吸血鬼
吸血鬼(きゅうけつき)は、民話や伝説に登場する存在で、生命の根源とも言われる血を吸い[1]。 その存在や力には実態が無いとされる[2]。
狼男、フランケンシュタインの怪物と並び、「三大怪物」と呼ばれる。
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概要 [編集]
ブラム・ストーカーの『ドラキュラ』、シェリダン・レ・ファニュの『カーミラ』など、多くの創作において登場してきた。生と死を超えた者、または生と死の狭間に存在する者、不死者の王とされる。凶悪な犯罪者の通称としても使われる[1]。バンパイヤ、ヴァンパイヤ、ヴァンピールなどとも書かれる。
一般に吸血鬼は、一度死んだ人間がなんらかの理由により不死者として蘇ったものと考えられている。現代の吸血鬼・ヴァンパイアのイメージは、ヨーロッパの伝承に起源をもつものが強い。吸血鬼の伝承は世界各地で見られ、東ヨーロッパのヴァンパイアに加え、アラビアのグール、中国のキョンシー等がある。この場合、吸血鬼という名称が用いられているが、人間の血を吸う行為は全ての吸血鬼伝承に共通するものではない。
多くの吸血鬼は人間の生き血を啜り、血を吸われた人も吸血鬼になるとされている。
発祥 [編集]
カタレプシー(蝋屈症)を死亡と信じた人々によって埋葬され棺の中で蘇生した人や、死蝋など埋葬された時の条件によって腐りにくかった死体への錯誤、あるいは黒死病の蔓延による噂の流布により生まれたとされる[1]。
語源 [編集]
諸説有るが、1730年代における英語の出版物に「Vampire(Vampyre)」の文字があるため、それ以前の時期から使われていた語とされている。一般的にはリトアニア語の「Wempti(飲む)」由来とされる他、トルコ語の「Uber(魔女)」、セルビア・クロアチア語の「Pirati(吹く)」も提唱される。
ただしヴァンパイアという言葉が一般的に使用されるようになる以前から世界各地にヴァンパイア伝説があり、それぞれの名前で呼ばれている[1]。
日本では、人型の異形の存在全般について鬼とする語彙が有り、血を吸う異形の存在であるヴァンパイアの日本語訳として吸血鬼という名称が作られた。
伝承の吸血鬼 [編集]
一度死んだ人間が蘇ったもの、生きているもの、幽霊のように実体が無いもの、魔女、精霊や妖怪などの人間ではない存在、狼男、変身能力を持った人間、吸血動物、睡眠時遊行症者が該当する[1]。
古くから血液は生命の根源であると考えられており、死者が血を渇望するという考えも古くから存在する。例えばアステカでは人間の心臓と血液を捧げる血の儀式があり、キリスト教では血が神聖視され[1]、古代ギリシアに書かれたオデュッセイアでは、オデュッセウスが降霊の儀式を行う際に生け贄の子羊の新鮮な血を用いるくだりがある。このようなイメージが吸血鬼を生み出したと考えられる。
吸血鬼伝承の形態は、全ての民間伝承がそうであるように地域や時代によって一定しないが、一度は葬られた死者が、ある程度の肉体性を持って活動し、人間・家畜・家屋などに害悪を与えるという点では、おおむね一致している。
吸血鬼の姿 [編集]
ぶよぶよした血の塊のようなものであるか、もしくは生前のままであるとされることが多い。両者とも、一定の期間を経れば完全な人間になるとされることもある。また、様々な姿に変身することが出来るとされる。吸血鬼は、虫に変身する、ネズミに変身する、霧に変身するなどの手段を用いて棺の隙間や小さな穴から抜け出し、真夜中から夜明けまでの間に活動するものとされた。また、地域によって異なるが、特定の月齢や曜日、キリスト教の祭日などの日には活動できないとされる場合が多い。吸血する際は、長い牙が出現するとされている。また、最近では、獲物である人間を惹きつけるために、美しい容姿を持つとされることが多い。
吸血鬼となる理由 [編集]
死者が吸血鬼となる場合は、生前に犯罪を犯した、神や信仰に反する行為をした、惨殺された、事故死した、自殺した、葬儀に不備があった、何らかの悔いを現世に残している、などの例が挙げられる。また、これらの理由以外にも、まったく不可解な理由によって吸血鬼になることもあるとされた。そのため吸血鬼の存在が強く信じられた地域では、墓に大量の黍を捲く、にんにくを置く、茨を置く、一定期間墓の周りで火を焚き続ける、などの予防措置がほぼ全ての死者に対して行なわれた。
吸血鬼がその活動によって与える害悪としては、眼を見る・名前を呼ぶ・何らかの方法により血や生気を吸うなどの手段により人を殺す、家畜を殺したり病気にする、家屋を揺さぶる、生前の妻と同衾し子供を産ませるなどの例がある。
最近では、吸血鬼に生き血を吸われた人間や、吸血鬼に殺された人間が吸血鬼になるとされることも多い。
ヨーロッパの伝承 [編集]
ドイツでは胞衣を纏ったまま生まれた者は死後ナハツェーラーと成ると言われる[1]。ヨーロッパにおいて吸血鬼伝承の多くが残る地域はバルカン半島のスラヴ人地域であるが、伝承そのものは、ほぼヨーロッパ全土に存在し、東はアナトリア半島・カフカス・ヴォルガ川沿岸地域にまで確認することが出来る。ギリシャのラミアーは、ラテン語に入ってから女吸血鬼全般を意味するようにもなった。またロシアではウプイリという、人間の顔をした巨大コウモリ(美男や美女に変身できる)が伝承されている。
スラブの人々は4世紀ごろには既に吸血鬼の存在を信じていた。スラヴの民話によると、吸血鬼は血を飲み、銀を恐れる(ただし銀によって殺すことはできない)とされた。また首を切断して死体の足の間に置いたり、心臓に杭を打ち付けることで吸血鬼を殺すことができると考えられていた。
現在の吸血鬼に対する考え方は古代ルーマニアから続いているものである。古代ルーマニアは古来からの宗教や文化が、キリスト教やスラヴ民族と混ざりあう過程を経験した。異なる宗教と文化における矛盾、外からの人々の流入により新たな疫病が持ち込まれ不可思議な死が増加したことに対する答えとして吸血鬼伝承が生まれたと考えられている。この民話では吸血鬼によって殺された者は吸血鬼として復活することになっており、何らかの手段で殺されるまで新たな吸血鬼を増殖させることになる。この段階では吸血鬼は知性のない動物のような悪魔として扱われている。
カトリック教会地域における吸血鬼伝承は12世紀ごろから急激に消滅し、それ以降「夜間活動する死者」の伝承は、肉体性をまったく持たないもの、すなわち日本語で言う幽霊のようなものへと変化している。キリストの復活を重視するローマ教会としては、それ以外の死者の復活を許容できなかった[要検証 ]。また、東ヨーロッパやバルカン半島においては、エムプーサ[3]、モルモー[3]、ヴルコラク[4]、ストリゴイ、ヴコドラク、クドラクなど様々な吸血鬼伝承が存在している。
ルーマニアで最も一般的な吸血鬼はストリゴイ(自殺者、犯罪者、魔女、吸血鬼に殺された者、七番目の息子、猫に飛び越えられた死体、片思いの末に結婚出来ずに死んだ者が成る)である。同地のノスフェラトゥは、私生児の親から生まれた私生児が死後成ると言われており、またノスフェラトゥから生まれた子供はモロイという生ける吸血鬼に成るという。ブルガリアではウボウル・ヴァピール・ヴルコラク、ポーランドではウピオル、ロシアではウピルが知られている[1]。
その他の伝承 [編集]
マレーシアでは空を飛ぶ頭と首のペナンガラン(宗教的な苦行の最中に誤って首を切り落とした女性が成る)、インドネシアでは強姦されて妊娠した女性が甦り、男性の血を吸うスンダル・ボロンが伝えられている[1]。
ヴィクトリア朝以降の吸血鬼 [編集]
永遠の若さをもつとされるのはヴィクトリア朝時代に入ってからである。現在の吸血鬼の多くは、不老不死で知性的な、多くの不思議な力を持つ者として描かれる。吸血鬼は霧、オオカミあるいはコウモリに変身することができるとされる。また、古来から鏡には人間の魂を映し出す力があると信じられていた為、肉体と魂の結びつきが弱いとされる吸血鬼は、鏡にその実像が映らないとされる。
吸血鬼退治 [編集]
吸血鬼の存在を信じていた人々にとっては現実に差し迫った脅威であり、とくに農村部などにおいては、不可解な事件が発生した際に、多くの吸血鬼退治が現実に行なわれた。この吸血鬼退治は、ごくわずかではあるが20世紀になってからも行なわれたことが資料によって確認されている。
具体的な退治方法としては、首を切り落とす、心臓に杭を打つ、死体を燃やす、銀の弾丸もしくは呪文を刻んだ弾丸で撃つ、などの方法が挙げられる。また、葬儀をやり直す、死体を聖水やワインで洗う、呪文などを用いて壜や水差しに封じ込める、などの死体を損壊しない方法がとられることもあった。
吸血鬼退治は、聖俗の両権力から不当に死体を損壊する不道徳な行為であると考えられていたらしく、吸血鬼退治に関する禁令が出ることもしばしばであり、少なくとも近世以降は、吸血鬼という概念は知識階層にはあまり真に受けられるものではなくなっていたことが窺える。ただし農村部などでは、農民の反発を恐れた地方領主や役人が吸血鬼退治を看過することはとくに珍しいことではなく、禁令はたいていの場合無視されていた。
現代の吸血鬼事件 [編集]
21世紀になった現代でも、一部の地域では吸血鬼伝説が色濃く残っている。
2004年1月、ルーマニア南部の寒村で、76歳で他界したペトラ・トーマンが、埋葬後に親族の男性6人によって掘り起こされ、心臓を切り取られるという事件があった。もちろん、現代では犯罪であり、数日後、警察によって捜査、立件された。ペトラ・トーマンは生前は村人に親しまれ尊敬された人物であった。しかし、死後、親族がペトラ・トーマンがよみがえって血を吸った夢を見たといい、また、親族の数人が病気になった。このため、親族の一部はペトラ・トーマンが吸血鬼になったと信じ、前述の凶行に及んだ。切り出した心臓を焼いて灰にし、その灰を病気になった親族に飲ませたところ、悪夢もみなくなり、病気も全快したと犯行に及んだ親族は主張した。
このように一族や地域コミュニティに病気が発生したとき、その原因を一族の死者に求める民俗はヨーロッパに広く見られる。死者の復活を防止するために心臓を抜き出して焼き、死者の首を切断したり、歩けないように足を折って足の位置を変える(足を胸の上に置くなど)、焼いた心臓の灰を病気になった人に飲ませるなどの行為を行う。ヨーロッパだけでなく、ヨーロッパからの移民が多いアメリカでも19世紀までしばしばこうした行為が行われた。
現代の吸血鬼像 [編集]
腕力は人間を遥かに超え、体の大きさを自由に変えたり、コウモリや狼などの動物、霧や蒸気に変身でき、どんな場所にも入り込む。また、催眠術やフクロウ、コウモリ、狼、狐、昆虫といった動物、自然現象(特に嵐や雷など)を操る。トランシルヴァニアの伝説を元にした『ドラキュラ』は現代の吸血鬼のイメージに強い影響を及ぼしており、従って東ヨーロッパの吸血鬼は現代のそれに近い。『ドラキュラ』の登場人物の一人であるヴァン・ヘルシング教授は、吸血鬼を「怪力無双、変幻自在、神出鬼没」と称する[1]。
- ドラキュラのモデルは、ルーマニアのトランシルバニア地方出身の15世紀のワラキア公ヴラド3世(ヴラド・ドラキュラ或いはヴラド・ツェペシュ)と言われているが、この小説が初めてルーマニア語に翻訳されたのは1990年であり、それまで、地元ではヴラド・ドラキュラ公やドラキュラ伯爵は無名の存在だった。なお、実際のトランシルバニアのヴラド一族の領地一帯には吸血鬼伝説はない。また、原作中に言及のあるドラキュラ伯の素性にも史実のヴラド公を思わせるものはなく、ストーカーは単にドラキュラという名前だけを拝借したものと思われる。(ストーカーはアイルランド人であり、「人の生き血を吸う貴族」というのはかなり意味深な暗喩である)。
概して以下のような特徴を持つと言われている。
- 燕尾服もしくはテールコートにシルクハットを被り、赤い勲章を下げ、立襟の黒マント(裏地は赤)を羽織り、翻している古典的なヨーロッパ貴族のような姿が広く有名である。転じて、品が良く高貴なイメージが強い。
- 痩身で肌が青白い。
- 餌である人間を惹きつけるため、美形として描かれることが多い。
- 棺桶の中で眠る。
- 赤ワインや薔薇が血液の比喩として用いられる事がある。
- 鏡に映らない。
- コウモリ、オオカミ、霧、鼠などに変身出来る。
- 吸血鬼についての報告は複数の被害者の主観から語られるのみで、一向に詳細が見えてこない。吸血鬼とは実態が無い存在であり、それは吸血鬼の力と符合している[2]。
- 十字架や香草、銀に弱い。
- 太陽の光にあたると灰になってしまう。
- 十字架、銀の様に強大な吸血鬼には効かない場合もある。
- 蝋燭、香、柊、窓や扉に置いたケシの種・麦・雑穀・漁網は厄避けになると言われる。
- 杭を心臓に打ち込めば死亡する。
- 牙(人間でいう犬歯)が大きく、鋭い。
- 血を吸う相手の首筋に牙を当て、血を吸う。血を吸うときは、瞳が赤く光る。
- 川などの流れる水を越える事ができない(空を飛ぶ動物に変身していたり、橋やボート等があれば別)。
- 初めて訪問した家では、その家人に招かれなければ侵入できない。
- 吸血鬼に血を吸われ死んだ人や、吸血鬼の血液が体内に入った人は、吸血鬼になる。また、血を吸われなくても吸血鬼に殺されれば吸血鬼になる。ただし、吸血鬼に愛された人物は不死能力などを得るだけにとどまる。
- 性別に関係なく、女性を好んで襲う傾向にある。
- 一時的な暗示をかける魔眼をもっている。
- 魔法や魔術の類を操ることができる。
- 血を吸われる相手には性的な快楽がある。
創作の題材としての吸血鬼 [編集]
- 作品リストについては吸血鬼を題材にした作品の一覧を参照。
18世紀以降、多くの東ヨーロッパの吸血鬼伝承及び事件が、西欧に伝えられ始める。これらの伝承や事件は既に低価格化していた出版物によって、一般の間でも流行した。吸血鬼の頻繁な活動が報告された17世紀から18世紀の間は未だ医学が十分に発達しておらず、疫病や迷信のはびこる時代でもあった。そのため不可解な死、カタレプシーや仮死状態からの甦生などが伝承化された。これらの伝承や事件の中には事実として報じられたものもあるが、現代の怪談や幽霊話と同様、信用するに足らないものであった。
文学的モチーフとしての吸血鬼は、バイロンの主治医ポリドリの作でバイロン作と伝えられた『The Vampyre』を嚆矢とする(この作品についてのエピソードはメアリー・シェリー、ディオダディ荘の怪奇談義の項を参照)。19世紀末から20世紀初頭にはブラム・ストーカーのヴラド・ツェペシュをモチーフとした『ドラキュラ』と、それを原作とするユニヴァーサル映画などの映像化によってそのイメージを確立することとなる。他にカーミラ、ノスフェラトゥなどが固有名として有名である。血液で湯浴みをしたバートリ・エルジェーベト(エリザベート・バートリー)やジル・ド・レイも吸血鬼のモチーフに使われる実在した人物である。
ホラーからコメディまでさまざまな要素を加えながら、現在も吸血鬼文学の系譜は旺盛に拡大を続けている。
吸血鬼と呼ばれた実在の犯罪者 [編集]
- ペーター・キュルテン(デュッセルドルフの吸血鬼)
- フリッツ・ハールマン(ハノーヴァーの吸血鬼)
- ジョン・ヘイグ(ロンドンの吸血鬼)
出典 [編集]
- ^ a b c d e f g h i j k l m 栄養源とする存在。 久保田悠羅・F.E.A.R 『アンデッド-Truth In Fantasy 75』 新紀元社、2007年、10-20頁。ISBN 9784775305287。
- ^ a b 加藤光也解説・立野正裕編 『イギリス文学-名作と主人公』 自由国民社、2009年。
- ^ a b 『ヴァンパイア―吸血鬼伝説の系譜』
- ^ 平賀英一郎『吸血鬼伝承 - 「生ける死体」の民俗学』、中央公論新社<中公新書>、2000年、p63、65。
関連項目 [編集]
関連書籍 [編集]
- 『吸血鬼幻想』種村季弘 河出文庫 126A 河出書房新社 ISBN 4309400469
- 『ゴシック名訳集成吸血妖鬼譚』日夏耿之介ほか著訳、東雅夫編伝奇ノ匣9 学研M文庫 ISBN 4059005315
- 『スラヴ吸血鬼伝説考』栗原成郎 河出書房新社 ISBN 4309006965
- 『吸血鬼伝承―「生ける死体」の民俗学』平賀英一郎 中公新書 中央公論新社 ISBN 4121015614
- 『ヴァンパイア―吸血鬼伝説の系譜』Truth In Fantasy 森野たくみ 新紀元社 ISBN 4883172961
- 『吸血鬼伝説』「知の再発見」双書 ジャン マリニー(Jean Marigny) 中村健一訳 創元社 ISBN 4422210882
- 『ヴァンパイアと屍体 死と埋葬のフォークロア』ポール・バーバー 野村美紀子訳 ISBN 4-87502-184-4
- 『図解吸血鬼』森瀬繚 新紀元社 ISBN 4775304801
- 『真実のバンパイア』スティーブン・カプラン(Stephen Kaplan) 宇佐和通訳 廣済堂出版 ISBN 4-331-00721-9
外部リンク [編集]
- 井上嘉孝 吸血鬼と恐れの変容 心理臨床における異界との関わりについての一考察 Vampires and the transformation of fear : a study about the relationship with the other world in psychotherapy
- Charnel House…総合吸血鬼資料館…
- 永遠を生きる
- 吸血鬼の館 幻想館
- 実在の吸血鬼たち