ツツガムシ病

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
ツツガムシ病
分類及び外部参照情報
ICD-10 A75.3
ICD-9 081.2
DiseasesDB 31715
eMedicine derm/841 ped/2710
MeSH D012612
プロジェクト:病気Portal:医学と医療
テンプレートを表示

ツツガムシ病(つつがむし・びょう)は、ツツガムシリケッチアOrientia tsutsugamushi)の感染によって引き起こされる、人獣共通感染症のひとつであり、野ネズミなどに寄生するダニの一群であるツツガムシが媒介する。

概要[編集]

「新型」と「古典型」のふたつの型のツツガムシ病に分類される。日本紅斑熱と症状が酷似している。ツツガムシ病はオーストラリア、アジアにも広く存在する。刺された覚えのない発病者も多く、症状の初期はインフルエンザ様を示す事もあり、医師がリケッチア感染症を疑い早期に確定診断することが重要になる。別名、薮チフスとも呼ばれるが、病原菌は腸チフスパラチフスを含むサルモネラ属ではなく、発疹チフスを含むリケッチア科に含まれる。古典型は山形県秋田県新潟県などで多く発生していたが、新型は沖縄県[1]や離島[2]など全国的に発生が報告されている。

名前の由来[編集]

手紙などで、相手の安否などを確認する為の常套句として使われる『つつがなくお過ごしでしょうか…』の『つつがなく』とは、ツツガムシに刺されずお元気でしょうかという意味から来ているとする説が広く信じられているが、これは誤りである。

もともと「恙」(つつが)は病気や災難という意味であり、そうでない状態として「つつがない」という慣用句ができた。これと別に正体不明の虫さされのあとに発症する原因不明の致死的な病気があり、それは「恙虫」(つつがむし)という妖怪に刺されて発症すると信じられていた。これをツツガムシ病と呼んだ訳だが、後に微細なダニの一種に媒介される感染症であることが判明し、そこからこのダニをツツガムシと命名したものである。

分類[編集]

古典型ツツガムシ病[編集]

ツツガムシ病は、古くは山形県・秋田県・新潟県などの地域で夏季に河川敷信濃川阿賀野川最上川等)で感染する風土病で、死に至る病として恐れられていた。これは、リケッチアを持つアカツツガムシ(Leptotrombidium akamusi)というダニに吸着されて発症する。春~夏に多い。大河津分水路建設工事において多数の作業従事者が古典的ツツガムシ病に倒れている。1950年頃から患者の発生数は減少している。

新型ツツガムシ病[編集]

第二次世界大戦の後は古典型はほとんど見られなくなり、かわってタテツツガムシ(L.scutellare)やフトゲツツガムシ(L.pallidum)というダニが媒介して発症するものが出現した[1]。北海道を除く全国で発生が見られる。古典型とは異なり、秋~初冬に発生が見られる。2つの型で発生時期が違うのは、それぞれのダニの活動時期の違いによる。

媒介者[編集]

アカツツガムシ(Leptotrombidium akamusi)、タテツツガムシ(L.scutellare)、フトゲツツガムシ(L.pallidum)などがあり、それぞれのダニの0.1~3%が菌を持っている(有毒ダニ)。ツツガムシは土壌昆虫の卵などを捕食する捕食性のダニであるが、卵から孵化した直後の第1期の幼生である幼虫のみが、生涯で1度だけネズミなどの温血動物の皮膚に吸着し、組織液や崩壊組織などを摂取する(血液は吸わない)。吸着を受けたネズミやヒトなどの動物はこの吸着時にリケッチアに感染する。吸着時間は1~2日で、ダニから動物への菌の移行にはおよそ6時間以上が必要である。菌はダニからダニへと経卵感染により受け継がれ、菌を持たないダニ(無毒ダニ)が感染動物に吸着しても菌を獲得できず、有毒ダニにならない。

臨床所見[編集]

血清型[編集]

ツツガムシリケッチアには血清型が存在し、主に6 種類の血清型(Gilliam,Karp,Kato,Kawasaki,Kuroki,Shimokoshi) に分類される。そのうち KatoKarpGilliamの3種類は標準型と呼ばれ、KurokikawasakiShimokoshiは新しい型である。一般的な商業的検査機関の検査では、標準型KatoKarpGilliam 3種類の検査が行われる[1]

  • Kato型は、東北地方に分布するアカツツガムシが媒介する。古典型ツツガムシである。
  • Karp型・Gilliam型は、概ね東北から九州北部までに分布する。フトゲツツガムシが媒介する。新型ツツガムシである。
  • Kurokikawasaki型は、九州に多く関東にも分布する。タテツツガムシが媒介する。新型ツツガムシである。
  • Gilliam型は、台湾系の型で2008年に沖縄県(宮古島内)で日本国内では初の感染例が報告された[1]

症状[編集]

ツツガムシに刺されてから5-14日の潜伏期ののち、39度以上の高熱とともに発症し、2日目ころから体幹部を中心とした全身に、2-5mmの大きさの紅斑・丘疹状の発疹が出現し、5日目ころに消退する。低ナトリウム血症[3]、筋肉痛、目の充血が見られることもある。 約80%以上の患者の皮膚には特徴的なダニの刺し口が見られる[4]。刺し口は発赤と軽度の腫脹を呈し、水泡から潰瘍化して痂皮(かさぶた)を形成する。発熱・発疹・刺し口は主要3兆候とよばれ90%程度の患者にみられる。倦怠感、頭痛、刺し口近くのリンパ節あるいは全身のリンパ節の腫脹も多く見られる症状である。重症例では、髄膜脳炎[5]播種性血管内凝固症候群や、多臓器不全で死亡することもある。

検査[編集]

  • 一般検査ではCRP強陽性、肝酵素の上昇がほとんどの例に見られる。通常の細菌感染と比較して白血球の上昇が少ないのも特徴といえる。
  • 血清型を血液検査で調べる。間接蛍光抗体法(IFA)または間接免疫ペルオキシダーゼ(IPA)という方法を使って測定が可能である。標準型Kato型・Karp型・Gilliam型は保険適応だが、Kuroki型・kawasaki型は保険が効かず研究機関等でしか行えない。標準型だけの検査では感染を診断できない例が有るため新型も含めた検査が必要と考える意見もある[4][6]

診断[編集]

  • 診断のポイントは、刺し口(esher)とツツガムシに対する血清抗体の測定である。ただし、刺し口は腹部・背部に多く発見しにくい。検査所見は日本紅斑熱のものと類似する[7]ため、鑑別が必要。特徴的な紅斑発疹が現れない例では確定診断が遅れ重症化する場合もある[8]

予防[編集]

予防ワクチンは無いため、ダニに刺されないことが唯一の予防法である。以下に例を書く。

  1. 汚染地域に発生時期に入らない。
  2. 長袖・長ズボン・長靴手袋を着用し、肌の露出を減らす。
  3. 皮膚の露出部位には、ダニ忌避剤を外用する。
  4. 脱いだ上着やタオルは、不要意に地面や草の上に置かない。
  5. 草の上に座ったり、寝転んだりしない。
  6. 帰宅後は入浴し、脱いだ衣類はすぐに洗濯する。
  • 誤ったダニの駆除方法として、「アルコールや除光液を塗る」、「ライター、マッチの火を近づける」などの方法が言われているが効果はない。症状の原因となる唾液を傷口周辺に広げることになる。[9]

治療[編集]

治療にはテトラサイクリン系の抗菌薬が第一選択。その他、クロラムフェニコールも使用される。早期に十分量・必要期間服用しないと悪化するケースがある。リケッチアの生物学的特性のため(細胞壁ペプチドグリカンをもたない)、ペニシリンをはじめとするβ-ラクタム系抗生物質は無効である。

歴史[編集]

新潟県[編集]

南魚沼地方では、江戸時代から発病が見られていたが、18世紀から19世紀にかけて発生する地域が拡大した。ツツガムシは専ら赤虫と呼ばれ、赤虫に刺されて発病することが知られていたため赤虫除けの加持祈祷が盛んに行われた。赤虫大明神を祀る石柱、石塔も現代まで伝わる。中越地方では信濃川流域を中心に島虫と呼ばれ、島虫神祠が今も残る。1906年には、愛知医学専門学校の林直助が黒津村(現長岡市黒津町)の願敬寺に研究所を置き、ツツガムシが、野ねずみの耳に寄生することを発見した[10]。1912年の発生期(7月-9月)には、浦佐村にツツガムシ病の研究所が開設され、新潟医学専門学校(新潟大学の前身)、東京医科大学のスタッフが風土病対策として研究に携わった。昭和初期までには各集落ごとに赤虫医者と呼ばれる者がおり、民間療法として、刺し口を見つけてツツガムシを針で掘り出す、切り取るなどの処置をしていたという[11]

関連法規[編集]

感染症法の4類感染症に指定されている。

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ a b c d 門馬直太:つつが虫病リケッチアの型別と媒介種との関係 衛生動物 Vol.64 (2013) No.1 p.3-4
  2. ^ 伊豆諸島・利島 (としま) におけるつつが虫病の初報告例および第2例], 感染症学雑誌 Vol.65 (1991) No.5 P591-596, JOI:JST.Journalarchive/kansenshogakuzasshi1970/65.591
  3. ^ 静岡県浜松市における過去7年間のつつが虫病 -低ナトリウム血症に関する検討も含めて-, 感染症学雑誌 Vol. 82 (2008) No. 4 P 335-340, JOI:JST.Journalarchive/kansenshogakuzasshi1970/82.335
  4. ^ a b わが国のツツガムシ病の発生状況 臨床所見, 感染症学雑誌 Vol.75 (2001) No.5 P359-364, JOI:JST.Journalarchive/kansenshogakuzasshi1970/75.359
  5. ^ 髄膜脳炎を合併した新型つつが虫病の1例 日本内科学会雑誌 Vol.86 (1997) No.4 P681-683
  6. ^ わが国のツツガムシ病の発生状況 疫学的考察, 感染症学雑誌 Vol.75 (2001) No.5 P353-358, JOI:JST.Journalarchive/kansenshogakuzasshi1970/75.353
  7. ^ 日本紅斑熱とつつが虫病 日本皮膚科学会雑誌 Vol.124 (2014) No.9 p.1739-1744
  8. ^ 発疹を認めず, 重症化したつつが虫病の1例, 感染症学雑誌 Vol.68 (1994) No.11 P1433-1436, JOI:JST.Journalarchive/kansenshogakuzasshi1970/68.1433
  9. ^ ダニによるかみ傷 メルクマニュアル家庭版
  10. ^ 『ふるさと長岡のあゆみ』長岡市、1986年、187-188頁
  11. ^ 藤倉朋良『図解にいがた歴史散歩<南魚沼>』p184 新潟日報事業社出版部

外部リンク[編集]