資本家や支配者階級に利益をもたらすからという理由で存在している。女性より男性を優先し、支持を確保するために資本主義において労働者階級の男性に比較的特権を与え、そして資本家階級に、女性の家庭内での労働に対しては賃金を払うのを拒否することを認めた。

生産労働と再生産労働[編集]

資本主義において、二種類の労働が存在している。この二つの違いをマーガレット・ベンストンとペギー・モートンといったマルクス主義フェミニストは強調する[6]。ひとつめは生産労働で、働いた分だけ、資本主義において金銭的な価値をもちそのため賃金という形で生産者が補償してくれる財やサービスが得られる。ふたつめは再生産労働で、私的な領域に関わってくるものであり、賃金を得るという目的でなくとも自分達のためにやらねばならないあらゆるもの(掃除、料理、子育てなど)を含む。どちらの労働も必要なものだが、人々は自分達のアイデンティティのある特定の特徴をもとにそれぞれの労働の形式にありつく。女性は、労働が再生産的でそれゆえ資本主義においては補償されず認知されない私的な領域に割り当てられる。公的機関にとっても私企業にとっても、労働力を維持するための安価な手段として女性労働者を搾取することは最も利益につながる。このことは、生産者にとっては利益が上がることを意味する。核家族にとっては、家事は家の中の女性が全面的にこなして他の家族が必要な自身の再生産労働から解放されるようにしなければならない、とパワーダイナミクスが指示しているようである。 マルクス主義フェミニストは、生産労働から女性を排除することで私的にも公的にも男性の支配が強くなる、と論じている[6][7]

成果と行動主義[編集]

マルクス主義フェミニストは、闘争を辞さない気質と社会の変化を促進するために力を結集する能力を持ち合わせており、それによって重要な行動主義を貫いてきた。その提案はしばしば論争を呼び批判の的となっているが、それでも新たな学説を支え女性の地位を明確にして資本主義に異を唱えている[7]。この女性達は、歴史的にみて、ヘゲモニー的な資本主義と対決するにいくつかの手段を利用してきた。このことは、女性の自由を実現するための最適な手段についての彼女らの意見の相違をよく表している[1]

家事労働に賃金を[編集]

女性が生産労働から排除されているということを女性差別の最たる象徴として着目し、資本主義において家庭内の仕事にも賃金が与えられるよう要求することに自らの行動主義を捧ぐマルクス主義フェミニストもいる。補償がなされる生産労働を産み出そうという考え方は、シャーロット・パーキンズ・ギルマン (1898) などの著書に書かれている。彼は、女性差別は女性が私的領域に追いやられたことがはじまりであった、と論じた[8]。また、女性の立場は、公的領域において仕事が見つかり、認知され、価値を見いだされれば向上するだろう、とも述べている[1]

もしかしたら、再生産労働を補償するための取り組みで最も影響力が強かったのは、「家事への賃金を要求する国際運動」であったかもしれない。この運動は、国際フェミニズム団体の団員によって1972年にイタリアで始まった。セルマ・ジェームス[9]、マリアローザ・ダラ・コスタ[10]、ブリジット・ガルティエ、シルビア・フェデリチ[11] といった団員の多くは、学術の世界や公共の場に自分たちの声を発信するために様々な書を出版した。 この取り組みは、イタリアで比較的少人数の女性たちによって始まったにも関わらず、「家事への賃金を要求する国際運動」は国際規模で活発化することに成功した。このグループはニューヨークのブルックリンで、フェデリチの力をかり、発足した[11]。ハイジ・ハートマン (1981) の認めるように、これらの運動は最終的には失敗に終わったが、家事の価値とその経済との結びつきについての重要な説を打ち立てた[7]

再生産労働の責任の共有[編集]

マルクス主義フェミニストによって提唱された他の解決策に、再生産労働に縛り付けられた女性を解放する、というものがある。ハイジ・ハートマン (1981) は、家事への賃金を要求する運動などの古くから行われているマルクス主義フェミニストの活動についての自らの論考の中で、それらの運動は、女性の男性に対する関係よりむしろ女性の経済制度に対する関係を問題視し前者は後者の議論の内で説明できるだろうと考えているようだ、と論じている。"[7] ハートマン (1981) は、昔からの学説は女性差別を女性の問題として扱わず代わりに資本主義経済の一部だとしてみなしている、と考える。同様に、人類学の研究や性的サブカルチャーの歴史に加え、サドマゾヒズム、売春、ポルノ、レズビアン文学といった題材についても著書を残してきたゲイル・ルービンは、1975年に自ら出した著書『女たちによる交通――性の『政治経済学』についてのノート』によってはじめて有名になった。この書で彼女は「セックス/ジェンダーシステム」という言葉を造り出し、マルクス主義の基本理念を軽視したり破壊したりすることなく、資本主義下の性差別についての不完全な憶測を主張しているだけだとしてマルクス主義者を批判した。

その後、マルクス主義フェミニストの多くは、女性が生産労働を手にした後に劣悪な環境に追い込まれる可能性が高いという現状に目を向けだした。 ナンシー・フォールブル (1994) は、職場(公的領域)だけでなく再生産(私的)領域でも女性は男性より下の立場にいるという事実にフェミニズム派は着目し始めた、と述べている[12]。2013年に行われたインタビューで、シルビア・フェドリッチはフェミニズム派に対し、女性の多くが今や生産労働をも再生産労働をも強いられ「二重負担」の状況が生まれていることを考慮するよう求めた[13]。 フェドリッチ (2013)は、女性は無償労働から解放されない限り自由を手にすることはできないと論じ、またそのためには男女の賃金格差を撤廃し職場に育児設備を設けるといった制度の改革も必要だろう、と述べている。 フェドリッチ (2013) の意見は、セルマ・ジェームス (2012) も同じようなインタビューの中で述べていて、これらの問題は近年の大統領選挙においても触れられている[9]

インターセクショナリティとマルクス主義フェミニズム[編集]

インターセクショナリティが現在のフェミニズムに関する広く有名な理論として浸透してくると、マルクス主義フェミニストは、ブルジョワジーの政治家に頼っているとしてインターセクショナリティ理論の批判を続けつつ、資本主義においてますます搾取される可能性の高い人々を守るために視野を広げようとする[14]。 現在の ラディカル・ウィメンという組織は、搾取されやすいアイデンティティを見過ごすことなくマルクス主義フェミニズムの目標を達成するための明確な一例を提示している。彼女らは、利益第一の資本主義経済を消滅させれば、性差別、人種差別、同性愛迫害、その他様々な迫害行為の原因もすべてなくなるだろう、と主張する[15]

マルクス主義フェミニズムのリベラルフェミニズム批判[編集]

クララ・ツェトキン[16][17]アレクサンドラ・コロンタイ[18][19]は階級主義に拍車をかけるようなフェミニズムには反対している。 彼女らは、経済格差を越えて一体になれるとは真に見込んではいない。なぜなら、上位階級の女性が労働者階級の女性の苦労を真に理解するのはとても難しいからだ。

どうして...女性労働者はブルジョワジーフェミニストとつながろうとしなければならないのか。実際、そんな同盟ができた場合に、利益を得ようとして立ち上がる人はいるだろうか。 少なくとも女性労働者はまずしないだろう。

— アレクサンドラ・コロンタイ、1909、Kollontai, Alexandra The Social Basis of the Woman Question 1909

コランタイ (1909) のような批評家は、自由主義フェミニズムによって、労働者階級のおかれた環境を改善しようとするマルクス主義者の取り組みが弱まるだろうと考えた。マルクス主義者は、社会主義革命を通じて女性に自由をもたらすより根本的で政治的な計画を支持した。そして、女性の労働とその環境を大きく改善することを特に強調した。

参考文献[編集]

  1. ^ a b c d Ferguson, A. & Hennessy, R. (2010). Feminist Perspectives on Class and Work. Stanford Encyclopedia of Philosophy.
  2. ^ Marx, K. & Engels, F. (1848). [1], The Communist Manifesto.
  3. ^ Marx, K. (1848). [2], A Contribution to the Critique of Political Economy.
  4. ^ Lenin, V. (1917). The State and Revolution: The Marxist Theory of the State & The Tasks of the Proletariat in the Revolution. [3]
  5. ^ Engels, F.(1884).[4], The origin of the family, private property, and the state.
  6. ^ a b Vogel, L. (2013). Marxism and the Oppression of Women: Toward a Unitary Theory [5].
  7. ^ a b c d Hartmann, H. (1981) "The Unhappy Marriage of Marxism and Feminism: Towards a More Progressive Union." Feminist Theory Reader. Ed. by Carole Mccann and Seung-kyung Kim. Routledge, 2013. 187-199.
  8. ^ Gilman, C. P. (1898). [6] Women and Economics: A Study of the Economic Relation Between Men and Women as a Factor in Social Evolution.
  9. ^ a b Gardiner, B. (2012). A Life in Writing. Interview with Selma James.
  10. ^ Dalla Costa, M. & James, S. (1972). The Power of Women and the Subversion of the Community[7]
  11. ^ a b Cox, N. & Federici, S. (1975).[8]Counter-Planning from the Kitchen: Wages for Housework a Perspective on Capital and the Left.
  12. ^ Folbre, N. 1994. Who Pays for the Kids? Gender and the Structures of Constraint. [9]
  13. ^ Vishmid, M.(2013). Permanent Reproductive Crisis: An Interview with Silvia Federici [10]
  14. ^ Mitchell, E. (2013) I am a Woman and a Human: A Marxist Feminist Critique of Intersectionality.[11]
  15. ^ The Radical Women Manifesto: Socialist Feminist Theory, Program and Organizational Structure[12], Red Letter Press, 2001, ISBN 0-932323-11-1, pages 2–26.
  16. ^ Zetkin, Clara On a Bourgeois Feminist Petition 1895
  17. ^ Zetkin, Clara Lenin on the Women’s Question
  18. ^ Kollontai, Alexandra The Social Basis of the Woman Question 1909
  19. ^ Kollontai, Alexandra Women Workers Struggle For Their Rights 1919

外部リンク[編集]