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音高

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

音高(おんこう)、またはピッチ英語: Pitch)は、音楽音響学において、ヒト聴覚が感じる音の高低を示す心理量である[1][2]

概要

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ヒトは音に対して高低を感じる。これが音高である。単位にはメル(mel)がしばしば用いられる[3]。周波数1kHz・音圧レベル40dBの純音をヒトが聴いた際に感じる音の高さが1000melと定義される[4]。メルは比率尺度であり、ヒトの感じる音の高さが2倍になれば2000mel、半分になれば500melと表される[5]

音高は音波がもつ物理量である基本周波数と深い関係を持つ[6]。基本的に周波数が高いほど音は高く聞こえる。しかし基本周波数以外の様々な要素が実際の音高には関与している。例えば音高は音の長さにも左右される。たとえ1周期が含まれていたとしても、数ミリ秒の短い音声からは明確なピッチが知覚できない[7]

また音高と同時に、ヒトは音に対して循環性を感じる(いわゆるオクターヴ感覚)[8]。これはトーンクロマあるいはトーンクラスと呼ばれる[9](音高と合わせ音楽的ピッチあるいは旋律的ピッチとも[10])。

音高の知覚

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音の丁度可知差異 (jnd; Just noticeable difference) は約5セント(半音の5/100)である。しかし、この値は音域によって異なり、音を同時に鳴らした場合にはより精密となる。人が感じる音高は音の大きさ音域そして音色に影響されるといわれる。周波数成分が複数ある音(自然界や楽器の音は全てそうである)から、人間がどのようにして音高を捉えているのかは、はっきりとは分かっていない。人間におけるその他の刺激と同様に、音高の知覚についても、ヴェーバー‐フェヒナーの法則によって説明することができる。可聴域の下限に近い音は高め、上限に近い音は低めに聴こえる。一般に大きい音ほど(僅かだが)高めに聴こえ、低音域では音の振幅が大きくなるほど、音高は低く知覚される。また、倍音の多い(強い)音ほど高めに聴こえる。

他の人間の感覚と同様に、聴覚にも錯覚錯聴)が存在し、それにより、音高の相対的な知覚が惑わされる場合がある。これには、「三全音パラドックス英語版」などいくつかの例があるが、最も特筆すべきなのは「無限音階(シェパード・トーン)」である。これは、連続の、あるいは不連続の特別な音のスケールが、無限に上昇または下降し続けるように知覚される現象である。

基準ピッチ

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中央の1点ハ音(ド・C4・c')の上の1点イ音(ラ・A4・a')は、1939年にロンドンで行われた国際会議で440 Hzとされた(通常 "A = 440 Hz" か "A440" と記される)。しかしベルリン・フィルハーモニー管弦楽団ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団では A = 444〜445 Hzが基準とされている[11]。日本では、戦後の1948年に9年遅れでA = 440 Hzを導入したが、以前は、1859年のパリでの会議、1885年のウィーンでの会議で定められたA = 435 Hzを標準としていた。現在の日本ではオーケストラや演奏会用のピアノは A = 442〜443 Hzとなる場合が多い。

トーンクロマ

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上述のようにヒトは音に対して循環性を感じ、この心理的特性はトーンクロマあるいはトーンクラスと呼ばれる。トーンクロマは音波の物理的性質である調波構造(倍音)と深い関係をもつ。例えば100Hzの音と200Hzの音は、異なる音高を持ちつつ同じトーンクラスに属する音として知覚される[12]

ヒトの可聴周波数は20~20kHzである一方、トーンクロマは30~4,000Hz(約7オクターブ)という限られた範囲でのみ成立する[13]。音楽的にもこの範囲に音域を限定した楽器が多い(c.f. 88鍵のピアノの音域外の音)。

トーンクロマの実在は絶対音感に関する実験から実証されている。被験者へ音を提示し、そのオクターブとトーンクラス(例: 2オクターブ目のド)を回答させる。トーンクラスが実在しない場合は1次元のピッチ(ハイト)のみで判定が行われるため、誤答は各トーンクラスに散在するはずである。しかしいわゆる絶対音感を持つ被験者では誤答のほとんどが1オクターブ上か下の同じトーンクラスに集まる事が知られている(オクターブエラー)[14][15]。これはオクターブ単位で繰り返す感覚、すなわちトーンクラスが存在することを示唆する(存在≠生得的、に注意されたし)。

オクターブ感覚

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オクターブ感覚は1オクターブの上下に対して感じる、元の音に戻る感覚である[16]。すなわちヒトがトーンクロマに対して感じる感覚である。

脚注

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  1. ^ "音の高さ,ピッチ 聴覚にかかわる音の属性の一つで,低から高に至る尺度上に配列される。" JIS Z 8106:2000
  2. ^ "ピッチは音の高さに対応する心理量であり" 森勢 (2011). 2-2 基本周波数推定. 電子情報通信学会『知識の森』.
  3. ^ "高さの心理量として,比率尺度であるメル(mel)があり" 二階堂 (1980). 音の物理量と心理量. 計測と制御 Vol.19, No.3.
  4. ^ "メル 音の高さの単位。正面から提示された,周波数1000Hz, 音圧レベル40dBの純音の高さを1000メルとする。" JIS Z 8106:2000
  5. ^ "被験者が1000メルのn倍の高さと判断する音の高さがn×1000メルである。" JIS Z 8106:2000
  6. ^ "ピッチに相当する物理量の基本周波数" 森勢 (2011). 2-2 基本周波数推定. 電子情報通信学会『知識の森』.
  7. ^ "短音では音の高さが明確でなくなる ... トーンピッチ ... クリックピッチ" 峯松. 音響音声学. 東京大学.
  8. ^ "古くからピッチは単に1次元的な性質だけでは説明できないことが指摘されており,ピッチのらせん構造的な性質が示唆されてきました。" 大串 (2017). 音のピッチ知覚について ——ミッシングファンダメンタル音のピッチを巡って——.
  9. ^ "1オクターブ周期の循環的性質の両者を併せ持っています。... トーンクロマあるいはピッチクラスと呼びます。" 大串 (2017). 音のピッチ知覚について ——ミッシングファンダメンタル音のピッチを巡って——.
  10. ^ "音楽的ピッチあるいは旋律的ピッチということがあります。" 大串 (2017). 音のピッチ知覚について ——ミッシングファンダメンタル音のピッチを巡って——.
  11. ^ 最相 (1998) pp.170-171
  12. ^ "循環的な位置が同じ音[基本周波数が 2n 倍(n:整数)だけ異なる楽音]どうしは同一のピッチクラスに属し,同じ音名(C, D, E など)で呼ばれています。" 大串 (2017). 音のピッチ知覚について ——ミッシングファンダメンタル音のピッチを巡って——.
  13. ^ "このモデルはおおよそ 30~4,000 Hz の範囲で成り立ちます。4,000 Hz を超えるとトーンクロマの感覚が希薄になり旋律を構成することが困難になってきます" 大串 (2017). 音のピッチ知覚について ——ミッシングファンダメンタル音のピッチを巡って——.
  14. ^ 宮崎. (1999). 絶対音保有者の音楽的音高認知過程.
  15. ^ Miyazaki, K. (1989). Absolute Pitch Identification: Effects of Timbre and Pitch Region. Music Perception: An Interdisciplinary Journal, 7(1), 1–14. doi:10.2307/40285445
  16. ^ "オクターブ感覚:1オクターブ上下すると,元の音に戻る感覚" 峯松. 音響音声学. 東京大学.

参考文献

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  • 最相葉月『絶対音感』小学館、1998年
  • JIS Z 8106 : 2000(音響用語)

関連項目

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