吸血動物

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
ハマダラカの一種Anopheles stephensi
靴下から滲み出た血に集まる蝶

吸血動物(きゅうけつどうぶつ、英語:hematophagy、haematophagy、hematophagia)は、人間や動物の血液を吸う動物。生存のために主に血液のみを摂取するものと、生存のための主食は別にありながら産卵に際して卵巣を発達させるためにときおり血液を吸うものがある。

ヒトを攻撃するものの中にも、ヒトのみを襲うもの、広くは哺乳類を襲うが、その一つとしてヒトも襲うもの、偶発的に人を攻撃するものがある。前者については人間の居住環境の中に生息地を持つものが多く、衛生的な環境では見られなくなるものが多い。後者については、そのような地域にはいるときに注意すればよい。

概説[編集]

血液は栄養に富む上、大型動物の体からは大量に入手できるから、これを栄養源とする生物がいるのは不思議ではない。ある意味で消化管ではなく体腔や血液中に生息する寄生生物は血液を栄養源としていると言っていいが、普通はこれらは吸血性とは言わない。また、フクロムシのように体内に根を伸ばすようなものもこう呼ばない。肉食性の動物は、相手の肉と共に血液を摂取して水分や栄養を補給しているが、これも吸血とは呼ばない。

普通は吸血性とは獲物の体表面にストローのような針を刺して血を吸うか、皮膚を傷つけて出てきた血を食用とするものを指す。血液は血管を傷つけると固まってしまい、吸い出せなくなるから、これを阻止する成分を注入するのが普通である。その成分に対するアレルギー反応などでその部位がかゆくなったり腫れたりする例が多い。

攻撃対象となる動物から見れば、吸血性動物は嫌な相手である。これは人間だけでなく、たとえばニホンジカはアブに刺されると可能な限りこれを捕まえて食べてしまうという。ヒトの体毛が薄くなったのは吸血性動物を捕りやすく、たかられにくくするための適応であったとの説がある。

それ以上に、吸血動物は、血液を吸ってその種の動物個体間を移動する可能性があるから、その体内に寄生する寄生生物にとっては、宿主間移動のための手段として利用できる。そのため、吸血動物を介して感染する寄生生物は少なくない。それが病原体の場合、吸血動物を介して感染が広がるので、そのような吸血動物をベクターという。は熱帯地方で多くの伝染病のベクターとして働いている。このような観点からも、吸血動物を一般に衛生害虫のひとつとする。

生活の型[編集]

血を吸う動物には、攻撃対象の動物のすぐそばに常駐するものと、離れた場所にいて、攻撃対象を探してやってくるものがある。例えばカやアブは前者である。後者にもいくつかの型があり、トコジラミは人家や動物の巣内にいて、その動物がそこに戻ってきたときに吸血のために接近する。ノミシラミは常に動物の体表にいて、必要に応じて吸血する。さらにマダニの場合には体表上で口吻を皮膚に突き刺して固着する。ノミやシラミ、マダニのような型は外部寄生虫といわれる。スナノミでは雌は皮膚に固着すると、次第に皮膚に覆われて内部寄生的になる。完全に体腔や血管中に侵入するような寄生虫はもはや吸血動物とは言わない。

また、常時血液を栄養とするもの、産卵など特殊な栄養を必要とするときのみ吸血するものがある。カは後者の代表で、産卵のためには血液を必要とする。ただし、チカイエカは血を吸わなくても少数であれば産卵することができ、これがこの種の防御を困難にしている面がある。また、生活史のある段階にのみ吸血を必要とするものもある。ツツガムシは若虫の段階でネズミの血を吸い、成虫は地表で微小昆虫などを捕食する。

偶発的な吸血[編集]

普段は他の動物の血を吸っているものが、たまたま他の動物の血を吸う、という例もある。これが問題になるのは当然ながらヒトが攻撃対象になる場合である。どこで何に攻撃を受けるかを知る必要があるからである。

偶発的といっても様々な例がある。普段は人を襲わないと言っても、それは出会わないだけ、というのもある。たとえば山奥にいるアブやヤマヒルはこれに当たる。これらは頻度の問題だけで、ヒトを攻撃対象から外しているわけではない。 ノミやシラミはヒトに専門に寄生する狭食性の種があり、他の動物、たとえばイヌやネコにも同様のことが言える。これらの場合、それぞれの生活史を全うするにはそれぞれの決まった宿主が必要とされるが、ノミの場合にはこうした制約は比較的ゆるく、一時的には他の種の血液も利用可能であったり繁殖も可能であることが少なくない。そのためネコノミにヒトが血を吸われるような例は珍しくない。これも偶発的な吸血である。シラミの場合には本来の宿主以外での繁殖はおろか、吸血ですらほぼ不可能であることが通例であるので偶発的な吸血はほぼないと言ってよい。

ヒトにとってより偶発性の高い吸血被害は、本来は脊椎動物からの吸血を行わないものがそれを行う場合である。たとえばツメダニは捕食性のダニであり、コナダニなどに噛み付いて体液を吸収して生活している。ところが、これがヒトに噛み付くことが少なくなく、顕著な被害が出る。シラミダニ類はガの幼虫などの昆虫から吸血して生活史を全うしているダニであるが、稲藁の中に潜むメイガの幼虫などで繁殖したものが、やはりヒトから偶発的に体液を吸おうとすることがあり、ツメダニ以上の激しい症状を引き起こす。

さらに不思議なのは、そもそも食肉性ですらないものの例である。イネ害虫として有名なツマグロヨコバイは夜間に明かりに集まるので、人家にもよく侵入するが、これがヒトの皮膚に飛び移ったときに、少なからぬ頻度で植物に止まっているときと同様に口吻を皮膚に突き立てて口針を挿入する。こうした行動は他のヨコバイ類やウンカ類でも見られ、しばしば痛みや激しい痒みを生じる。

吸血動物の例[編集]

環形動物[編集]

ヒル
池沼・森林・海などの水辺で生活する。雌雄同体で、多くのものは軟体動物やミミズなど他の小動物を捕食するが、一部に魚類、両生類、哺乳類といった脊椎動物から吸血するものが知られている。傷口から無理に引きはがすと、組織が皮膚に残り、かゆみが残ったりする。

節足動物[編集]

産卵のためのみに吸血するもの[編集]

もっとも馴染みの深い吸血生物。彼らの主食は果汁や花の蜜であり、メスが産卵期に蛋白質の摂取のために血を吸う。吸血行為はメスだけが行う。蚊柱はオスが集まってできているので、蚊柱に突っ込んで刺された記憶がある人は少ないだろう。

生活のために吸血するもの[編集]

トコジラミ
人間やコウモリを攻撃。
ノミ
ヒトノミネコノミはヒトにも寄生して吸血する。ネズミノミペストを媒介。これらの種はその他様々なほ乳類にも寄生。
シラミ
様々なほ乳類に寄生、種ごとに宿主や攻撃部位が異なる。
ハエ目
サシバエツェツェバエ等。
ダニ
マダニ類は広くほ乳類やは虫類、鳥類を攻撃、一度噛み付くと離れない。イエダニワクモはネズミなどの血を吸い、時折ヒトの血を吸いに来る。シラミダニツメダニなどは食虫性ながら偶発的に攻撃。ツツガムシは幼虫がネズミの血を吸い、偶発的にヒトを攻撃・ツツガムシ病を媒介。
チョウ(ウオジラミ)

脊索動物[編集]

チスイコウモリ
中南米に生息し、動物の血液を摂食するコウモリ。血液で食事を摂るコウモリは世界に3種確認されているが、2種は鳥類の血液を摂食するため、哺乳動物から吸血する唯一の種。吸血鬼の化身といえばコウモリだが、ほとんどのコウモリは、虫を食べたり花の蜜を吸うだけで、血を吸うことはない。吸血鬼の化身としてのコウモリ像が一般化したのは近代以降の文芸作品や映画の影響が強く、伝統的なものではない。主に家畜の足などにかみそりのような門歯で傷をつけ、傷口から他の吸血動物同様に血液の凝固を唾液の成分で防ぎつつ、舌でなめとる。既に他個体が吸血のためにつけた傷を次々に利用するため、コウモリの個体に比してつけられる傷はそれほど多いものではない。
ハシボソガラパゴスフィンチ(吸血フィンチ)
ガラパゴス諸島北西端のウォルフ島に生息する、ダーウィンフィンチ類の一種。元々植物食性であったが、同じ島に住むカツオドリの翼の付け根をつつき、流れ出た血液を吸う。鳥類が鳥類の血液を餌とする唯一の例とされる。
ヤツメウナギ

ヒトを攻撃するもの[編集]

環形動物[編集]

ヒル
ヒトの血を吸うのは数種に限られる。日本では水田などのチスイビルと陸生のヤマビルがその代表である。

節足動物[編集]

唾液に血液の凝固を防ぐ物質など吸血を容易にする種種の生理活性物質が含まれていて、これが免疫応答を引き起こすなどしてかゆみの原因になる。熱帯地域のみならず、温帯でもマラリアや多くの熱病の媒介源になっている生物でもある。
トコジラミ
人間だけを攻撃。現在の日本ではほとんど発見不可能。
ノミ
ヒトノミは人間専用。猫やイヌのノミは偶発的に攻撃。ネズミノミはペストを媒介。
シラミ
三種あり、すべて人間専用で、種ごとに攻撃部位が異なる。コロモジラミが発疹チフスを媒介。
ダニ
マダニ類は広くほ乳類を攻撃、一度噛み付くと離れない。イエダニは時折血を吸いに来る。シラミダニ・ツメダニなどは偶発的に攻撃。ツツガムシは幼虫が偶発攻撃・ツツガムシ病を媒介。
ハエ目
サシバエツェツェバエ等。

伝承上の吸血生物[編集]