武漢ウイルス研究所
中国科学院武漢ウイルス研究所[1] | |
---|---|
正式名称 | 中国科学院武汉病毒研究所 |
日本語名称 | 中国科学院武漢ウイルス研究所[1] |
略称 | WIV |
組織形態 | 感染症研究所 |
所在地 |
![]() 〒430071 湖北省武漢市武昌区小洪山中区44号 北緯30度32分21.9秒東経114度21分3.07秒座標: 北緯30度32分21.9秒 東経114度21分3.07秒 |
活動領域 | 感染症・ウイルス学 |
設立年月日 | 1956年 |
上位組織 | 中国科学院 |
所管 | 中国科学院 |
保有施設 | 武漢国家生物安全実験室 |
公式サイト | http://www.whiov.cas.cn/ |
中国科学院武漢ウイルス研究所(ちゅうごくかがくいんぶかんウイルスけんきゅうじょ、簡: 中国科学院武汉病毒研究所)は中華人民共和国 湖北省武漢にある、ウイルス学研究所である。1956年設立。中華人民共和国国家重点実験室に指定されている。
2016年12月現在、研究所には合計266人の研究員がおり、内訳は科学研究職189名、大学院生253名(博士課程124名と修士課程129名)などが在籍する[2]。
沿革[編集]
1956年、「中国科学院武漢微生物研究室」として設立。
同年6月5日、中国科学院が武漢大学と華中農業大学と協力して武漢に微生物学研究所を設立することを決定。
研究室の設立は、武漢大学学部長で微生物学の主任教員を務めていた高尚蔭を筆頭として行われた。 研究室は、各分野の研究のために次の4つのグループに分かれていた[3]。
研究分野 | 研究内容 | 指導者 |
---|---|---|
ウイルス学 | 動物および植物ウイルス、細菌ウイルス | 武漢大学学部長兼微生物教育研究主任 高尚蔭 |
土壤微生物学 | 土壌微生物の生命活動と植物および土壌との関係 | 華中農学院土壤農学研究主任 陳華癸 |
植物病理学 | 微生物を利用した植物病の抑制 | 華中農学院植物保護研究主任 楊新美 |
微生物変異学、遺伝学および育種学 | 細菌(放線菌を含む)およびそれらのファージ変異、遺伝学および選択 | 武漢大学微生物教育研究副主任 趙保国 |
1961年11月、「中国科学院中南微生物研究所」[4]、さらに1962年10月には「武漢微生物研究所」に改名され、1966年に中国科学院の地方分院が廃止されるとともに湖北省科学技術委員会の所管となり、「湖北微生物研究所」となった。1978年の科技大会の前に中国科学院の管轄に戻され、「中国科学院武漢病毒所」として改編された[5]。
付属施設[編集]
中国科学院武漢国家生物安全実験室(中国科学院武汉国家生物安全实验室、National Biosafety Laboratory (NBL), Wuhan[6])は、武漢P4ラボまたは地元では単にP4ラボとも呼ばれる、武漢市政府と共同で建設されたP4(バイオセーフティレベル4:BSL-4)研究所である。
2015年1月31日に完成し、2018年1月5日に正式な運営が開始された。
新型コロナウイルスの感染拡大が顕在化する以前は、実験施設を対外的にアピールしており、2017年2月23日には当時のフランス首相、ベルナール・カズヌーブが視察を行っている[7]。
研究機器[編集]
- 日立製作所 H-7000FA透過型電子顕微鏡
- Amray 1000B走査型電子顕微鏡
- ギルソン GIAPD多機能分析システム
- 島津製作所 GC-9Aガスクロマトグラフィーシステム
- 島津製作所 UV-300紫外可視近赤外分光光度計
- アジレント・テクノロジー Super NOVA 極薄スライサー[5]
歴代所長[編集]
# | 姓名 | 任期 | 備考 |
---|---|---|---|
1 | 高尚蔭 | 1956年6月-1984年3月 | |
2 | 丁達明 | 1985年9月-1987年9月 | |
3 | 何添福 | 1994年4月-2000年10月 | |
4 | 胡志紅 | 2000年10月-2008年8月 | |
5 | 陳新文 | 2008年8月-2018年10月 | |
6 | 王延軼 | 2018年10月- |
歴代党委員会書記[編集]
# | 姓名 | 任期 | 備考 |
---|---|---|---|
1 | 許 力 | 1958年3月-1959年2月 | |
2 | 劉 然 | 1961年3月-1979年12月 | |
3 | 曹 健 | 1980年1月-1984年7月 | |
4 | 湯吉梅 | 1987年9月-1992年4月 | |
5 | 何添福 | 1992年4月-1996年6月 | |
6 | 李興革 | 1996年6月-2004年8月 | |
7 | 袁志明 | 2004年8月-2013年8月 | |
8 | 肖庚富 | 2018年12月- |
疑惑[編集]
2015年にアメリカ国立衛生研究所は研究の委託として370万ドルの資金援助を行うなど同研究所はコロナウイルスを積極的に研究している[8][9]。
2017年頃から、施設管理の面からウイルス漏洩の可能性が指摘されており、現在、武漢華南海鮮卸売市場とともにCOVID-19の感染源であるとの疑惑が上がっている[10][11]。
アメリカ合衆国のFOXニュースやワシントン・ポストでは2018年にアメリカの外交官が同研究所を視察した際に「危険性」があると、研究所の安全面の不備についてアメリカ国務省に公電にて伝達していたとする報道があり[12][13]、これについて米政府も調査中である[14][15][16]。
アメリカ合衆国大統領 ドナルド・トランプは、ウイルス漏洩について「証拠を見たことがある」として武漢ウイルス研究所からのウイルス流出を主張[17][18]、国務長官のマイク・ポンペオも、「かなりの量の証拠がある」としたが[19][20]、のちに「確信はない」と付け加えた[21]。
これに対し、武漢ウイルス研究所の幹部は「ありえない」話だとして全否定[22][23][24][25]、日本の外務省に当たる中華人民共和国外交部も同研究所からウイルスが流出したとの説を否定した[26]。
さらに、世界保健機関(WHO)もウイルスは動物由来で、人工のものではないとしたうえで、「研究所から流出した可能性はないとみている」とした[27]。アメリカのインテリジェンス・コミュニティーを統括する国家情報長官室(ODNI)もウイルスは人工のものではないと発表し[28]、UKUSA協定に基づき英語圏5カ国の諜報当局が運営するファイブアイズも「研究所から流出した可能性は極めて低いとみている」と報じた[29]。
2020年5月18日にテレビ会議形式で開かれたWHOの総会では、中国での新型コロナウイルスの発生源について国際的な独立調査を行うことで同意した[30][31][32]。
2021年2月3日、新型コロナウイルスの起源を調査する世界保健機関専門家チームが訪問、調査を開始した[33]。2月9日には、同研究所からのウイルス漏洩の可能性は低いとの見解を発表している[34][35]。
脚注[編集]
出典[編集]
- ^ 国立感染症研究所と中華人民共和国中国科学院武漢ウイルス研究所(WIV of CAS, China)との感染症協力に関する覚書の締結について, 国立感染症研究所, (2010年02月18日) 2020年2月18日閲覧。
- ^ “机构简介”. 中国科学院武汉病毒研究所. 2020年1月31日閲覧。
- ^ “科学院决定在武汉成立微生物研究室”. 人民日報. 新華社: p. 第3版. (1956年6月7日)
- ^ 武汉地方志编纂委员会, ed (1993年2月). 《武汉市志:科学志》. 武汉大学出版社. p. 第564页
- ^ a b “中国科学院武汉病毒研究所”. 中国科学院武汉文献情报中心. 2018年1月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年1月31日閲覧。
- ^ 中国国立武漢生物安全研究所。
- ^ “【解説】新型コロナの流出源? 武漢研究所を取り巻く疑惑”. AFP (2020年4月18日). 2020年4月17日閲覧。
- ^ “Wuhan lab was performing coronavirus experiments on bats from the caves where the disease is believed to have originated - with a £3m grant from the US”. デイリー・メール. (2020年4月11日) 2020年5月11日閲覧。
- ^ “Why US outsourced bat virus research to Wuhan”. アジア・タイムズ・オンライン. (2020年4月22日) 2020年5月11日閲覧。
- ^ “新型肺炎、くすぶる「兵器用ウイルス説」 当局に不信感―中国:時事ドットコム”. 時事通信社. (2020年2月9日) 2020年2月16日閲覧。
- ^ “武漢P4研究所、中国軍の生物化学兵器専門家が責任者に=情報”. 大紀元時報. (2020年2月10日) 2020年2月16日閲覧。
- ^ “米メディア“武漢の研究所 新型コロナ発生源か” 米政府も調査”. 日本放送協会(NHK). (2020年4月16日) 2020年4月16日閲覧。
- ^ “新型コロナ「武漢の研究所から流出」疑惑に注目 「過去に政府が危険性警告」と米紙”. 産経新聞. (2020年4月16日) 2020年4月16日閲覧。
- ^ “トランプ「新型コロナウイルス、武漢の研究所から流出したものか調査中」”. ニューズウィーク. (2020年4月16日) 2020年4月16日閲覧。
- ^ “米で武漢研究所への疑念浮上 新型コロナ発生源めぐり”. 時事通信社. (2020年4月16日) 2020年4月16日閲覧。
- ^ “【解説】 新型ウイルスの「研究所流出」説、証拠はあるのか?”. 英国放送協会(BBC). (2020年4月18日) 2020年4月22日閲覧。
- ^ “トランプ氏、コロナ研究所起源説の「証拠見た」と主張 情報機関声明と矛盾”. CNN (2020年5月1日). 2021年2月12日閲覧。
- ^ “新型コロナ発生源は武漢の研究所、証拠あるとトランプ氏 対中関税も示唆”. AFP通信 (2020年5月1日). 2021年2月12日閲覧。
- ^ “米、武漢ウイルス研を懸念 国務長官が施設立ち入り要求”. ロイター (2020年4月30日). 2021年2月12日閲覧。
- ^ “新型コロナ、中国・武漢ウイルス研究所が発生源「かなりの証拠」=米ポンペオ国務長官”. ニューズウィーク (2020年5月4日). 2021年2月12日閲覧。
- ^ “ポンペオ氏、新型コロナ発生源は「不明」 武漢研究所説から転換”. CNN (2020年5月18日). 2021年2月12日閲覧。
- ^ “武漢ウイルス研究所室長、新型コロナ発生源疑惑を否定”. AFP通信. (2020年4月19日) 2020年4月20日閲覧。
- ^ “コロナウイルスは人工的に作られた? 中国・武漢ウイルス研究所所長の回答”. スプートニク. (2020年4月19日) 2020年4月20日閲覧。
- ^ “「発生源は武漢の研究所」米報道を研究員が否定 新型コロナ”. 日本放送協会(NHK). (2020年4月19日) 2020年4月22日閲覧。
- ^ “「感染者いない」 武漢の研究所員、ウイルス流出を否定”. 朝日新聞. (2020年4月21日) 2020年4月22日閲覧。
- ^ “【解説】新型コロナの流出源? 武漢研究所を取り巻く疑惑”. 時事通信社. (2020年4月20日) 2020年4月22日閲覧。
- ^ “新型コロナ感染源、WHO「武漢の研究所の可能性ない」”. 読売新聞. (2020年4月21日) 2020年4月22日閲覧。
- ^ “新型コロナ、人工的につくられたものでない-米情報当局”. ブルームバーグ. (2020年5月1日) 2020年5月11日閲覧。
- ^ “新型コロナ、研究所起源の可能性は「極めて低い」 5カ国情報協定”. CNN. (2020年5月5日) 2020年5月11日閲覧。
- ^ “WHO年次総会始まる コロナ発生源調査に中国が同意へ 台湾参加は見送りに - 毎日新聞”. 毎日新聞. (2020年5月18日) 2020年5月18日閲覧。
- ^ “WHO加盟国、新型コロナ対応に関する独立調査に合意”. AFP通信. (2020年5月19日) 2020年5月19日閲覧。
- ^ “WHO、新型ウイルス対応を検証へ 全加盟国が同意”. 英国放送協会(BBC). (2020年5月20日) 2020年5月20日閲覧。
- ^ “WHO調査団、武漢のウイルス研究所を訪問 ウイルスの起源調査”. CNN (2021年2月3日). 2021年2月3日閲覧。
- ^ “武漢研究所漏えい否定、人感染に「複雑な経路」=WHO調査団”. ロイター (2021年2月9日). 2021年2月12日閲覧。
- ^ “WHO、武漢研究所漏えい説否定 新型コロナ起源解明で調査団”. 共同通信社 (2021年2月9日). 2021年2月12日閲覧。
関連項目[編集]
- 中国科学院
- 武漢大学
- 国家重点実験室
- 石正麗
- 中国科学院武漢国家生物安全実験室
- 2019新型コロナウイルスに関する項目
- 2019新型コロナウイルス - 疾患の原因となるウイルス
- 2019新型コロナウイルスによる急性呼吸器疾患 - 上記項目のウイルスによって引き起こされる疾患
- 新型コロナウイルス感染症の流行 (2019年-) - 当疾患の流行状況
外部リンク[編集]
- 公式ウェブサイト
- 中国科学院武汉国家生物安全实验室
- 中国科学院武汉病毒研究所研究生招生信息手册 - ウェイバックマシン(2017年7月21日アーカイブ分) (PDF)
|