音程
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音程(おんてい、英語: Interval〈インターバル〉)とは、二つの音の高さの隔たりのことである。
概要[編集]
順次的に鳴る音に対する音程を旋律的音程と呼び、同時に鳴る音に対する音程のことを和声的音程と呼ぶ[1]。
いずれにせよ、全音階を構成する8度までの単音程の組み合わせによって、あらゆる音程を構成することができる。
注意点としては、音高に隔たりのない二音を「完全1度」と呼ぶので、全音階上で隣り合う二音は1度ではなく2度の関係だということである[2]。
この記事では伝統的な西洋音楽において一般的な、半音を最小単位として構成される音程について記述する。
度数[編集]
音程の基本は、二つの音がどの程度隔たっているのかを、「度」という接尾辞を使って段階的にあらわすことである。
- これは、五線譜上の音から音までに並ぶ、「線」と「間」を数えた合計である。たとえば、五線譜はかならず「線」と「間」が交互に並ぶので、ある「線」に置かれた音を一つ目として数えるとき、二つ目の音が2個目の「間」に置かれている場合、「線」が2個、「間」が2個で、合計4個だから、この二音の高さを4度と呼ぶ。
- あるいは、求めたい二つの音を全音階上に置く。このとき、♯や♭は考慮しない。つぎに、二つの音とその間に挟まれた音を音階上ですべて数え上げる。この数が「度数」である。たとえば、二つの音がCとそのすぐ上のEであるならば、「C・D・E」と3つの音名が数え上げられるから、CからEは3度である。
このように両端の音を数えているため、「度数」を普通の計算式で計算できないという事態が生じる。すなわち、3度と4度を加えると6度となる。計算するには「度数は常に1多く唱えられる」と考える。すなわち、計算する前にまず1を減じ、計算後に1を加える。3度と4度の例では ( 3 - 1 ) + ( 4 - 1 ) + 1 である(いわゆる植木算の留意点と同じ)。
音程名[編集]
音程を数える接尾辞である「度」は、音程の幅を作る半音の数に応じて、いくつかの基本的な種類を持ち、「完全・短・長・減・増」などの結合辞が付いてはじめて明確な音程になる。
- 1度……同じ音の高さを完全1度、または同度、あるいはユニゾンと呼び、半音が1個分の幅を増1度と呼ぶ。
- 2度……半音が1個分の幅を短2度と呼び、半音が2個分の幅を長2度と呼ぶ。
- 3度……半音が3個分の幅を短3度と呼び、半音が4個分の幅を長3度と呼ぶ。
- 4度……半音が5個分の幅を完全4度と呼び、半音が6個分の幅を増4度または三全音(トライトーン)と呼ぶ。
- 5度……半音が6個分の幅を減5度または三全音(トライトーン)と呼び、半音が7個分の幅を完全5度、半音が8個分の幅を増5度と呼ぶ。
- 6度……半音が8個分の幅を短6度と呼び、半音が9個分の幅を長6度と呼ぶ。
- 7度……半音が10個分の幅を短7度と呼び、半音が11個分の幅を長7度、半音が9個分の幅を減7度と呼ぶ。
- 8度……半音が12個分の幅を完全8度、またはオクターブと呼び、ここまでの音程を単音程と呼ぶ。そして、結合辞はここから再び1度から7度までを循環する。
- 9度以上……ここからの音程を複音程と呼び、kオクターブとn度のように呼ぶこともある。求め方としては、9度以上の値をmとして m/7 を帯分数化すると k+n/7 という値が出てくるので、分子が1のときだけkオクターブと呼び、mが7で割り切れる場合は、分子に最後の7を残して、kオクターブと7度のように呼ぶ。つまり、短14度であれば、オクターブと短7度のように呼ぶ。ただし、「9度のような若干の複音程は和声の特徴的な要素なので、大きいほうの数でよばれるのが普通である」[引用 1]。
「増」「減」「重増」「重減」[編集]
- 長または完全より半音広い音程に増(ぞう)、2半音広い音程に重増(じゅうぞう)という結合辞を付けて呼ぶ。
- 短または完全より半音狭い音程に減(げん)、2半音狭い音程に重減(じゅうげん)という結合辞を付けて呼ぶ。
転回音程[編集]
音の上下の関係をおきかえることを転回といい、音程を転回することで、その結果生じる音程を転回音程(てんかいおんてい)という。 単音程で原音程と転回音程の度数の関係(2度の転回音程は7度など)は、数を足すと、9になる。 転回による音程の結果は、長←→短、増←→減、重増←→重減(重増2度の転回音程は重減7度など)となる。また完全は転回しても完全である。
譜例[編集]
全音階的音程と半音階的音程[編集]
音程には、全音階の中に現れる音程とそうでない音程があり、前者を全音階的音程、後者を半音階的音程と呼ぶことがある。すべての完全音程、長音程、短音程と、増4度、減5度が全音階的音程で、それ以外が半音階的音程である。 下に、長音階に現れる各音程の一覧を示した。
下の音\上の音 | ド | レ | ミ | ファ | ソ | ラ | シ |
---|---|---|---|---|---|---|---|
ド | 完全8度 | 長2度 | 長3度 | 完全4度 | 完全5度 | 長6度 | 長7度 |
レ | 短7度 | 完全8度 | 長2度 | 短3度 | 完全4度 | 完全5度 | 長6度 |
ミ | 短6度 | 短7度 | 完全8度 | 短2度 | 短3度 | 完全4度 | 完全5度 |
ファ | 完全5度 | 長6度 | 長7度 | 完全8度 | 長2度 | 長3度 | 増4度 |
ソ | 完全4度 | 完全5度 | 長6度 | 短7度 | 完全8度 | 長2度 | 長3度 |
ラ | 短3度 | 完全4度 | 完全5度 | 短6度 | 短7度 | 完全8度 | 長2度 |
シ | 短2度 | 短3度 | 完全4度 | 減5度 | 短6度 | 短7度 | 完全8度 |
異名同音的音程[編集]
重嬰ロ(B##)音と嬰ハ(C#)音と変ニ(D♭)音などの異名同音は理論的には区別されるが、12平均律においては同じ音となる。 同様に、重増1度と長2度と減3度などの音程は、平均律においては同じ大きさとなる。 このような異名同音的音程は実際の楽曲にあっては、同じ音程と見なすことで、転調の足がかりなどとして活用される。
協和音程・不協和音程[編集]
協和の度合いによって音程を分類すると次のようになる。
- 協和音程
- 完全協和音程 - 完全1度・完全8度(これまでを特に絶対協和音程という)・完全4度・完全5度
- 不完全協和音程 - 長3度・短3度・長6度・短6度
- 不協和音程 - 長2度・短2度・長7度・短7度・その他
周波数比と音程[編集]
音程とは、物理的には音波の周波数比である。 対数目盛である。
人間の耳は、音pと音qの2音の周波数比と、音rと音sの2音の周波数比とが等しければ、p-qの音程とr-sの音程が等しいと感じる。たとえば、440Hzと880Hzの2音の高さの違いと、880Hzと1760Hzの音の高さの違いはどちらも1:2であるから、同じ違いであると認識される(この例はどちらもオクターブ = 完全8度である)。よって、ある音程とある音程とを「加える」ことは、物理的にはそれぞれの周波数比を乗ずることとなる。
西洋音楽では周波数比が単純であればあるほど、より「協和」した音程であると認識されてきた。
- 周波数比が1:1の2音の音程は完全1度である。
- 周波数比が1:2の2音の音程は完全8度である。
- 周波数比が2:3の2音の音程は(純正律における)完全5度である。
- 周波数比が3:4の2音の音程は(純正律における)完全4度である。
- 周波数比が4:5の2音の音程は(純正律における)長3度である。
- 周波数比が5:6の2音の音程は(純正律における)短3度である。
- (純正律における)長2度の周波数比は8:9、9:10などである。短2度の周波数比は15:16、16:17、17:18、18:19、19:20などである。
しかしながら、西洋音楽で最も実用されている十二平均律にあっては、これらの単純な周波数比は完全1度と完全8度を除けば得ることはできない。例えば、十二平均律での完全5度は
の周波数比である。
日本語とヨーロッパ主要言語における表現[編集]
日本語 | Latina (ラテン語) | Italiano (イタリア語) | Français (フランス語) | Deutsch (ドイツ語) | English (英語) | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
音程 | Intervallum | Intervallo | Intervalle | Intervall | Interval | ||||||
重増 - | (重増) | - più che aumentato/a (più che eccedente) | - sur-augmenté | doppelt übermäßige - | doubly augmented - | ||||||
増 - | - augmentur | - aumentato/a (eccedente) | - augmentée | übermäßige - | augmented - | ||||||
長 - | 完全 - | - maior | - iustus | - maggiore | - giusto/a | - majeure | - juste | große - | rein - | major - | perfect - |
短 - | - minor | - minore | - mineure | kleine - | minor - | ||||||
減 - | - deminutur | - diminuito/a | - diminuée | verminderte - | diminished - | ||||||
重減 - | (重減) | - più che diminuito/a | - sous-diminué | doppelt verminderte - | doubly diminished - | ||||||
15度 | quintusdecimus | quindicesima | quinzième | quindezime | fifteenth | ||||||
14度 | quartusdecimus | quattordicesima | quatorzième | quardezime | fourteenth | ||||||
13度 | tertiusdecimus | tredicesima | treizième | tredezime | thirteenth | ||||||
12度 | duodecimus | dodicesima | douzième | duodezime | twelfth | ||||||
11度 | undecimus | undicesima | onzième | undezime | eleventh | ||||||
10度 | decimus | decima | dixième | dezime | tenth | ||||||
9度 | nonus | nona | neuvième | none | ninth | ||||||
8度 | octavus | ottava | octave | oktave | octave | ||||||
7度 | septimus | settima | septième | septime | seventh | ||||||
6度 | sextus | sesta | sixte | sexte | sixth | ||||||
5度 | quintus | quinta | quinte | quinte | fifth | ||||||
4度 | quartus | quarta | quarte | quarte | fourth | ||||||
3度 | tertius | terza | tierce | terz | third | ||||||
2度 | secundus | seconda | seconde | sekunde | second | ||||||
同度 | unisonus | unisono | unisson | unisono | unison |
脚注[編集]
引用[編集]
- ^ ピストン、デヴォート『和声法 分析と実習』音楽之友社、2006年6月。ISBN 9784276103214。
出典[編集]
- ^ “和声的音程”. コトバンク. 株式会社 朝日新聞社. 2016年11月20日閲覧。
- ^ “音程とは”. コトバンク. 株式会社 朝日新聞社. 2016年11月19日閲覧。
参考文献[編集]
- ピストン、デヴォート『和声法 分析と実習』音楽之友社、2006年6月。ISBN 9784276103214。
- 石桁真礼生、末吉保雄『楽典 理論と実習』音楽之友社、2016年。ISBN 4-276-10000-3。