家族ゲーム
『家族ゲーム』(かぞくゲーム)は、本間洋平作の日本の小説。1981年の第5回すばる文学賞を受賞した。またそれを原作とした映画、およびテレビドラマ。
1982年、テレビ朝日にてこの小説を原作とする2時間ドラマが制作される(主演は鹿賀丈史)。後に松田優作主演の映画、長渕剛主演の連続テレビドラマ(映画、連続テレビドラマともに1983年)で有名となり、2013年には28年ぶりに連続テレビドラマが放送された[1](主演は櫻井翔)。なお、テレビドラマの詳細については「家族ゲーム (テレビドラマ)」を参照。
多くの問題を抱えた家族が受験に振り回される様子をシュールかつコミカルに描いている。
小説[編集]
家族ゲーム | ||
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著者 | 本間洋平 | |
発行日 | 1984年(昭和59年)3月19日 | |
発行元 | 集英社 | |
ジャンル | 小説 | |
国 |
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言語 | 日本語 | |
ページ数 | 200 | |
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あらすじ[編集]
団地に住む4人家族の沼田家。工場を営む父、専業主婦の母、優等生の長男・慎一、そして家族の悩みの種である落ちこぼれの次男・茂之。ある春の日、茂之にとって6人目の家庭教師・吉本がやってくる。無名の大学に7年も在籍しているお世辞にも優秀な人物とは言えない吉本だったが、これまでの家庭教師とは違い鉄拳制裁を加えてでも茂之を逃がさず徹底的にしごき、怯えながらも茂之は言うことを聞くようになり、成績も上昇していく。
一方で、大学を留年しながらも意に介することのない自由人な吉本の存在は、親の期待に応え優等生を演じてきた兄・慎一の心に曇りを生み出す。万引きをしたり、からかってきた昔の同級生を殴ったり、勉強もサボり気味になり生活が沈んでゆく。ついには両親の態度の変化に耐え切れず、「選手交代」と吐き捨てて学校にも行かなくなってしまう。
やがて茂之が志望校を決めなければいけない時期になる。すでに周囲が目を見張るほど成績が伸びており、兄の通うa高は難しいにしても次によいb高を受けてもいいのではと薦められるが、本人はさらに下のc高を主張して曲げない。b高は茂之のいじめっ子も受験するからだ。しかし結局は母の意向に従ってb高に決めてしまい、それを知った吉本は激怒。同時に、一時的な強制で成績は良くなっても、自分のやり方では人間を変えることは出来ないと思い知る。茂之は合格し、両親から感謝される形で吉本は沼田家を去るが、その口調に以前ほどの迫力が無くなっているのを慎一は見逃さなかった。
再び春がやってきたが、慎一は相変わらず、茂之もやはりいじめっ子に暴行を受けて次第に登校しなくなる。怒鳴り散らす父親に1年浪人してa高に行くと言う茂之だが、慎一は当面の難を逃れるための嘘だと見抜く。しかし父親は納得してしまい、母親は反対するも押し切られ誰も自分の意見を聞いてくれないことに涙を流す。何もかも決めかねている慎一の耳に、母の嗚咽が彼の背中を刺すように押すように聞こえてくる。
刊行情報[編集]
- 「すばる」(1981年12月号:当選作掲載)
- 「家族ゲーム」(1982年1月、集英社)
- 「家族ゲーム」(1984年3月、集英社文庫) → のち2013年に新装版文庫(解説・高橋源一郎)
映画[編集]
家族ゲーム | |
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The Family Game | |
監督 | 森田芳光 |
脚本 | 森田芳光 |
原作 | 本間洋平 |
製作 |
佐々木志郎 岡田裕 佐々木史朗 |
出演者 | 松田優作 |
撮影 | 前田米造 |
編集 | 川島章正 |
製作会社 |
にっかつ撮影所 NCP ATG |
配給 | ATG |
公開 |
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上映時間 | 106分 |
製作国 |
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言語 | 日本語 |
1983年6月4日公開。監督は森田芳光、主演は松田優作。キネマ旬報ベスト・テン第57回(1983年)日本映画ベストワンなどを受賞した。『キネマ旬報』(2019年1月上旬号)誌上で実施された「1980年代日本映画ベストテン」の第1位となった[2]。
あらすじ(映画)[編集]
中学3年生の沼田茂之の高校受験を控え、父の孝助・母の千賀子・兄の慎一たちまで、家中がピリピリ。出来のいい兄と違って、茂之は成績も悪く、何人もの家庭教師がすぐに辞めていた「問題児」であった。
そこへ、三流大学の7年生という吉本が家庭教師としてやってくる。孝助は吉本を車の中へ連れて行き「茂之の成績を上げれば特別金を払う」と約束する。暴力的な吉本は勉強ばかりか、喧嘩の仕方まで教え、茂之は成績が徐々に上がり始める。また、茂之は幼馴染みで同級生の土屋にいつもいじめられていたが、殴り方を習っていた甲斐があり、ついに立場が逆転する。
茂之の成績はどんどん上がり、兄と同じAランクの西武高校の合格ラインを超える。ところが、茂之はBランクの神宮高校を志望校として届け出る。両親は怒り、志望校の変更を吉本に依頼する。吉本は学校に駆けつけると、茂之を担任の前に連れて行って強引に変更させる。西武高校に行きたくない理由を慎一に尋ねると「秘密」と言う。茂之が土屋と同じ高校に行きたくない理由は、小学生の頃、授業中に茂之が大便をもらしてしまったことを土屋が知っているからだというのだ。あまりのバカバカしさに吉本と慎一は大笑いする。
結局、土屋は私立高校に行くことになり、茂之は西武高校に見事に合格。吉本の役目は終わり、お祝いをすることになった。その席で、孝助は最近やる気を失くしている慎一の大学受験のために家庭教師になって欲しいと依頼する。しかし、「一流大学の受験生に三流大学の学生が教えられるわけはない」と吉本は断わる。吉本は、茂之の合格祝いの最中であるにもかかわらず勉強の話ばかりする孝助に腹を立て、バラバラの家族が横に並んだ食事中に暴れて大混乱を起こして去って行く。
茂之は高校に入った後、吉本がやって来る前同様、やる気のない生活に戻ってしまう。
母は相変わらず家族のことをよく理解しておらず、部屋でまどろんでいると、突然、外からヘリコプターの音が聞こえてくる。
キャスト(映画)[編集]
- 吉本 勝(よしもと しょう)
- 演 - 松田優作
- 城南大学7年生(作中では「大したことないレベルの大学」と言われている)。ただし、ほとんど大学には行っていない。凄みのある話し方と共にビンタも厭わない厳しい態度で勉強を教える。それでいて飄々とした言動もあり、とらえどころがない性格。ケンカが強く、茂之にケンカのやり方も教えた。特技はコブラツイスト(実際には正しいコブラツイストではない)。癖なのか喉が渇きやすいのかは不明だが、コーヒーやお酒などの種類に関わらず飲み物は一気に飲み干している描写がある。植物図鑑を持ち歩いており、茂之に勉強を教える際に眺めている。
- 沼田 茂之(ぬまた しげゆき)
- 演 - 宮川一朗太[3]
- 高校受験を控えた中学3年生。成績は「クラスで下から数えて9番目ぐらい」とのこと。勉強が苦手だが、本人は「バカだとは思っていない。勉強が嫌いなだけ」と屁理屈を言っている。これまでに何人か家庭教師をつけてもらったが一向に成績が上がらない問題児。テスト中に騒ぎを起こしたり仮病を使ったり、日常的にふざけた言動をしている。自分よりも成績が下のクラスメイトを小馬鹿にするだけで自分は勉強をしていない。クラスメイトの男子をからかったりして、時々暴力を振るわれている。
- 吉本の前で不真面目な態度を取ったために初めてビンタされた直前、吉本が大きく鼻で息をしたことから、それ以来、吉本が大きく鼻で息を吸う音を聞くたびにビビるようになった。
- ジェットコースターの構造に興味があり、部屋にはジェットコースターのスクリューを引き伸ばした写真を貼ったり、手作りのコースターのオブジェにパチンコ玉ぐらいの小さな金属球を転がして遊んでいる。
- 沼田 孝助(ぬまた こうすけ)
- 演 - 伊丹十三
- 茂之の父。成績が振るわない茂之に対し、兄と比べて出来が悪いと本人に聞こえるように大声で言うなど、デリカシーに欠ける。
- 茂之のクラスでの成績順位が1つ上がるごとに基本給とは別にプラス1万円の歩合で吉本を家庭教師として雇った。子供の教育や躾に関し、仕事を言い訳にして千賀子や吉本に押し付けて愚痴をこぼすだけで、自らは積極的に関わろうとしない。
- 目玉焼きの食べ方にこだわりがあり、半熟の黄身を音が出るほど強く吸って食べるのが大好き(ある日、たまたま固焼きになって吸えなかった時には千賀子に文句を言っている)。また、劇中では「風呂に入りながら豆乳を飲む」という描写もあり、こちらもこだわりがある模様。
- 大事な話をする時には「気兼ねなく話せるから」という理由で相手をわざわざ家の外にある自分の車に連れて行って会話する。
- 沼田 千賀子(ぬまた ちかこ)
- 演 - 由紀さおり
- 茂之の母。子どもたちに愛情を持っていて、少々手荒な指導をする吉本のやり方に気が気でない。
- 茂之には勉強を頑張って欲しいと思っているが、ほんわかした性格のため、キツく叱れずにいる。若くして子どもを産んだことに関して「手がかかる子どものために自分の時間が犠牲になっている」と嘆いている。
- 孝助とは長年暮らしてきたが、目玉焼きを吸って食べるこだわりに気が付いていなかった。茂之がクラスメイトから暴力を受けて帰って来てもあっさり受け流しており、慎一のことは出来の良い兄として疑わない。
- 趣味はレザークラフトらしく、手の空いた時間にテーブルに材料を並べて木槌で叩いている。
- 食事はおかずを一度ご飯の上に乗せてから食べる癖がある。
- 沼田 慎一(ぬまた しんいち)
- 演 - 辻田順一
- 茂之の兄(作中では神宮高校に比べて偏差値が高いとされる西武高校に入学した)。
- 弟と比べて出来がよく、ふざけた行動もほとんどないが、高校生になってからは徐々に勉強に身が入らなくなっている。
- タロット占いにハマっており、黙々と一人で楽しんでいる。
- 同級生の山下美栄子に好意を寄せているが、異性としてあまり関心は持たれていなかった。
茂之の学校関係者[編集]
- 茂之のクラス担任・大野
- 演 - 加藤善博
- 常にぶっきらぼうな口調で話し、不機嫌そうな態度を取っている。教科は体育。受験も近いのに志望校をなかなか決めない茂之一家にはイラついている。
- 茂之の国語教師
- 演 - 伊藤克信
- 採点後のテストはクラスの点数の低い者順で返し、かつ点数が悪い男子生徒には教室から外に答案用紙を投げて校庭まで取りに行かせる(ただし悪意があるわけではなく、生徒らも言動をパフォーマンスとして楽しんでいる)。
- 茂之の英語教師
- 演 - 松金よね子
- 茂之以外にも不真面目な生徒や寝てしまう生徒がいるため、授業中は常に生徒を叱責している。
- 土屋 裕(つちや ゆう)
- 演 - 土井浩一郎
- 茂之のクラスメイト。茂之の成績が上がってきたことが気に入らず、しばしばいじめを行う(その際は番長など複数の仲間と一緒だが、本人によると「あいつらは勝手に俺に応援しているだけだよ」と言っている)。茂之とは小学校からの馴染み。
- 田上 由利子(たがみ ゆりこ)
- 演 - 前川麻子
- 茂之のクラスメイト。時々茂之にいじめに合わないための助言をする。
- 樹村とは仲が良さそうに装っているが、実は彼女のことは嫌っている。
- 樹村 雅美(きむら まさみ)
- 演 - 渡辺知美
- 茂之のクラスメイト。茂之からは「美人」と評されている。
- 田上とは仲が良さそうに見えるが、田上からは嫌われている。
- 浜本 道子(はまもと みちこ)
- 演 - 松野真由子
- 茂之のクラスメイト。茂之に言わせると「笑っちゃうぐらいブス」であり、成績もクラスでビリだという。
- 菊地 保子(きくち やすこ)
- 演 - 中森いづみ
- 茂之のクラスの生徒。クラスメイトの土屋と相思相愛らしく、ある日、たまたま2人が日直になった時に喜び合っているシーンがある。
慎一の関係者[編集]
- 芝田 友幸(しばた ともゆき)
- 演 - 小川隆宏
- 慎一のクラスメイト。
- 山下 美栄子(やました みえこ)
- 演 - 佐藤真弓
- 慎一のクラスメイト。それなりに裕福な家庭の娘。部屋はぬいぐるみやかわいい小物で溢れている。明るい性格でおしゃべり好き。家が大きいのかマンション暮らしかは不明だが、両親が過ごしているリビングを通った後に室内エレベーターで登った所に自分の部屋がある。
- 美栄子の姉
- 演 - 岡本かおり
- 自宅の1階にある親が経営する化粧品店で働いている。訪ねてきた慎一に美栄子を内線電話で取り次ぐ。
- 美栄子の母
- 演 - 白川和子
- テレビ好きらしく、何度かリビングのシーンがあるが、食事の時もいつもテレビをつけて観ている。
- 美栄子の父
- 演 - 佐々木志郎
- 化粧品店を経営。ただし普段は店での販売は佳織に任せ、妻とテレビを観ている。
- 慎一の担任・英語教師
- 演 - 鶴田忍
その他[編集]
- 近所の奥さん
- 演 - 戸川純
- 沼田家と同じマンションの住人。引っ越してきてから初めて挨拶してくれた住人が千賀子だったため、千賀子を相談相手として部屋を訪ねてきた。
- ちょっと変わり者で、勝手に沼田家に相談に来たのに「自分の家のことだけじゃなくて他人の家のことも心配してください!」などと突然泣き出す。自己中心的な発言で千賀子を困惑させた。
- クボタ書店の店員
- 演 - 金子修介
- 茂之が吉本の勉強を教わるのを嫌がって時間を潰すために立ち寄った本屋。
- 三井 順(みつい じゅん)
- 演 - 植村拓也
- 若い先生
- 演 - 清水健太郎
- 吉本の恋人
- 演 - 阿木燿子
- 吉本にペディキュアを塗らせたり、リンゴを食べさせながらキスするなど、仲が良い。
スタッフ(映画)[編集]
- 監督・脚本:森田芳光
- 原作:本間洋平
- 撮影:前田米造
- 美術:中澤克巳
- 照明:矢部一男
- 編集:川島章正
- 録音:小野寺修
- スクリプター:森永恭子
- 助監督:金子修介、酒井直人、明石知幸
- 音響効果:斉藤昌利
- 装飾:山崎輝
- 制作補 :桜井潤一
- 製作:佐々木志郎、岡田裕、佐々木史朗
- 企画:多賀祥介、山田耕大
作品解説[編集]
冒頭は伊丹十三自身の『女たちよ!』所収のエッセイ「目玉焼きの正しい食べ方」のパロディが描かれる。カウンターのような横長の食卓に家族が一列にならぶ異様な食事シーンは、観る者に強い印象を与えた。まるでレオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』のように家族が横に並んだ食事中に吉本が暴れるが、これは家族と食事を考える大きなテーマとなっている[4][5]。また音楽は一切入らず(レコードを聴く場面すら、音楽は登場人物にしか聞こえない趣向になっている)、代わりに食べるときの音など、効果音が強調されている。
映画賞受賞[編集]
- 第7回日本アカデミー賞
- 第26回ブルーリボン賞
- 監督賞:森田芳光
- 第57回キネマ旬報ベスト・テン
- 日本映画部門:第1位
- 読者選出日本映画ベスト・テン:第2位
- 日本映画監督賞:森田芳光
- 脚本賞:森田芳光
- 主演男優賞:松田優作
- 助演男優賞:伊丹十三(『細雪』と併せて)
- 第38回毎日映画コンクール
- 日本映画優秀賞
- 女優助演賞:由紀さおり
- 第8回報知映画賞
- 第5回ヨコハマ映画祭
- 第24回日本映画監督協会新人賞:森田芳光
関連商品(映画)[編集]
ソフト情報(映画)[編集]
書籍[編集]
- 森田芳光脚本「シナリオ家族ゲーム」(1984年3月、角川文庫)
テレビドラマ[編集]
2時間ドラマ(テレビ朝日)[編集]
1982年、11月8日『月曜ワイド劇場』で放送。続編の『家族ゲームII』は1984年3月12日放送。主演は鹿賀丈史。
連続テレビドラマ(TBS)[編集]
1983年8月26日 - 9月30日、TBSテレビにて『家族ゲーム』が20:00 - 20:54(JST)に放送された。全6回。主演は長渕剛。この作品の評判から、翌年の4月20日 - 7月13日(全11回)TBSテレビの同枠にて続編が放送された。
連続テレビドラマ(フジテレビ)[編集]
2013年4月17日から6月19日までフジテレビの毎週水曜日22:00 - 22:54(JST)枠で放送された。主演は櫻井翔。平均視聴率は13%で、最終回には16.7%を獲得した(家族ゲーム (テレビドラマ)#エピソードリストも参照)。
脚注[編集]
- ^ バラエティの“水10”からドラマの“水10”へ。記念すべき第一弾は嵐の櫻井翔主演の『家族ゲーム』 Archived 2013年1月31日, at the Wayback Machine. 2013年1月29日閲覧
- ^ 「1980年代日本映画ベストテン」『キネマ旬報』2019年(平成31年)1月上旬特別号、キネマ旬報社、2018年、 8 - 9頁。
- ^ 2013年のドラマ版では榎本貴史役としてゲスト出演している
- ^ 例えば見田宗介「現代日本の感覚と思想」講談社学術文庫P27-28。見田は現代家族の虚構性を表すものとしている。
- ^ ただし、黒澤明の『赤ひげ』(1965年)に同様の構図の食事シーンがある。