内田樹

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内, 検索
うちだ たつる
内田 樹
生誕 1950年9月30日(61歳)
日本の旗 日本 東京都
出身校 東京大学
テンプレートを表示

内田 樹(うちだ たつる、1950年9月30日 - )は、日本の思想家武道家翻訳家神戸女学院大学名誉教授。

目次

[編集] 経歴

1950年東京都大田区下丸子に生まれ育つ。(父は、満鉄、戦時中は政府機関に所属した。戦後、サラリーマンを経て会社を経営し、日中友好協会にも関わった。) 1963年大田区立東調布第三小学校1967年大田区立矢口中学校卒業。中学校2年生のとき同級生の誘いにより、大阪府在住の池田敏が主宰するSFファンクラブ「SFFC」(同人誌名は「コアセルベート」)に参加、松下正巳や山本浩二などと出会う。また、同じ頃、1964年7月10日リリースのアルバムまたは同名映画(1964年8月1日松竹セントラルで公開)から仕入れたと思われる「A Hard Day's Night」について友人に歌詞を解説していたとの証言もあり、内田がリアルタイムのビートルズファンであったという主張を裏付けている。 1966年東京都立日比谷高等学校に進むが、高校2年で成績が学年最下位になり、のち品行不良を理由に退学処分を受け、ジャズ喫茶でアルバイトをする。しかし家賃も捻出できず、親に謝罪し家に戻った。

大学入学資格検定を経て1969年東京大学入試中止の年に京都大学法学部入学試験に失敗。1年間の浪人生活を経て、1970年に東京大学文科III類入学し、1975年文学部仏文科を卒業。指導教官は菅野昭正。 大学時代、畏友竹信悦夫から多大な影響を受けてレヴィナスの研究を志し、東京都立大学大学院に進む。大学院生時代には友人の平川克美とともにまず学習塾を、ついで平川を社長とし自身は取締役として翻訳会社「アーバン・トランスレーション」を経営して成功を収める。1980年東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。指導教官は足立和浩1982年4月東京都立大学人文科学研究科博士課程を中退し、東京都立大学人文学部助手となり、 1990年から神戸女学院大学文学部助教授[1]。同・総合文化学科教授。 私生活では、1989年、一人娘の内田るん[2]をひきとって離婚した 。2009年大倉流小鼓能楽師の高橋奈王子と再婚[3]2011年4月、第3回伊丹十三賞[4]

2011年退職、同大学名誉教授合気道六段、居合道三段、杖道三段の武道家でもあり、神戸女学院大学合気道部顧問を務める。専門はフランス現代思想ユダヤ人問題から映画論や武道論まで幅広く、同年11月に東灘区のJR住吉駅前にに道場兼能舞台の「凱風館」が完成した。[5]

[編集] その思想

基本的に「正しい日本の(インテリ・リベラル)おじさん」の常識・(その幾分・しかし確固として保守的なバックグラウンドを持つ)生活倫理・実感を大切にするとの立場を表明している。しかし、一方、学術上の根拠・エビデンスを摘示しない言説が散見され、文学(研究)者としての資質に付き疑問がある、とする批判がある。

[編集] 護憲派としての側面

護憲派であり共著で『9条どうでしょう?』という本を発表して独自の護憲論を展開したこともある。また『諸君!』『正論』、ネット右翼に対しても一貫して批判的である[6]。しかし『すばる』2007年1月号で高橋源一郎矢作俊彦と鼎談した際、矢作が、いったん有事の際には現憲法では自衛隊員は敵を撃つこともできない、と説明しても理解しようとしないため、矢作から、これじゃあ小林よしのりの方が売れるのもしょうがない、と痛罵されている。

[編集] 保守的側面

護憲派であることから左派と看做されることもあるが、初期の著作より一貫して、自身の経験とレヴィナスの思想をもとにマルクス主義批判(マルクス批判ではない)、学生運動批判、フェミニズム主義批判(フェミニズム批判ではない)を行なっている。

一時話題を集めた加藤典洋の『敗戦後論』を巡る加藤と高橋哲哉との論争に関して、内田は加藤に対するシンパシーを、一方高橋に対しては強い違和感を表明している。

[編集] アメリカへの愛憎

アメリカについては、ユダヤ系カナダ人未来学者ロレンス・トーブの説(米国内でユダヤ人差別が蔓延し、これが契機となって米国から大量のユダヤ人が脱出しはじめることで米国は没落するというものや、日本・中国・韓国が東アジア儒教文明圏を形成するという説)を紹介している。

[編集] 小泉・安倍政権批判

小泉・安倍政権の東アジア政策については一貫して批判的である。中国政府の批判をしないというわけではないし、北朝鮮政府については批判的立場を採り続けている。

[編集] 教育問題における立場

教育/学習については、その効果は予見的に測定不可能である、との立場をとっている。「事後的に有用性が明らかになるモノを先見的に拾っておく」感性について繰り返し述べており、「その教育/学習はどのような効果が見込まれるのか」という問いを厳しく批判している。この観点から、アウトプットの定量を要求する経営主義的な学校運営に反対している。

[編集] 格差社会論批判

格差社会論を一貫して批判し続けている。格差社会を批判することは裏返せば拝金主義であり、金のことなど気にしなければ良い、との立場を表明している[7]

特に内田が問題視するのは朝日新聞の「ロスト・ジェネレーション」論を始めとする、「ロスト・ジェネレーション」と「団塊の世代」の世代間格差を問題視する論であり、内田は格差社会論は全てこのような「資源の不当な収奪への異議申し立て」であると定義し[8]、こうした議論については徹底的な批判を加えている。その論法は教育論におけるそれと同様、「ロスト・ジェネレーション」の内面が「ロスト・ジェネレーション」の問題を創り出しているというものである[9]

[編集] 学力低下論

同学齢集団内の競争というシステムが、「他人のパフォーマンスを下げる」という相対優位の戦略を取らせると主張している。学力低下問題では大学の入学定員の多さが学力低下の一因であるという指摘を認めず、逆に「大学教育によって高校までの教育の不完全さを補っているのだ」との論陣を張った[10]。ただ、教育問題については、以前は現場の教員の指導能力に教育問題の元凶を求める論調が強かったが、講演会などによって現場の教員との交流が始まった後は、むしろ教育行政や保護者・児童・生徒の教育観を問題視する立場にシフトしている。安倍政権が成立させた教育関連三法案には断固反対の態度を貫いた他、中央教育審議会文部科学省の施策には常に批判的である。因みに、自身は博士・Dr.・Ph.D等は、有していない。

[編集] 「地球温暖化で何か問題でも?」

地球温暖化問題については、池田清彦に依拠し、大気中の二酸化炭素濃度上昇と温暖化の関係は実証されていない上、やがて地球は再び氷河期に向かうのでそれほど怯えていない、という意味のことをブログで述べている。また現在の温暖化問題は「現状と違うこと」が起こると困る「政府」が必要以上に騒いでいるだけかもしれない、として、ヒステリックな対応を牽制している[11]

[編集] ブログ

「内田樹の研究室」というブログを運営している。著書の多くは、このブログのテキストを編集者がテーマ別に編集したものである。

『ためらいの倫理学』など初期の著作は、ブログに移行する前にサイト(1998年開設)に掲載された文章が収録されている。『ためらいの倫理学』は、編集者(冬弓舎の内浦亨)が内田のサイトのテキストを発見したことから刊行された(初版は1200部であった)。

ブログにはしばしば主張への批判や反論も書き込まれるが、本人からの反批判や再反論は近年ではほとんど行われない。これについて内田は「どちらが正しいかは読んだ人の判断に任せる」との立場を取っている。

著書の多くはブログの再編集により成り立っているため、類似のエピソードないしは同じ主張が複数の本に採録されている。本人はこの点について名人落語家の十八番(5代目古今亭志ん生の「火焔太鼓」)のようなものと主張している[12]。特に映画「エイリアン」についてフェミニズム論、映画論などテーマを変えて何度も論じているが、これも火焔太鼓のようなものと述べている[13]

「書くことの目的が生計を立てるではなく、一人でも多くの人に自分の考えや感じ方を共有してもらうこと」との考えから、ネット上での公開物については「著作権放棄」の考えを示しており、剽窃での出版すら容認する発言をしている[14]が、一方、講演については謝礼が必要(ノーギャラは仕事の価値を認めていない)としている[15]

[編集] 著書

[編集] 単著

  • 『ためらいの倫理学―戦争・性・物語』(冬弓舎 2001年)のち角川文庫 
  • 『レヴィナスと愛の現象学』(せりか書房 2001年)のち文春文庫 
  • 『期間限定の思想―「おじさん」的思考2』(晶文社 2002年)
  • 『寝ながら学べる構造主義』(文春新書 2002年)
  • 『「おじさん」的思考』(晶文社 2002年)のち角川文庫 
  • 『女は何を欲望するか?』(径書房 2002年)のち角川oneテーマ21 
  • 『子どもは判ってくれない』(洋泉社 2003年)のち文春文庫 
  • 『映画の構造分析―ハリウッド映画で学べる現代思想』(晶文社 2003年)のち文春文庫
  • 『私の身体(からだ)は頭がいい―非中枢的身体論』(新曜社 2003年)のち文春文庫 
  • 『疲れすぎて眠れぬ夜のために』(角川書店 2003年)のち文庫 
  • 『他者と死者―ラカンによるレヴィナス』(海鳥社 2004年)のち文春文庫 
  • 『死と身体―コミュニケ-ションの磁場』(医学書院 2004年)
  • 『街場の現代思想』(NTT出版 2004年)のち文春文庫 
  • 『知に働けば蔵が建つ』(文藝春秋 2005年)のち文庫 
  • 『街場のアメリカ論』(NTT出版 2005年)
  • 『先生はえらい』(ちくまプリマー新書 2005年) 
  • 『私家版・ユダヤ文化論』(文春新書 2006年)-第6回小林秀雄賞受賞
  • 『態度が悪くてすみません―内なる「他者」との出会い』(角川oneテーマ21 2006年)
  • 『狼少年のパラドクス─ウチダ式教育再生論』(朝日新聞出版 2007年)
  • 『下流志向─学ばない子どもたち、働かない若者たち』(講談社 2007年)のち文庫
  • 『村上春樹にご用心』(アルテスパブリッシング 2007年)
  • 『街場の中国論』(ミシマ社 2007年)
  • 『ひとりでは生きられないのも芸のうち』(文藝春秋 2008年)のち文庫
  • 『昭和のエートス』(バジリコ 2008年)
  • 『こんな日本でよかったね 構造主義的日本論』(バジリコ 2008年)のち文春文庫
  • 『街場の教育論』(ミシマ社 2008年)
  • 『日本辺境論』(新潮新書 2009年)-2010年度新書大賞受賞
  • 『邪悪なものの鎮め方』(バジリコ 2010年)
  • 『街場のメディア論』(光文社新書 2010年)
  • 『街場のマンガ論』(小学館 2010年)
  • 『武道的思考』(筑摩選書 2010年)
  • 『もういちど村上春樹にご用心』(アルテスパブリッシング 2010年)
  • 『最終講義 - 生き延びるための六講』(技術評論社 2011年)
  • 『うほほいシネクラブ 街場の映画論』(文春新書 2011年)

[編集] 共編著

  • 『映画は死んだ―世界のすべての眺めを夢見て』松下正己(いなほ書房 1999年)
  • 『現代思想のパフォーマンス』難波江和英(松柏社 2000年)のち光文社新書  
  • 『大人は愉しい―メル友おじさん交換日記』鈴木晶(冬弓舎 2003年)のちちくま文庫 
  • 『東京ファイテイングキッズ』平川克美(柏書房 2004年)のち朝日文庫 
  • 『14歳の子を持つ親たちへ』名越康文(新潮新書 2005年)
  • 『身体(からだ)の言い分』池上六朗(毎日新聞社 2005年)
  • 『健全な肉体に狂気は宿る―生きづらさの正体』春日武彦(角川oneテーマ21 2005年)
  • 『はじめたばかりの浄土真宗―インターネット持仏堂2』釈徹宗(本願寺出版社 2005年)
  • 『いきなりはじめる浄土真宗―インターネット持仏堂1』(本願寺出版社 2005年)
  • 『東京ファイティングキッズ・リターン─悪い兄たちが帰ってきた』平川克美(バジリコ 2006年)
  • 『身体(からだ)を通して時代を読む―武術的立場』甲野善紀(バジリコ 2006年)
  • 『身体知―身体が教えてくれること』三砂ちづる(バジリコ 2006年)
  • 『9条どうでしょう』小田嶋隆,平川克美,町山智浩(毎日新聞社 2006年)
  • 『逆立ち日本論』養老孟司(新潮選書 2007年)
  • 『合気道とラグビーを貫くものー次世代の身体論』平尾剛朝日新書2007年)
  • 『大人のいない国 成熟社会の未熟なあなた』鷲田清一(プレジデント社 2008年)
  • 橋本治と内田樹』橋本治(筑摩書房 2008年)のち文庫 
  • 『生きる意味を教えてください-命をめぐる対話』田口ランディ(2008年)
  • 『現代霊性論』釈徹宗(講談社 2010年)
  • 『現代人の祈り-呪いと祝い』釈徹宗,名越康文(サンガ 2010年)のち新書 
  • 『おせっかい教育論』鷲田清一,釈徹宗,平松邦夫(140B 2010年)
  • 『沈む日本を愛せますか』高橋源一郎ロックオン・ジャパン 2010年)
  • 『若者よ、マルクスを読もう (20歳代の模索と情熱)』石川康宏(かもがわ出版、2010年6月)
  • 『大津波と原発』中沢新一,平川克美(朝日新聞出版 2011年)
  • 『嘘みたいな本当の話 「日本版」ナショナル・ストーリー・プロジェクト』高橋源一郎共選、浅井愛編(イースト・プレス 2011年6月)

[編集] 翻訳

  • レヴィナス『困難な自由―ユダヤ教についての試論』(国文社 1985年)
  • レヴィナス『超越・外傷・神曲―存在論を超えて』合田正人共編訳(国文社 1986年)
  • ノーマン・コーン『シオン賢者の議定書(プロトコール)―ユダヤ人世界征服陰謀の神話』(ダイナミックセラーズ 1986年)
  • レヴィナス『タルムード四講話』(国文社 1987年)
  • ジェフリー・メールマン『巨匠たちの聖痕―フランスにおける反ユダヤ主義の遺産』(国文社 1987年)
  • ベルナール=アンリ・レヴィ『フランス・イデオロギー』(国文社 1989年)
  • レヴィナス『タルムード新五講話―神聖から聖潔へ』(国文社 1990年)
  • 『暴力と聖性―レヴィナスは語る』(国文社 1991年)
  • レヴィナス『モーリス・ブランショ』(国文社 1992年)
  • サロモン・マルカ『レヴィナスを読む』(国文社 1996年)
  • レヴィナス『観念に到来する神について』(国文社 1997年)
  • 『ユダヤ教―過去と未来』R.アロン,A.ネエール,V.マルカ(ヨルダン社 1998年)
  • コリン・デイヴィス『レヴィナス序説』(国文社 2000年)
  • 『ヒチコック×ジジェク』スラヴォイ・ジジェク編 鈴木晶共訳(河出書房新社 2005年)

[編集] ダウンロード・コンテンツ

[編集] USTREAMアーカイブ

 後に『大津波と原発』中沢新一,平川克美(朝日新聞出版 2011年)として出版される。

[編集] 脚注

特記なき物は全て本人ブログ。

  1. ^ 内田樹おもいつき的研究史
  2. ^ ラヴラヴ企画のブログ(内田るんのブログ)
  3. ^ 刻々是好刻(大倉流小鼓方十六世宗家大倉源次郎公式ブログ)
  4. ^ 伊丹十三賞に内田樹氏 時事通信2011年4月21日
  5. ^ みんなの家。(「凱風館」建設の記録) - ほぼ日刊イトイ新聞
  6. ^ 特にネット右翼や行動する保守に対しては「自称情報強者だが、その実態は自分の見たくない・知りたくない情報は全て陰謀論の名の下に切り捨てている情報難民」と評している。朝日新聞2011年9月13日「私の紙面批評」。
  7. ^ 「格差社会って何だろう」
  8. ^ 格差社会論(再録)参照。湯浅誠など、世代間格差に言及しない形で格差社会論を展開している論者についての内田の評価は不明。
  9. ^ 「東京でお仕事」
  10. ^ 「一億総学力低下時代」
  11. ^ 「地球温暖化で何か問題でも?」
  12. ^ 「生きて迎えた夏休み」
  13. ^ 本人著『映画の構造分析―ハリウッド映画で学べる現代思想』晶文社、p10-11
  14. ^ 「書物について」
  15. ^ 「配偶者の条件」

[編集] 外部リンク

個人用ツール
名前空間
変種
操作
案内
ヘルプ
ツールボックス