土 (小説)

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作者 長塚節
日本
言語 日本語
ジャンル 長編小説
初出情報
初出東京朝日新聞
1910年6月13日 - 11月17日
出版元 朝日新聞社
刊本情報
出版元 春陽堂
出版年月日 1912年5月19日
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』(つち)は、長塚節長編小説。作者の郷里である茨城県鬼怒川沿いの農村を舞台に、貧農一家の生活を農村の自然風俗行事などと共に、写生文体で克明に描いた作品。長塚の唯一の長編小説で、農民文学の代表的作品とされる[1]

夏目漱石の推薦により[1]1910年(明治43年)6月13日から11月17日にかけて東京朝日新聞に連載。1912年(明治45年)5月19日春陽堂より刊行され、漱石による序文『「土」に就て』が付された。

1939年(昭和14年)に日活製作・内田吐夢監督によって映画化された。

映画[編集]

Tsuchi Tomu Uchida 1939.jpg
監督 内田吐夢
脚本 八木隆一郎
北村勉
出演者 小杉勇
風見章子
山本嘉一
音楽 乗松明廣
撮影 碧川道夫
製作会社 日活多摩川撮影所
配給 日活
公開 日本の旗 1939年4月13日
上映時間 142分(現存117分)
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
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』(つち)は、1939年(昭和14年)4月13日公開の日本映画である。日活製作・配給。監督は内田吐夢、主演は小杉勇モノクロスタンダード、142分。

内田監督の戦前期の代表作で、長い製作日数をかけ徹底したリアリズムで描いた[2]。地味な内容にもかかわらず3週間続映のヒット作となり、文部省推薦も受けた[3]。評価も高く、第1回文部大臣賞、第16回キネマ旬報ベスト・テン第1位に選ばれた。

スタッフ[編集]

キャスト[編集]

作品解説[編集]

本作は、1936年(昭和11年)頃に日活企画部の福田栄三郎が企画したもので、多摩川撮影所で撮影されたが、四季の移ろいを描くために2年もの撮影期間がかかった[3]。そのため日活本社は、長期製作による資金的な問題と興行的に不安であるという理由で製作の中止を求めた。本作の製作に尽力した根岸寛一撮影所長は、1938年(昭和13年)6月に責任を負って日活を退社している[3]。撮影所側はこれを不服とし、表面は中止したと見せかけて密かに撮影を続行。本作のための出費は閉じ、ほかの作品から予算を削って製作した[3]。内田はその間に『東京千一夜』を製作してこれをカモフラージュしている。そうして1939年(昭和14年)の春ごろに作品は完成し、4月13日に帝都座で封切られた。

小作農の生活に題材を置いたことで興行的な不安を感じていた会社とは反対に、作品はヒットし、文部省推薦に選ばれるなど高い評価を得た。公開後も評価は高く、1959年(昭和34年)にキネマ旬報が選出した「日本映画60年を代表する最高作品ベスト・テン」で第4位となった(第1位は『忠次旅日記』)。

本作のフィルムは長年現存していないと考えられていたが、1968年(昭和43年)に東ドイツの国立映画保存所でヴェネツィア国際映画祭に出品するために短縮された93分の版が発見された。しかし、その版は冒頭と結尾の巻が欠落していた。1999年(平成11年)にはゴスフィルムフォンドで冒頭の巻を含む115分の版が発見された[4]東京国立近代美術館フィルムセンターでは、ドイツ版の93分とロシア版の24分を合わせた117分の最長版を所蔵している[4](結尾の部分は現在も欠落している)。


舞台[編集]

1937年(昭和12年)10月、新築地劇団によって築地小劇場で初演された。脚色は伊藤貞助、演出は岡倉士朗、装置は伊藤熹朔、出演は薄田研二山本安英。1939年(昭和14年)には千田是也の演出で再演された。全4幕。脚本は戦後、1953年(昭和28年)に青木文庫から神山茂夫の解説をつけて刊行された。

再演時の配役は以下の通り[5]

ラジオドラマ[編集]

1937年(昭和12年)5月28日から5月31日にかけて[6]NHKラジオ第1放送で「ラジオ小説」の一本として放送された。演出は溝口健二、脚本は依田義賢、解説は和田信賢[7]。出演は大矢市次郎(勘次役)、森赫子(おつぎ役)、大東鬼城(卯平役)、藤間房子(地主の内儀役)、毛利菊枝(おつた役)[7]

脚注[編集]

  1. ^ a b コトバンク、2015年3月1日閲覧
  2. ^ allcinema、2015年3月1日閲覧
  3. ^ a b c d 田中純一郎日本映画発達史Ⅲ 戦後映画の解放』、中央公論社、1976年、p.29-32
  4. ^ a b 発掘された映画たち2010「土(最長版)」東京国立近代美術館フィルムセンター、2015年3月1日閲覧
  5. ^ 新築地劇団正月公演チラシ
  6. ^ 田中眞澄『小津安二郎のほうへ モダニズム映画史論』、みすず書房、2002年、p.127
  7. ^ a b 『溝口健二著作集』、キネマ旬報社、2013年、p.127

外部リンク[編集]