選球眼

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選球眼(せんきゅうがん、: Batting eyeバッティング・アイ)は、野球において、四球を選び見極める力[1][2][3]ストライクボール球かを見分ける力のこと[4]。一般に「選球眼が優れている」とは投手の投げる際どいボール球を見切り、打者にとって有利なカウントを整えられる選手のことを指す[1]。しかし明確な測定基準はないので、はっきりとした定義は存在していない。

目次

[編集] 他の要素が選球眼にもたらす恩恵

選球眼の良い選手には強打者が多いが、これは選手本人の能力以上に、投手がそういう選手に対しては往々にして慎重に攻めるために四球数が増える傾向にあることも大きい。そうした打者の通算成績では、出塁率打率の差(IsoD)が1割を超えている。オークランド・アスレチックスビリー・ビーンGMも出塁率を上げるためには選球眼と長打力が重要であるとし、練習による向上は望みにくい選球眼よりも、長打力の向上が出塁率を上げるのに効果的である、との持論を持っていることが『マネー・ボール』において紹介されている。

同様に、バットスピードも選球眼と密接な関わりがある。打者は、バットスピードが速ければ速いほど、投球を懐深く呼び込むことが可能となる。そして、ボールを引き付けた分だけ見極め時間が増大し、コースや高低球種を見分けやすくなる。メカニクス(体の使い方)においては、前足の下ろし方がポイントになる。踏み込む際に、爪先(親指の付け根のふくらみ)を上手く利用してソフトに着地する打者は下半身のショックが小さく、したがって視軸が安定しており、投球の軌道をトレースしやすい。一方、必要以上に激しく踏み込んだり、カカトから着地する打者は下半身のショックが大きく、必然的に視軸が大きくブレ、投球を正確に捉えることは困難になる。打者は、前足の下ろし方に細心の注意を払いつつ、ボールと視軸が一致している状態をコンタクトの瞬間まで保持し続けることが、きわめて重要である。スキルと並んで、気質も大きなウエイトを占めている。忍耐力と自制心に優れた打者はストライクゾーン・ジャッジメントを堅持し、打ち気にはやる気持ちを我慢して初球や悪球を見送る率が高く、釣り球を追い掛け回すことなく辛抱強く好球を待ち続け、多くの球数を投げさせつつ深いカウントまで持ち込んで、失投を誘いながら打席を長く継続することが出来る。そして、打席内の気質は四球数やP/PA(一打席平均の被投球数)となって、統計データ上に如実に表れる[5][6][7][8][9][10][11]

[編集] 関連したスタッツ

選球能力を測る際は、以下のスタッツ(統計)を用いる[2][4][12][13]

BB/K (Base on Balls per Strikeout)
BB/K = 四球 ÷ 三振
三振:四球。四球数が多く三振数が少ない打者ほどこの数値が高くなるが、一方で四球も三振も多い選手、四球も三振も少ない選手の間で同じような数値が出てしまう。いかにBB/Kに優れていても、四球が少ない打者が選球眼が良いとはいえない。近代野球において四球の重要性は最早明白であり、逆に三振が多いことによる大きなマイナス面は見られないのである。実践において三振数とほぼ同数、あるいはそれ以上の四球を取る選手は「ハンド・アイ・コーディネーション(手と目の連係動作)に優れ、コンタクトの上手い打者」「バッティングのアプローチが適切で、ストライクゾーン管理能力に長けた打者」と評される[14][15][16][17][18][19]
ザ・ハードボール・タイムズアーロン・グリーマンは、三振と四球の関係について「ボール球を見送り、カウントを整え、四球を選ぶ能力はプレート・ディシプリン(plate discipline:打席自制心)」「三振数と四球数のバランスを保つ能力はストライクゾーン管理能力」であると見なしており、75四球165三振の打者は際立つ自制心を持ち合わせている反面、管理能力はさほどない。30四球40三振の打者は自制心が欠落している一方、ストライクゾーンを見事に管理している、と解説した上で「どちらのスキルも必須ではないものの、等しく重要である」と結んでいる[20]
IsoD (Isolated Discipline)
IsoD = 出塁率-打率
四死球によってどれだけ出塁したかの割合が分かる。占有率を示す数値であるため、下記のPA/BBに優れた打者が、低打率の打者に数値で劣ってしまう場合もある。四死球が多く、IsoDが高くなる選手は「忍耐力があり、辛抱強い打者(patience at the dish[21]/patient at the plate[22])」と称される。
P/PA (Pitch per Plate Appearances)
P/PA = 投球数 ÷ 打席
一打席当たりの被投球数。数値が高いほどカット技術が高く、粘れる(得意筋でないボールもバットに当てファウルボールに出来る)打者であるといえる。MLBにおける2000年代10年間(00-09年)の最高ランクはボビー・アブレイユの4.31、最低ランクはノマー・ガルシアパーラの3.17。なお、アブレイユの投球見送り率は64.9%で2番目に高く、ガルシアパーラは44.9%で5番目に低い。アブレイユの初球スイング率は11.7%で3番目に低く、ガルシアパーラは46.5%で2番目に高いものになっている[23]
PA/BB (Plate Appearances per Base on Balls)
PA/BB = 打席 ÷ 四球
1四球を選ぶまでに要した打席数。低い数値の方が優秀。四球率の逆。
PA/K (Plate Appearances per Strikeout)
PA/K = 打席 ÷ 三振
1三振を喫するまでに要した打席数。高い数値の方が優秀。PA/Kが極端に低く、三振が多過ぎる打者は「コンタクトに問題を抱えており、打率が落ち込む一因になっている」と考えられる[21][22]。ただし「長打や四球が多ければ十分カバー出来る」と指摘する向きもあり[24]、三振の多さと同時に傑出したパワーと自制心を有する選手は「出塁能力の重要性にスポットライトが当たる、今の時代を象徴する存在[25]」「極めて2000年代的な打者[26]」と形容される。

[編集] 参考資料

  1. ^ a b マイケル・ルイス 『マネー・ボール(文庫)』 丸谷才一解説、中山宥訳、ランダムハウス講談社、2006年、65-66,222-233頁。ISBN 978-4270100288
  2. ^ a b データスタジアム企画・編集 『野球の見方が180度変わるセイバーメトリクス』 宝島社、2008年、40-44,78-79,186-187頁。ISBN 978-4796662680
  3. ^ 宇佐美徹也監修「公式記録の計算ルール - 出塁率」、『プロ野球全記録 2003年版』、実業之日本社、2003年、 364頁頁、 ISBN 4-408-61599-4
  4. ^ a b batting eye” (英語). Baseball Dictionary and Research Guide. 2008年12月27日閲覧。
  5. ^ スラッガー編集部翻訳「現役スカウト部長による“本物”のスカウティング・レポート Vol.66 ボビー・アブレイユ /最高の途中移籍」、『月刊スラッガー No.104 , 2006年12月号』、日本スポーツ企画出版社、 22-25頁頁。
  6. ^ スラッガー編集部翻訳「現役スカウト部長による“本物”のスカウティング・レポート Vol.84 チェイス・アトリー /MVPの高みへ」、『月刊スラッガー No.122 , 2008年6月号』、日本スポーツ企画出版社、 22-25頁頁。
  7. ^ スラッガー編集部翻訳「現役スカウト部長による“本物”のスカウティング・レポート Vol.85 福留孝介 /31歳のルーキー」、『月刊スラッガー No.123 , 2008年7月号』、日本スポーツ企画出版社、 52-55頁頁。
  8. ^ スラッガー編集部翻訳「現役スカウト部長による“本物”のスカウティング・レポート Vol.89 ダスティン・ペドロイア /フルスイングの2番打者」、『月刊スラッガー No.127 , 2008年11月号』、日本スポーツ企画出版社、 50-53頁頁。
  9. ^ スラッガー編集部翻訳「現役スカウト部長による“本物”のスカウティング・レポート Vol.91 マーク・テシェーラ /超大型契約の価値あり」、『月刊スラッガー No.129 , 2009年1月号』、日本スポーツ企画出版社、 14-17頁頁。
  10. ^ 長谷川貢翻訳「現役スカウト部長による“本物”のスカウティング・レポート Vol.94 ライアン・ブラウン /天性の好打者」、『月刊スラッガー No.133 , 2009年5月号』、日本スポーツ企画出版社、 50-53頁頁。
  11. ^ 長谷川貢翻訳「現役スカウト部長による“本物”のスカウティング・レポート Vol.95 ハンリー・ラミレス /輝かしい未来」、『月刊スラッガー No.134 , 2009年6月号』、日本スポーツ企画出版社、 44-47頁頁。
  12. ^ 「試合観戦パーフェクトブック BALLGAME ARCHIVES - 08.06.12 ― セイバーメトリクスの主な指標説明」、『週刊ベースボール・タイムズ Vol.012 , 2008年6月25日号』、株式会社スクワッド、 36頁頁。
  13. ^ 田口有史「選手のタイプを峻別する方法」、『月刊スラッガー No.68 , 2003年12月号』、日本スポーツ企画出版社、 37頁頁。
  14. ^ Josh Boyd (2003年12月15日). “Pirates, Indians Each Lose Five In Rule 5” (英語). Baseball America. 2010年4月12日閲覧。
  15. ^ Ben Badler (Apr. 23, 2009 10:25 am). “Thursday Dish: Jennings Off To Flying Start” (英語). Baseball America. 2010年4月12日閲覧。
  16. ^ Jeff Ma (2007年8月10日). “Protrade Market Movers - The Ten Most Volatile Players, Week of 8/10/07” (英語). Baseball Prospectus. 2009年4月12日閲覧。
  17. ^ Jeff Ma (2007年7月27日). “Protrade Market Movers - The Ten Most Volatile Players” (英語). Baseball Prospectus. 2009年4月12日閲覧。
  18. ^ Aaron Gleeman (2005年3月22日). “Top 50 Prospects of 2005: 31-40” (英語). The Hardball Times. 2009年4月12日閲覧。
  19. ^ Mike Silver (Wednesday, October 21, 2009). “Player Profile: Billy Butler” (英語). The Hardball Times. 2009年4月12日閲覧。
  20. ^ Aaron Gleeman (2005年3月25日). “Top 50 Prospects of 2005: 1-10” (英語). The Hardball Times. 2009年4月12日閲覧。
  21. ^ a b Adam Dunn #44 - 1B/OF Washington” (英語). TSN. 2009年4月12日閲覧。
  22. ^ a b Rickie Weeks #23 - 2B Milwaukee” (英語). TSN. 2009年4月12日閲覧。
  23. ^ 「2000年代個人スタッツ 部門別リーダーズ・ベスト&ワースト10」、『月刊スラッガー No.142 , 2010年2月号』、日本スポーツ企画出版社、 68頁頁。
  24. ^ 「2010 MLB 新戦力図」、『月刊スラッガー No.145 , 2010年5月号』、日本スポーツ企画出版社、 30-31頁頁。
  25. ^ 城ノ井道人「best player ranking of the decade 2000 - 09 outfielder」、『月刊スラッガー No.142 , 2010年2月号』、日本スポーツ企画出版社、 35頁頁。
  26. ^ 出野哲也「power and glory - 力こそ正義?」、『月刊スラッガー No.142 , 2010年2月号』、日本スポーツ企画出版社、 70頁頁。

[編集] 関連項目

  • 四球
  • 三振
  • 出塁率
  • IsoD
  • ストライクゾーン
  • ビリー・ビーン - スモール・マーケットのアスレチックスにおいて、当時市場価値が極めて低かった選球眼と出塁能力に着目し、チームを編成して行く様が『マネー・ボール』に詳しく描かれている。
  • セイバーメトリクス - 統計学的分析手法による、客観的選手評価システム。アスレチックス・フロントの、球団運営の指針となった。
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