レムデシビル

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レムデシビル
Remdesivir.svg
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
法的規制
  • US: Investigational New Drug(臨床試験用の新医薬品)
識別
CAS番号
1809249-37-3 チェック
ChemSpider 58827832
KEGG D11472
別名 GS-5734
化学的データ
化学式 C27H35N6O8P
分子量 602.58 g·mol−1
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レムデシビル: Remdesivir: 瑞德西韦、開発コードGS-5734、レムデジビル[1])は、新規ヌクレオチドアナログのプロドラッグで、抗ウイルス薬ギリアド・サイエンシズが開発し、エボラ出血熱及びマールブルグウイルス感染症[2]の治療薬として、後に、一本鎖RNAウイルス(RSウイルスフニンウイルスラッサ熱ウイルスニパウイルスヘンドラウイルスコロナウイルスMERSおよびSARSウイルスを含む))に対して抗ウイルス活性を示すことが見出された[3]。追跡調査により、2019-nCoVを含む複数のコロナウイルス[4][5]およびニパウイルスとヘンドラウイルス感染症での抗ウイルス活性が明らかとなった[6][7]GS-441524のモノホスホルアミデートプロドラッグ (monophosphoramidate prodrug)。2020年2月現在、米国で開発中の新薬であり、承認薬として日本で使うことができるのは「緊急性を考えて特例扱いだとしても、最短でも2020年内」とされている[8]

背景 [編集]

2015年10月9日、アメリカ陸軍感染症医学研究所(USAMRIID)は、化合物GS-5734がアカゲザルのエボラウイルスを抑制したという心強い前臨床結果を発表した。西アフリカエボラウイルスの流行は2013年から2016年まで続いた。2007年からUSAMRIIDの主任研究員を務めているTravis Warrenは、「この研究はUSAMRIIDとギリアド・サイエンシズとの継続的な協力関係の結果である」と述べている[9]。 有望な抗ウイルス活性を持つ分子を見つけるための「ギリアド・サイエンシズの化合物ライブラリー」を用いた「初期スクリーニング」は、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の科学者によって行われた[9]。 この研究の結果、GS-5734は「潜在的な治療薬としてさらに開発されるべきである」と推奨され、10月7日から11日までサンディエゴ・コンベンションセンターで開催された米国感染症学会英語: Infectious Diseases Society of America(IDSA)の年次IDWeek会議で発表された[9]。 エボラ研究は、最大レベル4の能力を持つ唯一の国防総省の組織である国防総省の、バイオセーフティレベル4の最大封じ込め施設USAMRIID研究所 で実施された[9]。 この研究は、アメリカ国防脅威削減局および国防総省の医療対策システム合同プロジェクト管理室から資金提供を受けている[9]

研究利用[編集]

研究室レベル(Laboratory tests)では、レムデシビルがSARS-CoVやMERS-CoVを含む広範囲のウイルスに対して効果的であることが示唆されている。この薬は、2013年から2016年の西アフリカエボラウイルスの流行を治療するために推進された。安全であることは判明したが、エボラに対しては特に効果的ではなかった。

エボラウイルス[編集]

レムデシビルは、2013年から2016年の西アフリカエボラウイルスの流行のために臨床試験を急速に進められ、当時はまだ初期の開発段階にもかかわらず、少なくとも1人のヒト患者に投与された。予備的な結果は有望であり、2018-2019年のコンゴ民主共和国北キブ州でのエボラ出血熱流行の緊急事態で使用された。コンゴの保健当局によると、2019年8月まで、モノクローナル抗体治療(mAb114やREGN-EB3など)より有意に効果が少なかった。しかし、この試験によって安全性プロファイルが確立された[10][11][12][13][14][15][16]

2019新型コロナウイルス (2019-nCoV)[編集]

コロナウイルス2019-nCoVによって引き起こされた新型コロナウイルス感染症の流行 (2019年-)に対応して、ギリアドは中国の医療機関と協力してその効果を研究するために「少数の患者」にレムデシビルを提供した[17]。ギリアドは、2019-nCoVに対するレムデシビルの臨床検査も開始した。ギリアドは、レムデシビルがSARSおよびMERSに動物実験で「有効であることが示された (shown to be active)」と述べた[18]

2020年1月下旬、2019-nCoVに感染していることが確認された最初の米国の患者に、未承認薬のコンパッショネート使用[19] として、投与された。肺炎に進行した後での投与だったが、患者の状態は翌日劇的に改善し[20]、最終的に退院した[21]。ただし、この急速な回復が薬物の効果によるものであるかどうかを明確に証明することはできない。

2020年1月下旬、中国の医学研究者は、30の薬剤候補の選択を考慮した探索的研究で、そのうちの3つ、レムデシビル、クロロキンロピナビル/リトナビルを、細胞レベルで2019-nCoVに対し「かなり良い抑制効果がある (fairly good inhibitory effects)」と報道機関に対し発表した[22]

2020年2月4日にネイチャーの姉妹誌であるCell Researchに、中国科学院武漢ウイルス研究所などの研究グループが発表したレター(速報論文)によれば、in vitro (試験管内)の環境下で、アフリカミドリザル起源の標準細胞 Vero E6細胞を用いて、レムデシビルを含む7種類の物質の 2019-nCoV(SARS-CoV-2) に対する抗ウイルス効果を、50%効果濃度 (EC50値)を基準として評価する試験を行ったところ、レムデシビルのEC50値は 0.77μM (マイクロモル/リットル)であり、試された7つの物質のうちでは、最も高い効果を示していた[23]

2020年2月6日、中国でレムデシビルの臨床試験が開始された[24]

2020年2月15日付けの科技日报(発行:中華人民共和国科学技術部)は、上記の in vitro 試験の結果に基づいて、レムデシビル以外にも、ファビピラビル、クロロキンの臨床試験を開始したと発表した [25] [26]

2020年3月12日に、米国の複数の研究者で構成する横断的な研究チームである”The COVID-19 Investigation Team”が、medRxiVプレプリントサーバ上に投稿した未査読論文によれば、2020年1月20日から2月5日にかけて、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)により新型コロナウイルスへの感染が確定した、米国における最初の12人の患者について、彼らは情報収集を行ったところ、12人の患者のうちの7人が入院治療を受け、さらにこの内の3人に対してレムデシビルが投与されていた。研究チームは、レムデシビルの投与はコントロールされたランダム対照試験のもとで行われたものではないので、その治療効果については評価できないとしている。レムデシビルの副作用については、これを投与された3人の患者を含む、治療を受けた7人の患者全てで、肝臓の損傷を示すアミノ基転移酵素(アミノトランスファーゼ、ASTおよびALT)の血中濃度の上昇が見られたが、これとレムデシビルの因果関係については結論を述べていない(グラフから見て、因果関係がありそうなのは3人中1人のみ) [27]。2020年3月14日付けの、米国の投資情報会社 The Motley Fool の調査員 Cory Renauer のレポートによれば、この未査読論文で言及されている、肝臓の酵素の血中濃度の上昇が、もしレムデシビルの副作用であるのなら、レムデシビルの息の根を止めかねないほど重大な問題であるとしている。ただし、Renauer によれば、この臨床試験においては、レムデシビル投与群とそれ以外の患者群は完全にランダムに配分された訳ではないので、レムデシビルの副作用と判断するのは時期尚早であるとも述べている[28]

その他のウイルス[編集]

レムデシビルの活性型であるGS-441524は、ネココロナウイルスの治療に有望である[29]

作用機序[編集]

レムデシビルは代謝されてその活性型GS-441524になる。GS-441524は、ウイルスRNAポリメラーゼを混乱させ、ウイルスエキソヌクレアーゼ (ExoN) googによる校正(新たに正しい塩基に正すこと)を回避するアデノシンヌクレオチドアナログであり、ウイルスRNA産生の減少を引き起こす。RNA鎖を終わらせるか、突然変異を引き起こすかは不明[30]

部分耐性を引き起こすマウス肝炎ウイルスRNAレプリカーゼの変異は2018年に確認された。これらの変異により、ウイルスの性質が低下し、薬剤が使用されていない場所では持続しない可能性が高いと研究者は考えている[30]

関連項目[編集]

アデノシンアナログ (adenosine analog) でヌクレオシド類似体 (nucleoside analog) に分類される抗ウイルス薬

脚注[編集]

  1. ^ “新型コロナの有望薬「レムデジビル」、大規模治験へ”. 日経新聞. (2020年2月26日). https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56056840W0A220C2000000/ 2020年2月26日閲覧。 
  2. ^ “Therapeutic efficacy of the small molecule GS-5734 against Ebola virus in rhesus monkeys”. Nature 531 (7594): 381–5. (March 2016). Bibcode2016Natur.531..381W. doi:10.1038/nature17180. PMC: 5551389. PMID 26934220. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5551389/. 
  3. ^ “GS-5734 and its parent nucleoside analog inhibit Filo-, Pneumo-, and Paramyxoviruses”. Scientific Reports 7 (1): 43395. (March 2017). Bibcode2017NatSR...743395L. doi:10.1038/srep43395. PMC: 5338263. PMID 28262699. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5338263/. 
  4. ^ “Broad-spectrum antiviral GS-5734 inhibits both epidemic and zoonotic coronaviruses”. Science Translational Medicine 9 (396): eaal3653. (June 2017). doi:10.1126/scitranslmed.aal3653. PMC: 5567817. PMID 28659436. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5567817/. 
  5. ^ Baumann (2020年1月22日). “Coronavirus Vaccine Candidate Eyed for Human Trials by April”. Blumberg Law. 2020年1月23日閲覧。
  6. ^ Experimental Ebola drug 'remdesivir' may help protect against Nipah virus, say scientists”. Times Now Digital (2019年6月3日). 2020年2月10日閲覧。
  7. ^ Scientists Claim Drug Designed to Beat Ebola Also Fights Off Nipah”. The Wire (2019年6月2日). 2020年2月10日閲覧。
  8. ^ 新型コロナの有望薬「アビガン」「レムデシビル」ってどんな薬?”. 日経ビジネス (2020年2月27日). 2020年2月28日閲覧。
  9. ^ a b c d e Antiviral Compound Provides Full Protection from Ebola Virus in Nonhuman Primates. アメリカ陸軍感染症医学研究所 (USAMRIID) (San Diego, California). (9 October 2015). http://www.usamriid.army.mil/press_releases/Travis%20ID%20Week%20FINAL.pdf 2020年4月1日閲覧。. 
  10. ^ Preidt (2017年6月29日). “Experimental Drug Shows Promise Against Dangerous Viruses: Medicine worked in lab tests against germs that cause SARS and MERS infections”. 2017年7月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年2月10日閲覧。
  11. ^ “Nucleotide Prodrug GS-5734 Is a Broad-Spectrum Filovirus Inhibitor That Provides Complete Therapeutic Protection Against the Development of Ebola Virus Disease (EVD) in Infected Non-human Primates”. Open Forum Infect Dis 2. (Fall 2015). doi:10.1093/ofid/ofv130.02. 
  12. ^ “Therapeutic efficacy of the small molecule GS-5734 against Ebola virus in rhesus monkeys”. Nature 531 (7594): 381–5. (March 2016). Bibcode2016Natur.531..381W. doi:10.1038/nature17180. PMC: 5551389. PMID 26934220. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5551389/. 
  13. ^ “Late Ebola virus relapse causing meningoencephalitis: a case report”. Lancet 388 (10043): 498–503. (July 2016). doi:10.1016/S0140-6736(16)30386-5. PMC: 4967715. PMID 27209148. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4967715/. 
  14. ^ Ebola Treatment Trials Launched In Democratic Republic Of The Congo Amid Outbreak” (英語). NPR.org. 2019年5月28日閲覧。
  15. ^ McNeil, Donald G. (2019年8月12日). “A Cure for Ebola? Two New Treatments Prove Highly Effective in Congo”. The New York Times. https://www.nytimes.com/2019/08/12/health/ebola-outbreak-cure.html 2019年8月13日閲覧。 
  16. ^ Molteni, Megan (2019年8月12日). “Ebola is Now Curable. Here's How The New Treatments Work”. Wired. https://www.wired.com/story/ebola-is-now-curable-heres-how-the-new-treatments-work/ 2019年8月13日閲覧。 
  17. ^ Gilead mulls repositioning failed Ebola drug in China virus”. Fierce Biotech. 2020年1月31日閲覧。
  18. ^ Joseph, Saumya Sibi; Samuel, Maju (2020年1月31日). “Gilead working with China to test Ebola drug as new coronavirus treatment”. Thomson Reuters. https://www.reuters.com/article/us-health-china-gilead-sciences/gilead-working-with-china-to-test-ebola-drug-as-new-coronavirus-treatment-idUSKBN1ZU2RX 2020年1月31日閲覧。 
  19. ^ コンパッショネート・ユース - 薬学用語解説 - 日本薬学会”. www.pharm.or.jp. 2020年2月28日閲覧。
  20. ^ “First Case of 2019 Novel Coronavirus in the United States”. The New England Journal of Medicine 0. (January 2020). doi:10.1056/NEJMoa2001191. PMID 32004427. 
  21. ^ Harmon, Amy (2020年2月5日). “Inside the Race to Contain America's First Coronavirus Case” (英語). The New York Times. ISSN 0362-4331. https://www.nytimes.com/2020/02/05/us/corona-virus-washington-state.html 2020年2月7日閲覧。 
  22. ^ Three drugs fairly effective on novel coronavirus at cellular level” (2020年1月30日). 2020年2月1日閲覧。
  23. ^ Remdesivir and chloroquine effectively inhibit the recently emerged novel coronavirus (2019-nCoV) in vitro”. Nature (2020年2月4日). 2020年2月4日閲覧。
  24. ^ Grady, Denise (2020年2月6日). “China Begins Testing an Antiviral Drug in Coronavirus Patients” (英語). The New York Times. ISSN 0362-4331. https://www.nytimes.com/2020/02/06/health/coronavirus-treatments.html 2020年2月7日閲覧。 
  25. ^ 好消息! 磷酸氯喹等部分药物初步显示良好临床疗效”. 科技日报记者 付丽丽 刘垠. 中華人民共和国科学技術部 (2020年2月15日). 2020年2月27日閲覧。
  26. ^ 瑞德西韦等药物已初步显示良好临床疗效 (中国語) 新浪 2020年2月16日
  27. ^ “First 12 patients with coronavirus disease 2019 (COVID-19) in the United States”. medRxiV. (2020-03-12). doi:10.1101/2020.03.09.20032896. https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.03.09.20032896v1.full.pdf. 
  28. ^ “Early Results Dampen Outlook for Experimental COVID-19 Treatment”. The Motley Fool. (2020年3月14日). https://www.fool.com/investing/2020/03/14/early-results-dampen-outlook-for-experimental-covi.aspx 2020年3月23日閲覧。 
  29. ^ “Efficacy and safety of the nucleoside analog GS-441524 for treatment of cats with naturally occurring feline infectious peritonitis”. Journal of Feline Medicine and Surgery 21 (4): 271–281. (April 2019). doi:10.1177/1098612X19825701. PMC: 6435921. PMID 30755068. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6435921/. 
  30. ^ a b “Coronavirus Susceptibility to the Antiviral Remdesivir (GS-5734) Is Mediated by the Viral Polymerase and the Proofreading Exoribonuclease”. mBio 9 (2). (March 2018). doi:10.1128/mBio.00221-18. PMC: 5844999. PMID 29511076. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5844999/.