ボール (野球)
野球においてボール(英:ball)とは、#投球判定としてのボール(ストライクに対するボール球)と、#用具としてのボール(野球ボール)とがある。
用具としてのボール
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日本の野球には硬式球(こうしききゅう)・準硬式球(じゅんこうしききゅう)・軟式球(なんしききゅう)の3種類の規格のボールが存在する。使用するボールにより硬式野球・準硬式野球・軟式野球の3つの野球形態に分かれる。
硬式球
硬球(こうきゅう)とも言う。1878年にスポルディング社が開発した[1]。コルクやゴムの芯に糸を巻き付け、それを牛革で覆い[2]、縫い合わせて作られる。原則として1球あたりの縫い目は108個とされている[3]。「硬式」の名の通り硬く、死球や打球が身体に直撃した場合骨折などの怪我をすることもある。
重量141.7-148.8g、円周22.9-23.5cmと公認野球規則により定められている。プロ野球で使われる硬球は公式球(こうしききゅう)と呼ばれる。ボールの反発力のテストがコミッショナー事務局によって行われ、このテストで算出される時速270キロ(ボールとバットの標準的な相対速度)時における反発係数が0.41-0.44の基準を満たすボールが合格となり、ボールに公認マークが付けられる[3]。日本プロ野球 (NPB) の公式球の供給メーカーは2010年はミズノ、ゼット、アシックス、久保田運動具店の4社であった[1]。メーカーによって材質や製法などが多少異なっており、機能面に若干の違いが見られる(飛びやすい/飛びにくい、握りやすい/握りにくい、など)。公式球は少量のみ販売されている(困難だが一軍公式試合でファウルボールまたはホームランボールとしても入手可能)。
2010年1月19日に開かれた日本プロ野球組織実行委員会では、ワールド・ベースボール・クラシックなどの国際試合の増加や、後述する「飛ぶボール」問題に対応し、ボールの規格を世界的に統一するため、2011年以降のNPB公式戦での公式球の1社に独占的に供給させることが決定され[1]、2011年には全球団ミズノ社製の統一球が使用されている[4]。
一方メジャーリーグベースボール (MLB) の公式球は1878年から1976年まではスポルディング社が、1977年からはローリングス社が独占供給していて、2010年現在はローリングス社コスタリカ工場で生産されているものを使用している[5]。NPB公式球が野球規則に定められた大きさ・重さのほぼ下限であるのに対し、MLB公式球はほぼ上限であるため、日本の公式試合球よりも若干大きく、重い。表面の牛革の質感は日本のものよりもツルツルとした滑らかなもので[1]、縫い目も日本のボールより高く、空気抵抗の違いから同じ握り・投げ方の球種でも日本の公式球とは変化の度合いに違いが出る。
硬式球の反発力検査
NPBでは、全ての試合使用球に承認印を押す事になっているが、この際に規定内の反発力である事が条件となっている。反発力検査はシーズン中に2週間に1回程度行われ、大きさの基準に合格したそれぞれのメーカーのボールの中から1ダース取り出して検査される。試験方法はマシーンでボールを射出して壁に当てる方法で、壁に当たる前の速度と跳ね返った後の速度を計測し、その比から反発係数を求めている[3]。
「飛ぶボール」の問題
硬式球の製造過程における何らかの要因で反発係数が上がったり、重量が軽くなることで飛距離が著しく上昇するボールは「ラビットボール」、「飛ぶボール」などと呼ばれることがある。ラビットボールは本塁打が出やすいことで、走塁や盗塁などのプレーの重要性や観戦の醍醐味が損われるとしてしばしば批判の対象となる。
- 1910年の飛ぶボール
- MLBでは1910年のワールドシリーズに初めてコルクを芯にした飛ぶボールが使用された。このボールを使用した翌1911年シーズンでは3割打者が前年の30人から57人に増えた[6]。
- 1931年の改善
- 飛ぶボールによって本塁打が増えすぎ、批判が起きたために1931年にはコルクをゴムで包み、投手が握りやすいように縫い目を高くする改善が行われた[6]。
- 1948年–1950年のラビットボール
- イシイ・カジヤマ(ジュン石井)が製造したボール自動製造機械によって製造されたボールの通称。1948年9月にNPBに試験投入され、翌1949年から1950年まで全面的に使用された。それまでほぼ手作りだったボールが、この自動製造機械導入で精度が格段に上がった。材質面では、戦時中より粗悪品のままだったものを機械導入を期に大手毛糸会社と契約を結ぶことで、質の高いボールを製造できるようになった。材質の改良に加えて、電気乾燥機で湿気を飛ばす製造手法も反発力向上の要因となった。このボールの導入によって本塁打数が劇的に増加。この後に反発力の規定が作られた。
- 1978年–1980年の飛ぶボール
- 当時のミズノ社製のボールが他社のボールと比べて10数メートル飛距離が出る反発力の高いボールであったことが原因である。1978年には阪急ブレーブスが導入し、打率・本塁打数・得点数でリーグ1位を記録し、優勝した。次に、それを知った近鉄バファローズが1979年に導入し、リーグ1位の打率・本塁打数を記録して初のリーグ優勝を遂げた。
- 1980年にはパシフィック・リーグ3球団でチーム本塁打数が200本を超え、リーグ全体で1196本(1球団平均199.3本)もの本塁打が出た。この事態を重く見た当時プロ野球コミッショナーの下田武三の指示により、反発力テストの規定を見直した。しかし1985年–1986年は再びセ・パ両リーグの本塁打が激増し、ラビットボール使用の疑惑が持ち上がった。
- 2000年代前半の飛ぶボール問題
- 2001年頃のミズノ社製のボールが他社製のボールと比べ反発係数が高く、飛距離が出やすいと言われていた。例えば、東京ドームでの1試合あたりの平均本塁打数(公式戦)は1988年は1.31本(112試合で147本)だったのに対して2004年は3.43本(76試合で261本)と本塁打率が2.6倍以上に増加していた。また、2003年にミズノ社製に切り替えた横浜ベイスターズは、本塁打数を前年比95本増加させた。2004年のシーズンで中日ドラゴンズは本拠地のナゴヤドームで使用するボールの一部を対戦相手によってミズノ社製からサンアップ製(ミズノ社製のものより飛ばないとされている)に切り替えた[7]。これらが問題視された2005年にはミズノ社が新開発した「低反発球」が巨人、横浜、ソフトバンクら8球団に採用された。2010年には、両リーグ11球団でミズノ社製が採用されていたが、依然、他社製に比べると打球の飛距離が伸びやすいと言われている。
- 2011年の統一球
- 球団ごとに異なるボールが使われていることに対する批判や、WBCなどの国際試合で採用されるボールに近づけるという目的などから、2011年度から12球団全てでミズノ製の低反発ゴム材を用いた統一球を採用した。ミズノ社は飛距離を約1.0m抑えられると説明している[8]が、結果として両リーグあわせて2010年の本塁打数と比べると1605本から939本に激減した[9]。2012年にも統一球が採用されたが、4月24日に選手会が統一球を検証する要求を出した[9]。
その他の加工
- シリアルナンバー付のボール
- メジャーリーグでは、特に注目度の高い打撃記録の更新が迫ってきた際に、リーグ機構が特別にシリアルナンバーやホログラムシールのついた試合球を用意する。これは記録達成時に使用されたボールを特定する印をつけることで、オークション等へ贋物が出回ることを防止するための処置である。これまでシリアルナンバー付のボールが使用された例としては、バリー・ボンズの通算本塁打記録達成時、アレックス・ロドリゲスの最年少500本塁打達成時(いずれも2007年)、イチローのシーズン最多安打記録達成時(2004年)などがある。
準硬式球
準硬球(じゅんこうきゅう)とも言う。芯の作りは硬式球と同じだが、表面に牛皮ではなくゴムを用いて作るボール。製法面、硬さの面で硬式球と軟式球の中間に位置する。
軟式球
軟球(なんきゅう)とも言う。公認野球規則書によれば素材はゴム製、直径・重量・反発の違いでA号・B号・C号・D号・H号の5種類に区別する。A号とH号が一般用、B号・C号・D号は少年用。A号・B号・C号・D号は芯の無い中空、H号は中を充填物で詰めたもの。反発は150cmの高さから大理石板に落として、跳ね返った高さを測定したもの。
号 | 直径 | 重量 | 反発 |
---|---|---|---|
A号 | 71.5-72.5mm | 134.2-137.8g | 80.0-105.0cm |
B号 | 69.5-70.5mm | 133.2-136.8g | 80.0-100.0cm |
C号 | 67.5-68.5mm | 126.2-129.8g | 65.0-85.0cm |
D号 | 64.0-65.0mm | 105.0-110.0g | 65.0-85.0cm |
H号 | 71.5-72.5mm | 141.2-144.8g | 50.0-70.0cm |
投球判定としてのボール
投球判定としてのボールは、投手の投球がストライクゾーンを通過しなかった場合などに与えられる判定[10]。ボール球(ボールだま)とも言う。
打者は4つ目のボールを宣告されると、アウトにされる恐れなく、安全に一塁へ進むことが許される(四球による出塁)。
1872年に「アンフェアボール (unfair balls)」としてルールに加えられた[11]。その後、「アンフェア」という部分が省略された。
ボールが宣告される条件
前提条件は、打者がその投球に対し打撃動作(打つ、空振りする)を起こさないこと。
- 投手の投球がストライクゾーンを通過しなかった場合。
- 投手の投球が地面にバウンドした場合。この後ストライクゾーンを通過してもボールとなる。
- 打者が避けようとしなかったためにユニフォームにボールが当たった場合(死球にはならない)。
このほか、次の場合もボールが宣告される。
- 無走者のとき、投手が反則投球を犯した場合。
- 無走者のとき、投手が捕手からボールの返球を受け、打者が打撃姿勢をとって投手に対面したときから数えて12秒以内(日本では2006年度まで20秒以内)に投球(手からボールが離れた時点で「投球した」と判断される)しなかった場合。
ボールの宣告
球審がボールを宣告する際は、投球判定のために腰を落とした体制のまま顔や手を動かさずに「ボール」と発声する。首を振ったり、片手を下に振ったり、投球から眼を切る姿勢を示したり、無発声で判定を行ってはならない。特に片手を動かすことはストライクと誤認される場合もあるため、行わない方が良いとされる。
呼称
- テレビ中継や球場内電光掲示板のボールカウントにおいては「ball」の頭文字より「B」と表示される。
- 太平洋戦争中の日本では英語が敵性語であるとされたため、当時の職業野球を統轄する日本野球連盟では「だめ」(2ボールは「だめ、2つ」)のように日本語への置き換えを行った。
- 共通語の発音では、用具が「ぼーる」と「ぼ」と「る」に均等にストレスを置いて発音されるのに対し、判定の場合は英語のように「ぼーる」と語頭のみにストレスを置いて発音される。
脚注
- ^ a b c d 「2011年のボール統一へ検討開始」『週刊ベースボール』2010年2月8日号、ベースボールマガジン社、p102-103。
- ^ MLBでは1974年までは馬革製であった。福良良一「メジャー硬式球の変遷」『週刊ベースボール』2010年2月8日号、ベースボールマガジン社、p103。
- ^ a b c 日本野球機構オフィシャルサイト球太郎の野球雑学ページ
- ^ 来季からプロ野球12球団に納品する統一球の仕様について
- ^ “CorpWatch(英文)”. Transnational Resource & Action Center. 2009年10月23日閲覧。
- ^ a b 福良良一「メジャー硬式球の変遷」『週刊ベースボール』2010年2月8日号、ベースボールマガジン社、p103。
- ^ 中日「新・飛ばないボール」来季から使用 - 2004年12月21日、ニッカンスポーツなにわweb、2010年2月1日閲覧。
- ^ [http://www.mizuno.co.jp/whatsnew/news/nr100823/nr100823.html 来季からプロ野球12球団に納品する統一球の仕様について ]
- ^ a b 統一球の検証要求=プロ野球選手会
- ^ 2009公認野球規則2.04
- ^ Evolution of 19th Century Baseball Rules (Continued)2010年2月1日閲覧。