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知覧茶

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
南九州市の茶畑

知覧茶(ちらんちゃ)は、鹿児島県南九州市にて栽培されている緑茶総称、またはそのブランドである。南九州市は市町村単位では日本一の緑茶産地として知られ[1]、本市を中心とする鹿児島県は2024年荒茶生産量で静岡県を抜き、1959年都道府県別統計が始まって以来初めて全国第1位となった[2][3]

特徴

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煎茶を中心とし、近年は深蒸し煎茶の生産も多い。透き通った若緑色とさわやかな香りが特徴で、全国茶品評会では農林水産大臣賞や日本茶業中央会会長賞などの特別賞を多数受賞しており、全国的に高い評価を得ている(詳細は品質と評価を参照)。

産地となる薩摩半島南部の南薩台地を中心とする一帯は、年平均気温・日照・降水量とも温暖湿潤で茶樹の生育に適している。土壌は南九州火山活動に由来するシラスと、その上層に発達した黒ボク土が広がる。これらの火山灰起源土壌は酸性で水はけがよく、酸性環境に強く過湿を嫌う茶の栽培に適する一方、アルミニウムに富むことに由来するリン酸の固定や塩基類の欠乏により、一般的な作物にとっては必ずしも肥沃とはいえない土壌でもある[4]。このため鹿児島県では古来、茶のほかサツマイモタバコなど酸性土壌に適応した作物の栽培が発達してきた[5]シラス台地は本来保水性が低いが、戦後のダム灌漑の整備により茶業の規模拡大に対応してきた。市内では後岳地区、垂水地区、菊永地区などを中心に茶園が広く分布し、後岳地区を中心とした北部の山間部では寒暖差を生かした上級茶生産、垂水地区、菊永地区などを中心とした中南部では大型機械化による効率的な生産が行われている。

製法面では、一番茶のほとんどに新芽の摘採前1週間ほど日光を遮るかぶせ茶の手法が用いられている[6]。新茶の出荷時期は静岡県産より早く、早場産地としても知られる[6]

生産規模と品種構成

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南九州市の茶園面積は約3,425ha、生産者は641戸、茶工場は102を数え、年間およそ13,000トン荒茶が生産されている。これは鹿児島県内の荒茶生産量のおよそ50%に相当し、生産額は約130億円に上る[7]。市内の茶工場のうち76がGAPISO有機JASなどの第三者認証を取得している[7]

品種構成はゆたかみどりやぶきたさえみどりあさつゆの4品種で全体の約8割を占めており、これらに加えて20種類以上の品種が栽培されている[8]。主要4品種の特徴は以下のとおりである。

  • ゆたかみどり — 寒さに弱いため大半が鹿児島県内で生産される温暖地向け品種。カテキン含有量が多く濃厚なコクをもち、深蒸し製法と組み合わせて知覧茶の深蒸し煎茶の主力となっている。
  • やぶきた — 日本国内の茶園面積の約7割を占める標準品種。香り・渋味・旨味のバランスがよく、煎茶用として広く用いられる。
  • さえみどり — 1990年に「やぶきた」と「あさつゆ」の交配により育成された比較的新しい品種[9]。旨味・甘味が強く苦渋味が少なく、鮮やかな水色を呈するため、全国茶品評会の上位入賞茶にも多く用いられる。
  • あさつゆ — 濃厚な甘味とコクから「天然玉露」とも称される。栽培の難しさから流通量は限られる。

歴史

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起源と近代化

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知覧における茶の栽培の起源としては、鎌倉時代平家の落人が北部山間地の手蓑にて茶栽培を始めたという伝承があり[10][11]、これを記念した碑が町内の手蓑峠につくられている。本格的な栽培は、明治元年(1868年)に島津氏の傍流でこの地を治めていた佐多島津氏から払い下げられた山野を、明治5年(1872年)に村民が開墾したのが始まりである[12]。その後設立された茶業組合を中心に、技術者の招聘や宇治茶の製法習得、緑茶製造所の設置が進められ、上述の好条件もあって生産拡大が進んだ。

1920年(大正9年)からは製茶機械の据付け、摘採機の奨励、共同機械製茶所の設置などにより、商品としての競争力が高められ、販売面においても長崎福岡朝鮮への出張や沖縄名瀬での見本市開催などの営業努力により、毎年約10万が出荷され、九州を中心に知覧茶の名声が広まっていった。

昭和初期以降は村をあげての茶生産拡大が進められ、1928年(昭和3年)には御大典記念事業で300町歩の新植茶園増加計画、1930年(昭和5年)には県立知覧茶業分場創立や茶園5町歩・採草地2町歩、その他一切の設備の村負担による試験場誘致、1934年(昭和9年)には鹿児島県の奨励により紅茶工場を設置、1938年(昭和13年)には天覧用の紅茶の製造・献上が行われた。

以降紅茶の生産拡大が推進されたが、昭和40年代初めには貿易自由化により世界から紅茶の輸入が拡大し、町内での紅茶生産は低迷した。これを機に農家では緑茶生産への転換が進み、町が緑茶を基幹作物に指定したこともあり、国内有数の緑茶産地として知られるに至った。

ブランド統合

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2007年(平成19年)12月1日知覧町川辺町頴娃町の3町が合併して南九州市が発足した。これに伴い、3町でそれぞれ生産・販売されていた「知覧茶」「川辺茶」「頴娃茶」の3銘柄は、同一自治体内で並立する形となった。

2017年(平成29年)4月、観光資源としての茶の活用とブランド力の向上を目的に、3銘柄を「知覧茶」に統一する取組みが始まった。同時に「知覧茶の郷づくりプロジェクト」も本格始動した[13]

鹿児島県全体の躍進

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鹿児島県の荒茶生産量は、1959年の都道府県別統計開始以来、長らく静岡県に次ぐ第2位で推移してきた。しかし2024年産では約2万7,000トン(全国シェア約37%)を記録し、約2万5,800トンの静岡県を初めて上回って全国第1位となった[14] 。鹿児島県は茶園が平地に集まる地形を生かした大型機械による規模拡大が進み、特にペットボトル飲料原料となる二番茶以降での収量増加が首位獲得の決め手となった。

続いて2025年一番茶においても、鹿児島県の荒茶生産量は8,440トンとなり、1991年の一番茶調査開始以来初めて全国第1位となった[15]。さらに2024年の茶産出額でも鹿児島県が5年ぶりに全国第1位となり、生産量・産出額ともに「茶の主産地」が転換した[16]

知覧茶は鹿児島県内の荒茶生産の約半分を担っており、こうした県全体の躍進を支える中核的なブランドとして位置づけられている。

品質と評価

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産地直売される小売茶でも毎年3回、独自の規格統一審査を経て出荷される。全国茶品評会では農林水産大臣賞や日本茶業中央会会長賞などの特別賞を多数獲得し、なかでも普通煎茶部門での評価が安定して高い。

2020年の全国茶品評会(第74回)以降、南九州市は普通煎茶10kgの部の産地賞を連続して獲得し、2024年の第78回では5年連続1位(5連覇)を達成した[17]。同年の同部門では、有限会社前原製茶の前原翔太が農林水産大臣賞を受賞している。2023年の第77回では南九州市が同部門の産地賞を通算27回目の受賞とし、農林水産省農産局長賞・日本茶業中央会会長賞・全国茶生産団体連合会会長賞・全国茶商工業協同組合連合会理事長賞を、いずれも知覧銘茶研究会所属の生産者・組合が獲得した[18]

2025年の第79回では、同部門の産地賞は霧島市が6年ぶりの1位となり、南九州市は2位となった。一方で、知覧銘茶研究会所属の農事組合法人大隣岳茶生産組合が全国茶生産団体連合会会長賞を受賞している[19]。なお、鹿児島県全体としては普通煎茶部門の産地賞を22年連続で獲得している。

天皇杯受賞(2023年)

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2023年10月令和5年度(第62回)農林水産祭の園芸部門において、株式会社枦川製茶(南九州市)が前年度の第76回全国茶品評会農林水産大臣賞受賞を起点に、天皇杯を受賞した[20][21] 。茶部門での鹿児島県生産者の天皇杯受賞は32年ぶり、南九州市域では旧町時代を含めて初の快挙である。

普及活動

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南九州市における市の木には、茶の木が平成20年(2008年)10月1日から制定されている[22]

平成24年(2012年)10月からは、知覧茶のPRを行う南九州市公式ご当地キャラクター・お茶むらいが活動している[23]

平成29年(2017年)からは、鹿児島県の「お茶一杯の日」である11月23日に、お茶の手揉み体験や種類当てクイズ等のお茶文化体験コーナー、お茶や特産品の販売ブース、座禅、竹灯籠づくり、川辺仏壇の技術関連などの催しとして知覧武家屋敷群の藤棚公園で開催され、新型コロナウイルス感染症 (2019年)が流行した令和2年(2020年)からは、インターネットのライブ配信で知覧茶の魅力を発信している「知覧茶マルシェ」が行われている[24][25]

南九州市頴娃町牧之内にある「畑の郷 水土利みどり館」では、日本茶アドバイザーによる指導のもと、お茶の手揉み体験や、急須などを使用したお茶の美味しい淹れ方を体験できる[26]

令和2年(2019年)には、南九州市茶業課から若者に向け知覧茶の消費拡大を相談された南九州市の企業「オコソコ」と団体「はたおり」により、インターネットの募集で参加した日本全国の学生に、まずは知覧茶のドリップバッグと茶菓子と透明の耐熱グラスのセットを送付し、Web会議を利用して学生とお茶農家と南九州市茶業課を繋ぎ、学生メンバーに発表してもらった自己流の日本茶の楽しみ方を冊子にまとめるプロジェクト「TEA LABOティーラボ」が実施され、手作りの梅シロップと混ぜたセパレートティー[注釈 1]、冷茶に蜂蜜レモンを合わせた「はちみつレモン煎茶アイス」、お茶にミントライムを合わせたモヒートノンアルコール飲料「モヒティー」など、日本茶のアレンジレシピや自分なりの飲み方なども含めた、日本茶の魅力を掲載したフリーマガジン「TEA LABO」は、学生も携わり翌年に発行され、鹿児島県内のお茶を扱う飲食店などに置かれている[27][28][29][30]

脚注

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注釈

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  1. 2層に分かれたアイスティー。

出典

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  1. 知覧茶とは?〜日本一の生産量を誇る鹿児島・南九州市のお茶の特徴〜”. 南九州市. 2026年5月9日閲覧。
  2. 荒茶の生産量 鹿児島がトップに 2024年産」『』農業協同組合新聞、2025年2月19日。2026年5月9日閲覧。
  3. 静岡県、荒茶生産量で初の首位転落 鹿児島に抜かれる」『』日本経済新聞、2025年2月19日。2026年5月9日閲覧。
  4. 鹿児島県の土壌の概要 (PDF). 鹿児島県農政部. 2026年5月11日閲覧。
  5. 鹿児島県のシラス台地でサツマイモがよく栽培(さいばい)される理由を教えてください”. 農林水産省. 2026年5月11日閲覧。
  6. 1 2 知覧茶について”. 南九州市. 2026年5月11日閲覧。
  7. 1 2 南九州市”. 一般社団法人 鹿児島県茶生産協会. 2026年5月11日閲覧。
  8. 知覧茶の品種”. 南九州市. 2026年5月11日閲覧。
  9. 茶の品種〜さえみどり〜”. 南九州市. 2026年5月11日閲覧。
  10. 「知覧茶」平家の落人に起源説、屋根裏から武具も…迷うことなく家業を継いだ6代目「世界に広めたい」”. 読売新聞オンライン (2026年1月16日). 2026年2月2日閲覧。
  11. 鹿児島県茶業振興連絡会『鹿児島県茶業史』鹿児島県茶業振興連絡協議会、1986年1月27日、1171頁。
  12. 知覧茶の歴史”. 南九州市. 2026年5月11日閲覧。
  13. 日本一の茶産地 南九州市の3茶銘柄2017年4月「知覧茶」ブランド統一を機に「知覧茶の郷づくりプロジェクト」が本格始動』(プレスリリース)南九州市、2017年3月6日2026年5月11日閲覧
  14. 〈詳報〉鹿児島県の荒茶生産量、静岡抜いて初の日本一」『』南日本新聞、2025年2月19日。オリジナルの2025年6月8日時点におけるアーカイブ。2026年5月11日閲覧。
  15. 一番茶の生産量、静岡県が首位陥落 鹿児島県が初の日本一」『』日本経済新聞、2025年8月21日。2026年5月11日閲覧。
  16. お茶と言えば静岡? 鹿児島です――2024年「産出額」が5年ぶりトップ」『』南日本新聞、2025年。2026年5月11日閲覧。
  17. 産地賞5連覇!【第78回全国茶品評会審査結果】”. 南九州市. 2026年5月11日閲覧。
  18. 第77回 全国茶品評会 審査結果”. YOGŪ. 2026年5月11日閲覧。
  19. 全国茶品評会、霧島市が6年ぶり産地賞1位――県勢22年連続トップ守る、2位に南九州市」『』南日本新聞、2025年。2026年5月11日閲覧。
  20. 令和5年度(第62回)農林水産祭天皇杯等の選賞について』(プレスリリース)農林水産省、2023年10月11日2026年5月11日閲覧
  21. 知覧茶の天皇杯受賞について【令和5年度農林水産祭】”. 南九州市. 2024年9月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2026年5月11日閲覧。
  22. 市の花・木”. 鹿児島県南九州市. 南九州市 (2023年12月1日). 2026年2月23日閲覧。
  23. お茶むらい”. 鹿児島県南九州市. 南九州市 (2023年12月1日). 2026年2月23日閲覧。
  24. 家で知覧茶を!(知覧茶マルシェ2020@Home)”. 鹿児島県南九州市. 南九州市 (2020年12月18日). 2021年5月9日閲覧。[リンク切れ]
  25. 「広報南九州」2020年12月号 まちの話題 (PDF). 南九州市役所 (2023年9月29日). 2026年2月11日閲覧。 “~知覧茶マルシェ2020@Home~”
  26. 畑の郷 水土利(みどり)館”. 鹿児島県南九州市. 南九州市 (2021年3月5日). 2021年5月9日閲覧。
  27. 南九州市のお茶農家と全国の学生がオンライン交流 知覧茶をアピール”. 鹿児島経済新聞 (2020年11月17日). 2021年5月9日閲覧。
  28. 南九州市知覧を拠点に全国の100名の学生と、お茶の新しい楽しみ方を追求するTEA LABO(ティーラボ)について。”. 頴娃町観光サイト EIGOエイゴー. NPO法人 頴娃おこそ会. 2021年5月9日閲覧。
  29. ふる熱人「お茶で新たな挑戦」(南九州市)(毎週金曜日 Jチャン+内で放送) 10月23日放送 (テレビ番組). 鹿児島放送. 2020年12月12日. 2021年5月9日閲覧.
  30. RADIO BURN+ 1031 Vol.460 (ラジオ番組). 南日本放送. 2020年10月31日. 該当時間: 36m35s. 2021年5月9日閲覧.

関連項目

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外部リンク

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