コウモリ

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コウモリ
生息年代: 始新世初期-現在, 52–0 Ma
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
上目 : ローラシア獣上目 Laurasiatheria
: コウモリ目(翼手目) Chiroptera
学名
Chiroptera Blumenbach1779
和名
コウモリ(蝙蝠)
英名
bat
亜目

または

コウモリ目の生息域
鉱山の坑道で冬眠しているコウモリ(種不明)

コウモリ蝙蝠)は、脊椎動物亜門哺乳綱コウモリに属する動物の総称である。別名に天鼠(てんそ)、飛鼠(ひそ)がある。

コウモリ目は翼手目ともいう。約980程が報告されているが、その種数は哺乳類全体の4分の1近くを占め、ネズミ目齧歯類)に次いで大きなグループとなっている。極地ツンドラ高山、一部の大洋上の島々を除く世界中の地域に生息している。

名称の由来

「コウモリ」の名は古語に「かはほり」、「かはぼり」と呼ばれたものが転訛したものである。平安時代の『本草和名』では、コウモリを「加波保利」(かはほり)として紹介しており、現在の「こうもり」という名は、この「かはほり」(かわほり)に由来する。

特徴

コウモリ目はをもち、完全な飛行ができる動物である。前肢が翼として飛行に特化する形に進化しており、多くの鳥類と同様、はばたくことによって飛行するが、コウモリの翼は鳥類の翼と大きく構造が異なっている。鳥類の翼は羽毛によって包まれているが、コウモリの翼は飛膜と呼ばれる伸縮性のあるでできている。哺乳類では、他にもムササビモモンガヒヨケザルなどの飛膜を広げて滑空する種が知られているが、鳥類に匹敵するほどの完全な飛行能力を有するのはコウモリ目のみである。

コウモリの前肢(前足)は、親指が普通のの形で鉤爪あることをのぞけば、すべて細長く伸びている。飛膜はその人差し指以降の指の間から、後肢(後ろ足)の足首までを結んでいる。と指を伸ばせば翼となって広がり、腕と指を曲げればこれを折りたたむことができる。さらに後ろ足との間にも飛膜を持つものも多い。また、鳥と異なり、後ろ足は弱く、立つことができない。休息時は後ろ足でぶら下がる。前足の親指は爪があって、排泄時など、この指でぶら下がることもできる。また、場合によってはこの指と後ろ足で這い回ることができる。

ココウモリ類は超音波を用いた反響定位(エコーロケーション)を行うことでよく知られている。種によって異なるが、主に3万から10万ヘルツの高周波を出し、その精度はかなり高く、ウオクイコウモリのように微細な水面振動を感知し、水中を捕らえるものまでいる。コウモリの存在する地域における夜行性の昆虫やカエルなどは反響定位対策となる器官習性を持つものも多く、その生態系ニッチの大きさがうかがえる。ただし、大型のオオコウモリの仲間は反響定位を行わない種が多い。

竿和竿)の先に鳥黐を付け、それを振ってコウモリをおびき寄せ、接着させて捕獲することができる。しかし、コウモリは狂犬病ウイルスを持っている可能性がある(なお、日本では1956年昭和31年)以降の狂犬病の発症例はない)ので、特に日本以外で子供などが安易に遊びで捕らえるのは避けたほうが良い。

熱帯においては、花粉を食べる種があるため、それに対する適応として花粉の媒介をコウモリに期待する、コウモリ媒の花がある。

進化

恐竜の栄えた中生代において、飛行する脊椎動物の主流は恐竜に系統的に近い翼竜と恐竜の直系子孫である鳥類が占めていた。中生代の終結において、恐竜とともに翼竜は絶滅し、鳥類も現生の鳥類に繋がる新鳥類以外の系統が絶えた。これにより、飛行する脊椎動物という生態系ニッチには幾分か「空き」ができた。ここに進出する形で哺乳類から進化したのがコウモリ類である。コウモリが飛行動物となった時点では、鳥類は既に確固とした生態系での地位を得ていたため、コウモリはその隙間を埋めるような形での生活スタイルを得た。

コウモリの直系の祖先にあたる動物や、コウモリが飛行能力を獲得する進化の途上過程を示す化石は未だに発見されていない。恐らく彼等は樹上生活をする小さな哺乳類であり、前肢に飛膜を発達させることで、樹上間を飛び移るなど、活動範囲を広げていき、最終的に飛行能力を得たと思われる。確認される最古かつ原始的なコウモリはアメリカ合衆国ワイオミング州産のオニコニクテリスで、始新世初期(約5200万年前)の地層から化石が発見されている。この時期には既に前肢は(現生群に比べ短いなどの原始的特徴が目立つものの)翼となっており、飛行が可能になっていたことは明白である。化石からの構造を詳細に研究した結果、反響定位を持っていなかったことが判明し、コウモリはまず飛行能力を得たのちに、反響定位を行う能力を得たことが分かっている。

分布

コウモリ目は南極以外の全大陸分布し、さらに海洋にも広く分布する。このような例は人為分布を除いては哺乳類の中では他にない。これは、哺乳類が(クジラ類などの例外を除けば)陸上動物であり、しかも大きく進化したのが大陸移動による各大陸の分裂後であったため、陸橋等の存在如何でその分布が大きく制限されているのに対し、コウモリ目は鳥類同様に翼による飛翔能力を持ち、海などによって遮られた場所でも自由に移動できるためである。

たとえば、ハワイ諸島において、在来の陸上哺乳類はアカコウモリ属の1種のみだった。

分類

位置づけ

古代ローマ博物学者であるプリニウスは、コウモリのことを「翼持つネズミ」と呼び、鳥類に分類していた。江戸時代小野蘭山の『本草綱目啓蒙』でも、「かはほり」(コウモリ)はムササビと共に鳥類に分類されている。

近代分類学では哺乳類に分類されたが、当初は、霊長目(サル目)などと共に主獣類として分類されていた。

1990年代からの分子系統の研究により、コウモリ目は食肉目(ネコ目)、鯨偶蹄目奇蹄目(ウマ目)、有鱗目(センザンコウ目)などと共に、ローラシア獣上目の系統に属することが明らかになった。なお、主獣類は多系統だったもののコウモリを除けば単系統であり、真主獣類として現在も認められている。

2006年東京工業大学のグループによる研究(レトロポゾンの挿入の分析)によって、コウモリはローラシア獣の中でも奇蹄目食肉目・有鱗目に近縁であることが明らかにされている[1]。奇蹄目のウマと翼を持つコウモリが含まれることから、ギリシャ神話の有翼馬であるペーガソス (: Πήγασος, Pēgasus) にちなんだ Pegasoferae がこの系統の名称として提案されている。

オオコウモリとココウモリ

伝統的に、コウモリ目はオオコウモリ亜目(大翼手亜目、オオコウモリ)とコウモリ亜目(小翼手目、ココウモリ)に分けられてきた。

オオコウモリはその名のとおり大型のコウモリの仲間で、オオコウモリ科の1科のみが属する。中には翼を広げた幅が2mに達する種もある。よく発達した視覚によって、植物性の食物を探す。果実を好み、農業従事者からは害獣として扱われる場合もある。オオコウモリのほとんどの種は反響定位を行わない[2]

ココウモリは小型のコウモリの仲間で、17科が属し、多くの種に分かれている。多くが食虫性であるが、植物食、肉食、血液食など、さまざまな食性の種がいる。コウモリ亜目の特徴は、反響定位をすることである。超音波を発し、その反響を検知することで、飛行中に障害物を避けたり、獲物である昆虫等を見つけたりすることができる。

オオコウモリとココウモリには、翼をもつという共通点があるが、それを除けばあまりにも多くの違いがあるため、別々の祖先から進化し、独立に飛行能力を獲得したのではないかという説もあった。しかし、最近のミトコンドリア DNA 配列の解析により、オオコウモリとココウモリは系統的にも近縁であることが明らかになっており、どちらも飛行能力を初めて獲得した共通の祖先から進化したものと考えられている。

また、2000年になり分子系統によって、コウモリ亜目は側系統であり、コウモリ亜目の一部はオオコウモリに近縁であることがわかった。 その系統に基づき、コウモリ目は Yangochiroptera 亜目と Yinpterochiroptera 亜目に分類しなおすことが提案されている。 Yangochiroptera 亜目はココウモリの一部、Yinpterochiroptera 亜目はココウモリの残りとオオコウモリを含むものである[3]

科とおもな種

エジプトルーセットオオコウモリ
Rousettus aegyptiacus(オオコウモリ科)
ヨーロッパオヒキコウモリ
Tadarida teniotis(オヒキコウモリ科)
ピータークチビルコウモリ
Mormoops megalophylla(クチビルコウモリ科)
シロヘラコウモリ
Ectophylla alba(ヘラコウモリ科)

以下は上述の新しい分類にもとづくものである。

日本のコウモリ

アブラコウモリ。日本ではコウモリに感染症の報告はないが[4]、野生動物全般に言えることとして、人畜共通感染症の可能性があり、噛まれたり引っ掻かれたりしないように注意し、接触後は手を洗うべきである[5]

日本では、移入種を除く約100種の哺乳類のうち、約3分の1に当たる35種(種数は分類説により若干変動する)をコウモリ類が占めており、約4分の1に当たるネズミ目(齧歯類)24種を抑えて、最多の種数を擁している。また、近年は琉球列島の島々に固有種が発見されている。

このうち、オオコウモリ類は熱帯性で、日本では小笠原諸島南西諸島にのみ分布する。

ただし、個々の種についてみれば、個体数が少ないと判定されているものもあり、多くの種がレッドデータブック(環境省版)入りとなっている。これには、日本ではコウモリの研究者が少なく、生息調査も散発的であるという事情もあるが、実際に絶滅の危険がある状態にあると考えられているものも多い。特に、森林性のコウモリについては、その生活の場である自然の広葉樹林と、それ以上に、住みかとなる樹洞ができるような巨木が極めて減少しており、棲息環境そのものが破壊されていることが、大きな問題となっている。コウモリ用の巣箱などが工夫されているが、普及していない。

洞穴に生活するものは、集団越冬の場所などが天然記念物となっている場所もある。いずれにせよ、彼らの生活そのものも、未だに謎が多い。ユビナガコウモリなど、集団繁殖する種もある。これらのものでは、季節的に大きな移動を行っている可能性が高いが、具体的な習性については、現在研究が進められつつある段階である。

日本在来種

文化

中国の伝統的な装飾におけるコウモリの図案
福山市章。福山という地名の由来は、福山城のある蝙蝠山の「蝠」が福に通ずるためである。市章はコウモリと山をかたどっている[6]

一般にコウモリといえば西洋では吸血鬼につながるイメージがあるが、実際には他の動物の血を吸う種チスイコウモリ)はごくわずかであり、たいていは植物(主に果実)やなどの小動物を食べる。東洋では歴史的にコウモリを嫌忌する伝統はない。むしろ、中国語で「蝙蝠」 (biānfú) の音が「が偏り来る」を意味する「偏福」 (piānfú) に通じるため、象徴とされている。またキューバの絶滅した先住民タイノス(タイノ族)族はコウモリが健康、富、家族の団結などをもたらすと信じており、同地で創業した世界的ラム酒バカルディのロゴマークに採用されている。


日本では蚊食鳥(カクイドリ)とも呼ばれ、かわほりの呼称とともに夏の季語である。蚊を食すため、その排泄物には難消化物の蚊の目玉が多く含まれており、それを使った料理が中国に存在するとされる(四川料理#夜明砂のスープ)。

「強者がいない場所でのみ幅を利かせる弱者」の意で、「鳥無き里の蝙蝠」というがある。また、織田信長はこれをもじって、四国を統一した土佐大名長宗我部元親を「鳥無き島の蝙蝠」と呼んだ[7]。この「鳥無き島の蝙蝠」のフレーズは、古くは『未木和歌抄』巻第二十七に平安末期の歌人和泉式部の歌に「人も無く 鳥も無からん 島にては このカハホリ(蝙蝠)も 君をたづねん」とあり、鎌倉期の『沙石周』巻六にも「鳥無き島のカハホリにて」とあることから、少なくとも12世紀には記されていたものとわかる。

沖縄の八重山人は蝙蝠の子孫を称していた(厳密には、クビワオオコウモリの亜種であるヤエヤマオオコウモリの子孫ということになる)。この他、琉球諸島の各島々の伝説では、人間以外の生物に起源を求めるものが多く、蝙蝠起源はその内の一つである。島民は自らの先祖である動物を敬い、大切にしたが、各島民が互いに悪口をいう際は、「○○の子孫が」といった風になったという。

コウモリは分類学上は哺乳類であるが、鳥と同様に翼を持ち飛行することが可能である。これを参考にしたイソップ童話卑怯なコウモリ」がある。獣と鳥が争う中、コウモリはどっちにもいい顔をし、結果どちらからも嫌われてしまう童話であり、現在でもどっちつかず、八方美人的な人や行動を比喩する表現として「コウモリ」を使用することがある。しかし、イソップ寓話の原典に戻ると、鼬に捕まったときに自分は鳥ではなく鼠だと言って放免してもらい、 鼠はみな仇敵だと言う別の鼬に捕まった時には、自分は鼠ではなく蝙蝠だと言ってまたも逃がしてもらうというエピソードを通じて、「状況に合わせて豹変する人は、しばしば絶体絶命の危機をも逃げおおせる、ということを弁えて、いつまでも同じところに留まっていてはならない」という見習うべき教訓を象徴する動物とされていることが分る。

中国では、コウモリ(蝙蝠)の「蝠」の字が「福」に通ずることから、幸福を招く縁起物とされる。百年以上生きたネズミがコウモリになるという伝説もあり、長寿のシンボルとされている。そのため西洋の影響を受ける明治中期ごろまでは日本でも中国の影響で縁起の良い動物とされており、日本石油(現:JXエネルギー)では1980年代初頭まで商標として用いられ[8]、また福山城のある蝙蝠山を由緒とする広島県福山市の市章の使用例や長崎のカステラ福砂屋などはコウモリを商標としている。日本では、使用例は少ないが、コウモリの家紋も存在する[9]

上記の通り吸血種のみがクローズアップされて吸血鬼の眷属、あるいはその化身として描かれることもあり、また天使が背中に白い鳥の翼を持つとされるのに対して悪魔は背中にこのコウモリの翼を生やしているとされる。日本では仮面ライダーシリーズに登場する蝙蝠男(蝙蝠系の怪人)がその例といえる。一方で、黄金バットバットマンのように正義のヒーローのモチーフとして扱われることもある(大衆正義のスーパーマンに対し、バットマンは個人正義に例えられる)。なお平成仮面ライダーシリーズにおいては蝙蝠を模したヒーロー(『仮面ライダー龍騎』の仮面ライダーナイト、『仮面ライダーキバ』)が登場している。

コウモリの名を持つ生き物

おおむね翼を広げたような姿のものが多い。

脚注

  1. ^ Nishihara, H.; Hasegawa, M.; Okada, N. (2006). “Pegasoferae, an unexpected mammalian clade revealed by tracking ancient retroposon insertions”. Proc. Natl. Acad. Sci. USA (26): 9929-9934. doi:10.1073/pnas.0603797103. 
  2. ^ 例外的に洞窟性のルーセットオオコウモリの仲間は反響定位を行う。
  3. ^ Mark S. Springer, M. S.; Teeling E. C.; Madsen, O.; Stanhope, M. J.; de Jong, W. W. (2001). “Integrated fossil and molecular data reconstruct bat echolocation”. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98 (11): 6241-6246. doi:10.1073/pnas.111551998. http://web.gc.cuny.edu/eeb/academics/articles/springer-bats.pdf. 
  4. ^ 知っておきたいコウモリ類の感染症と予防対策 (PDF) 国土交通省国土技術政策総合研究所 」、「リッサウイルス感染症(感染症の話)2006年第20週(5月15-21日)掲載 国立感染症研究所獣医科学部 井上智」、「コウモリからうつる病気 ニュースレター JOMF:財団法人 海外邦人医療基金」 いずれも2013年1月16日閲覧。
  5. ^ 人と動物の共通感染症に関するガイドライン (PDF) 環境省自然環境局総務課動物愛護管理室 2007年3月」、「哺乳類標本の取り扱いに関するガイドライン日本哺乳類学会:哺乳類取扱のガイドライン」、「日本鳥学会 鳥インフルエンザ問題検討委員会報告書 (PDF) 日本鳥学会 鳥インフルエンザ問題検討委員会 2004年6月22日」 いずれも2013年1月16日閲覧。
  6. ^ 市章の由来 福山市(地方自治体) 2015年6月26日閲覧
  7. ^ 土佐物語』巻第十「長宗我部弥三郎実名の事」において、「信長がニッコリ笑って、元親は鳥無き島の蝙蝠なり」と語ったと記述される。
  8. ^ 1960年代初頭までは、ハイオクの「コウモリガソリン」や「コウモリ灯油」といった、自社商標を冠した石油製品が発売されていた。
  9. ^ [月に蝙蝠01 家紋研究]”. 有限会社染色補正森本. 2013年9月1日閲覧。

参考文献

  • コウモリの会 編『コウモリ識別ハンドブック』文一総合出版、2005.8.

関連項目

外部リンク